オタ福の語り部屋

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【猫の先端肥大症】高齢猫、糖尿病猫が要注意⁉︎ 成長ホルモン産生性下垂体腫瘍とは

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【はじめに】

 今回は『猫の先端肥大症』さらには成長ホルモン産生性下垂体腫瘍について解説しています。この病気は高齢の猫に多く、さらにコントロールが効かなくなった糖尿病猫では特に要注意です。
犬の下垂体腫瘍といえば、ACTH産生性下垂体腫瘍からの『クッシング症候群』が有名ですが、猫の下垂体腫瘍は成長ホルモン産生性下垂体のからの『先端肥大症』が有名です。
同じ下垂体の腫瘍でも腫瘍の由来細胞の違いによって犬と猫で全然異なる病気になるのが下垂体腫瘍の興味深いところです。

 

【目次】

 

 【先端肥大症について】

『猫の先端肥大症とは』

先端肥大症は下垂体より産生・分泌される成長ホルモン(GH)というホルモンが過剰に分泌されることで起こる内分泌の病気です。

下垂体前葉には『Somatotroph Cell』と呼ばれる細胞があります。Somatotroph Cellとは日本語に訳すと『成長ホルモン産生細胞』と呼ばれています。この細胞は文字通り成長ホルモンを産生している細胞です。

この成長ホルモン産生細胞が腫瘍化し、無秩序に成長ホルモンを産生し続けた時、成長ホルモンが過剰に分泌され先端肥大症になってしまいます。

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『糖尿病と先端肥大症の関係性』

イギリスの論文になりますが、1221匹の糖尿病を患う猫を調査した研究があります。
この研究では血清IGF-1(インスリン様成長因子)濃度が1000ng/mlを超えてた猫は319匹(26.1%)いました。
IGF-1とはインスリン受容体に結合してしまうペプチドなので、インスリンがインスリン受容体に結合することができず、結果としてインスリン抵抗性糖尿病の原因となります。
猫の糖尿病のうち319匹が血清IGF-1濃度上昇に伴うインスリン抵抗性糖尿病でした。さらにその319匹中63匹は下垂体の画像診断・病理診断を行なっています。63匹のうち、56匹はCT検査で、3匹はMRI検査で、1匹は検死解剖によって、下垂体腫瘍と診断されました。その数合計60匹です。比率で言うと、IGF-1上昇群で下垂体の検査を行なった63匹中の60匹で異常が見られたということなので、実に95%の猫が成長ホルモン産生性下垂体腫瘍であったということになります。

In total 1221 diabetic cats were screened; 319 (26.1%) demonstrated a serum IGF-1>1000 ng/ml (95% confidence interval: 23.6–28.6%). Of these cats a subset of 63 (20%) underwent pituitary imaging and 56/63 (89%) had a pituitary tumour on computed tomography; an additional three on magnetic resonance imaging and one on necropsy. These data suggest a positive predictive value of serum IGF-1 for hypersomatotropism of 95% (95% confidence interval: 90–100%), thus suggesting the overall hypersomatotropism prevalence among UK diabetic cats to be 24.8% (95% confidence interval: 21.2–28.6%). 引用文献:Studying Cat (Felis catus) Diabetes: Beware of the Acromegalic Imposter

IGF-1とインスリン(図解)

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『どんな猫で起こりやすいの?』

性別差
先端肥大症を発症する猫は一般的に雄猫が多いと言われています。

Acromegaly was diagnosed in 14 middle-aged to old cats of mixed breeding. Thirteen (93%) of the cats were male and one was female. 引用文献:Acromegaly in 14 cats.

好発品種
好発品種の報告はありません。

好発年齢
中~高年齢での発症が多いです。

糖尿病歴のある猫はご用心
インスリン抵抗性の糖尿病歴のある猫で治療効果が薄い猫では注意が必要です。通常、糖尿病患者の特徴的な初期症状として『多飲多尿』、『多食』、『体重増加』がありますが、治療が難航し病気が進行するにつれて『体重減少』が見られます。
治療が難航している状態にも関わらず、体重が増え続けている場合は成長ホルモン産生下垂体腫瘍に伴う先端肥大症を疑う必要があるかもしれません。

【先端肥大症で見られる症状】

『特徴的な症状とは』

先端肥大症の進行は非常にゆっくりであるため、飼い主さんは診断されるまで気づかないというケースも多々あります。

特徴的な症状
・手足の腫大
・口周りの腫大
・下顎骨の突出
・歯間の増大
・腹腔内臓器の腫脹
・呼吸の狭窄音(いびき)
などが挙げられます。

特に飼い主さんからはいびきが聞こえるという訴えが多いようです。一番気づきやすいのかもしれませんね。

『身体検査で見られる異常』

身体検査は触診、聴診などを行う検査法で簡単にできる検査です。
身体検査で発見できる先端肥大症の特徴的所見は
・腹腔内臓器の腫脹
・心雑音
・不整脈(ギャロップ音)
など

 『神経症状について』

下垂体腫瘍に起因する神経症状は稀であるとする文献が多くあります。しかし、それは過小評価なのではないかと異議を唱える先生方もいらっしゃいます。
というのも、倦怠感ややる気の消失、視力の低下が見られるケースもあるためです。

さらに神経症状とは若干ずれるかもしれませんが、糖尿病を患う猫であれば糖尿病性神経炎によって末梢神経障害が出たり、先端肥大症になるに従って関節炎などが起こり、跛行(足を引きずって歩くこと)を示す猫も見られます。

【先端肥大症と診断するには】

『先端肥大症はなぜ起こるのか?』

先端肥大症と診断するにはまず、なぜ『身体の末端が巨大化してくるのか』を考えなければなりません。先ほどから何度もお話に出ているので、クドいかもしれませんが、先端肥大症の原因は下垂体にある成長ホルモン産生細胞由来の腫瘍が成長ホルモンを過剰に分泌していることにあります。

つまり、先端肥大症と診断するには下垂体腫瘍の確認が必要になってきます。この手の下垂体腫瘍は大きくなることは少ないため画像診断だけに頼ることはできません。
成長ホルモンが過剰になっていることを証明していく必要があります。

『血中成長ホルモン値の測定』

先端肥大症を呈する猫でしばしば成長ホルモン値の上昇が確認されています。全ての猫で上昇しているわけでは無いようです。

さらに、糖尿病を患っている猫で先端肥大症を呈している猫とそうで無い猫で成長ホルモン値を測定したところ、結果に重複(オーバーラップ)が認められたという報告があります。つまり、糖尿病を持つ猫では先端肥大症を持つ猫とそうで無い猫で成長ホルモン値に有意な差はなかったということを言っています。1つの参考になりますね。

The concentrations of growth hormone in the treated and untreated diabetic cats without hypersomatotropisms were not significantly different and there was an overlap in its concentrations in the diabetic cats with and without hypersomatotropism.引用文献:Measurements of growth hormone and insulin-like growth factor 1 in cats with diabetes mellitus.

 

『GHとIGF-1について』

GHとIGF-1の名称について
GHとは growth hormone すなわち『成長ホルモン』のことを言います。
そしてIGF-1は insulin-like growth hormone 1 すなわち『インスリン様成長因子1』のことを言います。

GHとIGF-1の相互作用
先端肥大症患者で見られる身体的な変化は成長ホルモンの同化作用が原因で起こっています。そして、成長ホルモンはIGF-1の合成に関与しています。成長ホルモンの産生量が慢性的に増加していくと、IGF-1の量も増加していきます。

IGF-1の測定の方が優秀?
成長ホルモンが上昇するとIGF-1も上昇するということがわかりました。では、成長ホルモンとIGF-1のどちらが先端肥大症を診断する上で優秀なホルモンなのでしょうか?

結論から言うと、IGF-1の測定を行うべきとされています。
実は成長ホルモンの測定は信頼度が低いのです。なぜなら、成長ホルモンというものはパルス状(一点集中?)に放出されるホルモンで、かつ半減期が短いため、安定した数値を測定することが難しいとされています。

一方で、
IGF-1の場合は成長ホルモンと比較すると測定値が安定しており、診断精度も高い検査になります。一般的にIGF-1の数値は24時間の成長ホルモン濃度を示しているとされています。
具体的な診断精度としては
・特異度:92%
・感度:84%
と割と優秀な検査法みたいです。 

日本ではこの検査をやっている会社はあるのでしょうか?誰か知っていたら教えて下さい。

Serum IGF-I concentration was significantly (P < .0001) increased in acromegalic diabetic cats, compared with well-controlled and poorly controlled diabetic cats. Sensitivity and specificity for serum IGF-I concentration were 84% (95%/ confidence interval [CI] = 60.4-96.6%) and 92% (95% CI = 81.3-97.2%), respectively.引用文献:Serum insulin-like growth factor-I concentration in cats with diabetes mellitus and acromegaly.

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↑図に記載していますが、グラフの動態はテキトーです。あくまでイメージ図。
 

『CT/MRIを用いた画像診断』

CTやMRIで下垂体が大きくなっているかを観察します。一般的に脳や脊髄などの骨に囲まれた器官を見るにはCTよりMRIの方が優れています。下垂体もそれに準じます。

CTやMRIを用いた画像診断であっても、本疾患の場合、垂体が腫大しない場合もあるので感度が低い検査方法となります。つまり、下垂体の腫大が無いからといって否定はできないということです。

【治療は定番のあれ】

『下垂体腫瘍の治療法と言えば』

下垂体腫瘍の治療といえば、『放射線治療』が基本となります。
経蝶形骨下垂体切除術という外科的な治療もありますが、猫ではほとんど行われないようです。

 

放射線の副作用について
先端肥大症の症例数が少ないことと、放射線治療を行った症例が少ないということから放射線治療の副作用について言及することは難しいようです。

放射線治療の欠点
・高額な治療費
・利用可能な施設の乏しさ
・幾度もの全身麻酔
この3強が挙げられます。

先端肥大症を患っているの猫のほとんどは高齢かつ糖尿病であるケースなので、治療のたびに繰り返される全身麻酔に体が耐えられるかは微妙なところです。

『薬を用いた内科療法』

基本的には放射線治療が外科的切除した治療法としては無いのですが、あえて薬物療法をやるとするならば、以下のような薬があります。

先端肥大症で使用される薬
・ソマトスタチンアナログ製剤
(・成長ホルモン受容体拮抗薬←猫での使用報告なし)
(・ドーパミン作動薬←猫では効かないとされている)
などが挙げられます。

ソマトスタチンアナログ製剤
この薬はソマトスタチン受容体に作動する薬で、下垂体より成長ホルモンが放出されるのを抑制する作用を持っています。
この薬が効いているかを評価するためにはIGF-1やGHの測定、下垂体の大きさ、臨床症状など総合的に評価して行います。

オクトレチド®︎が期待されている
オクトレチド®️というソマトスタチンアナログ製剤が研究ではよく使用されています。オクトレチドがGHやIGF-1を有意に減少させたという報告があり、現在コロラド大学で研究が進められているようです。

『飼い主さんが実際に選ばれる治療法とは』

先端肥大症に特化した下垂体腫瘍に関する治療法をお話ししてきましたが、実際の現場で飼い主さんが選ばれる治療法というのは糖尿病に対するインスリン療法のみというのが現状です。

とはいえ、インスリンに抵抗性を示す成長ホルモンがたくさん出ている状態なので、インスリンを投与してもなかなか状態が回復することのは困難です。
インスリンの投与量を増やしたり、低炭水化物食を徹底するなどして、糖尿病に対する治療を中心に行っていきます。

【予後について】

長い目で見た場合に予後はあまりよくありません。
ほとんどの猫で、心臓や腎臓がやられたり、神経症状が現れたり、さらには糖尿病が進行していくなどして、亡くなってしまうケースが多いです。
症例数の少ない研究の報告になりますが、生存期間中央値は20.5ヶ月とされています。

【最後に】

今回は『猫の先端肥大症』さらには成長ホルモン産生性下垂体腫瘍について解説してました。成長ホルモンはIGF-1の合成を促進することで、インスリンの阻害を邪魔し、高血糖へと導きます。糖尿病持ちの猫ではこの成長ホルモンの分泌過多のせいで、インスリンがうまく機能できず、糖尿病のコントロールが不能となります。
糖尿病を患ってから顎が大きくなった、手足が大きくなった、お腹が腫れてきたなどの症状が認められる場合、先端肥大症が疑われます。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 508-510p

 

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