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『肝酵素②:ALPとγ-GGT』~血液検査を考える~

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【はじめに】

今回は肝臓の逸脱酵素ALT、ASTに引き続き、同じように肝胆道系のマーカーである『ALPとγ-GGT』についてです。ALPとGGTは主に胆管系の障害を発見するマーカーとなっています。しかし、ステロイド薬などの投与によっても上昇が認められることがあります。これらの項目が上昇した時、どのような病気が考えられるかをお話ししていこうと思います。

 

『肝酵素①:ASTとALT』~血液検査を考える~

『肝酵素②:ALPとγ-GGT』~血液検査を考える~

【目次】

 

【ALP】

『ALPって何者?』

ALPとは
ALPはアルカリフォスファターゼと呼ばれる膜結合糖蛋白で、リン酸エステルを加水分解している酵素です。

どこに分布しているか
ALPは腎臓や胎盤、腸、骨、肝臓などと様々なところで分布が確認されています。臓器ごとにALPのアイソザイムがあることが確認されています。

『グルココルチコイド誘導性ALPについて』

G-ALPについて
免疫抑制剤などで身近なグルココルチコイドの使用はALPの上昇につながります。
犬ではグルココルチコイドを使用していると肝細胞でのALPの遺伝子が発現し、グルココルチコイド誘導性ALP(通称:G-ALP)の上昇が起こります。

G-ALPの上昇は投薬してから10日後くらいに見え始め、治療を続けていくとどんどんと上昇していきます。

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毛細胆管にある肝臓性ALP
肝臓の毛細胆管に存在する肝臓性ALP(L-ALP)もグルココルチコイドの投薬によって上昇します。こちらも投薬後10日後くらいしてからの上昇となります。

『ALPが上昇する原因は?』

ALPは上昇する原因がたくさんあります。なので、ALPの上昇はグルココルチコイドが誘導するものだけではありません。ALPの上昇は副腎皮質機能亢進症の診断に役立たないことを覚えておきましょう。上昇の原因が他の可能性があることも考えておかなければいけません。

ALPが上昇する原因
・炎症:胆管炎など
・内因性グルココルチコイド分泌の上昇:副腎皮質機能亢進症
・抗痙攣薬の使用:フェノバルビタール、フェニトイン、プリミドン
・骨疾患:骨肉腫、骨折治癒

・成長期:生後7ヶ月ぐらいまでは高い
・腎性上皮小体機能亢進症
・甲状腺機能亢進症(猫)
など

『ALPの半減期』

犬の話
L-ALPとG-ALPの半減期は70時間くらいとされています。そして胎盤性ALP、腎臓性ALP、小腸性ALPが6分未満と言われています。他の酵素に比べても早い方です。でも、猫の方がもっと早いです。

猫の話
猫のL-ALPは6時間程度。そして、小腸性ALPの半減期はなんと2分未満と言われています。あと猫ではG-ALPが発生しないと言われています。こういったことから、猫でALPが上昇している時というのはとてもタイムリーが病状を示しています。

『感度と特異度』

犬ではALPの上昇は頻繁に見られます。今回は肝酵素としてご紹介しているので、ALPの上昇が肝胆道系の病気を示唆する所見となりうるのかについて感度と特異度の観点から話いきたいと思います。

感度は高いが特異度は低い
感度とはALPが正常値だった際に、肝胆道系の疾患を除外できる率のことを示します。つまり、『感度が高い=正常値なら肝胆道系に問題はない』と言えます。

一方で、特異度は低いです。特異度とはALPが異常値だった際に、肝胆道系の疾患がある率を示します。つまり、『特異度が低い=異常値でも肝胆道系に問題があるとは言えない』ということです。これはアイソザイムの多さなども関係しています。

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一応、統計学的に正しい方の説明も
特異度と感度についてですが、上述したのは婉曲的な表現です。一応、統計学的にきちんとした説明をします。

・感度:a/(a+c) 真に罹患している個体が検査で陽性と判定される割合
・特異度:d/(b+d) 真に罹患していない個体が検査で陰性と判定される割合

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偽陰性すなわちcが0に近づくほど、感度=a/(a+c)は1に近づきます。同様に偽陽性すなわちbが0に近づくほど、特異度=d/b+dは1に近づきます。

こうした解釈を元に先ほど説明した通り、
『感度が高い=偽陰性が少ない=陰性が出た時に病気がないと言える』
『特異度が高い=偽陽性が少ない=陽性が出た時に病気があると言える』
といった婉曲的な表現ができる訳です。一つ、豆知識が増えましたね笑

γ-GGTも見てみる
ALPと同様にγ-GGTも上昇している場合、特異度(肝胆道系疾患の)は上昇します。この2つが同時に上昇しているということは肝胆道系の疾患が隠れている可能性が高まります。

【γ-GGT】

 『GGTってどんな酵素?』

γ-GGTは細胞膜にまたがるアミノ酸トランスポーター(輸送体)を制御しており、細胞膜を介したアミノ酸の移動に関与している酵素です。GGTの存在部位は細胞膜で多くの臓器のその存在が確認されています。

GGTが見られる臓器
腎臓、膵臓、胆管上皮、門脈周囲の肝細胞、腸管、脾臓、心臓、肺、骨格筋、赤血球など多くの臓器で見られます。

半減期について
犬猫共にGGTの半減期について詳しく分かっていません。

ちなみに
犬の話ですが、GGTが最も多く含まれているのは『腎臓の近位尿細管』と『膵臓』です。しかし、これらの臓器から出るGGTは血液中を循環すると言うよりはむしろ、尿や膵液となって外部へ排出されてしまうので、血液検査ではあまり話題に上がりません。

『GGTの上昇について』

GGTは胆管系肝酵素であり、基本的には胆汁うっ滞などが見られた時に上昇します。

 

「ステロイド薬使用中は上昇することもある」

GGTの上昇はグルココルチコイド (プレドニゾロンなど)による治療を行なっている犬でよく見られます。これはミクロソーム酵素(Microsomal enzyme)による誘導が原因とされています。この酵素は薬を代謝するのに必要な酵素で、GGTは正常値の10倍以上にまで上がってしまいます。
この話は犬だけの話で、そういった酵素の誘導によって上昇することは猫では確認されていません。

「ん、ちょっと高い?軽度の上昇では」

この時にまず考えるのは投薬歴です。
先ほど紹介したグルココルチコイドなどのステロイド薬を使用してないかということ、そして忘れがちなのが抗けいれん薬でも上昇するということです。
抗けいれん薬であるフェニトインやプリミドンなどの投薬歴がないかを確認しておきましょう。

「中等度の上昇で注意すべきこと」

GGTが中等度に上昇している場合は、肝臓や膵臓に腫瘍がないかを一度精査しておきましょう。GGTだけで腫瘍の存在なんてなんとも言えませんが、確認しておくのに越したことはありません。

もう1つは新生子(生後1~3日)での上昇です。GGTは初乳に多く含まれているので、生まれたばかりの犬ではGGTが上昇していることがあります。

その他には胆泥貯留や胆石などがあり、胆汁うっ滞を引き起こしている可能性があります。こういった胆管閉塞を起こしている場合は中等度~重度にGGTが上昇します。

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『感度と特異度の話』

GGTの肝疾患への感度は低く40%ほどですが、特異度はALPよりも高いと言われます。GGTが上昇しているときは胆汁うっ滞を起こす何かが起きている事が示唆されます。

猫では
炎症性疾患(胆管炎など)に関してGGTの感度は55%でALPの特異度を超えています。なので、GGTが上昇していなければ、ALPが上昇していても胆管周囲で炎症が起きている可能性は低くなります。

さらにGGTが重度に上昇しているとき、
・門脈三つ組
・胆管
・膵臓
壊死性炎症性疾患が起こっている事が示唆されます。

【最後に】

今回は『ALPとγ-GGT』について解説しました。この2つの酵素は胆管に多く存在しているので、胆管炎や胆管閉塞など胆管に関する疾患が起こっている際に上昇します。注意点としてはALPやGGTは薬物誘導性に上昇する事があるという事です。血液検査で上昇が見られたとき、現在服用中の薬がどのようなものかを確認することが大切です。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 258-263p

【関連記事】

『ASTとALTについて』

www.otahuku8.jp

『血液検査シリーズ』

www.otahuku8.jp

『副腎皮質機能亢進症』

www.otahuku8.jp

『てんかん』

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『骨肉腫』

www.otahuku8.jp

『甲状腺機能亢進症』

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