【はじめに】
今回は『右動脈弓遺残』についてです。本来なくなるはずの血管が残ってしまい、食道を縛ってしまう病気です。ミルクから流動食に切り替えてから、急にご飯を吐き出すようになった場合、この病気の可能性があります。
【目次】
【右動脈弓遺残について】
『右動脈弓遺残とは』
右動脈弓遺残は右方の第四動脈弓から発達した結果として起こる、血管輪の異常を示した遺伝性の疾患です。
本来、胎仔期には第一から第六までの6対の原始的な大動脈弓があります。 この疾患のキーとなるのは第四大動脈弓で、左の第四大動脈弓は『大動脈』として発達しますが、右の第四大動脈弓は『右鎖骨下動脈』へと分化していきます。 右の第四大動脈弓が発達することで、『右動脈弓遺残』が起こります。
『症状』
流動食を吐き出す
この病気は血管が食道を巻きつくよう起こる奇形なので、授乳期では問題がないのですが、流動食を食べる頃になると、食道が詰まってしまい食事中の『吐出』が見られるようになります。
授乳期では問題がなかったのに、流動食に移行する時期から急に病変が現れるのが、この病気の特徴的な症状です。
痩せてくる
イメージとしては食道が紐で縛られているような状態なので、ご飯を胃まで送り届けることができません。そういった状態が続くと栄養失調になり、痩せてきます。
誤嚥性肺炎のリスク
「食べては吐き出す」を繰り返していると、いつか肺へ食塊が侵入し誤嚥性肺炎を起こしてしまいます。誤嚥性肺炎になると発咳や発熱など時として重症になります。
『診断方法』
血液検査
通常変化が見られることはありませんが、肺炎などが見られると血液検査でCRPの上昇が認められます。
レントゲン検査
胸部レントゲン検査では心臓の頭側部で拡張した食道が認められます。その中には空気や食べ物などが詰まっており、食道を通れない何かが起こっていることが容易に認識できます。
バリウム造影
バリウム造影では心臓の頭側で食道の拡張が認められ、心基底部では食道の狭窄が見られます。
他の病気との鑑別
同様に流動食開始後に吐出が見られる疾患として、巨大食道症が挙げられます。巨大食道症によりる食道の拡張では心基底部で食道がギュッと縛られているような『食道の狭窄』が認められないため鑑別することができます。
『治療法』
手術によって、食道周囲の動脈管索を切断します。左第4肋間を開胸してアプローチしていきます。術後は誤嚥性肺炎が起こらないように立位で流動食を与えます。
【最後に】
今回は『右動脈弓遺残』について紹介しました。この病気は『流動食の吐出』が見られることを受け、レントゲン撮影を行い心臓のちょっと上で『食道の拡張』と心基底部での『食道の狭窄』が見られることが診断の決め手となります。治療法は外科的な狭窄の解除が必要となります。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 78p
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