オタ福の語り部屋

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【動脈管開存症(PDA)】~"すきま時間"の獣医学~

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【はじめに】

今回は『動脈管開存症』についてです。動脈管開存症は生後数日の犬や猫で見られる疾患です。この病気は血管の病気で、本来閉じるべき血管が開いてしまっていることで大変な事態になってしまいます。では詳しい解説をしていきます。

 

【目次】

【そもそも"動脈管"とは】

動脈管とは
動脈管とは胎生期に肺動脈から大動脈への抜け道を作っている血管を言います。通常の場合、生後すぐに肺に空気が入ると閉じてしまいます。

なぜそんな血管があるのか
肺は胎生期には空気が入っておらず、必要とする血液量が少ないです。そのため、血液を大動脈にすぐに乗せられるようにバイパス血管を作成しているのです。

生後すぐに塞がる
生後は肺が含気し、右心室から拍出された血液は肺動脈を通って肺へ送られます。その時、動脈管は徐々に収縮していき、2~3日で塞がります。

【動脈管開存症について】

『どのような病気か』

簡単にいうと、『生後2,3日で収縮して塞がるべき動脈管が収縮しない先天的奇形』を言います。これは動脈壁の組織的な異常が原因で収縮しないとされています。

『何が起こるのか』

動脈管が開きぱなしの状態が続くと様々な病変が現れます。

①血液が大動脈から肺動脈へ
大動脈の方が肺動脈よりも血圧が強いため、そこのバイパス血管があると大動脈の血液は肺動脈側へと流れていきます。左心から右心へと血液が流れていく様子からこの状態を『左-右短絡』と言います。

②肺血流量増加→左心へ流れ込む
肺動脈へ血液が流れていくので、当然肺の血液量は増加し、その分左心側へ帰ってくる血液量も増えます。この状態が続くと左心では正常時以上の血液量を送り出す必要が出てくるので負荷が増大します。この状態を『左心の前負荷増大』と言います。

③左心で逆流が起こる
左心の負担はやがて限界になり、左心室から左心房側への僧帽弁逆流がおこります。こうなると、肺は血液が溜まってうっ血状態になり、心臓の収縮力は弱まり、事態が深刻化します。

④ついには最悪の「右-左短絡」へ
弱った左心により血液が停留した肺では肺高血圧症を起こします。やがて、肺動脈の血圧は大動脈の血圧を上回り、右心から左心へと血液が流れる『右-左短絡』を形成します。こうなると肺を通過する前の酸素濃度の低い血液が全身循環に乗ることになり、低酸素血症が見られるようになります。

『症状』

症状は左心系うっ血心不全が起こるまでは見られません。

前項②の段階にくると
・運動不耐
・頻呼吸
・咳
などが見られるようになります。

右-左短絡が生じると
胸より頭側の粘膜(歯肉や眼結膜)は正常色(ピンク色)であるのに対し、尾側の粘膜(包皮粘膜や膣粘膜)はチアノーゼ(青紫色)を示すようになります。
体の頭側微速で病変の有無が出るのは肺動脈の血流が合流するのが、腕頭動脈、左鎖骨下動脈よりも遠位部であることが原因です。

『診断方法』

身体検査
聴診では出生直後から『連続性雑音』が聴取されます。股動脈の触診では『バウンディングパルス(反跳脈)』が触知できます。

レントゲン検査
・左心房拡大
・肺血管拡張
・左心室拡大
が認められます。さらに動脈管造影で動脈管の開存を発見することで、確定診断できます。

心エコー
特徴的な動脈管開存症の短絡血流を捉えることができます。

『治療法』

短絡血管を見つけたら
短絡血管を発見した場合はなるべく早く外科手術を行います。手術までの間は肺うっ血を解除してあげるために『ACE阻害薬』や『フロセミド』などの利尿剤を使用しておきましょう。

手術の方法
・左側開胸術からの動脈管結紮
・血管内塞栓形成コイルの設置
・Amplatzerの設置
などがあります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、状況に応じて使い分けが必要です。

右-左短絡では
右-左短絡が起きてからの動脈管結紮は、致命的な心不全と肺水腫を起こすため手術適応外です。早期の発見、治療を心がけましょう。

【最後に】

今回は『動脈管開存症(PDA)』について解説しました。ちょっと字数増えてしまいましたが、動脈管開存症という病気がどのようなステップで進行していくのか、そして放置がいかに危険であるかが分かって頂ければ、幸いです。

【本記事の参考書籍】

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 71-72p