オタ福の語り部屋

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【コラム】猫で発症??『パンドラ症候群』とは?

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【はじめに】

今回は初コラムとして『パンドラ症候群』についてお話しします。パンドラ症候群という病気を聞いたことがありますか?今、室内猫で頻発している膀胱炎です。

どんな病気なのか、なぜこんな名前がついたのかなど、簡単にお話ししていきたいと思います。

 

【目次】

 

【本題に入る前に】

『猫の下部尿路疾患』

猫の下部尿路疾患(Feline lower urinary tract disease:FLUTD)の症状は様々で、急性なものであったり、慢性なものであったり、尿路内腔の異常によるものであったり、尿路間質のものであったり、あるいは泌尿器とは関係の無い臓器が原因で下部尿路の機能不全を起こすような疾患であったりとたくさん考えられます。

多くは原因不明
尿路の機能不全が慢性化している猫の下部尿路疾患(FLUTD)の多くは、原因が明らかになっていないものであり、これらは特発性膀胱炎(FIC)に分類されます。

FICと類似する人の疾患
FICと病態が似ていると言われているのが、人の間質性膀胱炎です。これらは2つの動物種で見られる膀胱炎は病態が似ていることから、しばしば比較検討が行われており、人の間質性膀胱炎を研究することで、猫の特発性膀胱炎を解明する手がかりになるかも知れないと言われています。

『パンドラの箱とは』

パンドラの箱とはギリシャ神話に出てくるもので『開けたら次々と不吉なことが起こる』ことの代名詞としてたびたび使用される言葉です。詳しいことは検索した方がたくさん書いていると思うので、ここでは割愛します。

 

【パンドラ症候群の発見・特徴・由来】

『こうして発見された』

はじめは人の病気の研究から
時はパンドラ症候群という名称が付く前の話です。1990年代初頭、アメリカ国立衛生研究所の研究機関の一つであるThe National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases (通称:NIDDK) から人の間質性膀胱炎のモデル動物を作るように要請がありました。

その時にモデル動物として候補が上がったのが、猫の特発性膀胱炎(FIC)です。Tony Buffington先生らが特発性膀胱炎の猫を200匹ほど譲渡してもらい、研究をはじめました。

二つのことが明らかに
Tony Buffington先生らはFIC発症猫の飼育を始めて間もないうち、二つの事象が明らかになりました。
まずはFIC発症猫の多くが健康上何らかのトラブルを抱えているということ。
そして、
もう一つが手厚い飼育環境を提供することでほとんどの猫でFICが治ったということ。
これら二つの事象を目の当たりにしたTony Buffington先生らは以下のことを考えました。

「猫の特発性膀胱炎は実際に膀胱そのものに問題があって発症するというよりはむしろ、何らかの疾患が膀胱に影響を与えた結果、起こったものなのかもしれない…」

 

『推測される特徴』

これらのことから、パンドラ症候群の特徴として以下のようなものが挙げられます。

①幼少期にトラウマとなる経験や強いストレスを受けた
②基礎疾患を抱えている
③環境によって、症状に強弱がある

これらに該当するものはもしかすると、パンドラ症候群かもしれません。

『命名の由来』

なぜパンドラ症候群と呼ぶかというと、パンドラ症候群はこのように『実際の膀胱疾患』ではなく、『膀胱に影響を与える何らかの疾患・環境・経験によって起こる結果、生じたもの』であるため、『膀胱炎を見つけると、次々の他の疾患が見つかること』からそう呼ばれているそうです。

『パンドラの箱を開けてしまった結果、災いが世界に出てきてしまった』というギリシャ神話から名前が付けられたそうです。いかにも欧米人が考えそうなネーミングですね(笑)

 

【パンドラ症候群の実態】

では、パンドラ症候群はどういう疾患と捉えるべきなのでしょうか?これは『不安症』の一つとして考えるのが正解なようです。

一般的に生物はストレス下に晒された時、神経系や内分泌系、免疫系など様々なシステムを駆使して、ストレスを抑え込もうと働きます。一方で、パンドラ症候群は慢性的なストレス下に晒された時、それらのシステムが破綻してしまっているようです。

 

【診断方法や治療法について】

診断方法と言いますか、いくつかの『診断基準』が存在しています。

・膀胱炎を起こす原因が他に見当たらない
・何らかの併発疾患が存在する
・幼少期にトラウマとなる経験や強いストレスを受けた
・環境によって、症状に強弱がある
・MEMO(multimodal environmental modification)に治療反応を示す

などが基準として挙げられます。全身状態や症状を見ながら、診断基準と照らし合わせて診断を進めていきます。

 

『治療法はシンプル』

治療法は至ってシンプルで『環境の改善』です。

①隠れられる場所を用意
②フカフカの床敷を敷く(フリースが良いらしい←噂)
③ご飯や水を十分に与える(器は備前焼が良いらしい←噂)
④トイレを清潔にし、個数を増やす
⑤光量、悪臭、気温、騒音を快適な程度にする
⑥猫の好きな香水(フェリウェイ®️)を用意する
⑦同居動物がいるなら、虐められていないか要観察!!

具体的にはこのようなものが挙げられ、環境改善に努めましょう。

【最後に】

今回は『パンドラ症候群』についてお話ししました。パンドラが箱を開けた結果、不吉なことが起こるのと同様に、膀胱以外の何らかの不具合が生じた結果、膀胱炎が発症していることで、膀胱炎を見つけると次々と他のトラブルが見つかることとして、ネーミングされたようです。ネーミングセンスが良いですよね。

【本記事の参考文献】

A Tony Buffington, Jodi L Westropp, Dennis J Chew, Roger R Bolus. Clinical evaluation of multimodal environmental modification (MEMO) in the management of cats with idiopathic cystitis. J Feline Med Surg . 2006 Aug;8 :261-8.

A Tony Buffington. Idiopathic cystitis in domestic cats--beyond the lower urinary tract.J Vet Intern Med . Jul-Aug 2011;25 :784-96.