オタ福の語り部屋

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【インスリノーマ②】インスリンがめっちゃ出る腫瘍~診断・治療・予後~

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【はじめに】

今回は『インスリノーマの診断と治療』について解説します。インスリノーマとはインスリンを分泌するβ細胞が腫瘍化したガンを言います。今回はインスリノーマをどのように診断していくのか、そして治療について詳しく解説し、治療を受けた後の生存期間についても言及していければ良いなと考えています。

 

【目次】

 

【インスリノーマを診断するには】

『確定診断は血液検査』

通常時では
通常、インスリンというのホルモンは血糖値の上昇を感知して、分泌され細胞内へ糖の取り込みを行なっています。そのため、空腹時(低血糖時)は血液中のインスリン濃度が低下しています。

インスリノーマでは
しかし、インスリノーマは空腹時(低血糖時)であってもインスリンの過剰分泌が起こっています。ということは、インスリノーマを確定診断するには空腹時の血中グルコース濃度とインスリン濃度を測定すれば、インスリノーマの存在を確信することができます。

行うべきことは
・血糖値の測定
・血清インスリン濃度の測定
です。

検査の流れ
空腹時や食事前に血糖値を測定する(必要があれば、絶食を行う←十分注意して行う)

低血糖(<60mg/dL)を確認する

血清インスリン濃度の測定

インスリン濃度の低下が認められない(むしろ、上昇している場合もある)

インスリノーマと診断

検査所見から言えること
『低血糖状態で血清インスリン濃度が高いとインスリノーマ』ということです。低血糖と血清インスリン濃度の上昇が同時に見られるという検査結果はインスリノーマと診断するに十分な証拠となります。

空腹時の血清インスリン濃度

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グリコシル化蛋白の測定も
フルクトサミンやグリコシル化ヘモグロビンの濃度はインスリノーマの疑う検査として役立ちます。慢性低血糖状態の犬ではこれらの血清濃度が低下していることがわかっています。
ただ、これは低血糖状態が続いていることを証明する検査であり、直接的にインスリノーマの診断を支持する検査ではないことを注意しましょう。

『レントゲン検査/超音波検査』

画像診断はインスリノーマの確定診断には使えませんが、しばしば行われる場合があります。

画像診断を行う状況
・手術前に切除範囲を決定する場合
に使用されます。

「胸部・腹部レントゲン検査」

胸部や腹部のレントゲンはインスリノーマの診断に限定すれば、あまり有用性はたかくありません。しかし、低血糖の原因が他にないかを調べるために行われることがあります。

「腹部超音波検査」

腫瘍を見つけるのは困難
腹部超音波検査はインスリノーマを疑う時の検査としてよく行われる検査です。しかし、膵臓にインスリノーマの結節を発見することができる確率は50%未満と言われています。

転移病巣を探すのに使えるかも
転移病巣を検索するのに必要な検査として超音波検査はしばしば使用されます。しかし、こちらの方も感度・特異度が共に低く、検査結果を信用しきれないといった状況です。超音波検査は広範囲の病変を検索するのには長けていますが、なかなかその結果を信用できないのです。

『CT検査』

インスリノーマを疑う犬ではCT検査を行う場合があります。
超音波検査とCT検査とSPECT検査で、比較した研究があります。その実験ではCT検査が最も検出力が高い検査だという結果が出ており、14匹中10匹インスリノーマと診断できました。しかし、逆にリンパ節転移病変の偽陽性が他の検査方法と比べ、著しく高かったというデータも取れました。これらのことから、原発巣の診断には有効だが、転移巣の評価は慎重に行わなければならないということがわかります。

Of 14 primary insulinomas, 5, 10, and 6 were correctly identified by US, CT, and SPECT, respectively. No lymph node metastases were detected by US or SPECT. CT identified 2 of 5 lymph node metastases but also identified 28 false-positive lesions.引用文献:Comparison of Ultrasonography, Computed Tomography, and Single‐Photon Emission Computed Tomography for the Detection and Localization of Canine Insulinoma

 

PET検査
人医療の世界では超音波検査、CT検査、MRI検査の全てで陰性を示した症例の場合、PET検査を行うとより高い診断精度を得られるという報告があります。しかし、獣医療ではその結果をそのまま動物に適応できるかはまだ研究が進んでいません。

【治療方法】

インスリノーマの治療は腫瘍随伴症候群である低血糖の治療と腫瘍であるインスリノーマの治療の二つを並行して行います。

『急性期の低血糖治療』

ブドウ糖の静脈内投与
急激な低血糖が起こった場合の治療法としては静脈内にブドウ糖(dextrose)を投与します。注意点としては『ゆっくり投与する』ということです。血管内にブドウ糖を直接注入すると、体は高血糖を認識し、インスリン分泌が刺激されます。インスリン分泌の刺激によって余計に低血糖を加速させてしまう可能性があるので、しっかりとモニタリングをしながら、投与します。

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グルカゴンの静脈内投与
高インスリン血症性低血糖による危機的状況(hyperinsulinemic-hypoglycemic crisis)に陥った場合はグルカゴンのCRI(持続定量点滴)を行うと良いという報告があります。この報告では1匹の症例しかないので、信憑性はそこまで高くはありませんが、

「ブドウ糖投与でコントロールができなくなり、低血糖性の神経症状が見られた犬でグルカゴンを投与するとすぐに改善されました。」と書いています。詳しくは下記の引用文献を参照してください。

グルカゴンとはインスリンと同様に血糖値の恒常性を保つホルモンで、肝細胞に働きかけ、グリコーゲンの分解を促して血糖値を上げるのに役立ちます。

 The dog was initially stabilized with intravenous dextrose boluses and infusions, but seizure activity recurred and persisted. A glucagon constant-rate infusion (GCRI) was initiated, and neurological signs quickly resolved.引用文献:Glucagon constant-rate infusion: a novel strategy for the management of hyperinsulinemic-hypoglycemic crisis in the dog.

 

『外科的療法』

膵葉の部分切除
低血糖とインスリン濃度の上昇が認められる犬では試験的に開腹し、膵臓や転移巣を切除し、病理検査を行うという方法です。インスリノーマと確定することができるだけでなく、ステージ分類も行うことができます。

犬のインスリノーマのほとんどは手術時に、視認と触知ができます。膵臓は右葉と左葉に分かれており、どちらにもインスリノーマは発生する可能性があり、さらに肝臓や領域リンパ節へ転移している可能性があるので、疑わしい場合は生検を行います。

膵葉部分切除の副作用
膵臓を切除すると、機能的な障害が起こり得ます。
具体的な副作用
・膵炎
・持続的な低血糖
・一時的な高血糖や糖尿病
・膵外分泌不全

『内科的療法』

どんな時に行われるのか?
内科的療法が実施されるのは以下のような場合です。

・手術前に状態を安定させたい場合
・手術が実施できる状態ではないため、代替療法を行う場合
・手術と併用して治療を進めていきたい場合
このような場合に行います。

内科的療法の基本
この治療法の基本的なスタンスとしては『低血糖の管理』です。しかし、インスリノーマの諸悪の根源であるβ細胞由来腫瘍細胞を破壊するために細胞毒性の強い薬を使用せざるを得ない場合もあります。

「ストレプトゾトシンの使用」

ストレプトゾトシンは副作用が強い
インスリノーマの薬物療法として、β細胞を破壊する薬であるストレプトゾトシンが使用されることがあります。しかし、この薬は従来から『腎毒性』が強いことが分かっており、使用が避けられていました。

最近の研究では生理食塩水投与による利尿を行うことで、ストレプトゾトシンの腎毒性を著しく減少させることができるということが分かってきました。

Results suggest that streptozocin can be administered safely to dogs at a dosage of 500 mg/m2, IV, every 3 weeks when combined with a protocol for induction of diuresis and may be efficacious in the treatment of dogs with metastatic pancreatic islet cell tumors.引用文献:Glucagon constant-rate infusion: a novel strategy for the management of hyperinsulinemic-hypoglycemic crisis in the dog.

 

腎毒性以外の副作用
・投与時の嘔吐
・糖尿病
・低血糖

ストレプトゾトシンの効果とは
副作用ばかり注目されていますが、実際効果はいかほどなのかと調べてみました。すると、インスリノーマの犬に対しての効果はこの薬を使用しなかった犬と比較してみても、有意差が得られませんとのことでした。ちなみにですが、ここでの有意差とは『低血糖の是正』という点での評価です。

効果を得るためには
低血糖を是正する効果を得るためには、やはり腫瘍そのものへのアプローチが必要になってきます。インスリノーマで起こる低血糖は、腫瘍に付随して引き起こされる低血糖であるため、インスリノーマの根絶を目指さない限りは有用な治療を行うことができないようです。
ストレプトゾトシンの投与はあくまでインスリノーマの治療の補佐的な位置付けであり、それ以上の効果を得るのは難しいようです。

【低血糖の管理】

インスリノーマによる低血糖を管理していくには2つの方法でアプローチします。

低血糖へのアプローチ
・食事療法
・薬物療法
この2つをメインに行います。そのほかにも興奮や激しい運動を避けることも大切です。

『食事療法』

食事療法の基本は『高脂肪食』、『高タンパク食』、『複合炭水化物(ジャガイモなど)』少量頻回投与するという方法です。そして、単糖類(ブドウ糖など)の摂取はなるべく避けるようにしましょう。

 

『薬物療法』

「プレドニゾロン(prednisone)」

プレドニゾロンで期待される作用は
・インスリン拮抗作用
・糖新生促進作用
・グリコーゲン分解
の3つです。

投与開始時の用量
低血糖の是正のために投与するプレドニゾロンの用量は0.25mg/kgPOをBID(1日2回)で開始します。もちろんプレドニゾロンの典型的な副作用には注意しなければなりません。

「ジアゾキシド(diazoxide)」

ジアゾキシドの作用
ジアゾキシドはβ細胞から放出されるインスリンを抑制する
ベンゾチアジアジンの一種です。もう少し詳しく話すとこの薬は細胞膜にあるカリウムチャネルを開口する作用があり、β細胞にあるATP感受性カリウムチャネルの開くことで、インスリンの分泌を阻害します。

イメージとしては、
「インスリンを分泌するスイッチを"バカ"にしてしまう」といった感じです。

ただし、ジアゾキシドに細胞毒性はないため、β細胞がインスリンを産生する行為自体を阻害することはできません。あくまで、分泌を抑えるだけです。

ジアゾキシドのその他の作用
ジアゾキシドにはβ細胞からのインスリン分泌阻害以外にも、『糖新生』『グリコーゲン分解』を促進したり、『細胞内へのグルコースの取り込み』を抑制したりと、血糖値を維持するのに役立つ作用をたくさん持っています。

投与開始時の用量
ジアゾキシドの用量は5mg/kg POでBID(1日2回)が推奨されています。もしそれでも血糖値をコントロールできない場合は30/kg POでBIDへと徐々に用量を上げていきます。

ジアゾキシドの欠点
ジアゾキシドを使用した治療法では約70%の犬で治療効果があったという報告があります。副作用が現れることは稀ですが、流涎や嘔吐、食欲不振、下痢などが見られる場合があるようです。
さらにこの薬は高価であるため、長期的に使用する場合、経済的負担となります。

「オクトレオチド(octreotide)」

オクトレオチドとは
オクトレオチドとはソマトスタチン受容体のリガンドであり、膵臓β細胞におけるインスリン分泌や合成を阻害する薬です。コントロールができない症例もあるものの、50%以上の症例でインスリノーマによる低血糖を緩和できたという報告があります。

オクトレオチドの用量
10~50μg/kg SC 1日2~3回投与を行います。副作用が見られることは滅多に無いようです。

オクトレオチドの効果は?
ある研究でインスリノーマの犬12匹にオクトレオチド50μg/kgを投与した論文があります。この研究結果としては犬の血漿中インスリン濃度は使用前と比較して、有意に減少したとのことです。さらに血糖値の上昇も確認されました。

一方で、GHやACTH、コルチゾール、グルカゴンの数値に変化はなく、他のホルモンには影響が与えにくいということから、インスリノーマの犬におけるオクトレオチドの利用は有力視されています。

Baseline plasma insulin concentrations decreased significantly in dogs with insulinoma after octreotide administration, whereas plasma concentrations of glucagon, GH, ACTH, and cortisol did not change. In contrast to the effects in the healthy dogs, in the dogs with insulinoma plasma glucose concentrations increased.引用文献:Effect of octreotide on plasma concentrations of glucose, insulin, glucagon, growth hormone, and cortisol in healthy dogs and dogs with insulinoma.

猫では
インスリノーマの猫ではオクトレオチドの使用は有望視されています。症例数が少ないため、まだまだ研究が必要になりますが。ちなみに、猫の場合、ジアゾキシドとストレプトゾトシンは効かないと言われています。

【予後】

インスリノーマの予後は短期的に見ると良好ですが、長期的にはいずれ亡くなってしまう予後の悪い病気です。

手術+薬物療法の患者では
手術を受けた後、薬物療法を行なった犬では長期的に正常血糖を維持することができ、薬物療法のみの治療を行なった犬と比べ、生存期間が有意に延長したという報告があります。

『無発病期間と生存期間について』

手術後の生存期間は報告によってバラツキがありますが、だいたい12~14ヶ月(猫では1~32ヶ月)とされています。ただし、インスリノーマの生存期間は病期ステージに依存しており、病期ステージごとに無発病期間や生存期間を分けて考えられます。

病期ステージに依存する
14ヶ月以上低血糖が是正されていた期間についてです。ステージⅠでは50%以上の犬で見られたのに対し、ステージⅡとステージⅢは20%未満でした。
生存期間中央値も同様に、ステージⅢで有意に生存期間が短いということが報告されています。

術後の薬物療法は大切
『手術のみの症例』と『手術+薬物療法の症例』と『薬物療法のみの症例』の生存期間中央値を参考図書での記載を確認すると、

・手術のみ→785日
・手術+薬物療法(プレドニゾロン単剤)→1316日
・薬物療法のみ→196日

という結果になりました。
一番良いのは原発巣・転移巣の切除を行なった後に、薬物療法によって低血糖を管理していくという方法ではないでしょうか?

【最後に】

今回は『インスリノーマの診断・治療・予後』について解説しました。インスリノーマの診断には『低血糖であること』、『低血糖時でも血清インスリン濃度が高い』という2点を証明できれば、診断ができます。さらに画像や病理検査によって診断をより確固たるものにできます。
治療は『外科的切除+薬物療法』が現時点では一番成績が良い治療であると考えられています。
予後はステージによって分かれるので、きちんとステージ分類を行なって、そのステージにあった治療法を選択しましょう。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 519-521p

 

【関連記事】

『インスリノーマの概要と症状』

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『低血糖に関する記事』

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『その他の膵臓腫瘍』

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