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【インスリノーマ①】インスリンがめっちゃ出る腫瘍~概要と症状~

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 【はじめに】

今回は『インスリノーマ』についてです。この腫瘍はインスリンを分泌する『β細胞』が腫瘍化したものです。そのため、インスリンが過剰に分泌され、様々な症状を引き起こします。今回は『~概要と症状~』編としてインスリノーマがどのようなものなのか、そしてどのような症状が見られるのかについて解説していきたいと思います。

【目次】

 

【インスリノーマの概要】

まずはインスリノーマがどのようなものかを広く浅く話していこうかと思います。

インスリノーマとは
インスリノーマとは膵臓にあるβ細胞由来の腫瘍で、犬では腫瘍の中では珍しいもののそこそこ見られる方であるのに対し、猫では稀な腫瘍だとされています。

 

インスリノーマの厄介なところ
インスリノーマの厄介な点は機能性腫瘍であることが多いということです。機能性腫瘍とはホルモンを分泌する能力がある腫瘍を言います。

通常の膵臓では食後の高血糖にインスリンを分泌し、空腹時の低血糖時には分泌に制限がかかります。

しかし、機能性腫瘍であるインスリノーマでは血糖値に関係なく、インスリンを分泌し続けるので、これにより様々な臨床症状(低血糖性発作など)を引き起こしてしまうのです。

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インスリノーマを疑うべき検査所見
先ほどの話の延長になりますが、インスリノーマでは空腹時でもインスリンを制限することがありません。そのため、低血糖時に採血を行い、インスリン濃度が中~高度に上昇していた場合はインスリノーマを疑うべきです。

インスリン以外のホルモンも分泌している
インスリノーマという名前だけにインスリンばっかりが注目されてしまいますが、インスリノーマはインスリン以外のホルモンも分泌していることが分かっています。
『分泌されてる他のホルモン』
・グルカゴン
・ソマトスタチン
・膵臓ポリペプチド
・成長ホルモン
・IGF-1(インスリン様成長因子1)
・ガストリン

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悪性or良性、どっち?
犬のインスリノーマは悪性腫瘍であるとされています。病理組織学的な分類としては腺腫(良性腫瘍)と腺癌(悪性腫瘍)に分類されている様ですが、臨床的な挙動としてはどちらも悪性と考えるべきです。

犬のインスリノーマの約50%で転移が発見されており、その多くは領域リンパ節や肝臓です。インスリノーマの肺転移は稀なようです。

【犬のβ細胞腫瘍(インスリノーマ)】

『分子の大きさで見るインスリノーマ』

ソマトスタチン受容体が発現する
犬のインスリノーマにはソマトスタチン受容体の発現が報告されています。そして、このリガンドであるソマトスタチンは膵臓内にあるインスリノーマに対して、抑制性の効果を持つことが示唆されています。

転移巣には複数のホルモン分泌能がある
犬のインスリノーマではインスリンだけでなく、成長ホルモンやIGF-1など他のホルモンも産生されていることが分かっています。その分泌能は原発巣よりも転移巣の方が強いとされています。

その裏付け?と言っていいのかわかりませんが、成長ホルモンやIGF-1のmRNAの発現量が転移巣の方が原発巣よりも多いという報告があります。

これらのホルモンは自己分泌(Autocrine)や傍分泌(Paracrine)によって、腫瘍細胞に働きかけ、細胞分裂や腫瘍の成長を促します。 

In ten of 11 metastases there was a positive hybridization signal, and this signal was also significantly higher than in the primary tumours. 引用文献:Locally produced growth hormone in canine insulinomas.

さらに、成長ホルモンはソマトスタチンがもつ腫瘍への抑制効果を減弱させ、腫瘍の増殖に寄与するという報告もあります。

The locally produced GH may have an autocrine/paracrine effect on tumour progression. The relatively high expression levels in metastases of these tumours may be related to the low inhibitory influence of somatostatin outside the pancreas.引用文献:Locally produced growth hormone in canine insulinomas.

 

『犬のインスリノーマ、ステージ分類』

WHOは犬の膵臓腫瘍(インスリノーマ)のステージ分類を使用することをオススメしています。現在、設定されているステージ分類は以下のようになります。

ステージ1
腫瘍が膵臓内に限局し、リンパ節転移や遠隔転移が認められない(T1,L0,M0)

ステージ2
腫瘍がリンパ節へ転移しているが、遠隔転移は認められない(T1,L1,M0)

ステージ3
腫瘍が遠隔転移している。リンパ節転移は関係しない(T1,N1,M1 or T1,N0,M1)

ステージ分類を行う意義としては腫瘍の進行度を客観的に把握し、予後の予測や治療方針の決定を体系的に行うためです。予後の予測にはステージ分類の他に病理組織学的なグレードなどの重要になってきます。

ステージ分類以外の予後因子
ステージ分類以外に予後の参考となる因子として、
・腫瘍の大きさ
・Ki-67の発現量(←Ki-67は増殖マーカー)
が挙げられます。
これらの因子は無発病期間や生存期間の予後因子になるのではないかと期待されており、現在研究機関によってデータ集めの最中です。

『こんな犬が発症しやすい』

好発犬種
インスリノーマの好発犬種は中~大型犬が多いとされています。
具体的には、
・ラブラドール・レトリバー
・ゴールデン・レトリバー
・ジャーマン・シェパード・ドッグ
・ジャーマン・ポインター
・アイリッシュ・セッター
・ボクサー
・ミックス犬も多い
これらの中~大型犬の犬で発生が多く認められます。

好発年齢
発生年齢の中央値は9~10歳と年齢は高めです。特に大型犬で発生が多いということを考えても、高齢での発生が多いと考えられます。報告自体は3~15歳と幅広く報告されています。

性差
オス・メスで発生頻度は変わりません。

【インスリノーマで見られる症状】

『神経低血糖症とは?』

インスリノーマの症状は低血糖に伴う中枢神経機能の低下によって見られることが多いです。この症状のことを『Neuroglycopenia』というのですが、日本語にはNeuroglycopeniaに相当する訳は無いようで『低血糖による中枢神経機能の低下(神経低血糖症)』なんて呼ばれています。

低血糖によって脳を中心とする中枢神経がダメージを受け、様々な症状が認められるようになります。

Neuroglycopenia(神経低血糖症)の症状
・虚弱
・運動失調
・方向感覚の消失
・行動の変化(ボーッとしたり、凶暴になったり)
・発作
などが挙げられます。

そのほかの症状
低血糖に伴いカテコラミンの分泌が刺激される場合があります。この影響によって、筋振戦や震えなどが見られるようになります。

症状が見られるタイミング
インスリノーマの症状は低血糖が原因で起こっていることが多いので、症状が認められるタイミングとしては『血糖値が低下した場合』『インスリンが過剰に分泌された場合』に起こります。
これらの状況になり得るのが、
・お腹が空いている時
・運動している時
・興奮している時
・食事中
などです。
そのため、インスリノーマの症状は一日中見られるというよりは間欠的に、すなわち症状がでる時間帯やタイミングがバラバラということです。

『低血糖による末梢神経障害』

低血糖では脳などの中枢神経の機能が低下することがほとんどですが、中には末梢神経(手足の神経)などが障害を受ける場合もあります。ただ、犬ではそのような症状が見られることは稀なようです。基本は中枢神経の機能低下が見られます。

【最後に】

今回は『インスリノーマ』の概要と症状について解説してみました。インスリノーマは発症数は多くないものの悪性腫瘍と考えるべき腫瘍で、インスリンの過剰な分泌に伴う低血糖が問題となります。腫瘍随伴症候群としての低血糖について詳しく書いた記事があります。そちらの方もご参考ください。

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【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 519-521p

 

【関連記事】

『低血糖に関する記事』

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『その他の膵臓腫瘍』

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