オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

【犬猫の誤嚥性肺炎】

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【はじめに】

今回は『誤嚥性肺炎』についてです。誤嚥性肺炎とは食道ではなく気道に物が誤って入ってしまうことで起こる肺炎で、嘔吐や吐出を繰り返す疾患をもつペットではよく見られます。

 犬猫で多い4つの肺炎
【細菌性肺炎】
【ウイルス性肺炎】
【アレルギー性肺炎(好酸球性気管支肺症)】 
【誤嚥性肺炎】

 

【目次】

 

【誤嚥性肺炎とは】

誤嚥性肺炎は下部呼吸器内への異物の吸引が原因で起こります。偶発的に起こる誤嚥性肺炎として多いのは胃内容物の逆流による誤嚥です。

一方で、人間が何か処置をするときに起こる医原性の誤嚥性肺炎は
・強制給餌
・経口投与(バリウムやミネラルオイル)
・異物摂食時の催吐薬による嘔吐
によって起こりやすいです。

『重症度は誤嚥した物に依存する』

誤嚥性肺炎の重要度は誤嚥したものがどのようなものかによって依存しています。大きさはもちろんのこと、pHや浸透圧、細菌混入の有無が影響します。そのため、最小限の病変から致死的な肺水腫や壊死、出血まで重症度に幅があります。

 

刺激物の誤嚥
胃酸のような化学的刺激物の誤嚥によって間質性肺炎が起こります。

大量の液体の誤嚥
体へ害の無い液体であっても、大量に誤嚥すると溺死に近い状態になります。

腸管洗浄液の誤嚥
腸管洗浄液は内視鏡を入れる前に腸管を綺麗するために使用されます。この洗浄液を誤嚥すると肺実質にある水分を引っ張ってきます。

大きな物の誤嚥
大きな物を誤嚥した場合、危険なのは気道の閉塞です。最悪の場合、窒息死してしまう可能性もあります。

胃内容物の誤嚥
胃内容物中の細菌は胃酸によって死滅していることが多く、誤嚥初期には感染は滅多に起こりません。しかし、気道が胃酸によってダメージを受けている状態が続くと続発性の細菌感染が起こってしまう可能性があります。

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『誤嚥性肺炎に繋がる原因』

誤嚥性肺炎に繋がる原因は動物によって様々です。

意識障害がある場合
全身麻酔、鎮静状態、痙攣時、昏睡時
※全身麻酔での誤嚥性肺炎のリスクは近年減少しており、発生率は0.17%というデータがあります。

Incidence of post-anesthetic AP was 0.17%, from 140,711 cases anesthetized or sedated over the 10 year period. 引用文献:Prevalence and risk factors for canine post-anesthetic aspiration pneumonia (1999-2009): a multicenter study. 

意識障害がない場合
喉頭麻痺、タイバック、重症筋無力症
※タイバック:喉頭麻痺の手術方法

嚥下困難がある場合
アカラシア、第Ⅴ脳神経障害、狂犬病
※アカラシア:食道の蠕動運動がうまくできない神経の病気
※第Ⅴ脳神経:三叉神経と呼ばれ、咀嚼運動を制御する神経

吐出がある場合
巨大食道症、食道憩室や食道の運動障害

胃拡張がある場合
食べ過ぎ、イレウス
イレウス:腸閉塞などにより腸の蠕動運動が停止した状態

嘔吐がある場合
胃腸疾患、膵臓疾患、尿毒症、肝臓疾患

その他
強制給餌、薬の経口投与の失敗

『症状』

発熱
誤嚥性肺炎と診断された犬を用いた後ろ向き研究ですが、誤嚥性肺炎の犬118匹のうち43.2%の犬で発熱(≧39.2℃)が認められたというデータがあります。

At the time of diagnosis, 43.2% (51/118) were febrile (≥39.2°C [102.5°F]). The median temperature recorded at presentation was 39.1°C (102.3°F) (range, 36.9–41.6°C [106.8–98.5°F]) (n=118).  引用文献:Potential risks, prognostic indicators, and diagnostic and treatment modalities affecting survival in dogs with presumptive aspiration pneumonia: 125 cases (2005–2008)

 

その他の症状
パンティング呼吸促迫は一般的に見られる症状の一つです。そのほかに、をしていたり、聴診時には肺雑音が聞こえます。

 

【診断方法】

『血液検査』

左方移動があったりなかったりですが、白血球増加症が認められます。
※「左方移動」とは骨髄にプールされている成熟好中球が減少したために幼若な好中球(杆状核好中球)が血中に供給される所見を言います。細菌などの病原体と激しく戦っている時はこういった好中球の左方移動が認められます。

『レントゲン検査』

レントゲン検査の見え方
誤嚥性肺炎のレントゲン像は斑状の肺胞パターンが一般的ですが、症例の4分の1程度は間質パターンを示していた症例もあります。

撮影は必ず両ラテラル方向から
誤嚥性肺炎を疑う症例のレントゲン検査を行うときは診断精度を上げるために左右両方のラテラル方向で撮影するようにします。

というのも、誤嚥した液体は重力に従うと、右中葉と左右の前葉に入っていくことが最も多いです。その時に左ラテラル方向でのみ撮影を行うと、最も重要である右中葉のほとんどが心臓の影となり観察できなくなります。こういった理由から必ず左右両方向のラテラル像を撮影しなければいけません。

何肺葉が影響を受けたで予後が変わる
ある研究では1つの肺葉のみが誤嚥性肺炎を起こしていた場合と比較し、2つ以上の肺葉が影響を受けていた場合は予後が悪くなるという結果が出ています。さらに2つ以上の肺葉が影響を受けている症例は1/3以上いるということも結果として出ています。

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『気道洗浄液の細胞診』

誤嚥をしたという確証がない時や、誤嚥しやすい疾患や状況ではない時にしばしば行われることがあります。この検査によって好中球の浸潤や脂肪貪食マクロファージ、食べ物などが観察できた場合、誤嚥性肺炎が起こっている可能性が強く疑われます。

細菌感染は誤嚥性肺炎の発生から遅れてやってくるので注意が必要です。

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【治療法・予防法】

『主な予防法』

誤嚥性肺炎の治療法の多くは対症療法になります。まず、先ほど『誤嚥性肺炎に繋がる原因』の項で紹介した病気や状態の動物に対しては誤嚥性肺炎が起こらないように注意するべきです。

全身麻酔をかける前には
全身麻酔をかける前は絶食を行うことで、麻酔導入時に起こりやすい嘔吐に対して誤嚥を予防します。

巨大食道症持ちの子に対して
巨大食道症の子は摂食時にテーブルフィーディングを行うと誤嚥が減ると言われています。しかし、この方法には科学的な根拠はまだ分かっていません。一番確実なのは胃瘻チューブを介してご飯をあげると良いです。

テーブルフィーディングについて(図解)

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『薬での治療』

制酸薬の投与
胃液を誤嚥してしまうと、含まれる胃酸によって肺が炎症を起こしてしまいます。その対処として、H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤を使用すると胃酸のpHを上げ、より中性に近づけることができます。結果として胃酸が逆流し肺に入ったとしても無処置と比べて炎症を抑えることができます。

しかし、重要な問題としてあげられるのが、胃酸のpHをあげる(=中性に近づく)ことによって、細菌が増えてしまうということです。メリット・デメリットを把握した上で、治療を進めていくべきでしょう。

運動促進薬の投与
消化管の運動を促進する薬で有名なのがメトクロプラミド(プリンペラン®️)です。胃や食道下部の括約筋を締め、蠕動運動を活発化させます。それによって胃内容物を誤嚥するリスクを下げるかもしれないと言われています。

『誤嚥しているのを見かけたら…』

まずやるべきこと
誤嚥していると思ったらすぐに、動物病院へ連れていき、物理的な気管洗浄など必要な処置を行なってもらうべきです。サクションチューブなどを用いて、できる限り気管内にある異物をすすいで排除します。

この作業を終えたら、SpO2(経皮的動脈血酸素飽和度)をモニタリングしながら、胸部のレントゲン撮影を行います。

もし呼吸困難が見られたら
誤嚥の後、呼吸困難が見られた場合は気管支拡張剤を使用すると症状を改善できる可能性があります。

『続発性の細菌感染への対策も』

誤嚥性肺炎が慢性化されると続発性の細菌感染が起こる可能性があります。二次性の細菌性肺炎は肺炎の重篤化に繋がるため、可能な限り避けなければいけません。抗生物質を用いた細菌感染への対策も同時に進めていきます。

【最後に】

今回は『誤嚥性肺炎』について解説しました。誤嚥性肺炎の発症には原因疾患が隠れていることが多いです。原因疾患の追求とともに、ご飯を少量ずつあげるなど誤嚥回避を試みることが大切です。誤嚥しているのを見かけた場合は、吸引器による誤嚥物質の除去が必要となるため、息苦しそうにしていたら早急に病院へ連れて行ってあげましょう。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017,  1118-1119p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 143p

 

【関連疾患】

『犬猫で多い4種類の肺炎』

細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、アレルギー性肺炎(好酸球性気管支肺症)、誤嚥性肺炎については↓

www.otahuku8.jp

『誤嚥を起こしやすい疾患』

巨大食道症について

www.otahuku8.jp

嘔吐や吐出について

www.otahuku8.jp

膵炎について

www.otahuku8.jp