オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『肝酵素①:ASTとALT』~血液検査を考える~

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【はじめに】

今回は『ALTとAST』について説明します。血液検査の測定ではほぼマストで測定されるALTとAST。これらが一体どのようなものかをご存知でしょうか?

「肝臓の良し悪しを見ている」

確かに肝臓が悪くなれば、ALTやASTは上昇します。しかし、実は肝硬変などとても肝臓が悪くなった時には上がらないのです。この記事を読め、なぜ肝臓のマーカーなのに、肝硬変になると上がらなくなるのかわかるようになります!

 

【目次】

 

【犬猫で測定される肝酵素】

『よく測定される肝酵素』

肝酵素はたくさんあるのですが、犬や猫の血液検査で測定される肝酵素は主に4つです。

血検で測定される4つの肝酵素
・ALT:アラニンアミノトランスフェラーゼ
・AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
・ALP:アルカリフォスファターゼ
・GGT(γ-GTP):γ-グルタミルトランスフェラーゼ

これらの酵素は肝細胞のターンオーバー(新しいものを作って、古いものを分解していくこと)によって、循環血液中に安定した血中濃度で循環しています。

酵素の血中濃度が上昇する時
安定して血液中に存在する酵素ですが、上昇することがあります。その原因のほとんどは『肝細胞膜の破壊』です。他には稀ですが、『酵素合成の亢進』や『酵素除去の減少』などがあります。

『肝酵素濃度の変化で分かること』

肝酵素の測定で見ているもの『肝細胞の障害』です。肝臓マーカーと聞くとどうしても『肝機能』ではないかと思い込みがちですが、先ほど挙げた4つの酵素は肝細胞内に存在する酵素で、肝臓が障害された時に血液中に漏れ出てくる酵素です。

肝酵素は2つに大別される
・細胞逸脱酵素→ALT、AST
・胆道性酵素→ALP、γ-GGT
これら2つの分類は肝細胞内の酵素が存在する場所に基づいて分類されています。

肝臓と胆管の解剖学的位置(図解)

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ALT、ASTが存在する場所
これら2つが存在する場所は肝細胞の細胞質内です。ASTに関しては犬や人では細胞のミトコンドリア内にも存在することがわかっています。
これらの酵素が最初、類洞内に漏出します。その後肝細胞の細胞膜が破壊されるような障害が見られた場合に全身循環へと漏出し、血液検査で高値を示すようになります。

ALP、γ-GGTが存在する場所
これらの酵素は毛細胆管と呼ばれる細胞に存在しています。毛細胆管は肝細胞より産生された胆汁を受け取る最初の場所で、胆汁を送るための胆管を形成しています。
胆管障害などによって酵素の濃度は上昇していきます。

肝酵素の存在場所(図解)

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『「肝酵素の上昇=肝臓の病気」は早計??』

肝酵素が上昇すれば、肝臓の障害を示唆しているとお話しましたが、実は肝酵素の上昇だけで肝臓の病気だと言い切るには早計にすぎません。

肝酵素の上昇を伴う肝臓以外の疾患
・循環器疾患:うっ血、低血圧、虚血
・内分泌疾患:副腎疾患、糖尿病、甲状腺機能亢進症(猫)、甲状腺機能亢進症(犬)
・消化器疾患:下痢、便秘、胃拡張、腸捻転、膵炎
・感染症:リケッチア感染症、腎盂腎炎、子宮蓄膿症、前立腺炎、敗血症、ウイルス感染症(パルボV、コロナV、猫呼吸器疾患)
・その他:過度な運動、外傷、筋炎、重度の貧血、悪性高熱
・腫瘍:骨、乳腺、転移
・骨:成長期、代謝性骨疾患、骨髄炎

このように肝酵素が上昇する可能性がある病気は肝臓以外にも多数挙げられます。

なぜこのような非特異が現れるのでしょうか?
そこには『アイソザイム』の存在が関係するかもしれません。

肝酵素のアイソザイム
肝酵素にはアイソザイムが複数認められます。アイソザイムとは本来の酵素と同様の触媒作用をもつにも関わらず、アミノ酸配列が異なる酵素のことを言います。
これらは血液中に含まれるプロテアーゼ(蛋白分解酵素)によって酵素が変性され、酵素の構造がわずかに変化してしまったものとされています。

アイソザイムで一番有名なのはALPです。ALPには多くのアイソザイムがあり、組織非特異性に腎臓や肝臓、骨に分布しています。

『肝酵素が上昇した時に考えること』

今までの話をまとめると
・肝酵素の代表4つ:ALT、AST、ALP、γ-GGT
・肝酵素の上昇は肝臓の"障害"を示唆する
・肝酵素の上昇には肝臓以外の原因もある

これらから分かることは肝酵素が上昇した時は『総合的な解釈』が必要であるということです。

総合的な解釈とは
総合的な解釈とは動物の年齢や性別、症状、身体検査、中毒、感染症など、肝臓一点に注視することなく、広い視野で考えるということです。

さらには『どのような上昇か』を考えることも大切です。
・上昇している期間→急性か慢性か
・安定性→上昇し続けるか、減少し続けるか、一定か
・パターン:胆道系か、肝臓系か
など。

【逸脱酵素:ALTとASTを考える】

『ALTとASTってどんな酵素?』

ALTはアラニンとα-ケトグルタル酸をグルタミン酸とピルビン酸に相互変換する酵素で、
ASTはアスパラギン酸とα-ケトグルタル酸をグルタミン酸とアスパラギン酸に相互変換する酵素です。

グルコース-アラニン回路
ALTとASTの2つの酵素はグルコース-アラニン回路と呼ばれる回路の一役を担っています。グルコース-アラニン回路とは肝臓から筋肉へグルコース(糖分)を供給するための回路のことを言います。

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ALTとASTの排泄経路
ALTとASTは類洞にある肝細胞に吸収されることで排泄されます。なので、これらの数値が上昇してしまう場合、肝細胞の障害だけでなく、類洞の潅流低下(虚血や門脈血管の異常)などが考えられます。

Endocytotic index for uptake by sinusoidal cells was 16 times with c-AAT and 34 times with m-AAT as compared with that for inulin or dextran which are taken up by fluid-phase endocytosis, suggesting involvement of adsorptive endocytosis in the uptake of the isozymes. 引用文献:Plasma clearance of intravenously injected aspartate aminotransferase isozymes: evidence for preferential uptake by sinusoidal liver cells.

 

『肝細胞の障害と密接な関係がある』

ALTとASTは24~48時間以内に起こった急性の肝細胞障害で上昇します。特に、壊死性病変ではその上昇が著しいです。

これら酵素の上昇と障害を受けた肝細胞の数は直接的に関係があるため、障害された肝細胞数が多いとその分、ALT・ASTの値は上昇します。

ただ、この2つの酵素の上昇は24~48時間以内に発生した肝細胞障害を反映しているので、今後の経過を推測することができません。肝臓の状態をより正確に把握するにはアルブミンや、コレステロール、ビリルビン、凝固因子などの測定も行っておく必要があります。

慢性の肝障害では
慢性期になると肝細胞数が減ってきたり、炎症が落ち着いてきたりするので数値が下がってきます。数値が下がったからといって肝臓が正常に戻ったと解釈するのは間違いです。

『ALTに関して』

「半減期は1~2日程度」

ALTの半減期
犬:59時間
猫:24時間以内
と、猫の方が半減期が短い

「診断精度:感度と特異度」

犬の場合
肝障害や肝細胞壊死では犬のALTに対する感度が高く、80~100%と言われています。しかし、肝硬変や空胞性肝障害、うっ血性肝障害、門脈血管の異常などでは感度は50~80%とやや劣ります。

猫の場合
猫のALTでは
・肝外胆管の閉塞
・胆管炎
・胆管肝炎
などの疾患で、感度が高く80~100%を示します。

特異度は?
ALTの肝疾患に対する特異度は高くなく、25%未満とされています。実はALTはわずかながら、心臓や腎臓、骨格筋などにも分布されており、肝臓だけに存在するものではありません。
そのため、ALTの上昇=肝障害と結びつけるのは早とちりになってしまいます。

「ALTの上昇で疑うべき疾患」

軽度〜中程度の上昇では
・薬の影響:抗てんかん薬や糖質コルチコイド
・空胞性肝障害
・門脈血管の異常
・うっ血性肝障害
などがあります。
そのほかに肝毒性をもつ物質の誤飲や感染症などでもALTの上昇は認められます。

肝毒性のある物質
・重金属
・テングダケ
・ソテツ
・キシリトール

感染症
・レプトスピラ感染症
・トキソプラズマ感染症

『ASTに関して』

「肝細胞以外にも多く存在する」

ASTはALTよりも肝細胞以外への分布が多く、骨格筋や心筋、腎臓などの細胞でも多く含まれています。脳や小腸、脾臓、赤血球にもASTは存在が確認されています。

血液検査項目CKにも注目する
血液検査においてASTと同時にCK(クレアチンキナーゼ)の上昇も認められる場合は肝臓よりも筋炎の可能性の方が高いです。CKは半減期が短いので検査時に上昇がなくても禁煙が起こっている場合もありますが…

「ASTは細胞のどこに存在するのか」

すでに上述していますが、ASTは細胞のどこに存在しているのか今一度確認しておきたいと思います。

ASTの存在部位
・細胞質内:80%
・ミトコンドリア内:20%
犬の肝細胞におけるASTの分泌は80%が細胞質内にあり、残りの20%がミトコンドリア内にあるようです。特に獣医領域では細胞質内にあるASTがキーポイントになってきます。

これオタ福の中では結構衝撃で、
大学の授業では
「ALTは細胞質内にあって、ASTはミトコンドリア内にあるので、細胞膜が破れるくらい軽度な障害であればALTが上昇し、肝細胞が粉々に破壊されるほど強い障害であればASTが上昇します」
と習っていたので、自分の中でイメージを書き換えなければなりませんでした。

「半減期について」

ASTの半減期は
犬:22時間
猫:77分←めっちゃ短い

「ASTの上昇で疑うべき疾患」

ASTは『肝細胞障害の程度』を示しています。

ASTが上昇しているとき
・肝細胞壊死
・胆管肝炎
・骨髄増殖性疾患
・リンパ腫の浸潤
・胆管閉塞
などが考えられます。

【最後に】

今回は肝臓の血液検査項目として『ALTとAST』を中心に解説しました。ALTとASTは肝細胞の細胞質内とミトコンドリア内に分布し、肝細胞が障害を受けた際に血液中に漏れ出てくる酵素です。この酵素の増減を血液検査によって測定することで、肝臓でどの程度の障害がおきているのかを把握することができます。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 258-263p