オタ福の語り部屋

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【メレナと鮮血便】血便がある時に考えること

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【はじめに】

今回は『メレナと鮮血便』について解説します。メレナという言葉を聞き慣れない方も多いと思います。後ほど詳しくお話ししますが、メレナと鮮血便は消化管(胃や腸)が出血することで見られる便の色調を意味しています。しかし、これら二つは本当に消化管出血なのかを鑑別することが診断・治療のポイントになって来ます。消化管が出血するとどのような便が出てくるのか、そしてこういった便が見られる時はどのような疾患が隠れているのかを解説していきたいと思います。

 

【目次】

 

【獣医師がやるべきこと】

ペットの便に血液が混じっていることを見つけると飼い主さんは非常に困惑・切迫した様子で来院されることがほとんどです。血便は命に関わるものから、些細なものまで幅が広いです。また、便中に混ざって血液は必ずしも消化管から出血したものとも限らないため、『出血部位の特定』と『重症度』を問診や検査によって特定していく必要があります。

【メレナについて】

『メレナの定義』

メレナはヘモグロビンが酸化されて発生するヘマチン(hematin)が含まれていることで、暗赤色~黒色、タール色に見える糞便を言います。

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臨床的意義は場所<時間
ひと昔前はメレナというと『小腸や胃、口の出血』に起因するものと考えられていましたが、今では出血が起こった場所よりも『腸管内での血液の滞在時間』が重要であると考えられています。

つまり、メレナが見られた時は『小腸か胃で出血したのだろう』というよりも『出血してから便中に排出されるまで時間がかかったのだろう』と解釈すべきなのです。

なぜ場所ではなく時間なのか
なぜ、場所ではなく時間で解釈すべきなのかについてですが、小腸で出血していた場合、便中にその血液が排泄されるまでに時間がかかるので、結果として同じ結論にたどり着きます。

しかし、メレナというのはヘモグロビンが酸化されるほど排便までに時間がかかったことを示唆している症状なので、例えば大腸の運動性が低下している状況で、大腸に出血が見られた場合にも、メレナが見られる可能性があります。

『メレナ=上部消化器の出血』という解釈をしていると、大腸で出血が見られた場合に見落としてしまう危険性があります。

 

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このように腸での滞在時間が長いと、ヘモグロビンが酸化され、メレナとして現れるようになります。

『メレナが起こる原因』

「消化管出血が全てではない」

呼吸器の出血
鼻血、喀血したものを飲み込んだ場合、メレナが見られる場合があります。

消化器の出血
口腔内や食道、胃、小腸、まれに回腸や結腸の出血によってもメレナが起こります。これは前述した通りです。

生モノの摂食
生肉などの生モノを摂食していると、それらに含まれる血液が消化されることでメレナを呈すことがあります。

こういったことから、『メレナ=消化管出血』というのも見落としてしまう疾患が多々あるため、良くない思考回路と言えます。

「ミミックなメレナに要注意」

ミミック(mimic)とは日本語で「擬態する」などという意味ですが、ある条件が揃うとメレナではないのに、便が黒っぽく見え、メレナ"の様に"見えてしまうことがあります。

その条件というのが、
・活性炭(吸着剤)を摂取している時
・鉄製剤を摂取している時
・ビスマスを含む収斂薬(ディアバスター®️など)を服用している時
・ブルーベリーを大量に食べた時
などです。

これらの条件が当てはまる時に見られたメレナは真のメレナではないかもしれません。

「原因疾患はめっちゃある」

メレナの原因疾患を以下の様なものが挙げられます。こういったものを問診や身体検査、検査によって、鑑別していきます。では次はこれらの原因疾患をどうやって鑑別し、診断していくかを見ていきましょう。

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【診断方法】

『臨床経過』

まずは注意深い問診
メレナを呈している患者を評価するには注意深く臨床経過を観察する必要があります。

その際、獣医師はこちらから「便は黒くなっていませんでしたか?」などと誘導するような質問するのはなるべく避け、飼い主さんが自ら仰る表現を元に深掘りしていく方が正確な問診ができるとされています。

かといって、色調の表現というのはとても難しいです。僕も病理学研究室にいた時、肝臓や腎臓の色調の表現に難儀した覚えがあります笑

そんな時にあると便利なのが、『パーソナルカラースウォッチ』です。色のサンプルを示す布切れを飼い主さんに見てもらい、どんな色の糞便であったかを一緒に確認するのが良いでしょう。

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覚えておくと良い経歴
獣医師なら飼い主さんに聞いておくと良い質問、あるいは飼い主さん自身が覚えておくと診断が進みやすいものがあります。

それは
・普段の食事内容:生モノ
・投薬歴:ステロイド、NSAIDs、活性炭
・毒物を摂食した可能性:殺鼠剤
・海外渡航歴の有無:地域特異的な感染症

これら3つを把握しておいてもらえるとこちら側はある程度メレナの原因を判別することができ、助かります。

『由来は呼吸器??消化器??症状で見破る方法』

呼吸器や消化器による出血以外の原因で便が黒くなっている原因は先ほど話した通り、生肉や活性炭などの摂取が挙げられます。これらの可能性を除外することができれば、次に考えるのは『真のメレナ』です。真のメレナである場合、その原因が呼吸器から来るものなのか、消化器から来るものなのか、全身性の出血からくるものなのか、を鑑別していく必要があります。その際に参考になるのが『メレナ以外の症状』です。

呼吸器系の出血を示唆する症状
・運動不耐症(運動してもすぐに疲れる)
・ストライダー(濁音の混じった呼吸様式)
・発咳
・呼吸困難
・喀血
・鼻血

消化器系の出血を示唆する症状
・食欲不振
・吐出
・嘔吐
・下痢
・吐血

全身性の出血を示唆する症状
・血尿
・紫斑

『身体検査』

メレナの原因を探っていく上で、上述した症状だけでなく、身体検査も不可欠となってきます。

視診
皮膚を見て、粘膜を見て、強膜(白目の部分)を観察し、紅斑や紫斑がないかをチェックしていきます。

次に可能であれば眼底検査もやっておくと良いです。眼底の出血病変は網膜での出血を示唆しています。網膜が出血する原因は
・出血性疾患
・過粘稠症候群
・全身性の高血圧症

聴診
聴診によって、肺の異常を検出できる可能性があります。

触診
触診で一番重要なのは『直腸検査』です。直腸検査によって、肛門直前の粘膜に異常がないかや、腸骨リンパ節が腫れていないかなどをチェックするべきです。

『まず最低限やる検査』

メレナの存在を確定した後はメレナを引き起こしている原因疾患を検査によって、絞り込むあるいは除外していきます。

まずやるべき最低限の検査は
・CBC
・生化学検査
・尿検査
・血液凝固検査(PT・APTT)
・糞便検査(浮遊法)
です。

「CBC」

貧血
メレナを呈している患者では貧血が最もよく観察されます。貧血は軽度~中等度のもので、出血が起こってからしばらく時間が経っているものであれば、再生性貧血として確認できるかもしれません。

慢性的で軽度な出血が続いている時は小球性低色素性貧血の鉄欠乏性貧血として現れる可能性があります。

血小板減少症
もし中等度~重度の血小板減少症が起こっている場合は、メレナを引き起こす原因となっている可能性があります。
そして、軽度の血小板減少症の場合は急性に発生した出血を止めるために血小板が動員されていることを示唆します。

血小板増加症
慢性的にダラダラと消化管から出血している場合は先ほどとは反対に血小板が増加する血小板増加症が認められる可能性があります。

白血球数に関して
白血球数に関してはなんとも言うことができず、基礎疾患によって上がったり下がったりします。

好酸球増加症
好酸球が増加する好酸球増加症では、メレナを引き起こす原因が好酸球を増加させる何かによって引き起こされていることを示唆しています。

例えば、
・寄生虫性疾患
・全身性の真菌症
・肥満細胞腫
・好酸球性胃炎
・好酸球増多症候群
などが挙げられます。

「生化学検査」

BUNの上昇
メレナの際に最もよく見られる生化学検査での異常はBUNの上昇で、Creと比較して重度に上昇することも、特徴の一つです。さらに、低蛋白血症も認められます。

低Na血症
高K血症に伴って発生する低Na血症は基本的には『アジソン病(副腎皮質機能低下症)』が隠れていると考えるべきです。時折、サルモネラ感染症や鉤虫感染によって、偽性(偽の)副腎皮質機能低下症が認められることがあるので、鑑別が重要です。

「その他の検査」

尿検査
尿検査を行う目的としては、併発疾患の有無を評価するためです。

血液凝固検査
殺鼠剤やDICによる腸管出血ではないかを鑑別します。

糞便検査(浮遊法)
寄生虫の虫卵などがいなかを検査します。

『次のステップで行う検査』

糞便検査(直接法と細胞診)
これらの検査では糞便中にいる寄生虫や細菌、そのほかの微生物の検出を行います。

レントゲン検査
胸部・腹部レントゲン検査ではメレナの原因が呼吸器由来なのか消化器由来なのかを鑑別するのに役立ちます。

超音波検査
超音波検査はレントゲン検査を補完するような立ち位置にいます。異物や臓器の構造異常、腫瘤、リンパ節の腫脹、腸重積などを検出するのに使うことができます。

その他
CT検査、鼻鏡検査、気管支鏡検査、内視鏡検査、試験開腹などがあります。

【メレナの治療方法】

確定診断が着くまでは
メレナの治療法は原因疾患によって異なります。統計学的にメレナの発生原因で一番多いのは胃腸の潰瘍なので、確定診断が着くまでの間は潰瘍の治療をやっていくのが臨床現場のやり方としては妥当かと思います。

胃潰瘍の治療
胃潰瘍の治療方針としては『胃酸の量を減らすこと』『胃腸粘膜を保護すること』が重要になってきます。そのため用いられる薬剤としては
・プロトンポンプ阻害剤
・合成プロスタグランジン製剤
・スクラルファート
などが一般的に使用されます。

【鮮血便について】

『鮮血便の定義』

鮮血便(Hematochezia)とはヘモグロビンの存在によって、鮮明な赤色を呈する糞便と定義されています。

鮮血便が認められるときは結腸(下部消化管)の出血が示唆されますが、こちらもメレナの時と同様で、出血した場所よりも血液が腸内で滞在した時間がです。なので、腸の運動性が亢進している時は小腸での出血であっても鮮血便として認められる可能性があります。

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写真出典:Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 170p Fig41-3

『原因』

下部消化管を中心に考える
原因に関してはメレナと重複する部分があります。しかしながら、鮮血便では盲腸、結腸、直腸といった下部消化管からの出血を中心に考えていく必要があります。

本当に血便??
また、飼い主さんがよく「血便が出た」と勘違いされるケースとして多いのは『会陰部の噛み傷』や『肛門嚢の膿瘍』を由来とする出血が便に混じっている場合です。こちらは血便というよりも、正常便に血液が付着しているという認識の方が正しいです。

【診断方法】

『問診でわかること』

排便時の様子でわかること
まずは問診です。こちらもメレナと同様に行えば良いのですが、鮮血便の場合、呼吸器疾患の可能性を考える必要はありません。その代わりに『排便時の様子』をしっかりと覚えて来て頂けると、診断が進みやすくなります。

下部消化器疾患を患っていると、以下のような症状が認められることが多いです。
・排便しづらい様子はないか?
・テネスムス(いきむが便が出てこない様子)がないか?
・少量の便を何回もする様子はないか?
・便に粘液が混じっていないか?
などこれらの症状がないかをチェックしておきましょう。

 

便の色調でわかること
・赤~えんじ色→結腸近位の病変を示唆
・濃い赤(血の色)→直腸付近の病変を示唆

最近の変化でわかること
血便が見られる直前に何か普段と異なる事を行ったか思い出してみましょう。犬にストレスのかかる何かや、食事内容の変更がなかった、今一度確認してみるといいかもしれません。
そのような原因で急な大腸炎を引き起こす例は多々あります。

『身体検査』

腹部の触診
腹部の触診では腹痛や臓器の腫大、腫瘤がないかを確認します。

直腸検査
直腸検査を行う目的としては以下のようなものが挙げられます。
・鮮血便の存在を確認するため
・糞便検査に必要なサンプルを採取するため
・直腸粘膜の異常を検出するため
・その他:腫瘤の有無、構造の異常、腰部リンパ節の腫大、骨盤骨折、肛門周囲瘻・潰瘍がないかを確認するため
直腸検査は原因疾患がそこにあると痛がることもあるので、様子を見ながら力を加減して行います。

肛門嚢の触診
肛門嚢(臭い袋)に結節や蜂窩織炎がないかを確認したり、絞って内容物を顕微鏡で確認してみる検査もやっておくと良いでしょう。

 

『基本はメレナと一緒の検査』

問診や身体検査を終え、鮮血便の存在を確認した後は原因疾患が何であるかを調べる検査へと移行します。
それらの検査は以下のようにメレナと同様の検査を行います。
・CBC
・生化学検査
・尿検査
・血液凝固検査(PT・APTT)
・糞便検査
・画像検査(超音波・レントゲン)

 

この症状が見られたら要注意

ラズベリージャムのような鮮血便や、しばらくの期間鮮血便が続いているような慢性疾患であれば、重篤な鮮血便であると考えるべきで、より早急かつ正確な診断が必要になります。

【鮮血便の治療方法】

鮮血便の治療は原因疾患に依存しています。

鮮血便が急性で比較的軽度な様子であれば、対症療法として、広範囲の駆虫薬やメトロニダゾール、可溶性繊維を含んだ食事に変更することで改善するケースが多いです。

【最後に】

今回は『メレナと鮮血便』について解説しました。これら二つは消化管出血を示唆する症状ではありますが、必ず消化管出血によるものとも言いれません。軽度な症状であれば、整腸剤や食事療法で様子を見てみるのもアリかと思いますが、重篤な症状が認められる場合は原因となる疾患が何であるかを検査によって明らかにし、その原因疾患を治療していくことが重要になって来ます。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 167-171p

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『腸管腫瘍』

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『IBD』

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