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【猫の特発性膀胱炎(FIC)②】診断と治療法

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【はじめに】

今回は『猫の特発性膀胱炎(FIC)』の診断と治療法についてお話しします。特発性膀胱炎の多くはストレスに対する反応がうまくできていない子で発症しています。治療の基本はストレスを無くしてあげることですが、そのほかにご飯を変えてみたり、痛みを取り除いてあげることも大切です。今回はそんなお話しです。

 

【猫の特発性膀胱炎(FIC)①】概要と病態生理

【猫の特発性膀胱炎(FIC)②】診断と治療法 

【目次】

 

【診断方法】

『様子見てても治ることがある』

一般的に特発性膀胱炎は若年齢~中年齢の猫で発生すると言われていますが、年齢を含め、品種や性別に大きな偏りはなく、どんな猫であっても発生する可能性はあります。

慢性的な尿路疾患を抱えている猫の多くは特発性膀胱炎を持っており、特発性膀胱炎を発症している猫のほとんどは数日以内に症状が改善されるため、若い猫で初めて下部尿路症状が出たときは積極的に診断をつけに行く必要はありません。

一方で、再発を繰り返しているような猫であれば、精査をする必要があります。

様子見てはいけない場合
特発性膀胱炎は原因が不明であるために『特発性』と名前がついています。積極的に原因を追求していく必要はないので、基本は検査をたくさんするよりは家での環境改善が重要になります。しかし様子を見てはいけない場合があります。それは『おしっこが出ていない場合』です。血尿が起こると、尿中に赤血球や膀胱上皮細胞などが固まって、尿道を塞いでしまう場合があります。おしっこをしたそうにしてるのに出せていない場合は尿道が詰まっている可能性があるので、早めに対処しましょう。

『レントゲン検査』

レントゲン検査は尿路全体を評価でき、X線不透過性の尿石を見つけるのに優れています。さらに、造影剤を用いたレントゲン撮影ではX線透過性の尿石の他に、腫瘤性病変、血餅、構造の異常などを検出することができます。除外診断に使用します。

『超音波検査』

超音波検査は血餅やポリープ、腫瘍、シスチン尿石、アンモニウム尿石といった、X線透過性の構造物を検出することができます。ただし、骨盤内の尿道はエコーで観察できないため、尿道を最後まで追うことは難しくなります。
尿道に詰まった尿石を検出するという面ではややレントゲン検査に劣ります。
 

『尿検査』

特発性膀胱炎の猫では尿路感染症を起こしていることが少ないですが、尿検査はルーチンでやっておく方が良いでしょう。

【治療法】

『ストレス環境を改善する』

特発性膀胱炎の治療はこの病気が"膀胱の病気"というよりは"膀胱に影響する病気"と認識することで治療法にヒントが見えてきます。

前回の記事で特発性膀胱炎は猫のストレス反応システムの異常が関連しているというお話をしました。

環境の改善が大切
飼育環境は動物の行動や健康に影響を与えることが知られています。特発性膀胱炎を発症した猫に対しては環境エンリッチメントを整えてあげることが治療への近道になります。

環境エンリッチメントとは
環境エンリッチメントとは動物が本来持っている正常な行動を引き出し、異常行動が出ないように飼育環境を整える工夫を言います。これは飼育動物の福祉や健康に配慮した取り組みで、動物園では環境エンリッチメントの改善を積極的に行うことが推奨されています。

飼育猫でも同様で、猫が本来持つべき狩猟行動や、よじ登るなどの縦の動き、人間を含む他の動物種との関わりをストレスなくできるようにしてあげることで、自分のいる環境が安心できる場所であると感じさせてあげる必要があります。

猫の環境エンリッチメント

『MEMOとは』 

multimodal environmental modificationを略してMEMOと呼びます。これは直訳するとあんまり馴染みのある日本語の落とし込めない言葉で、意味としては『MEMO=多様な方法を用いての環境改善』といった感じです。

MEMOで改善することが多い
飼い主さんがMEMOの有効性をしっかりと理解し、実行している場合、猫の下部尿路疾患の重症度と頻度は改善し、予後も良好であることが多いです

MEMOは飼い主さんに依存する
MEMOが効力を発揮するには飼い主さんがどれだけできるかに依存しています。
例えば
・猫という生き物の生態
・特発性膀胱炎に関する知識
・食事、水、休憩場所、トイレなどの管理
・同居動物とのトラブルの回避
などこれらに十分注意し、猫が安心して暮らせる環境を提供してあげる必要があります。

そして、飼い主さんに依存と書きましたが、何をどのように改善すべきかを指導するのは獣医師の仕事です。飼い主さんが環境改善をスムーズに行えるように、オタ福をはじめ獣医師も猫の生態や特発性膀胱炎について勉強していく必要があります。

MEMOの概念を取り込む

【猫の快適環境5つの柱】

『AAFAとISFMが提示するガイドライン』

今からお話しする5つの柱はAAFAとISFMが提案しているガイドラインから引用しています。原文は下に貼っておきます。

AAFAとISFMが提示する猫の飼育環境のガイドライン

引用文献:AAFP and ISFM Feline Environmental Needs Guidelines

『①安全な場所を提供』

猫が隠れられる場所や上から見下ろすことができる場所を用意しましょう。箱の中に入ったり、高いところから周囲を見渡せる場所があると、猫は安心します。安心しているかの判断はそこでくつろいでいるかを見て判断します。

『②必要なものは複数用意』

猫のために必要なもの、例えばご飯や水飲み場、爪とぎ、トイレ、休憩場所などを最低でも『飼育頭数+1つ』用意し、猫がその時に気分に合わせて選べるようにしてあげましょう。特に多頭飼育の場合は数を増やしてあげるようにしてあげましょう。

『③遊び場所の設置』

猫には狩猟できる環境を提供してあげる必要があります。おもちゃを追いかけたり、噛み付いたりして、捕食の擬似体験ができる環境を用意してあげましょう。

『④人間との良好な関係を築く』

猫は伴侶動物として飼われている以上、人間との良好な関係を築いてあげる必要があります。子猫の時から丁寧に可愛がってあげることで人間と猫の絆はより強固なものとなります。遺伝的なものや成長期の飼育環境、人生経験などによって、性格は形成されます。

『⑤猫の安心フェロモンを持続させる』

猫が頬を壁や柱に擦り付けている様子を見たことは無いですか?
あれは猫の頬から分泌されるフェロモンを周囲に擦り付け、自分の安心できるだと暗示をかけています。こういった擦り付けた場所はなるべく拭いたりしないようにしましょう。

『急な変化は避けましょう』

猫の中にはご飯の時間帯やトイレの場所、家具の配置、特にお気に入りスポットの急な移動などに過剰に反応してしまう子がいます。そういった子には改善ポイントがあったとしても急な変化はなるべく避け、徐々に変更していくことが推奨されます。

【食事療法】

『効果的な食事療法』

食事療法も猫の下部尿路疾患の治療の一環として考えられることがしばしばあります。しかし、特発性膀胱炎の猫に対して効果があると言われている食事療法は少数しかありません。

例えば、ウェットフード
水分摂取量を増やし、尿量を増加させることは特発性膀胱炎の再発リスクを減少させることが言われていますが、この考えもはっきりと効果的であるとはまだ断言できません。それよりも先程お話ししたMEMOによる環境改善の方が、効果的という話も言われています。

そのため、僕はウェットフードと環境改善の両方を行うようにと飼い主さんにお勧めしています。

一応、エビデンスとしては限られたものとなっていますが、ウェットフードへの変更は有効という報告があります。
その理由として、ウェットフードによって水分をよく取ることで、利尿効果が生まれ、尿が薄まることで粘膜への膀胱粘膜への刺激を軽減させることができるからだと推測されます。

Signs of LUTD did not recur in 16 of 18 cats fed the canned diet, and 17 of 28 cats fed the dry diet (chi 2, P < 0.05).引用文献:Clinical evaluation of commercially available urinary acidification diets in the management of idiopathic cystitis in cats

 

『特発性膀胱炎の療法食』

特発性膀胱炎を対象にした療法食もあります。

各メーカーによって微妙に異なるところはありますが、総じてこれらの療法食には尿比重を下げるために尿の水分量を増やすような成分を多く含んでいたり、ミネラルや塩化ナトリウム、ω-3脂肪酸、抗酸化物質、トリプトファン、α-カソゼピンなどの成分が適度に調節されているものとなっています。

ただやはり効果は補助的なもので、有効性はそこまで高くないのが現状です。やっていないよりはやっていた方が良いかもという程度ですね。

療法食やサプリメントに関しては僕自身が効果を実感しているものはいくつかあります。ジルケーン®️やc/dコンフォート®️は割と感触良いです。

トリプトファンの経口摂取
必須アミノ酸であるトリプトファンは中枢でセロトニン濃度を上昇させ、抗不安効果を示すだろうという考えに基づき含まれているフードもあります。実際のところ、このトリプトファンの効果についてはほとんどの論文で、わずかしか効果がなく、あったとしても長期的に摂取した場合だろうという見解が挙げられています。もう少し言うと、食事中に含まれるトリプトファンが猫のセロトニン濃度に影響を与えることはないかもしれないとも言われています。 

The data revealed that while the various diets produced significant changes in brain serotonin and its major metabolite, 5-hydroxyindoleacetic acid, there was no change in the activity of serotonin-containing dorsal raphe cells following meal ingestion. 引用文献:Dietary tryptophan does not alter the function of brain serotonin neurons

 

『エンリッチメントとしての食事』

食事療法はあんまり意味がないと言われていますが、食事の与え方によって猫の環境エンリッチメントを整えてあげることができる可能性があります。

猫はもともと狩猟をする動物です。なので、ご飯をあげる時にたまには『トリートボール』や『フードパズル』などを使って捕獲の模擬体験をさせてあげることも重要です。

【フェリウェイ®️の使用】

フェリウェイ®️とは猫が安心する匂いを出してくれるルームディフューザーで、怖がりの猫などに大して、しばしば使われています。このディフューザーは効く子と効かない子がいるので、積極的な治療法とは言い難いですが、やらないよりは良いと思います。

【薬物療法】

『一般的に使用する鎮痛剤』

猫の慢性的な内臓痛に対して効果がはっきりと証明されている鎮痛剤はありません。

現場よく使用される薬
科学的根拠が証明されているわけではないですが、臨床現場よく使用される薬としてブプレノルフィンの経口投与があります。
具体的には10~20μg/kgのブプレノルフィンを一日2~4回最長7日間、口腔粘膜に塗り混みます。
時としてアセプロマジンを併用することもあります。

もし症状が改善されないなら
とりあえず、一般的に使用されているブプレノルフィンを5日ほど投与してみて、臨床症状が一向に改善する気配がないのであれば、原因の精査を再度やってみるべきでしょう。

『そのほかの鎮痛剤』

ブトルファノール
非麻薬性オピオイド鎮痛薬として、ブトルファノールも選択肢の一つですが、ブプレノルフィンと比較して、鎮痛作用が弱く、持続時間も短いので、あまり推奨されません。

フェンタニルパッチ
膀胱の痛みに対して使用されるケースは稀です。

NSAIDs
NSAIDsとしてメロキシカムやケトプロフェンなどが使用されているケースも使用しているという先生はいますが、きちんとした成書で記載されている例はなく、あくまで先生個人の判断で使用しています。

猫へのNSAIDs、特にメロキシカムの使用は慎重になるべきです。というのも、手術前の『先取り鎮痛』としてNSAIDsを使用することはよくあることですが、これはあくまで『単回投与』に限ります。慢性的なNSAIDsの使用は腎臓に負担をかけ、急性腎障害などを引き起こす原因となります。
 

その他の治療法
経口的なグリコサミノグリカンの摂取は効果がないとされています。
40匹の特発性膀胱炎と診断された猫を対象に行った二重盲目ランダム化比較試験では経口的なグリコサミノグリカンを投与した群とプラセボ群に臨床症状など有意な差は認められませんでした。 

There were no significant differences between the two groups when considering the owners assessments of the mean health score (P>0.5), the average monthly clinical score (P=0.22) or the average number of days with clinical signs (P=0.28).引用文献:Oral glucosamine and the management of feline idiopathic cystitis

 

【最後に(まとめ)】

今回は『猫の特発性膀胱炎(FIC)』の診断と治療法について解説しました。

猫の特発性膀胱炎はストレス応答への異常な活性化に起因すると考えられています。ほとんどの症例で発症から2-7日ほどで自然治癒します。無治療でも治ってしまうこともあります。あえて、何かしてあげることができるとすれば以下のような治療法があります。

一般的な治療法
ストレスに起因していることから、この疾患の治療法は
・環境エンリッチメント
・社会的ストレスの排除
・トイレ環境の改善
・食事内容の見直し
・フェリウェイ®️の設置
・鎮痛剤の使用

など、マルチモーダルな治療が必要になります。

こういったものを併用し、猫がストレスを感じないように生活できる環境を整えてあげることが重要になります。

【本記事の参考書籍】

Spencer A. Johnston ; Karen M. Tobias : veterinary surgery small animal. 2nd ed., ELSEVIER, 2017, 2016-2019p

 

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