【はじめに】
今回は『先天性門脈体循環シャント』の治療法についてです。ついにPSS完結編です。PSSの治療法は肝性脳症を抑えるための内科的アプローチとシャント血管を閉じるための外科的アプローチの2つがあります。
【先天性門脈体循環シャント①~概要・病因~】
【先天性門脈体循環シャント②~症状・診断方法~】
【先天性門脈体循環シャント③~治療法~】
【目次】
【内科療法について】
『内科療法の目的』
PSSにおける内科療法の目的は
・肝性脳症
・肝機能低下に伴う栄養状態の改善
これら2つを押さえ込むような治療法を行なっていきます。
『低蛋白食』
肝性脳症は高アンモニア血症によって発生するので、アンモニアの上昇を抑えるような治療が必要になります。
その治療法として『低蛋白食』があります。フード内に含まれるタンパク質は体内に吸収される時、アンモニアを産生します。PSSでは血中アンモニア濃度を減らしたいので、低蛋白食は最適です。
しかし注意点もある
低蛋白食の注意点としてそう、肝機能低下によってアルブミンの低下も起きています。アルブミンは血漿蛋白の一つで、もちろんタンパク質です。アンモニアの上昇を恐るあまり、過度な低蛋白食を与えると低Alb血症を助長させることになるので、気をつけましょう。
『ラクツロースの投与』
ラクツロースとは非消化性の糖で便秘の治療薬として使用されます。
この糖の良い点は
・腸内pHを下げること
・ウレアーゼ産生菌の増殖を抑制する
・細菌の窒素取り込みを抑制する
という点です。
【外科的治療について】
『手術前に行うこと』
状態の安定化
手術前には状態を安定化させておく必要とがあります。
・肝性脳症のコントロール
・食事管理
・輸血←アルブミンの是正
これらの内科療法を中心に進めていきま
現状の把握
手術前に現状を知っておかないと、いざ開腹してみて違ったという最悪のパターンに陥る可能性があります。最低限確認すべきは以下の2つです。
・門脈圧のモニタリング
・PSSの走行
これら二つは最低限確認しておかなければいけません。
手術ではシャント血管を結紮するのですが、結紮した際に動脈圧が急激に低下したり、門脈高血圧が起こる可能性もあります。
『シャント血管の結紮』
結紮方法
シャント血管の結紮方法は
・完全結紮
・部分結紮
・セロファン・バンディング
・アメロイド・コンストリクター
など、複数の方法があり、状況に応じてそれぞれ使い分けます。
門脈圧によって術式が変わる
門脈圧が高い時にシャント血管を完全に結紮してしまうと、門脈の血圧は急激に上昇し、術後の腹部疼痛、腹水を招きます。命を落とすケースもあります。門脈圧の程度によって術式は変わります。
門脈圧が<15mmHgの場合
門脈圧が<15mmHg程度の場合は仮完全結紮を行うことができるます。
門脈圧が<25mmHgの場合
セロファン・バンディングやアメロイド・コンストリクターを用います。これらの器具はリングのようにシャント血管を挟み込み、そこに人為的に炎症を起こさせることで、7~10日かけて徐々にシャント血管を閉ざしていくという方法です。
門脈圧が>25mmHgの場合
一回目の手術で部分結紮を行い3~4ヶ月待ち、肝内門脈枝の発達を待ちます。その後、二度目の手術で完全結紮を行います。
【最後に】
今回は『先天性門脈体循環シャント』の治療法について紹介しました。内科的療法と外科的治療の双方を駆使し、門脈から出るシャント血管を縛っていきます。ポイントは手術の『門脈圧の程度』です。どの程度の圧なら、どの治療を選択すべきかを知っておくと良いでしょう。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 259-262, 320-321p