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【肺水腫】②~症状・診断方法・治療法~

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【はじめに】

今回は『肺水腫の症状、診断方法、治療法』についてです。前回、肺水腫がどのようなものなのか、そしてどのような原因で起こるのかについて解説ました。今回では肺水腫という状態になるとどのような症状が見られ、それを肺水腫だと診断するための検査、治していくための治療法について解説していきます。

 

【目次】

 

【症状】

原因にかかわらず、非心原性肺水腫は似たような症状が認められます。

 

症状のタイミングと重症度
症状が見られるのは肺での障害が見られた直後から遅くても72時間以内には現れます。症状の重症度は肺に与えられているダメージと貯留している液体の量に依存します。

非心原性肺水腫の症状
早期の段階では『運動不耐』『呼吸促迫』などが見られます。

そのほかには
・湿性の発咳
・呼吸困難
・起坐呼吸
・チアノーゼ
・喀血
なども病気の進行とともに起こります。

聴診を行うと
気管支肺胞で発生する大きな雑音が吸気/呼気時のクラックル音(パチパチやプツプツ)として聴取することができます。

さらに、心原性肺水腫の場合は心雑音や調律異常などが認められます。しかし、非心原性肺水腫ではそういった心雑音が認められることはあまりありません。もちろん聞こえる場合もありますが。心雑音が無く、肺水腫が見られる場合は非心原性肺水腫の可能性が高くなります。

肺疾患に関連する洞性不整脈
呼吸性洞性不整脈とは息を吸った時に脈が速くなり、息を吐いた時に脈が遅くなる心拍の呼吸のゆらぎを言います。呼吸性洞性不整脈は一般的には迷走神経が関与していると言われています。

洞性不整脈は心原性肺水腫の動物で認められることが多いですが、肺疾患によって迷走神経が刺激されると、この洞性不整脈が見られるようになることもあります。

つまり、『不整脈="心原性"肺水腫だ』と決めつけるのは早計となります。

【診断方法】

『検査を始める前に』

まず検査を始める前に大切なことがあります。肺水腫を起こしている動物はとても不安定で危険な状態なので、必ず状態を安定させてから検査を行いましょう。十分に酸素化し、状態を優先し、少しでも悪化したら検査は中止です。

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『血液検査と尿検査』

血液検査と尿検査は肺水腫を起こしている原因疾患を発見するのに役立ちます。

『レントゲン検査』

レントゲン検査では肺水腫を見つけることができます。しかし、その検査所見は重症度やその子の状態によって異なります。

初期から中期の肺水腫では気管支パターンや間質パターンが見られますが、肺水腫が進行してくると、肺胞内に液体がたくさん入ってくるので、肺胞パターンが認められます。そして、末期になると再び間質パターンになります。

肺水腫のX線検査所見の流れ
間質パターン→肺胞パターン→間質パターン

「肺胞パターンで考えること」

肺胞パターンとは『何らかの原因で肺胞内に水分や細胞成分が溜まり、肺野のX線透過性が低下するように見えるX線所見』のことを言います。

【肺胞パターンが見られる4つの原因】
・肺炎(細菌性、誤嚥性、ウイルス性)
・肺水腫(心原性、非心原性)
・無気肺(肺出血、肺腫瘍)
・肺出血

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【肺胞パターンで考えることは2つのこと】
①心臓・肺血管系の評価
②肺胞パターンの分布
です。 

「①心臓・肺血管系の評価」

心原性肺水腫では心臓や肺血管に異常が見られることが多いです。これらのレントゲンでの評価方法は山ほどありますが、肺水腫を見抜くという点でご紹介すると
・左房拡大
・肺静脈拡張
の2点が大切なポイントになります。

これら2つの異常所見は左心不全を示唆する所見となっています。前回の記事でお話しした通り、心原性肺水腫では左心不全に伴って、肺静脈の静水圧が上昇することで、肺水腫が起こります。レントゲン検査は左心不全を見抜くには大切な検査と言えます。

「②肺胞パターンの分布」

肺胞パターンが見られた時、心臓・肺血管系の評価が終わった後、次はその分布に注目します。肺水腫や肺炎などは起こりやすい部位というのがある程度決まっています。それらが該当する部位に病変が出ていれば、診断の大きなヒントとなります。

肺水腫で見られる場所
肺水腫の時、レントゲン検査でよく肺胞パターンが見られるのは『背側後葉』です。一方で、肺炎などは『腹側前葉』で見られることが多いです。誤嚥性肺炎の場合、重力によって腹側の肺に物が入ってしまうことがこの分布の偏りの原因だと言われています。

【治療法】

『呼吸困難時の対応』

低酸素血症になっていないか確認
肺水腫では呼吸困難に陥っていることが多く、低酸素血症に十分注意が必要です。体内に十分に酸素を取り込めているかを身体検査PaO2(動脈血酸素分圧)SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)を用いて評価します。

低酸素血症だった場合
・舌色が悪い
・PaO2:<80mmHg
・SpO2:<94%
などが見られる場合は酸素室に入れたり、酸素を吸わせてあげます。こういった処置は病院でしかできないので、息切れしてたり、ぐったりとして舌色が青紫色になっている場合は急いで動物病院へ連れいきましょう。

鎮静の使用も検討
低酸素血症を起こしている動物は非常に苦しんでいるため、鎮静剤(アセプロマジン)などの投与も検討します。ただ、鎮静剤は呼吸を抑制する作用もあるので、使用には十分に注意が必要です。あと、心臓が悪くて心原性肺水腫になっている場合も注意が必要です。鎮静の使用はとても慎重に行うべきでしょう。

そのため最優先事項は『十分な酸素化』です。十分に酸素を吸わせてあげた状態で、どうするかを考えます。

姿勢について
基本的にはその子が一番快適に思える姿勢を取っているはずですが、もし横臥位(横になる姿勢)を取っている場合は呼吸しづらいので、伏臥位(伏せの姿勢)に変えてあげましょう。
基本的、肺は背中からぶら下がるように付いています。例えば、横臥位を取った時は重力に従って肺が傾くので、右下にすると右側の肺が虚脱します。仰向けにすると全ての肺が虚脱します。つまり、動物にとって伏臥位が一番呼吸しやすい姿勢なのです。
 

ARDSの場合
ARDSによる肺水腫では時として、低酸素が原因で命を落としてしまうケースもあります。溺死に近い死因です。そうならないためにも酸素化のモニタリングはしっかり行います。

酸素室や酸素を吸わせてもなお、十分な酸素化が得られない場合は気管チューブを挿管し、麻酔器での酸素供給も検討します。

陽圧換気法(PPV)
陽圧換気法とは気管チューブを挿管後、陽圧換気法とは軌道内圧を陽圧に保ち、肺胞換気を補助する目的で使用される換気方法です。

使用が検討される場合
・SpO2:≦90%
・PaO2:≦60mmHg
・PaCO2:≧60mmHg
の状態が続いている時です。この方法の欠点として呼吸を維持するために必要な呼吸筋を動かさなくて済むので、呼吸筋が弱ってしまうという点が挙げられます。

『利尿剤の使用』

利尿剤は非心原性肺水腫よりも心原性肺水腫や輸液過剰に関連した肺水腫などで有効的です。フロセミドやトラセミドなどのループ系利尿薬でしっかり水を引かせてあげましょう。
 

『神経原性肺水腫の治療』

利尿剤を使用する
神経原性肺水腫は交感神経の過緊張をきっかけに静水圧の亢進と血管透過性の変化によって起こる肺水腫です。こちらのタイプの肺水腫は通常、特別な治療を行わなくても治ることが多いのですが、フロセミドなどの利尿剤の使用が有効的です。

α受容体遮断薬、ドブタミンの使用
α1受容体は血管平滑筋に存在しており、血管を収縮させる作用があります。これをα受容体遮断薬を使用することで、血管を拡張させ、静水圧の下げてあげます。

ドブタミンはβ受容体選択的作動薬です。わずかにα1受容体にも作動しますが。β1に作用し、心拍出量を増加させることで肺静脈の静水圧を下げます。

交感神経の過緊張によって末梢血管が収縮した状態の神経原性肺水腫ではこのような薬の投与によって、末梢血管の血圧を下げて上げることが重要になります。

『低Alb血症による肺水腫の治療』

低アルブミン血症による肺水腫の場合、『人工膠質輸液』高濃度アルブミン輸液』を使用した治療法が選択されます。

膠質液とは
膠質液とは多糖類などのコロイドが多く含まれた液体で、出血による血管内脱水や浸透圧を上げるために血漿の補充として使用されます。

血漿輸血ではダメな理由
血漿輸血とは赤血球などの血球成分を排除した血液の輸血で、使用目的は血液量を上げることで『血圧を維持する』ために用いられます。今回の場合のような低アルブミン血症による膠質浸透圧の低下が原因の場合、十分な膠質浸透圧の確保するためには大量の血漿輸血が必要になるため、現実的ではありません。

以上の理由から、膠質浸透圧を維持するためには人工膠質液や高濃度のアルブミン溶液を輸液します。

膠質輸液の副作用
膠質輸液を行うと膠質浸透圧を上げるのと同時に、血管透過性が上がってしまいます。血管透過性が上昇すると血管内から液体が漏れ出し、肺胞内へ液体が溜まってしまう可能性があります。膠質輸液を行う目的とメリット・デメリットのバランスを考えながら、行う必要があります。

『ARDSの治療』

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の治療は『酸素化』と『原因疾患の治療』を目指して行います。現在の医療ではARDSを直接治療できるような薬はありません。

原因疾患の治療
ARDSを起こしている時、原因疾患に重度な肺炎が起こっている場合があります。肺炎などの原因疾患を治療するために、抗菌薬や抗炎症薬の投与を行います。

静脈内輸液
輸液は原因疾患を治療していく上で必要となることがありますが、肺静脈の静水圧を上げてしまう可能性があるので、注意して使用しなければいけません。

人工呼吸
人工呼吸を行うと本来自分で行うべき呼吸を機械が行うので、肺は構造的・機能的に変化してしまい、病態が悪化する可能性があります。しかし、人医療でもARDS患者への人工呼吸は必要であるという結論に至っています。動物でも同様です。

【最後に】

今回は『肺水腫の症状、診断方法、治療法』について解説しました。肺水腫ではガス交換を行う場所である肺胞に液体が溜まってしまうので、呼吸困難が起こります。診断方法はレントゲンが主な方法となっており、「心臓や血管系の評価」と「病変の分布」が大きなヒントとなります。治療法は『酸素化』そして、『原因疾患を改善するようなアプローチ』が必要になります。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017,  1119-1121p

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