オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

【アレルギー性肺炎(好酸球性気管支肺症)】

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20191013004151p:plain

【はじめに】

今回は『アレルギー性肺炎(好酸球性気管支肺症)』についてです。アレルギー性肺炎と好酸球性気管支肺症は別物の病気ですが、明確な定義の区分がありません。 今回は定義の話をはじめ、アレルギー性肺炎はどのような動物で起こりやすいのか、そして見逃してはいけない鑑別疾患とは何かについてお話をしていきたいと思います。 

犬猫で多い4つの肺炎
【細菌性肺炎】
【ウイルス性肺炎】
【アレルギー性肺炎(好酸球性気管支肺症)】 
【誤嚥性肺炎】

 

【目次】

 

【アレルギー性肺炎とは】

『定義の話』

まず最初にややこしいですが知っておいて欲しいの書いておきます。『アレルギー性肺炎』と『好酸球性気管支肺症』は定義としては別物です。

アレルギー性肺炎とは
アレルギー性肺炎とは好酸球性肺浸潤症候群(PIE)の一つに含まれる好酸球性肺炎のことを一般的には言います。

好酸球性気管支肺症(EBP)
そして、好酸球性気管支肺症(EBP)は免疫の過剰な反応によって誘導された好酸球が肺や気管支粘膜に浸潤しているのがこの病気の特徴で、定義としては亜急性~慢性の好酸球性肺疾患を言います。こちらもPIEの一つに含まれています。

このEBPは数日で起こる急性の好酸球性肺炎とは区分されていますが、慢性の好酸球性肺炎との明確な区別はされていません。

本記事での扱い方
アレルギー性肺炎こと好酸球性肺炎の中でも、慢性期のものすなわち『慢性好酸球性肺炎』を『好酸球性気管支肺症』と同義であるとして解説していきます。

f:id:otahukutan:20191013004151p:plain

 

『病態生理:どのような病気か』

好酸球性気管支肺症(EBP)は2000年に提唱された新しい概念であり、まだ詳しいことはわかっていません。しかし、好酸球の浸潤とCD4+T細胞優位の共同が下部呼吸器で支配的なTh2免疫反応を助長しています。

 

過敏症の原因
肺で起こる過敏症の原因として考えられているのは
・真菌(カビ)
・薬物
・細菌
・寄生虫
などの抗原が関与すると考えられています。しかし、多くの場合で原因を特定するまではいけないようです。

どんな犬で起こりやすいのか?
好酸球性気管支肺症は若齢での発生が多いです。

好発犬種はシベリアン・ハスキーやゴールデン・レトリバー、アラスカン・マラミュート(犬ぞり用の犬)など大型犬での発症が多いです。

【症状】

好酸球性気管支肺症の場合、ウイルス性肺炎と同様に二次感染として細菌性肺炎が成立しなければ、症状は比較的良好であるされています。

『100%見られる症状』

好酸球性気管支肺症の動物で報告がある限り100%認められている症状があります。それは、『発咳』、『吐き気』、『レッチング』の3つです。レッチングとは吐こうとする時にお腹をヘコヘコさせる動作のことを言います。

『急性期に見られる症状』

急性期の症状では吐き気』や『レッチング』が主症状となります。ここで重要となるのは消化管疾患との鑑別です。

『そのほかの症状』

上述した症状の他に『呼吸困難』は頻繁に見られます。そして『鼻汁』も半数近くの犬で認められます。

f:id:otahukutan:20191013005016p:plain

 

【診断方法】

好酸球性気管支肺症(EBP)の診断は以下のようなもので行われます。

『EBPの診断方法一覧』

・経歴:品種、年齢、ステロイドが有効かなど
・臨床症状:上述参照
・レントゲン検査
・気管支鏡検査
・血液検査:好酸球増加症
・細胞診:組織内への好酸球浸潤を確認する
・他疾患の除外診断

『レントゲン検査』

咳と吐き気がある場合にはまず、レントゲン検査が一番手軽に行える検査ではないでしょうか?

好酸球性気管支肺症の患者でレントゲン検査を行うと、中等度~重度の気管間質混合パターンが認められます。

レントゲン検査の結果を踏まえて、もっと詳しく知りたいと思った場合にはCTが行われます。
CTでは
・気管支壁の肥厚
・気管支管腔内の粘液貯留
・気管支の拡張
・肺結節
・リンパ節の腫脹
などが認められます。

『気管支鏡検査』

気管支鏡検査を行うメリット
気管支鏡を用いた検査では全身麻酔が必要というデメリットがありますが、直接気管支内を観察できるというメリットがあります。さらに、BALFと言って気管支肺胞洗浄液を採取し、気管支内にどのような細胞が増えているかを鏡検することもでき、診断に大きく近く検査が山盛りです。

EBP時の気管支を観察すると
黄緑色の膿性の粘液が溜まっています。
粘膜表面はボコボコと不整な表面をしており、腫れていることがほとんどです。呼気時には粘液やボコボコが気管支腔に栓をするように塞いでしまうケースとしばしばあります。

BALFやサイトブラシによる採材
これらの検査は気管支粘膜表面の細胞を採取してきて、顕微鏡でどのような細胞が含まれているかを調べるものです。もし、好酸球性気管支肺症または慢性アレルギー性肺炎を患っている動物では含まれている炎症性細胞の50%以上が好酸球である場合がほとんどです。

f:id:otahukutan:20191016000748p:plain

 

【治療法】

『基本となる治療法』

好酸球性気管支肺症の基本的となる治療はコルチコステロイド療法であり、効果は抜群とされています。しかし、必ずしも完全に臨床症状を抑えられるとは限りません。

プレドニゾロンの用量
最初の1週間は1mg/kg BID の経口投与を隔日で行います。その次の週は1mg/kg SIDを隔日で行います。その後は状態が落ち着く用量までステロイドを減薬していきます。

経口のステロイド薬は問題が多い
先ほど説明したプレドニゾロンの用量は経口投与の場合の用量です。プレドニゾロンといえば、経口投与ができるという利便性の高さが医療現場で多用される理由の一つでもありますが、問題点が多くあるのも事実です。

ステロイドのデメリットとしては挙げられるのは『医原性副腎皮質機能亢進症の発生リスクの上昇』や『糖尿病や肥満、心疾患持ちの子では使用が禁忌』などがあります。これらの問題点は決して無視できるものではないため、代替できる治療法が必要になります。

『吸引ステロイド薬を使用する』

経口ステロイド薬で問題視されている副作用を軽減させられる代替療法として吸引ステロイド薬があります。ここ数年、吸引ステロイド薬の使用が徐々に増えています。

吸引ステロイド薬療法のメリット
・気道内に高用量の薬剤を送ることができる
・全身への吸収を抑え、副作用の出現が減る
・しっかり臨床症状を改善できる
などがあります。

ただこちらの治療法も全員に有効というわけには行かず、治療が難航するケースもあるようです。

【予後】

薬をやめると臨床症状から完全に解放される動物もいるようですが、再発率は高く、断薬後の数週間から数ヶ月後に再発しやすいようです。

【見落としてはいけない鑑別疾患】

アレルギー性肺炎以外に好酸球性肺炎を起こす原因があります。それを見落としたままステロイドによって炎症反応を抑えてしまうとエライことになるので気を付けましょう。

『鑑別すべきは寄生虫感染』

好酸球性肺炎を引き起こす原因としてアレルギー性肺炎の他に寄生虫感染があることが人医療ではわかっています。犬でも同様に起こるものとされています。

肺に寄生する時期を持つ寄生虫
・糞線虫類←経皮的に感染した場合、L3期に肺を経由して小腸に寄生
・回虫類(犬回虫)←5週齢以下の犬で特に注意
・住血線虫類
これらの寄生虫を呼吸器疾患や消化器疾患などを起こします。

EBP類似病変を起こす犬の寄生虫
・犬糸状虫(Dirofilaria immitis
・住血線虫(Angiostrongylus vasorum)←日本では稀
などが挙げられます。住血線虫は日本での分布はないですが、症状としては重く、出血性病変や神経症状など治療を行わないと命を落としてしまう危険な寄生虫です。

『寄生虫感染の診断方法』

寄生虫を診断するには『BALF』『糞便検査』によって行います。犬糸状虫では『検査キット』があります。住血線虫が分布しているエリアでは犬糸状虫症同様に簡易検査キットが販売されているようです。

【最後に】

今回は『アレルギー性肺炎(好酸球性気管支肺症)』の解説していきました。好酸球性気管支肺症は若齢の犬で発症しやすく、ステロイドが有効とされています。しかし、必ず行なっていなければいけないのが、寄生虫感染の除外診断です。寄生虫感染の多面的な診断とともに、必要であれば気管支鏡を用いたBALFの観察によって行われます。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 1099-1101p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 142-143p

板垣博, 大石勇 監修 ; 今井壮一, 板垣匡, 藤崎幸藏 編集 : 最新 家畜寄生虫病学, 朝倉書店, 142-145, 185-193p

 

【関連記事】

『犬猫で多い4種類の肺炎』

細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、アレルギー性肺炎(好酸球性気管支肺症)、誤嚥性肺炎については↓

www.otahuku8.jp

 

『肺がん』

www.otahuku8.jp