【はじめに】
今回は『横隔膜ヘルニア』についてです。横隔膜ヘルニアとは、胸腔と腹腔を隔てている横隔膜に穴が開き、横隔膜からお腹の臓器が胸腔側へ入り込んでしまう病気です。どのような病気なのか、簡単にご紹介します。
【目次】
【横隔膜ヘルニアについて】
『横隔膜ヘルニアとは』
横隔膜ヘルニアは横隔膜が裂開(破れて)してしまい、腹腔内にある臓器が胸腔内へ入り込んでしまう状態を言います。犬と猫の両方で発生が確認されますが、猫の方が多いというデータがあります。
『なぜ起こるのか』
横隔膜ヘルニアは先天性と後天性に大別されます。
先天性横隔膜ヘルニア
先天性は横隔膜が癒合しないことで起こります。『先天性横隔膜ヘルニア』、『腹膜心膜横隔膜ヘルニア』、『裂孔ヘルニア』などいくつかの種類があります。
後天性横隔膜ヘルニア
後天性は交通事故や高所から飛び降りた際に、内臓の圧力が横隔膜にかかってしまい、横隔膜が裂開してしまうことで起こります。特に猫では高所から飛び降りた時に起こります。
『見られる症状』
症状は様々
横隔膜ヘルニアで見られる症状は重症度によって様々ですが、一般的に見られる症状として、『嘔吐』と『呼吸困難』があります。これらは臓器の食い込みや肺の圧迫が原因で起こります。
『診断方法』
決め手は画像診断
横隔膜ヘルニアの診断をするには画像上で胸腔内に腹腔内臓器が進入している様子を見つければ勝ちです。
レントゲン検査
単純レントゲン撮影によって胸腔内の消化管ガス陰影を確認したり、バリウムによる消化管造影を行い、消化器の胸腔への進入(嵌頓)を確認します。
超音波検査
胸腔内は通常空気を多く含有しているため、超音波ではほとんど検査できません。しかし、肝臓や腸管などの実質臓器が嵌頓すると、胸腔内で確認することができます。
『治療法』
手術の基本的な流れ
横隔膜ヘルニアの手術の基本的な流れは
開腹
↓
裂孔部から臓器を腹腔内へ引き戻す
↓
裂孔部を修復
↓
閉腹
という感じです。
とはいえ、細かな注意点があるので後述していきます。
先天性の場合
先天性横隔膜ヘルニアの場合、裂孔部自体が生まれつき欠損していることが多く、修復をするのに限界があります。
というのも、生まれつき腹腔内にあるべき臓器が胸腔内に嵌頓していたということは、腹腔内の大きさが十分に育っていないと考えておくべきです。小さな腹腔内に今まで飛び出ていた肝臓や腸を引き戻すと、容量オーバーになり、腹腔内臓器が圧迫され、循環障害が生じる場合があります。
こうした状況を回避するためにも、横隔膜欠損部が大きいときは自己の心膜やテフロン布を用いて『補修』してあげます。
後天性の場合
後天性の場合は麻酔をかける前に『状態の安定化』に努めます。この過程の欠落は死亡率を上げることに繋がります。
肺水腫の発生に注意する
横隔膜ヘルニアの際、肺は臓器の圧迫によって虚脱(萎んでいる)している場合があります。そこに陽圧換気を行い、肺を一気に膨らませると、再膨張性の肺水腫が発生してしまいます。徐々に圧をかけていくように注意します。
【最後に】
今回は『横隔膜ヘルニア』について紹介しました。この病気は先天性と後天性があり、それぞれで治療における注意すべきポイントが異なります。そして、高所からの飛び降りは横隔膜ヘルニアのリスク因子であることを知っておきましょう。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 93,152-153p