オタ福の語り部屋

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【副腎髄質腫瘍】犬猫のクロム親和性細胞腫(褐色細胞腫)

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【はじめに】

今回は『クロム親和性細胞腫』について解説します。題名にもある通り、クロム親和性細胞腫は副腎髄質の腫瘍です。副腎は二層の領域に分かれており、表層が皮質と呼ばれる領域、深層が髄質と呼ばれる領域になっています。
副腎腫瘍で有名なクッシング症候群は副腎皮質の腫瘍です。今回お話しする腫瘍は副腎の深層の方、つまり髄質で発生する腫瘍です。

【目次】

【クロム親和性細胞腫とは】

『由来細胞について』

クロム親和性細胞腫の由来細胞はクロム親和性細胞です。そのままですが。クロム親和性細胞は神経内分泌細胞の一つで、副腎髄質にそのほとんどが存在しています。

クロム親和性細胞は交感神経の支配を受けており、交感神経の刺激によってカテコラミン(アドレナリンやノルアドレナリン)を産生・分泌します。

副腎の構造:皮質と髄質(図解)

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『挙動:この腫瘍の何が悪いのか』

過剰に産生されるホルモン
クロム親和性細胞が腫瘍化するとクロム親和性細胞腫になり、カテコラミンを過剰に分泌します。カテコラミンはアドレナリンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質の元となるホルモンです。
この過剰に分泌されるカテコラミンのせいで様々な病変がみられるようになります。

腫瘍細胞がカテコラミンを分泌する(図解)

腫瘍細胞がカテコラミンを分泌する(図解)

異所性に発生することも
獣医学領域では非常に稀なため、話題になることはほとんどありませんが、副腎髄質以外の場所で異所性にクロム親和性細胞腫が発生したという報告もあります。

こういった異所性に発生するクロム親和性細胞腫をparagangliomas(和名:傍神経節腫)』『extraadrenal pheochromocytomas(和名:副腎外クロム親和性細胞腫)』なんて呼ばれています。

 

『クロム親和性細胞腫の統計』

好発年齢と性差
・好発年齢:中~高年齢
・性差:雄が多い?←性差無しという報告もある
好発品種などは無いようです。

Median age of the 48 dogs at the time of surgery was 11 years (range, 7–16 years), 67% were male or male castrated, and 29 different breeds were represented.
(中略)
Males were overrepresented in our study, which has not been reported previously. 引用文献:Predictive Factors and the Effect of Phenoxybenzamine on Outcome in Dogs Undergoing Adrenalectomy for Pheochromocytoma

 

腫瘍の発生頻度
クロム親和性細胞腫の発生頻度は低く、犬では一般的にみられるような腫瘍でもないですし、猫ではほとんど発生がありません。非常に珍しい腫瘍です。

Phaeochromocytomas are catecholamine-secreting tumours of the adrenal glands and are rare in cats. 引用文献:Plasma free metanephrines in healthy cats, cats with non-adrenal disease and a cat with suspected phaeochromocytoma

 

転移性と局所浸潤性について
クロム親和性細胞腫は転移することが多く、一般的には悪性腫瘍と考えられています。転移率は13~24%あります。
転移の報告があるのは、肝臓、脾臓、肺、領域リンパ節、中枢神経などがあります。

局所浸潤性も強く、下記の2つの引用文献では39~52%の症例で局所浸潤が認められたと記載されています。

Local tumor invasion was present in 26 of 50 dogs (52%), regional lymph node metastases in 6 of 50 dogs (12%), and distant metastases in 12 of 50 dogs (24%).  引用文献:Pheochromocytoma in 50 dogs.
Pheochromocytomas were locally invasive in 39% of affected dogs and produced metastases in 13% of the cases. Common sites for metastases included regional lymph nodes, liver, lung, kidney, spleen, and bone. 引用文献:Pheochromocytoma in Dogs: 61 Cases (1984–1995)

 

【症状】

『検査時に症状が出ないこともある』

クロム親和性細胞腫によってみられる症状のほとんどはカテコラミンの過剰分泌によるものです。クロム親和性細胞腫の臨床症状は間欠性(出たり出なかったりする)に起こることもあるので、身体検査を行った時に病気を見つけられない可能性もあることを覚えておく必要があります。

『よく見られる症状』

クロム親和性細胞腫の症状
・虚弱
・パンティング(呼吸が早い)
・落ち着きがない
・運動不耐症(走ったり飛びたがらない)
・食欲の低下
・体重現象
・多飲多尿

【診断方法】

『身体検査でわかること』

聴診や血圧測定など、簡単な身体検査でわかることは
・呼吸促迫
・頻脈
・虚脱
・不整脈
・低血圧

『血液検査と尿検査』

クロム親和性細胞腫の場合、一般的な血液検査や尿検査で異常が見られることは少ないようです。

『画像診断』

「超音波検査」

超音波検査は副腎腫瘍の診断によく使用されます。副腎が腫大していることだけでなく、腫瘍栓の形成がないかや、遠隔転移が起こっていないか他の臓器を調べることもできるので、非常に有用性が高い検査方法です。

「CTとMRI」

人医療ではよく使われているみたいです。犬でも使用されていると思いますが、あまりそういった報告を見つけられませんでした。

「レントゲン検査」

副腎に限って言えば、超音波検査に情報量としては劣っているので、あまり有用性はありません。
しかし、この腫瘍では高血圧や頻脈、不整脈などが見られるため、心血管系の評価を行うことができます。他には肺転移の確認です。超音波検査では肺を見ることはできないので、無麻酔で肺転移を調べることができるという目的で使う検査方法です。

『免疫組織化学的検査』

免疫組織化学的検査は摘出手術を行った後や検死解剖の時に行われることが多いです。副腎腫瘍の鑑別で一番キーとなるのは『副腎皮質由来』なのか『副腎髄質由来』なのかということです。
これら二つの鑑別を行うためにできる免疫組織化学染色は『chromogranin A』の免疫染色です。腫瘍細胞でchromogranin Aが陽性を示すと、副腎"髄質"由来の腫瘍とし、陰性を示すと副腎"皮質"由来の腫瘍とします。

『尿中ノルメタネフリン/クレアチニン比の測定』

 犬のクロム親和性細胞腫の診断で使われる方法として、尿中ノルメタネフリン/クレアチニン比があります。

ある実験で14匹の副腎皮質機能亢進症の犬と7匹のクロム親和性細胞腫と10匹の健康な犬で尿中のノルメタネフリン/クレアチニン比を計算した研究があります。その結果、クロム親和性細胞腫の犬ではコントロール群よりも4倍近くの上昇が認められたそうです。この尿中ノルメタネフリン/クレアチニン比はクロム親和性細胞腫の診断に有効だと考えられています。 

Urinary epinephrine, norepinephrine, and metanephrine to creatinine ratios did not differ between dogs with HAC and dogs with PHEO, whereas the urinary normetanephrine to creatinine ratio was significantly higher (P= .011) in dogs with PHEO (414, 157.0-925.0, median, range versus (117.5, 53.0-323.0). 引用文献:Urinary catecholamine and metanephrine to creatinine ratios in dogs with hyperadrenocorticism or pheochromocytoma, and in healthy dogs.

 

『血漿遊離メタネフリン』

血漿遊離メタネフリンの測定はクロム親和性細胞腫の診断の手助けになると考えられています。犬や猫でもコントロール群と比較して数値の上昇が確認されています。

In this study plasma free normetanephrine and metanephrine levels were measured using high-pressure liquid chromatography in healthy cats, sick cats with non-adrenal disease and in a cat with a suspected phaeochromocytoma. Plasma normetanephrine was significantly higher in sick cats with non-adrenal disease compared to healthy cats (P<0.05) and markedly higher in the cat with a suspected phaeochromocytoma when compared to either group. 引用文献:Plasma free metanephrines in healthy cats, cats with non-adrenal disease and a cat with suspected phaeochromocytoma.

 

【治療法について】

『副腎摘出手術』

クロム親和性細胞腫の最もよく検討されるのが、副腎摘出手術です。ただし、この手術は周術期の管理が難しいため、熟練の外科チームによって行われることが推奨されています。

周術期のリスク
・高血圧
・低血圧
・不整脈
・出血

この腫瘍ではカテコラミンを過剰に分泌する腫瘍であるため、こういった血圧関連のリスクが懸念されています。

フェノキシベンザミンの術前使用で生存率up??
副腎摘出手術を行う前に約20日間、フェノキシベンザミンを0.1~2.5mg/kg BIDすることで、術後の死亡率を著しく下げることができるという報告があります。
フェノキシベンザミンとはα-アドレナリン受容体に対し、アドレナリンを非競合的に遮断する薬です。犬ではこの薬を使用しなかった場合の術後死亡率が48%であったのに対し、使用群は13%と有意に減少していました。

Thirty-three (69%) of 48 dogs survived adrenalectomy in the perioperative period. PBZ-treated dogs had a significantly (P = .014) decreased mortality rate compared with untreated dogs (13 versus 48%, respectively). 引用文献:Predictive factors and the effect of phenoxybenzamine on outcome in dogs undergoing adrenalectomy for pheochromocytoma.

 

【予後】

褐色細胞腫ことクロム親和性細胞腫の予後は『腫瘍の大きさ』、『転移の有無』、『局所浸潤性の強さ』に依存していますが、ある論文の報告では術後の生存期間中央値は374日というでデータが取れています。他にも2~3年生きるという報告もありますし、転移がなければ予後は良好だという論文もあります。

やはり、腫瘍の大きさと転移の有無、局所浸潤性の強さの3つによって生存期間は大きく変わるようです。

【最後に】

今回は副腎髄質腫瘍として『クロム親和性細胞腫(褐色細胞腫)』について解説しました。この腫瘍の発生は犬の副腎皮質腫瘍と比べると稀で話題となることは稀なようです。そのため、ネットでも記事が少ないと思いますので、この記事が少しでも読まれればいいなと思います。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 512-513p

 

【関連記事】

『副腎皮質腫瘍について』

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『ACTH産生性下垂体腫瘍について』

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『クッシング症候群について』

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『多飲多尿で考えるべき疾患』

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