【はじめに】
今回は『拡張型心筋症』についてです。今回は大型犬飼育者必見の疾患です。拡張型心筋症は大型犬での発生が多く、その原因は遺伝性であると言われています。重度に拡張した心臓ではどのような弊害があるのかについて解説していきます。
【目次】
【拡張型心筋症について】
『拡張型心筋症とは』
どんな病気?
拡張型心筋症とは心筋の収縮力の低下や心腔(心臓の内腔のこと)が重度に拡張してしまう心疾患で、犬(特に雄の純血種大型犬)に発生が多い疾患です。
好発年齢は?
発症年齢は幼若~老齢期まで様々です。
猫での発生について
拡張型心筋症は一般的には犬での発生が中心となる疾患ですが、猫ではタウリン欠乏症の際に発生することが知られています。
『原因について』
拡張型心筋症は遺伝的な要因が大きい疾患で、好発品種としては以下のような品種が挙げられます。
好発品種(犬)
・ドーベルマン・ピンシャー
・ボクサー
・ラブラドール ・レトリバー
・ゴールデン・レトリバー
・グレート・デン
・アメリカン・コッカー・スパニエル
好発品種(猫)
・シャム
・バーミーズ
遺伝性以外に考えられる原因として栄養素の欠乏が挙げられます。
・タウリン
・L-カルニチン
などの栄養素が欠乏した際は拡張型心筋症の発生リスクが高まるとされていて、猫ではタウリン欠乏による拡張型心筋症が稀に起こります。最近ではキャットフードの完成度が高いため、発生は減少傾向にあります。
『症状』
犬の症状
犬では心収縮力の低下から、容量負荷が亢進し、
・運動不耐症
・肺水腫
・胸水貯留
・呼吸困難
などが認められます。
猫の症状
猫では犬と同様の症状に加え、『血栓塞栓症』が発生する場合があります。その際、前肢や後肢の麻痺が見られることがあります。猫の急な四肢の麻痺では心疾患を疑いましょう。
『診断方法』
身体検査
心臓の収縮力が低下しているため、心収縮力低下を示唆する検査所見が確認できます。
・動脈圧の低下
・CRT(毛細血管再充満時間)の延長
などがあります。
聴診
聴診では頻脈や不整脈、心雑音(第Ⅲ音や第Ⅳ音)などが聴取されます。ラッセル音が聞こえた時は『肺水腫』を疑いましょう。ラッセル音とは気管や気管支、肺胞などに分泌物が貯留している時に聞こえる音を言います。
心電図検査
心電図検査では
・洞頻脈
・心房細動
・心室頻拍
などの『頻脈性不整脈』や『心室期外収縮』を検出できます。
レントゲン検査
全ての心臓内腔が大きく拡張している像に加え、症状に対応して肺水腫や胸水、後大静脈の拡張、腹水などが観察されます。
確定診断には心エコー
拡張型心筋症であると確定診断するためには『心エコー』は欠かせません。確認すべきはMモードによる左心室の収縮力の有無です。拡張型心筋症の場合、心臓が拡張し、収縮力を失っています。
そのため、注目すべき検査項目は左心室の『拡張末期径』と『収縮末期径』の差です。この差を測定することで、収縮できていないことを確認することができます。
『治療法』
胸水、心嚢水の抜去
呼吸が明らかに苦しそうにしており、呼吸音や心音が聞こえない場合は胸水や心嚢水が貯まっている可能性があるため、早急に胸腔穿刺による胸水・心嚢水の抜去を行います。
利尿剤の使用
拡張型心筋症に伴う浮腫や胸水、腹水、肺水腫には利尿剤で対抗します。使用される利尿剤はフロセミドが一般的です。
強心剤の使用
この病気の根源である心収縮力の低下を補うために『強心剤』を使用します。
強心剤として主に
・ドパミン
・ピモベンダン
が使用されます。
十分に拡張時間を確保するために、β遮断薬が使用される場合もあります。
ACE阻害薬の使用
ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬はアンジオテンシンというホルモンを抑えることで、血管を拡張させる薬です。血管を広げることで心臓への負担を下げてあげることが狙いです。
その他
・脱水を補正するために輸液を行う
・血圧上げないように低ナトリウム食を与える
などがあります。
【最後に】
今回は『拡張型心筋症』について紹介しました。拡張型心筋症は心臓内腔が大きく拡張し、心収縮力が大きく低下してしまうことで様々な症状が見られることが分かりました。心エコーによる診断と、心臓への負担を下げてあげる治療を行う必要があります。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 86-88p