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【猫の甲状腺機能亢進症②】診断方法

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【はじめに】

今回は『猫の甲状腺機能亢進症』の診断方法について解説します。甲状腺機能亢進症を診断していく上で、必要な検査と教科書に記載されている検査の両方を解説していきます。現場では実施されていないようなアカデミックな内容も一部記載していますので、「こんな検査もあるんだ」程度で良いかと思います。

【猫の甲状腺機能亢進症①】概要・臨床徴候

 

【目次】

 

【尿検査】

特徴的な所見はない
甲状腺機能亢進症を示す猫の尿検査では診断に繋がるような特異的な所見を見つけることはできませんが、しばしば『等張尿』が認められることがあります。

でも尿検査はした方がいい
甲状腺機能亢進症を示す猫ではこの病気のほかに、慢性腎臓病や糖尿病、その他多くの病気が併発している可能性があるので、尿検査はそうした疾患を見つけるためにもルーチン検査としてやっておいた方がいい検査です。

【血液検査】

『CBC検査』

甲状腺機能亢進症の猫では約半数の猫で軽度の赤血球増加症が報告されています。『慢性疾患に伴う貧血』は高齢の猫で多く認められます。そのため逆に、血液検査で赤血球が増加している場合は、たとえ甲状腺ホルモン濃度が正常であっても甲状腺機能亢進症を警戒しておくべきです。

赤血球増加症になる機序
甲状腺ホルモンはエリスロポエチンの産生を増加させることで、赤血球の産生を促します。さらに甲状腺ホルモンは骨髄に直接働きかけることもあります。 

Thus, apart from the known direct effect on erythroid precursors, thyroid hormones appear to stimulate erythropoiesis by a noncalorigenic increase in Epo production.引用文献:Thyroid Hormones Enhance Hypoxia-Induced Erythropoietin Production in Vitro

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その他の異常
赤血球増加症に加え、好酸球減少症やリンパ球減少症が認められることがしばしばあります。

『生化学検査』

肝酵素マーカーの上昇
80%の猫でALTの上昇が認められ、50%以上の猫でALPの上昇が認められています。その原因としては『代謝ストレス』、『うっ血』、『ホルモンによる直接的な障害』が関連している可能性が高いです。

1/4で高窒素血症を発症
1/4の割合で高窒素血症を発症していると言われています。この原因としては腎前性のものも含まれますが、腎臓病が併発している可能性も考えられます。

【甲状腺ホルモン測定】

『T4測定』

甲状腺ホルモンの測定で良く使用される項目は
・total T4(tT4)
・total T3(tT3)
・freeT4(fT4)
の3つで、猫の場合はTSHの測定はあまり行われません。

tT3測定の意義は乏しい
T3のトラフ値の測定には診断的意義がありません。というのも、健常猫と検査結果がオーバーラップすることが多いからです。

tT4が最も一般的
スクリーニング検査として最も一般的に使用されるのはtT4値です。


『tT4測定の限界』

オカルト甲状腺機能亢進症
血清tT4濃度が正常値を示したからといって、甲状腺機能亢進症を除外することはできません。実際、甲状腺機能亢進症を示す猫の多くはtT4の値が正常~軽度の上昇に納まることが多く、これを『occult hyperthyroidism(オカルト甲状腺機能亢進症)』と呼びます。

なぜこのようなことが起こるのでしょうか?その理由はいくつかあります。順番に解説していきます。

理由①:tT4の値は日によって変わる
甲状腺ホルモンの値は日によって変動します。甲状腺機能亢進症と診断された猫であっても日によってはT4が基準値範囲内に入ることもあります。 

 In addition, some of the cats with mild hyperthyroidism showed one or more normal serum T4 and T3 values during the course of the respective study periods.引用文献:Serum Thyroid Hormone Concentrations Fluctuate in Cats With Hyperthyroidism

そのため、tT4を一回測定しただけで甲状腺機能亢進症の診断を行うことはできません。必ず、別の日にtT4の再チェックを行う必要があります。

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理由②:併発疾患が異常値を隠している
一般的に甲状腺ホルモンは下記のような疾患がある時、低値を示すことがあります。これらの疾患が併発しているせいで、甲状腺機能亢進症があっても、tT4値が上がりきらない状況が作られている可能性があります。

甲状腺ホルモン下げる疾患
・糖尿病
・肝疾患
・慢性腎臓病
・全身性腫瘍性疾患
・うっ血性心不全
・IBD(炎症性腸疾患)
・炎症性気道疾患
・局所性腫瘍性疾患

『fT4の測定』

fT4とはfree T4の略称で、血清蛋白と結合していないT4を言います。それゆえ、活性型ホルモンであるT3に変換することが可能です。血清T4濃度を測定することで甲状腺機能亢進症の確定診断をつけることができます。

fT4は感度が高い
fT4の感度は非常に高く、甲状腺機能亢進症の猫の98%以上で陽性を示します。なので、fT4が上昇していなければ、甲状腺機能亢進症の可能性は一気低くなります。

一方で特異度はとても低く、甲状腺機能亢進症ではない猫の95%でも上昇します。そのためfT4測定は除外診断に使用します。

1stステップの検査ではない
先ほどもお話しした通りfT4は特異度が低く、偽陽性がたくさん出てしまうため、一番最初に行う検査としては推奨されていません。
甲状腺機能亢進症ではない猫の12%ほどの猫でfT4の上昇が認められたという報告があります。そのため、fT4を測る時には尿検査やCBC、生化学検査、tT4を測定し、甲状腺機能更新症であろうと予測した上で、行う方が良いです。

『tT4とfT4の併用診断』

一部の文献ではtT4とfT4の併用診断はそれぞれの単独診断と大きな差はないと言われていますが、併用と単独どちらが良いとはっきりしているわけではないので、併用して診断を勧める先生もいらっしゃります。

『血清TSHの測定』

TSHとは
TSHとは甲状腺ホルモン刺激ホルモンの英略名で、甲状腺に甲状腺ホルモンを作るように命令するようなホルモンです。

TSHとCKD
甲状腺機能亢進症と慢性腎臓病が併発している猫でTSHを測定すると、全頭でTSHは基準値が下回ったという報告があります。 

In the hyperthyroidism-chronic kidney disease group, free thyroxine was high in 15 of 16 cats, while thyroid-stimulating hormone was low in 16 of 16 cats.引用文献:Diagnosis of Hyperthyroidism in Cats With Mild Chronic Kidney Disease


無症状の甲状腺機能亢進症

TSHの測定は"サブクリニカルな甲状腺機能亢進症"を診断する時にも用いられます。subclinical(サブクリニカル)とは臨床症状が顕在化していない段階の病気を意味します。
このタイプの甲状腺機能亢進症では甲状腺ホルモン濃度は正常であるのに対し、TSH濃度は低値を示しています。

『T4濃度が正常でTSH濃度が低値』というパターンの猫は組織学的には結節性過形成あるいは甲状腺腫が認められる可能性が高いです。これらの猫では甲状腺機能亢進症へと発展するリスクがTSH正常群と比較し、高くなっています。

【T3抑制試験】

『どんな時に行うか』

T3抑制試験は甲状腺機能亢進症の症状が出ているが、甲状腺ホルモン濃度の上昇がいまひとつで診断根拠に乏しい場合に行われます。

『T3抑制試験の理論』

甲状腺機能亢進症の猫では下垂体からの命令に影響を受けず、独立した器官として甲状腺ホルモンが産生されています。したがって、下垂体から分泌されるTSHは慢性的に抑制されていることが予想されます。

正常な猫であれば、外部からT3を摂取すると、TSHの分泌は抑制され、続いてtT4濃度の低下が認められます。

しかし、甲状腺機能亢進症の猫ではTSHの制御を受けずにT4が産生されているので、T3の摂取によってTSHを抑制したとしてもT4の濃度に影響は出にくいということです。

『T3抑制試験でわかること』

T3抑制試験はオカルト甲状腺機能亢進症と正常機能の甲状腺の鑑別を行うことができます。T4濃度の上昇がいまいちで、診断根拠に欠ける場合はT3抑制試験を行ってみるのは非常に有用な検査だと思います。

【甲状腺シンチグラフィ】

甲状腺シンチグラフィとは
甲状腺シンチグラフィとは甲状腺機能亢進症を調べる検査の一つです。原理としては『ヨードを摂取すると甲状腺に集まる』という原理を利用しています。その原理を利用し、放射性ヨードあるいは過テクネチウム酸を投与し、甲状腺にどれくらい集まったを調べる検査になります。

感度が超良い
甲状腺における過テクネチウム酸あるいは放射性ヨウ素の取り込みは甲状腺機能亢進症の診断に大きく寄与し、非常に高い感度がこの検査の特徴になっています。

一般的な検査ではない
甲状腺シンチグラフィは「こんな検査もあるよ!」程度の認識で良いかと思います。というのも僕自身、日本の獣医療では使用されているのを聞いたことがないからです。また、放射性物質を扱うため、国内で認証されているのかも分かりません。←リサーチ不足です。

海外で使用されている例
甲状腺シンチグラフィを使うのはどのようなタイミングなのか、海外の文献を参考にしてみました。
甲状腺シンチグラフィを行うと、
・片側性なのか両側性なのか
・異所性甲状腺疾患はないか
・胸腔内甲状腺疾患なのか
など、甲状腺癌のように転移を起こすような疾患ではないかを検索することができるため、手術前の術前評価に使用されることが多いみたいです。

 

【最後に】

今回は『猫の甲状腺機能亢進症』の診断方法について解説しました。
甲状腺機能亢進症は
・甲状腺ホルモンの測定
・T3抑制試験
・甲状腺シンチグラフィ
によって診断します。
ただ、やっぱり現場で上述した検査を全てやるかというと絶対やりません笑
まずは症状から疑い、tT4測定を2~3回行い、それでも高値を示すのであれば、fT4やTSHを測定し、精査を行います。

僕は「多飲多尿」「多食」「体重減少」という主訴を聞いて、尿検査を行い糖尿病を除外したら、T4を測定します。そこで2~3回測定して見て、基準値を超えて上昇しているなら、甲状腺機能亢進症と決め打ちして治療を開始しています。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 1747-1756p

 

【関連記事】

『猫の甲状腺機能亢進症①』

www.otahuku8.jp

『以前書いた甲状腺機能亢進症』

www.otahuku8.jp

『甲状腺腫瘍について』

www.otahuku8.jp