オタ福の語り部屋

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【体重増加・お腹の膨らみ】体重が増えた時、考えられる疾患

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【はじめに】

今回は『体重増加で考えられる疾患』についてです。最近食べ過ぎなのか、お腹が膨らんで、体重も増えてきた気がする。それ本当にただの肥満でしょうか?お腹の膨らみは肥満以外にもみられる病気があります。
今回は体重増加で考えられる疾患について解説していきたいと思います。

【目次】

 

 【犬猫の肥満事情】

はじめに
犬や猫で体重が増えていると悩みを抱えている飼い主さんはたくさんいらしゃいます。ちなみにですが、一般的に飼い犬や飼い猫はその子の理想体重を10%ほどオーバーしていると言われています。

太った時に考えるべきこと
肥満と定義されるのはその子の理想体重を20%以上オーバーした時です。体重が増えてきた時に大事なのは、『体重増加の原因は何か?』と考えることです。

肥満の原因で一番多いのは
肥満の原因で最も多いのが『食べ過ぎ』と『運動不足』です。逆の言い方をすると『食べ過ぎ』と『運動不足』が肥満に近く一番大きな要因であるということです。

上記以外の原因による肥満が心配
食べ過ぎや運動不足による肥満でない可能性ももちろんあります。医学的な言い方をすると『単なる脂肪組織の過剰な蓄積でない場合の肥満・体重増加』です。
そういった状況とは例えば『代謝の異常』『ホルモンの異常』などです。これらの異常は寿命の短縮やQOLの低下に繋がるため、無視できません。

本当に体重増加なのかを調べる
太ってきたと思い込んでいるだけの可能性があります。例えば、腹水が溜まっているとか、腹腔内臓器が腫れている、腫瘍の可能性もなくないです。
だから、お腹が丸く飛び出し、太っているように見えている。その可能性も考えなければいけません。

【普段の様子はどうですか?】

『生活習慣を見直してみる』

体重増加の原因を考える時、食生活やライフサイクルを見直してみると、その原因が見つかるかもしれません。

まずは一日のカロリー計算をする
肥満の原因で一番考えられるのは『食べ過ぎ』『運動不足』というお話をしました。最近、太ってきたなと思う場合は1日に与えているご飯のカロリーを計算してみましょう。特に、ご家族のみんながバラバラにご飯を与えていて、自分はそんなにあげていないのに、総量としてはカロリーオーバーだったということもありえます。

1日あたりに必要なカロリー計算(図解)

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運動不足ではありませんか?
運動不足には単なる高齢によるものだけでなく、『整形外科的な病気』が隠れている可能性もあります。神経や筋肉に何かしらの異常があり、痛くて動けないという場合を考えておきましょう。
こういった病気によってうまく動けないという場合は1日の必要カロリーは自ずと下がるので、それに合わせてご飯の量も抑えてあげましょう。

『急に食欲が増えた』

急に食欲が増えたことで、肥満になった場合は何らかの病気が隠れているかもしれません。

急に食欲が増えた原因
・薬を服用している
・内分泌疾患
・異常行動(精神的なもの)
などが考えられます。

薬を服用している
食欲増進が認められる代表的な薬として、コルチコステロイド薬(プレドニゾロンなど)やフェノバルビタールなどが挙げられます。これらの薬は食欲を増進させるだけでなく、腹腔内臓器を腫れさせたり、脂肪を蓄積したりするので、余計にお腹が膨らんで見えます。

特に、コルチコステロイド薬は医原性の副腎皮質機能亢進症を引き起こす可能性があり、使用している場合はその副作用によって、体重増加や腹部膨満が見られます。

内分泌疾患がある
食欲を増加させる内分泌疾患はたくさんあります。

・副腎皮質機能亢進症
・先端肥大症
・インスリノーマ
・視床下部の病気
・糖尿病
などなど、挙げればもっとあると思います。
中でもよく見られるのが、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)です。副腎皮質機能亢進症の犬では腹部が膨らみ、食べる量も増加します。これら全ては血中コルチゾールが増加した結果と考えられます。

【副腎皮質機能亢進症について】

 

異常行動による多食
精神的な病気?として異常行動による多食があります。病気という表現で合っているかわかりませんが、やることがなく、退屈な日々を送っている動物では食事によって時間を潰す多食が見られることがあります。散歩やドッグランに定期的に連れて行ってあげることで改善されることが多いです。単純に運動不足の解消にもなります。

『食欲は増えてないのに太った』

食欲が増えていないのに太った場合、おそらく『代謝の低下』が原因にあります。代謝が低下する原因は主に内分泌の異常であり、一番多いのが『甲状腺機能低下症』と呼ばれる内分泌疾患です。

甲状腺機能低下症のその他の症状
・多飲多尿
・虚脱
・運動不耐症
・パンティング
・寒がる
などが挙げられます。
基本的に代謝が低下する病気なので、元気がなくなったり、疲れやすくなります。こういった体重増加以外の症状も細かく観察することで、早期発見に繋がります。

甲状腺機能低下症以外の原因
・下垂体機能低下症
・性腺機能低下症
・高脂血症
などがあります。性腺機能低下症とはちょっと話がズレますが、去勢手術を行なった犬では基礎代謝が落ち、去勢前の食事量では肥満に繋がると言われています。

【身体検査】

『原因を探る』

体重増加の原因は色々ある
身体検査は必ず行わなければいけません。神経や筋肉または骨に障害があって運動不足になり、体重が増加する場合も考えられます。一方で、インスリノーマや先端肥大症など同化作用の異常による内分泌疾患が原因で体重増加が起こっている場合もあります。

BCSをきっちり測定しておく
同じ体重減少であったも原因が全く異なるため、治療方針も変わります。原因の精査無くして、体重増加が改善されることはありません。 
そのためにも、『ボディコンディションシステム(通称:BCS)』を測定することが勧められています。

犬のBCS早見表

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出典:プレミアムペットフードのROYAL CANIN<ロイヤルカナン>

 

猫のBCS早見表

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出典:プレミアムペットフードのROYAL CANIN<ロイヤルカナン>

 

『行うべき身体検査』

身体検査では体重が増えた原因を探る手がかりがたくさん散りばめられています。これらのヒントを集めて、体重増加の原因を突き止めて行きます。

必ず行っておきたい検査
・体温測定
・CRTの測定
・心拍数の測定
・呼吸数の測定
・心臓の聴診
・肺の聴診
・皮膚・被毛の評価
・腹部の触診
・不妊手術を終えているか

血液検査や画像検査に行く前に、これらを全て確認しておく必要があります。

『体腔内貯留液から分かること』

お腹が膨らんできたと感じている場合、それが脂肪や腫瘤による膨らみではなく、腹水など体腔内貯留液によってお腹が膨らんでいることがあります。

腹水や胸水が貯留している場合に考えなければならないのが、
・心疾患
・炎症性疾患
・低蛋白血症
です。

心疾患
右心系がうまく機能していない場合、後大静脈のうっ滞が起こり、胸水や腹水が貯留するケースがあります。この場合、貯留液の種類としては『変性漏出液』に分類されがちです。(下記の表を参照)

血管の圧が上昇し、血液成分が体腔内に漏れ出す場合は正常な血液成分が多少含まれるため、白血球などが含まれています。

炎症性疾患
炎症が起こると、毛細血管の透過性が更新し、蛋白を伴う液体が滲出します。この液体は『滲出液』と呼ばれ、好中球を主体とする炎症性細胞が多く含まれます。細菌感染によって起こった腹水・胸水では細菌も確認できます。腹膜炎や胸膜炎が起こっている場合に見られる貯留液です。

低蛋白血症
正確には低アルブミン血症です。アルブミンは血漿蛋白で、血液中の水分を保持するのに非常に重要な役割を持っています。血液検査でアルブミンが1.5g/dL以下になっていれば、腹水や胸水が漏出している場合があります。この貯留液は血管から水分が漏れ出すので『漏出液』と呼ばれており、細胞数は少ないです。
蛋白漏出性腸症や蛋白漏出性腎症などで低アルブミン血症が起こります。

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『皮膚や被毛から分かること』

皮膚や被毛からも肥満の手がかりが隠されています。

チェックするべきこと
・被毛は薄くなっていないか
・フケが多いか(脂漏症になっていないか)
・粘液水腫がないか→甲状腺機能低下症を示唆
・皮膚が薄くなっていないか
・色素沈着はないか
・面皰(ニキビ)はないか

などをチェックしましょう。
これらの症状が認められる場合、副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症など内分泌疾患が隠れている可能性があります。

『腹部触診で分かること』

腹部の触診で大事なことは臓器が腫れていないかをチェックすることです。腹部の触診は犬ではあんまり詳しく触ることができませんが、猫では割りかしはっきり触知できます。
腹腔内臓器の腫れが確認できた場合に考えるべきこと
・腫瘍
・猫なら先端肥大症
・犬なら副腎皮質機能亢進症

猫の先端肥大症
猫の先端肥大症については別の記事で詳しく解説しています。猫で糖尿病を患っている場合はこの先端肥大症の可能性も頭に入れておくべきです。

先端肥大症はインスリン抵抗性の糖尿病を引き起こすので、血液中のインスリン濃度は上昇しています。インスリン濃度の検査を行うのも良いかもしれません。

犬の副腎皮質機能亢進症
犬の副腎皮質機能亢進症ではコルチゾールの影響で特に『肝臓の腫大』が認められるケースが多いです。犬の腹部の触診は難しいので、レントゲン検査や超音波検査を行って確認するのも良いでしょう。副腎皮質機能亢進症は腹筋力の低下や肝臓の腫大によってお腹が膨らんで見えてくることがあります。
そのほかにも『多飲多尿』や『両側性脱毛』などが見られるのも特徴的な症状です。

詳しくはこちら→副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)

 

『不妊手術の前後で変わること』

不妊手術を行う前と後では基礎代謝が変わることがわかっています。猫ではDER(1日あたりに必要なエネルギー)が24~33%低下するという報告があります。
犬でも同様に基礎代謝の低下から、1日に必要とされるエネルギー量が減少すると言われています。食べ物を摂取する量を減らしてあげることで、肥満が改善できます。

【診断のアプローチ】

体重増加の診断アプローチはフローチャートのようになっており、病気の除外と原因の精査を繰り返していきます。

『STEP1:体重増加が見られたら…』

まずは腹水や胸水などの体腔内貯留液と腹腔内腫瘤の存在を除外していきます。
腹水・胸水が見られた場合はそれらが見られる原因の精査を行います。

『STEP2:食べ過ぎてはいないか』

カロリー計算を行い、1日に必要とするカロリーを超過していないかを確認しましょう。ご家族みんながご飯を与えている場合は、きちんと与えた量と頻度を共有しておいたほうが良いでしょう。

1日あたりに必要なカロリー計算(図解)

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『STEP3:食欲があるかを確認する』

体重増加の時に『食欲が増加する場合』と『そうでない場合』があります。この2つで原因となる病気を大方振り分けることができるので、大切な情報となります。

食欲が増加する場合に考えられる疾患
・副腎皮質機能亢進症
・先端肥大症
・インスリノーマ
・視床下部疾患

食欲が変わらない場合に考えられる疾患
・甲状腺機能低下症
・下垂体機能低下症
・性腺機能不全(避妊手術による基礎代謝の低下)
・高脂血症

『STEP4:追加検査で原因を精査する』

STEP3までのきちんと除外診断を行なっていくと、体重が増加している時、内分泌疾患の可能性が多いです。体重増加の下に隠れている内分泌疾患を発見するには画像診断や内分泌検査が必要になります。よく行われる内分泌検査は以下のようなものがあります。

具体的な内分泌検査
・甲状腺ホルモン検査
・インスリン値の測定
・IGF-1値の測定
・ACTH刺激試験
・低用量デキサメタゾン抑制試験
などがあります。

診断のフローチャート

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【最後に】

今回は『体重増加とお腹の膨らみで考えられる疾患』について解説しました。肥満には単なる食べ過ぎ・運動不足による肥満だけでなく、不妊手術による基礎代謝の低下や内分泌疾患による同化作用の亢進、筋力の低下によるお腹の弛み、腹水や胸水など体腔内貯留液の存在などなど様々な原因が考えられます。
体重の増加やお腹の弛みが見られた場合は単なる食べ過ぎと高をくくらず、原因疾患が隠れていないかを正確に診断していくことが大切になります。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 76-77p

石田卓夫 著 : 伴侶動物の臨床病理学 第2版, 緑書房, 2014, 250-252p

 

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