【はじめに】
今回は『先天性門脈体循環シャント』の症状と診断方法についてです。『概要と病因』については前回の記事をご参考ください。PSSが見られるとどのような症状が起こるのかそして、その症状を元にどのような検査を行い、診断するのかについて解説します。
【先天性門脈体循環シャント①~概要・病因~】
【先天性門脈体循環シャント②~症状・診断方法~】
【先天性門脈体循環シャント③~治療法~】
【目次】
【先天性PSSの症状】
『中枢神経症状』
PSSが進行すると、肝不全から肝性脳症へと発展します。肝性脳症による中枢神経障害が見られるようになります。
肝性脳症の主な症状
・行動異常
・沈うつ
・頭部下垂
・運動失調
・旋回運動
・震戦
・一過性盲目
などが見られます。
症状が出やすい時間帯
特に症状が出やすいのは『食後』です。肝性脳症の程度は血中アンモニア濃度によって左右されます。肉などのタンパク質は体内で分解されアンモニアが生じます。つまり、肉を食べると、血中アンモニア濃度が上昇するということです。こうした機序によって、食後に肝性脳症が悪化し、症状が出やすくなります。
肝性脳症の起因物質
先ほどの説明ではアンモニアを中心にお話ししましたが、肝性脳症を引き起こす起因物質はアンモニア以外のもあります。以下のような物質が肝性脳症を引き起こす物質として知られています。
・芳香族アミノ酸(AAA)
・グルタミン酸
・偽性神経伝達物質
・トリプトファン
・メタカプタン
・内因性ベンゾジアゼピン様物質
などがあります。
『消化器症状』
消化器症状としては嘔吐や下痢、食欲不振などがあります。
『泌尿器症状』
尿酸アンモニウム結晶ができる
PSSが起こる肝機能が低下します。肝機能が低下すると、アンモニアを尿素へ変換したり、尿酸塩のアラントインへの変換する能力が低下します。そうなると尿酸アンモニウム結晶・尿石ができやすくなります。
結石による症状
尿酸アンモニウム結晶・尿石が発生すると、頻尿や血尿、場合によっては尿道閉塞が起こります。
【診断方法について】
『血液検査』
血液検査では赤血球の形態異常などが認められるものの、チェックすべき重要な項目は以下のようなものが挙げられます。
重要な項目
・Alb
・BUN
・コレステロール
・アンモニア(NH3)
・食後総胆汁酸(TBA)
低Alb血症
肝臓ではアルブミンという血漿蛋白を産生していますが、肝機能が低下するとアルブミンが作れなくなるので、低Alb(アルブミン)血症が見られます。
低BUN血症と高アンモニア血症
肝臓の機能として、尿素回路というものがあります。これはアンモニアをBUN(尿素窒素)に変換し、尿素として尿中に排泄されるための機能です。肝機能が低下すると尿素回路も回らなくなるので、血中アンモニア濃度は上昇し、一方で血中BUN濃度は低下します。
特に食後は尿素回路が活性化するはずなので、食後のアンモニア濃度の高値は肝機能低下を示す重要な所見となります。
肝臓におけるの合成能の評価
肝機能が正常かを判断するマーカーとして『Alb』、『BUN』、『コレステロール』が重要になります。
TBAについて
総胆汁酸は通常、腸肝循環中に存在するため、血液中には存在しません。しかし、PSSになると、体循環経路へのバイバスがあるので、体循環中の血中濃度が上昇します。PSSでは食前のTBAと比べ、食後のTBAは2~3倍に上昇していることが確認できます。
『尿検査』
尿沈渣検査
50%の症例で尿酸アンモニウム結晶が認められます。この尿結晶はレントゲン検査では写らないため、超音波検査で結石を確認する必要があります。
『画像検査』
レントゲン検査
レントゲン検査では肝臓が小さくなっている『小肝症』の様子が確認できます。
超音波検査
シャント血管を描出することで診断をつけることができます。
所見としては
・肝内に拡張・蛇行した血管の確認
・小肝症
・肝内門脈枝の不明瞭化
・肝内血流シグナルの減少
・腎腫大
などが挙げれます。
CT検査
シャント血管の始まりから体循環へ繋がっていく終わりまで確認できるので、一番有用性が高い検査と言えます。
【最後に】
今回は『先天性門脈体循環シャント』の症状と診断方法について解説しました。症状で一番注意すべきは肝性脳症による中枢神経障害です。診断方法で見るべきは『肝機能の低下』 です。Alb,BUN,Chol,TBAなどの項目をチェックしましょう。そして画像診断で確定を行います。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 259-262, 320-321p