オタ福の語り部屋

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【末梢の浮腫】手足のむくみについて

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【はじめに】

今回は『末梢の浮腫』についてです。四肢がむくんでいるとと感じた時どのような病気が起こっているのでしょうか?浮腫ができるメカニズムについて解説をした後、考えられる疾患や診断方法について解説していきたいと思います。

 

【目次】

 

【浮腫の概要について】

『細胞外マトリックスについて』

末梢の浮腫は皮下組織間質内に触知できるほど明らかな液体貯留を確認することができます。液体は細胞外マトリックスと呼ばれる細胞を支持している骨組構造の中に貯留します。

細胞外マトリックスとは
細胞外マトリックスとは密な網目構造を作っており、その網目内に細胞が入り込むように存在しており、細胞を支える骨組みとしての役割があります。

細胞外マトリックスはプロテオグリカンやグリコプロテイン、ヒアルロン酸、コラーゲン、エラスチンなどによって構成されており、強靭な組織となっています。

通常の細胞外マトリックスでは
正常時、細胞外マトリックスにはごく少量しか水分が含まれていません。しかし、何らかの異常が起こると、細胞外マトリックス(間質のこと)内に液体が貯留し、浮腫が認められるようになります。

『血管内外における液体の恒常性』

血管内にある液体量と血管外にある液体の量は正常時には一定に保つように調節しています。そして、それらの恒常性を保つために必要な因子は以下のようなものがあります。

液体の恒常性を保つ6つの因子
①血管内静水圧
②血症膠質浸透圧
③血管外静水圧
④間質膠質浸透圧
⑤血管浸透性
⑥リンパ機能

スターリングの方程式
Q=K[(Pmv - Ppmv) ー (pmv - ppmv)]

Q = 血管を透過する正味流入量
K = 膜透過性
Pmv = 毛細血管の静水圧
Ppmv = 血管周囲間質の静水圧
pmv = 血漿膠質浸透圧
ppmv = 血管周囲間質の膠質浸透圧

スターリングの方程式を用いて間質へ流入する量を調べることができます。

スターリングの方程式から見えること
この方程式を正常な動物に当てはめると、皮膚周囲の毛細血管ではわずかに間質への液体の流出が起こっていることが分かります、しかし、毛細血管静脈とリンパ管によって、流出した液体が再吸収されています。そのため、間質での液体は増え過ぎず、間質液量は一定に維持されているのです。

リンパ管はポンプの役割をする
こういった水の移動は血漿蛋白(アルブミン)の濃度勾配が影響しています。毛細血管静脈では間質へのアルブミンの漏出が起こっています。アルブミンが間質へ移動すると、間質の膠質浸透圧が血漿膠質浸透圧よりも高くなるため、水が間質へ移動します。そして、その間質へ移動したアルブミンはリンパ管によって吸収され、間質膠質浸透圧はリンパ管内膠質浸透圧より低くなります。その結果、水(組織液)はリンパ管内へと吸収されていきます。リンパ管は間質にある組織液を吸収し、細胞周囲の環境の恒常性を保っています。

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血管内の静水圧・血漿タンパク濃度はともに組織間隙におけるもの よりも高いので、組織間隙へと漏出した血漿タンパクは直接血漿へと移動することは出来ない。なぜならば、たとえ膠質浸透圧差によって水は血管内へと移動することが出来ても、膠質浸透圧を生じている血漿タ ンパクの拡散の方向は外向きになっているからである。そこで、リンパ管のポンプ作用によって組織間隙の血漿タンパクを回収する必要が生ずる。引用文献:リンパ管・リンパ節動態学の最近の進歩

 

【浮腫ができるメカニズム】

浮腫ができる原因は複数あります。順番に説明していきます。

『原因①:血管内静水圧の上昇』

血管内静水圧の上昇は浮腫になる原因の1つです。血管内静水圧が上昇する原因として大きく分けて2つあり、それが『静脈の閉塞』『血漿量の増加』です。

「静脈の閉塞」

静脈の閉塞は局所的なものであると考えられています。血管周囲の組織に発生した腫瘍や外傷に続発して、静脈が圧迫されることで、静水圧が上昇し、浮腫が発生します。

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「血漿量の増加」

血漿量の増加はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化によるナトリウムの再吸収によって起こります。このような状態になる疾患は慢性腎臓病、右心系不全などがあります。


早期の段階では
早期の段階ではリンパの取り込みと間質静水圧を上昇させ、液体移動の勾配を減らすことで、浮腫の発生を防いでいます。

しかし、限界に近づくと…
リンパ管で水を組み上げるのには限界があります。血漿量を上昇させる原因となる疾患の治療を行わず、進行し続けている場合は浮腫の発生は避けられません。

どんな症状が現れるのか
原因疾患の進行によって血漿量の増加が持続すると、頸静脈や表面血管の怒張が認められます。特に表面血管は後腹部の被毛が少ないところで目立ちます。

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「末梢浮腫の原因は人間と異なる」

末梢浮腫ができる原因として人では『うっ血性心不全』が一般的ですが、動物ではあまり主とする原因とはなりません。

この違いは単に動物種ごとの体液移動の違いであったり、他には人間は垂直に立っている生き物であるの対し、動物は水平に立っているので、下腿部にかかる静水圧の負担の大きさが違うのかもしれないと言われています。

「血管内静水圧の上昇を起こす疾患」

血漿量の増加
・動静脈瘻
・慢性腎臓病
・右心不全

血管の閉塞
・前縦隔に発生した腫瘤
・後腹部に発生した腫瘤
・外傷
・手術

『原因②:血漿膠質浸透圧の低下』

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血漿膠質浸透圧低下の原因
血漿膠質浸透圧の低下は血漿蛋白の減少によって起こります。主な原因は二つあり、『漏出』と『合成の低下』です。

『漏出』というのは血漿蛋白が血液中から出て行ってしまうことを意味しており、蛋白漏出性腸症や蛋白漏出性腎症などが挙げられます。

そして、『合成の低下』というのは血漿蛋白を作ることができない状態を意味しており、肝不全や栄養失調などが例として挙げられます。

初期の場合では浮腫はできにくい
血漿膠質浸透圧が低下して起こる末梢浮腫の場合、初期の段階では浮腫は認められません。というのも、間質の膠質浸透圧も血漿蛋白であるアルブミンによって調節されているため、アルブミンが減少している状態では血漿と間質の浸透圧両方が低下しているので、顕著な浮腫というのが発生しにくいのです。

さらに、間質内に液体が流入してくると間質の静水圧が上昇するため、ますます浮腫はできにくくなります。

低蛋白血症の重症度が大事
軽度の低蛋白血症、すなわち血症膠質浸透圧の低下では浮腫は発生しにくいことがわかりました。一般的に浮腫が見られるのは血漿アルブミン濃度が2.0g/dLを下回ってからです。血漿膠質浸透圧の低下では浮腫よりも腹水の方がよく見られます。

血症膠質浸透圧低下を起こす疾患
・蛋白漏出性腸症
・糸球体疾患:蛋白漏出性腎症など
・肝疾患
・栄養失調

『原因③:血管透過性の上昇』

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血管透過性を上げる原因
血管透過性が上昇することによって起こる浮腫は炎症が関与していることがほとんどです。蕁麻疹や血管浮腫などの過敏症によるものや敗血症によるものなどが挙げられます。

複数の因子が関与する
血管透過性には炎症性サイトカインや血管拡張性プロスタグランジン、一酸化窒素、ブラジキニン、ヒスタミンなど多くの物質が関与しています。他にも血管内皮細胞など細胞が傷害を受けた場合でも透過性は亢進します。

透過性を測定することはできない
血管透過性を臨床現場で測定することはできません。その代わりにと言っては何ですが、血液検査の結果や高グロブリン血症、低アルブミン血症、体温や身体検査などから炎症を疑うような所見を見つけておかなければいけません。

血管透過性の上昇を起こす疾患
・アレルギー性反応:血管浮腫など
・腫瘍続発性の炎症
・敗血症
・毒物注入
・火傷
・外傷
・粘液水腫

『原因④:リンパ機能異常』

リンパ液には大量のタンパク質が含まれています。リンパ液の存在は間質内での膠質勾配を増加させており、浮腫の形成に増大させます。リンパ浮腫には原発性と後天性があります。

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「原発性リンパ浮腫」

原発性リンパ浮腫の発生は稀
犬や猫では先天性(原発性)のリンパ浮腫が認められることは稀です。一般的には生まれてすぐや数週間で浮腫が認められます。

リンパ浮腫が見られる場所
浮腫が最もよく見られる場所は後肢で、重症度(むくみ具合)は左右によって異なるのが特徴の一つです。しかし、顔や体幹部で浮腫が認められるケースも中にはあります。

原因
原発性リンパ浮腫の原因は生まれつき、四肢のリンパ節が小さかったり、そもそもリンパ節が無いことが原因となります。

診断
診断は臨床症状と年齢のよって診断しますが、確定診断を行うにはリンパ管造影と生検が必要になります。

「続発性リンパ浮腫」

リンパ管が塞がったり、破壊されてしまうことが原因で起こります。そのような状態を引き起こす疾患や状況としては以下のようなものが挙げられます。

続発性リンパ浮腫を起こす疾患
・腫瘍
・感染症
・フィラリア症
・手術
・外傷

『原因⑤:粘液水腫』

粘液水腫は重度の甲状腺機能低下症の症状の一つとして現れます。

原因としては2つあり、一つ目が『毛細血管での蛋白の漏出』で、二つ目が『リンパ管での蛋白汲み上げ能の低下』です。これら2つが原因で浮腫が認められます。

甲状腺機能低下症の特徴的な症状として、低体温や活力低下、呼吸数の減少、徐脈などがあります。

 

【末梢浮腫の診断方法】

『まずは身体検査と触診』

 "浮腫がどこで見られるのか""触診での感触はどうであるか"を評価することは浮腫の原因を検索するのにとても重要なステップです。

「浮腫がどこで見られるか」

びまん性の末梢浮腫を認める場合
びまん性(満遍なく)の末梢浮腫が認められる場合は敗血症や血管浮腫などのように全身性の炎症が起こっている場合ネフローゼ症候群のように低タンパク血症が起こっている場合で認められます。

局所的に末梢浮腫を認める場合
局所的に末梢浮腫を認める場合は血管やリンパ管の異常による場合や、毒物注入による場合が考えられます。

「触診での感触(圧痕)はどうであるか」

圧痕浮腫(Pitting edma)
圧痕浮腫とは指でグッと押した後にしばらくの間凹んだ状態が持続することで同定できます。非圧痕浮腫が細胞内液の腫脹であるのに対して、圧痕浮腫は間質液の移動や液体の移動を妨げるフィブリノーゲンの間質液内貯留などが原因で起こります。

圧痕浮腫を起こす一般的な疾患としては
・炎症による血管透過性の亢進
・腫瘍や外傷による血管の閉塞
・閉塞や低形成によるリンパ管の異常

などが考えられます。

非圧痕浮腫(Non-pitting edema)
非圧痕浮腫とは指で病変部を押した際に凹みが持続しない浮腫のことを言います。非圧痕浮腫は細胞内液の腫脹が主な原因です。

非圧痕浮腫を起こす一般的な疾患として
・血管浮腫
・術後や外傷による脹れ
・慢性リンパ浮腫
・リンパ管肉腫
・粘液水腫

などが考えられます。

血管浮腫は真皮以下の皮膚深層で起こるため、非圧痕浮腫が認められます。他にも慢性リンパ浮腫では圧痕浮腫から非圧痕浮腫へと徐々に移行していきます。その原因としては病変部でのコラーゲンの消失と線維化の進行が挙げられます。

『血液検査、尿検査、画像検査』

全身性の末梢浮腫を認める場合、炎症や低タンパク血症が起こっている可能性があるので、血液検査や尿検査によって異変が認められる場合があります。

一方で局所性の末梢浮腫を認める場合はレントゲン検査や超音波検査によって、腫瘤(シコリ)などを確認できる可能性があります。

『特殊画像検査(CTやMRIなど)』

リンパ管やリンパ節を観察するにはCT検査やMRI、シンチグラフィーなどの特殊検査が必要になります。しかし、この検査は利用できる施設に限りがあるので、気軽に撮影とは行かないです。

【治療法】

『治療をどう進めるかと注意点』

可能なら原因疾患の治療を行う
末梢浮腫を引き起こしている原因疾患が分かっている場合は原因疾患を改善するような治療を行います。

例)
・血漿の輸液←血漿蛋白の補充を目的とする
・腫瘍の切除←リンパ管狭窄部の解除を目的とする
・レボチロキシンの投与←粘液水腫の改善を目的とする

 

原因疾患が不明なら緩和療法を行う
明白な原因疾患が分からない場合は症状の緩和治療が行われます。
 

利尿剤の使用は禁忌
静水圧上昇が原因で起こる浮腫を除いて、浮腫の改善を目的とした利尿剤の投与は禁忌であるとされています。

というのも利尿剤は初期治療において、四肢のリンパ浮腫改善に役立ちますが、最終的には間質内の蛋白濃度を上げ、間質内への液体の流入を促すことで、さらに浮腫を助長させてしまうのです。
 

『治療効果の評価方法』

治療効果を客観的に評価するために治療を行う前と後で病変部の円周を測定します。

【最後に】

今回は『末梢の浮腫』について解説しました。手足に発生する浮腫は発生する原因を探索することから始まります。血液検査や画像診断によって血漿タンパク質は正常なのか、リンパ管が詰まる原因はないかなどを検討します。そして明確な原因がわかる場合は原因疾患に対する治療を、原因が不明な場合は緩和療法を行います。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 81-85p

 

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『低蛋白血症』

www.otahuku8.jp

 

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