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【犬の前立腺肥大(良性前立腺過形成)】5歳以上の犬では80%が発症⁈

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【はじめに】

今回は『犬の前立腺肥大』についてです。前立腺肥大は人間でもよく聞く病気ですよね。この病気は『ホルモン』が大きく関わっています。男性ホルモンと女性ホルモンのバランスが崩れることが、肥大への契機となるとされています。今回はそんな前立腺肥大について詳しく解説していきます。

 

【目次】

 

【前立腺肥大の概要】

はじめに。呼称について
この記事では『前立腺肥大=良性前立腺過形成』として捉えて説明しています。というのも、この二つには大きな違いはなく、臨床的な名称が前立腺肥大で、病理学的な名称が前立腺過形成と名付けられています。

いつぐらいから大きくなる?
前立腺の成長は2歳ぐらいまで成長しますが、そのあともアンドロジェン(男性ホルモン)の影響下で肥大・過形成を続けていきます。

前立腺の体積は年齢と共に大きくなります。特にこの成長過程はアンドロジェンが関与していることから、そのほとんどは未去勢オスで発生します。ちなみに5歳以上の未去勢オスでは80%、9歳以上の未去勢雄では95%が前立腺過形成を起こしているというデータがあります。

BPH is a spontaneous and age-related disorder of intact male dogs, which occurs in more than 80% male dogs over 5 years of age, and which is associated with clinical signs of sanguinous prostatic fluid, constipation and dysuria. 引用文献:Prostatic disorders in the dog

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若齢犬でも発症がある
組織学的な検索を行うと、2歳の時点で16%の犬が前立腺肥大(良性前立腺過形成)を発症していることが分かっています。

Histologic evidence of BPH developed at an early age with a prevalence of 16% of the dogs by the age 2 years.引用文献:Development of canine benign prostatic hyperplasia with age.

好発犬種は?
スコッチテリアでは前立腺肥大が強く見られる傾向があるという報告があります。

【病因】

前立腺細胞の成長に関与するホルモンとして、『ジヒドロテストステロン(DHT)』や『エストラジオール17β』そのほかにもいくつか成長因子があります。

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比が関与している?
アンドロジェン:エストロジェン比の加齢による変化が、良性前立腺過形成に関与しているのではと言われています。つまり、加齢と共にアンドロジェン分泌量は低下する一方で、エストロジェン分泌量は増加してきます。こうした二つのホルモンのバランスが変化してくることが良性前立腺過形成を惹起すると言われています。さらに良性前立腺過形成は嚢胞性前立腺過形成への進行を誘います。

ジヒドロテストステロン(DHT)
DHTは良性前立腺過形成の主要となるメディエーターで、間質や腺房の成長を促進しています。
 

エストラジオールの役割
・腺房を閉塞するような前立腺上皮細胞の異形成を誘導
・前立腺液や血液の停滞
・実質嚢胞の形成
などを行います。 

前立腺液が停滞し、導管の閉塞が進行すると、前立腺内に多発性の空洞を形成します。実質嚢胞は間質嚢胞と異なり、一般的には尿道と連絡します。

【症状】

『初期症状』

良性前立腺過形成の初期症状として、
・前立腺が対称性に肥大している
・直腸検査で痛がらない
・ほとんどの犬は症状がない
これら3つが前立腺過形成を疑うポイントです。

『ある程度進行してくると』

排便困難
肥大した前立腺が直腸を腹側から圧迫するため、排便困難が起こります。

尿道を圧迫すると
前立腺が肥大し、尿道を圧迫するようになってくると
・陰茎先端から血が垂れる
・血尿
・排尿障害
・血精液症
・不妊症
などが現れます。

『慢性細菌性前立腺炎に発展する恐れ』

良性前立腺過形成の犬は慢性細菌性前立腺炎を起こすリスクが上がっています。そのため、臨床症状として
・後腹部の痛み
・ふらつき
・動きたがらない
・敗血症を疑うような全身症状の悪化
などがないかは注意が必要です。慢性細菌性前立腺炎は感染症なので、病気が進行し敗血症などを起こすと状態が急に悪化する恐れがあります。

【診断方法】

前立腺過形成の確定診断は前立腺の生検を必要としますが、割と侵襲度が高いので、まずは臨床症状、身体検査、直腸検査、前立腺液検査をやっていきます。

『直腸検査』

直腸壁を介して、前立腺を触知することができます。前立腺の大きさや形状、痛みがないかなどをチェックします。

『精液検査』

精液検査において正常な精液は透明水様性ですが、正常な精液では認められないような単核球を主体とした炎症性細胞の浸潤を伴う出血が認められる場合があります。

『腹部超音波検査』

超音波検査の使い道としては直腸検査をしてみた時の検査所見と答え合わせをするために使います。あとはどの程度肥大しているかを測定したりもできます。

『前立腺穿刺』

前立腺に針を刺し、前立腺の腺上皮細胞や前立腺液を採取してくるという方法です。その採取した細胞の細胞診を行います。ただし、これは前立腺腫瘍の時もお話ししましたが、前立腺腫瘍を疑う際に経皮的な前立腺穿刺を行うと腹膜に腫瘍が付着し、播種してしまう可能性があります。不本意な転移を避けるためにも、腫瘍の可能性は極めて低いと考えられる場合にのみ行うべきでしょう。

【治療法について】

『治療の目的』

良性前立腺過形成の治療目的としては
・臨床症状を軽減すること
・細菌性前立腺炎や前立腺膿瘍などの続発性疾患のリスクを下げること
これら2つにあります。

 『去勢手術』

去勢手術は一番最初に選択される治療です。去勢を行うと、みるみる前立腺の体積が小さくなり、術後3週間で50%、3ヶ月で75%ほど体積が減少することが知られています。

約3週間ほど経過して、前立腺が縮小しているかを直腸検査や超音波検査によってチェックします。この時、前立腺過形成によってマスク(隠され)されていた前立腺腫瘍や膿瘍が出来てないかを確認します。

 

『抗男性ホルモン製剤の使用』

繁殖を目的としている犬や全身麻酔のリスクがある老齢犬では去勢ではなく、抗アンドロジェン製剤を使用します。

抗アンドロジェン製剤
・酢酸クロルマジノン
・酢酸オサテロン
などがあります。

これらの薬を用いることで、前立腺に対するアンドロジェンの作用を阻害し、肥大した前立腺を早期に縮小されることできます。

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【最後に】

今回は『犬の前立腺肥大』について解説しました。前立腺肥大は加齢とともに進行していき、ほとんどの場合は無症状です。しかし、臨床症状が見られる場合は早期の去勢やホルモンを抑える薬などで、治療を行います。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 2031-2032p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2, 文英堂出版, 2014, 593-595

 

【関連記事】

『前立腺がんについて』

www.otahuku8.jp

『精巣腫瘍について』

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