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【副腎皮質腫瘍】その② ~外科的治療と内科的治療とおまけの話~

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【はじめに】

今回は『副腎皮質腫瘍の治療法』についてです。副腎皮質機能亢進症の原因にもなる副腎皮質腫瘍ですが、治療法としては主に2つのアプローチの仕方があります。1つは副腎ごと取ってしまう『外科的な治療』。もう1つは過剰に分泌される糖質コルチコイドが悪さをしているから、その糖質コルチコイドの分泌を薬で抑えようという『内科的な治療』。
今回はこれら2つについて詳しく解説していきたいと思います。

【副腎皮質腫瘍】その① ~挙動・症状・診断方法~

【副腎皮質腫瘍】その② ~外科的治療と内科的治療とおまけの話~

【目次】

 

【外科的な治療法】

副腎腫瘍の場合、下垂体腫瘍による副腎皮質機能亢進症に比べて、手術が行われるケースが多いです。しかし、基本的には内科療法でコントロールできるならそちらでの治療が優先されます。

『30年前(1986年公開)の論文では』

副腎腫瘍の手術は昔から行われており、30年以上前の論文では術後2週間以内で60%の症例で安楽死が行われていました。副腎腫瘍の摘出手術では術後管理がとても大変なのです。

『副腎腫瘍摘出後の管理が大変な理由』

副腎腫瘍を摘出すると、急に血中コルチゾール値が下降します。
本来ならば、コルチゾールの低下に伴い、下垂体よりACTHが分泌され、副腎がコルチゾールを産生しなければいけないのですが、副腎腫瘍による高コルチゾール血症によって正常副腎は萎縮しており、うまくコルチゾールを産生することができなくなっています。

この状態では何が起こるかというと、今度は逆に『副腎皮質機能低下症』が起こります。最近では、副腎皮質機能低下症を起こさないために内科療法で徐々に正常副腎の機能を取り戻してから手術を行うなど、周術期の管理に注意を払っています。
副腎皮質機能低下症に関してはこちらをご参考ください。

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『術後4週間がヤマ』

最近のデータでは
もっと最近のデータでは周術期の死亡率は19~28%と言われています。30年前の60%に比べると遥かに向上しています。とはいえ、2割ちょっとは亡くなってしまうので、やはり非常に難しい手術なのだと思います。あと、これはあくまでデータ上の話なので、術者によっても成績がバラけることは言うまでもありません。

Twenty-four adrenocortical tumors were surgically removed from 21 dogs. Histopathological examination confirmed 18 carcinomas and six adenomas. Four dogs died in the perioperative period. Fifteen of the 17 dogs that survived the perioperative period had long-term resolution of their clinical signs. 引用文献:Surgical treatment of adrenocortical tumors: 21 cases (1990-1996).

 

周術期の4週間を乗り切れば、予後は良好
144匹の副腎摘出手術を行なった犬についての研究があります。
144匹のうち9匹は手術中になくなり、29匹は術中~術後に亡くなっています。しかし、それらの山場(術後4週間)を乗り切った犬の予後は良好であったという報告あります。

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『手術後の生存期間』

報告を受けている論文によって多少長短があるのですが、
副腎皮質腺癌(悪性腫瘍)で230~778日
・副腎皮質腺腫(良性腫瘍)で687.5日
とされています。

Overall Kaplan-Meier median survival time was 690 days.  引用文献:Ultrasonographic characteristics of both adrenal glands in 15 dogs with functional adrenocortical tumors.  

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Median survival time for the 52 dogs undergoing adrenalectomy, calculated with Kaplan-Meier product limit estimates, was 953 days (range, 0 to 1,941 days; Figure 1). 引用文献:Adrenalectomy in dogs with adrenal gland tumors: 52 cases (2002–2008)

 

【内科的な治療法】

『内科的治療が適応となるのは』

内科療法が適応となるのは外科的手術が適応しない場合や手術前に動物の状態を安定化させたい場合などで使用されます。

と参考図書では記載されているのですが、実際は副腎皮質機能亢進症の症例にいきなり手術を検討することは少ないのではないでしょうか?
先ほどもお話したように副腎腫瘍の摘出は死亡率も高く、術後の管理も大変なため、あまり第一選択にならない気がします。

どちらかというと、内科的治療でコントロールができなくなってから外科手術を検討するのではないでしょうか?
臨床の先生がこの記事を読んでいらっしゃいましたら、お手数おかけしますがコメント欄にてご教授願います。

『よく使うのはミトタンとトリロスタン』

ミトタンについて
ミトタンは副腎の細胞を破壊することで副腎皮質機能亢進症によるコルチゾールの上昇を抑える薬です。細胞を破壊するため、不可逆的で薬でコントロールに失敗すると副腎皮質機能低下症を引き起こす可能性があるので使用には注意が必要です。

不可逆的に細胞傷害を行うので外科的切除の代替治療として扱われています。
また一般的に、下垂体腫瘍の時よりも副腎腫瘍の方でより高用量で使用されています。再燃も多いようですが、転移がない症例ではよく効きます。

トリロスタンについて
トリロスタンは副腎で糖質コルチコイドの産生に関与する酵素を阻害する作用を持っており、ミトタンと違って可逆的にコルチゾールの産生を調節します。トリロスタンも優秀な薬で、データ数3匹と少ない症例でしか検討されていませんが、転移が確認されている症例でも効果を示すというデータがあります。

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トリロスタンvsミトタン
ある実験でトリロスタンだけで治療した群(n=22)とミトタンだけで治療した群(n=13)で生存期間中央値を調べたデータがあります。
それぞれの生存期間中央値はトリロスタンだけで治療した群が353日、ミトタンだけで治療した群が102日でした。
数字だけ見ると、トリロスタンが良いように見えますが、これら2つには有意差がなかったという結論が出ています。

There was no statistically significant difference between the survival times of 13 dogs treated only with mitotane when compared with 22 dogs treated only with trilostane. The median survival time for animals treated with trilostane was 353 days (95% confidence interval [CI] 95-528 days), whereas it was 102 days (95% CI 43-277 days) for mitotane. 引用文献:A comparison of factors that influence survival in dogs with adrenal-dependent hyperadrenocorticism treated with mitotane or trilostane.

 

【おまけ:グルココルチコイドだけじゃないかも?】

副腎皮質腫瘍においてコルチゾールを中心とするグルココルチコイドの分泌が問題になるというお話を続けてきました。犬の症例では確かにグルココルチコイド産生性の副腎腫瘍が多いのですが、他のホルモンを産生する副腎皮質腫瘍も報告されています。

以前副腎の解剖学などでお話した通り、副腎皮質には糖質コルチコイドの他に、鉱質コルチコイド、性ホルモンなどの分泌も行なっています。どの産生細胞が腫瘍化するかによって、分泌させるホルモンが変わってきます。

副腎皮質腫瘍で分泌の報告があるホルモン
・糖質コルチコイド
・アンドロステンジオン
・プロジェステロン
・17-ヒドロキシプロジェステロン
・テストステロン
・エストラジオール

 

『厄介なところ』

症状はHCなのに、コルチゾールは上がらない
これらの腫瘍の厄介なところはグルココルチコイドを産生していないことがあり、その場合は検査によってコルチゾール値の上昇が確認できません。それにもかかわらず副腎皮質機能亢進症(HC)に類似した症状を示すため、診断が難航してしまうのです。

性ホルモン産生性なら症状が不顕在化していることも
犬の症例では特にですが、性ホルモンの分泌が過剰であるのにも関わらず、症状が現れることが少ないです。猫では少数ながら症状が見られたという報告があります。

【最後に】

今回は『副腎皮質腫瘍の治療法』について解説しました。副腎皮質腫瘍の最終的な治療法としては外科的な切除が行われます。周術期の死亡率が高いことから、内科療法によって、安定化を図り、その後に手術を開始します。あくまで文献での報告ですが、術後4週間を乗り切れば、予後が良いとされています。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 510-512p

 

【関連記事】

『副腎皮質腫瘍その①』について

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『ACTH産生性下垂体腫瘍』について

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『クッシング症候群』について

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『副腎皮質機能低下症』について

こちらの疾患は副腎腫瘍の摘出後に起こりやすい疾患です。合わせて読んでみましょう。

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