【はじめに】
今回は『犬パルボウイルス性腸炎』についてです。パルボウイルスは犬ではコアワクチンの一つに含まれており、聞き覚えのある方も多いのではないでしょうか?しかし、名前は聞くものの実際どんなウイルスでどんな悪さを知るのかについてはあまり分からないのではないでしょうか?今回はそんなパルボウイルスのお話です。
【目次】
【犬パルボウイルス性腸炎について】
『パルボウイルスとは』
パルボウイルスの特徴
パルボウイルスはエンベロープのないDNAウイルスで、抵抗性が強く、室温では数ヶ月~数年間感染性を維持することができます。犬だけでなく、コヨーテやタヌキ、狐などもイヌ科野生動物も自然宿主となっています。
二つのタイプがある
犬パルボウイルス感染症は犬パルボウイルス1型(CPV-1)と犬パルボウイルス2型(CPV-2)による二つのタイプがあります。
犬パルボウイルス性腸炎で問題となるのはCPV-2の方で、CPV-1による感染症は免疫力のない子犬でしばしば感染が報告されています。
細胞分裂が盛んな場所を好む
パルボウイルスはウイルスが増殖する際に細胞由来のDNAポリメラーゼを必要とします。そのため、細胞周期のS期に依存して増殖するので、S期を高頻度で迎える細胞分裂が盛んな器官(骨髄や腸粘膜)への感染を好みます。
『CPV-2の体内での立ち回り』
侵入→感染→増殖
犬パルボウイルス感染症の原因となるCPV-2ですが、糞便を経口摂取することで体内に侵入し、骨髄やリンパ系組織、腸管上皮細胞に感染して増殖します。
腸粘膜は出血する
感染細胞の標的とされた腸管上皮細胞はウイルスによって破壊され、出血します。こういった流れから、便は血様性の下痢便が出ます。よく『トマトジュースみたいな下痢』と表現されるくらい出血が激しい下痢です。
ウイルスは便から排泄される
ウイルスは感染後数日にわたって便と一緒に排泄されます。
『具体的な症状は』
初期症状
・食欲不振
・元気消失
などがあります。
進行すると…
・出血性腸炎(トマトジュース様下痢)
・嘔吐
・出血による貧血、蒼白化
命を落とすケースも
重症例では腸内のグラム陰性菌による敗血症や内毒素血症により、敗血症になってしまうと、『循環性虚脱』や『多臓器不全』によって死亡する場合もあります。
『診断方法』
血液検査
・好中球の減少
・リンパ球の減少
・ALT, ASTの上昇
・低血糖
・高窒素血症
・電解質異常
・多臓器障害
などが挙げられます。
検査キットの使用
糞便中に排泄されたCPV抗原を検出するELISAによる検査キットがあります。そちらを使用すると精度の高い診断ができます。
『治療法:基本は対症療法』
輸液
嘔吐や下痢によって脱水していることがあるので、輸液によって体液や電解質を保持してあげます。
抗菌薬
エンドトキシンショックや敗血症に備えて、予め広域抗菌薬を非経口的に投与しておくべきです。
食事
食事に関しては早期の経腸栄養が予後に良いとされているので、食べれる範囲で食べさせてあげれば良いでしょう。
『予防方法』
ワクチン接種
パルボウイルス感染症を防ぐためには『ワクチン接種』が有効です。
感染犬を隔離
このウイルスは感染犬の糞便を経口摂取することによって感染していきます。同居犬がいる場合は早めに隔離しておくべきです。
【最後に】
今回は『犬パルボウイルス性腸炎』について紹介しました。このウイルスは細胞分裂が盛んな器官を狙って感染するため、腸粘膜や骨髄が標的にされがちです。特徴的な症状に『トマトジュース様の下痢』というものがあるので、真っ赤な下痢がみられた場合は早急に隔離し、病院へ連れていきましょう。