オタ福の語り部屋

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【副腎皮質腫瘍】その① ~挙動・症状・診断方法~

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【はじめに】 

今回は『副腎皮質腫瘍』の挙動、症状、診断方法についてです。副腎皮質は糖質グルココルチコイドとしてコルチゾールを分泌する部位で有名です。犬や猫の副腎皮質腫瘍として副腎腫瘍によるクッシング症候群のお話を中心に解説していきたいと思います。

【副腎皮質腫瘍】その① ~挙動・症状・診断方法~

【副腎皮質腫瘍】その② ~外科的治療と内科的治療とおまけの話~

【目次】

 

【動物の副腎皮質腫瘍について】

 『副腎"皮質"腫瘍ってどんなもの?』 

機能性腫瘍とは
副腎のようなホルモンを産生する臓器に"機能性腫瘍""非機能性腫瘍"があります。機能性とはホルモンを分泌する腫瘍ということです。副腎皮質の機能性腫瘍であった場合、コルチゾールという副腎皮質ホルモンをたくさん分泌することで『副腎皮質機能亢進症』になることがあります。

副腎皮質機能亢進症とは
副腎皮質機能亢進症とは別名:クッシング症候群と呼ばれる病気で、副腎皮質からコルチゾールが過剰に分泌され、血中コルチゾール値の上昇によって起こる症状の総称を言います。

副腎皮質機能亢進症の原因には大きく分けて2つあり
・ACTH産生性下垂体腫瘍
・副腎皮質腫瘍
の2つになります。割合的には下垂体腫瘍が原因で起こるものが80~85%で、副腎皮質腫瘍が原因で起こるものが15~20%ぐらいです。

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下垂体由来副腎皮質機能亢進症に関しては→【犬のACTH産生性下垂体腫瘍①】

副腎腫瘍、腺腫と腺癌の違いとは?
副腎腫瘍の話を進めていく上で、よく話に出る腺腫と腺癌。この違いはズバリ『悪性度』の違いです。
もっと分かりやすくすると腺腫は良性腫瘍で、腺癌は悪性腫瘍です。

あるレビュー論文によると機能性腫瘍のうち手術で摘出した副腎腫瘍を調べたところ、約60%が腺癌であったそうです。

この2つの違いは転移の有無や病理組織学的検査を元に判断されるので、肉眼的に見分けることはできませんが、一般的に腺腫の方が小さいと言われています。
だいたい2cmを越えると腺癌の可能性が高いようです。
とはいえ、過去の報告で6cm以上の腺腫があったという報告もあります。やはり、大きさだけでは何とも言えないのが現状です。

下の引用文献では〇〇cmと書かれていますが、注意して欲しいのは副腎は楕円形の臓器ですので短径と長径があります。一般的に副腎の大きさを評価するときは個体差の少ない短径を使用しますが、この論文では長径と短径どちらを測定したのか明記されていません。

The 26 carcinomas ranged from 0.5 cm to more than 15 cm in diameter with 17 larger than 2 cm. All the adenomas were smaller than 2 cm in diameter, ranging from 0.4 to 1.8 cm in diameter. A significantly greater number of carcinomas were larger than 2 cm in diameter compared with adenomas.引用文献:Indicators of Malignancy of Canine Adrenocortical Tumors: Histopathology and Proliferation Index

 

 『腺癌が悪いところ』

副腎腫瘍のうち腺癌は悪性腫瘍と定義されています。孫子の『彼を知り、己を知れば、百戦殆うからず』ではありませんが、この項では副腎皮質腺癌の悪いところを知っておこうと思います。

「病理組織学的なお話」

腺腫と腺癌を比較したデータを下に記します。これらの結果から分かったことをまとめてみます。

腺癌で比較的よくみられる病理像
・胞巣状の増殖パターン
・周辺組織の線維化
・浸潤性増殖
・壊死
・出血

逆に、腺腫と比べて少なかったのが
・細胞質の空胞化
・フィブリン析出
・髄外造血 

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In our study, 10 histopathologic criteria were determined to be diagnostically useful in differentiating between adrenocortical adenomas and carcinomas in dogs. These included size, peripheral fibrosis, capsular invasion, trabecular growth pattern, hemorrhage, necrosis, single-cell necrosis, hematopoiesis, fibrin thombi, and cytoplasmic vacuolation (Table 1).引用文献:Indicators of Malignancy of Canine Adrenocortical Tumors: Histopathology and Proliferation Index

 

「腺癌で頻発する、腫瘍栓とは」

腫瘍栓とは
腫瘍の栓と書いて腫瘍栓。腫瘍栓とは腫瘍が血管内で増殖し、血管に栓をしてしまう病変です。

腫瘍栓について(図解)

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どのくらいの頻度で起こるのか
副腎皮質腫瘍の腺癌では約20%の症例で下横隔静脈での腫瘍栓の形成が報告されています。さらにこれらの症例では腎静脈や後大静脈にまで波及している症例もありました。

腫瘍栓は生死に関わる
腫瘍栓は血管裂開などによる腹腔内出血あるいは後腹膜内出血が起こり、命を落とす可能性もある怖い病変です。

「転移について」

腺癌は遠隔転移の発生が多く、約50%の症例で遠隔転移が確認されています。

転移の好発部位
・肝臓
・肺

報告例がある転移部位
・腎臓
・子宮
・腸間膜リンパ節
・腹膜
・甲状腺
などです。

「その他:最近の研究でわかったこと」

最近の研究でわかっているのは『ACTH受容体の発現低下』『副腎腫瘍束状帯における胃液分泌抑制性ポリペプチドとバソプレシン(2)受容体の発現』がみられるということです。
これがどう副腎腫瘍に働きかけているか詳しくはわかっていませんが、副腎腫瘍の悪さの原因解明につながることが期待されています。

The amount of mRNA encoding ACTH-R was significantly lower in carcinomas than in normal adrenal glands (P = 0.008). 引用文献:Expression of the ACTH receptor, steroidogenic acute regulatory protein, and steroidogenic enzymes in canine cortisol-secreting adrenocortical tumors.
We report on a screening of 23 surgically removed, cortisol-secreting ATs for the expression of receptors for luteinizing hormone (LH), gastric-inhibitory polypeptide (GIP), and vasopressin (V1a, V1b, and V2).引用文献:Expression of receptors for luteinizing hormone, gastric-inhibitory polypeptide, and vasopressin in normal adrenal glands and cortisol-secreting adrenocortical tumors in dogs.

 

【好発年齢と症状について】

好発年齢
ACTH産生性下垂体腫瘍(PDH)と傾向は似ており、だいたい中年齢以降(9歳以上)の発生が多いです。

症状

症状はクッシング症候群にあった症状を示します。

クッシング症候群の特徴的な症状
・多飲多尿(80~91%)
・多食
・腹部膨満(67~73%)
・気だるさ
・パンティング(30%):息をハァハァいう呼吸
・運動不耐性:運動を嫌がりませんか?
・筋肉の虚弱化:力弱ってないですか?
・両側性脱毛(60~74%):抜け毛は目立ちませんか?
・皮膚の石灰沈着
・皮膚の菲薄化:皮膚が裂けやすくないですか?
以上が、クッシング症候群で認められる症状です。

特に目立つのが『多飲多尿』『お腹の膨らみ』『対称性の脱毛』です。これらが見られる場合、もしかしたクッシング症候群なのかもしれません。

クッシング症候群の症状(図解)

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【どのように診断を進めるか】

診断方法についても『クッシング症候群の記事』『犬のACTH産生性下垂体腫瘍の記事』でお話ししている通りです。

『ACTH刺激試験』

ACTH刺激試験とは
ACTH試験とはACTH(副腎皮質刺激ホルモンのこと)を人為的に投与し、副腎皮質を刺激してコルチゾールの分泌を促し、その後の体の反応を見る試験です。
このACTHを人為的に投与することで、血中コルチゾール値が上昇した後の体の反応を見ています。投与前と投与1時間後で、血中コルチゾール値がどのように変化するかを測定します。

正常であれば、体はコルチゾール値を元に戻そうと下げる働きをします。一方で、下垂体腫瘍なり副腎腫瘍なりでクッシング症候群を発症している場合はコルチゾール値の上昇など関係なく上昇し続けるため、1時間後の血中コルチゾール値は高いまま維持されています。

『低用量デキサメタゾン抑制試験』

低用量デキサメタゾン抑制試験、略してLDDSTと呼ばれます。ACTH刺激試験の感度が60%程度とされている一方で、このLDDSTは95%と高感度であること特徴の1つです。

使用するタイミング
感度が高いということは検査結果が陰性を示した時に病気を否定できるということです。
使用されるタイミングとしては、「症状は明らかにクッシング症候群。でも、ACTH刺激試験は陰性」という場合です。ACTHの感度は60%なので、約40%の症例で偽陰性を示しているということになります。LDDSTを用いると、本当にクッシング症候群ではないと除外診断を行うことができます。

この試験でやっていること
LDDSTでやっていることは簡単に説明すると低用量のデキサメタゾン(0.01mg/kg)を静脈注射し、4時間後と8時間後にコルチゾール値を測定して生体の調節機構(抑制反応)が働いているかを調べています。

副腎皮質機能亢進症を示している場合は調節機構が破綻しているので、デキサメタゾン投与前と比べ、4時間後と8時間後で抑制反応が見られません。

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『副腎腫瘍か下垂体腫瘍かを鑑別するには』

この2つのどちらが原因で副腎皮質機能亢進症になっているのかを調べる方法は複数あります。
鑑別方法
・高用量デキサメタゾン抑制試験(HDDST)
・内因性ACTH濃度の測定
・副腎超音波検査

HDDSTについて
この検査では高用量のデキサメタゾン(0.1mg/kg)を投与する検査で、下垂体由来なのか副腎由来なのかを鑑別することができます。
デキサメタゾンを投与すると、ACTH分泌に抑制がかかります。下垂体腫瘍が原因の場合、下垂体から過剰に出るACTHが問題になります。デキサメタゾンによって、ACTHが抑制されるとその分コルチゾール値が下降します。一方で、副腎腫瘍の場合、ACTH関係ないしコルチゾールを出しているので、コルチゾール値は変わりません。

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内因性ACTH濃度の測定
これは体の中にどの程度ACTHがあるかを見ている試験で、下垂体腫瘍では体内のACTHが過剰になっているのに対し、副腎腫瘍では下垂体では上昇するコルチゾール値によって抑制反応を示しており、ACTHの分泌が無くなっています。
これらの検査結果の違いを用いて、同一の症状を示す疾患から原因を鑑別していくのです。

『副腎超音波検査』

副腎超音波検査については話したいことがたくさんあるので項を独立させました。副腎の超音波検査を行うことで何を見るかを以下にまとめます。

副腎の超音波検査で見るもの
・副腎の厚さ(形状)
・左右副腎の対称性
・(腫瘍栓の有無)

下垂体腫瘍の場合
下垂体腫瘍の場合、下垂体から分泌されるACTHによって副腎は過剰なコルチゾール産生を行なっています。こういったオーバーワークを続けていると副腎はそれに対応するために肥大します。
副腎のエコー検査を行うと、通常時よりも大きく肥大していることが見て取れます。この時の最大のポイントとしては『対称性に腫大』しているということです。

副腎腫瘍の場合
副腎腫瘍の場合、腫瘍化した副腎からコルチゾールが大量に産生・分泌されている状況です。その状況では、正常な副腎細胞は働くことをやめ、萎縮しています。そのため、副腎をエコーで見ると腫瘍化した副腎のみが大きく成長しているので『非対称性に腫大』しています。

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ただこの鑑別法、信じすぎてはいけません
というのも副腎腫瘍といえど、必ずしも副腎が非対称性に肥厚しているとは限らないからです。

以下の文献では15匹の副腎皮質腫瘍の犬の症例のうち3匹は対称性に副腎の肥大が確認されています。症例数が少ないので、これだけではなんとも言えませんが、割合としては20%ほど。診断精度としてはあまり良くない結果です。

Ultrasonographic examination of both adrenal glands was performed in 15 dogs with functional adrenocortical tumors (FAT). Bilateral adrenal tumors were diagnosed in three of 15 dogs, and unilateral tumors were diagnosed in 12 of 15 dogs. 引用文献:Ultrasonographic characteristics of both adrenal glands in 15 dogs with functional adrenocortical tumors.

こういった副腎皮質機能亢進症でありながら、副腎の肥厚が認められない状態を『equivocal adrenal asymmetry』と言います。直訳すると『曖昧な副腎の非対称性』??みたいな感じです。まぁはっきりと不揃いだと認識することが難しいということでしょう。

【最後に】

今回は『副腎皮質腫瘍』の挙動、症状、診断方法について解説しました。副腎腫瘍にはホルモンを分泌する機能性腫瘍と分泌しない非機能性腫瘍とがあり、機能性腫瘍の場合はクッシング症候群を起こします。さらに、検査では内分泌検査や超音波検査などを中心にクッシング症候群の原因疾患を鑑別していくことが重要になります。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 510-512p

 

【関連記事】

『副腎皮質腫瘍その②について』

www.otahuku8.jp

『ACTH産生性下垂体腫瘍について』

www.otahuku8.jp

『クッシング症候群について』

www.otahuku8.jp

『多飲多尿で考えるべき疾患』

www.otahuku8.jp