オタ福の語り部屋

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【肺動脈狭窄症】~"すきま時間"の獣医学~

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【はじめに】

今回は『肺動脈狭窄症』についてです。右心室の出口、肺動脈が狭くなってしまうこの病気。どのような状態に心臓が追い込まれるのか、そして、症状や診断方法、治療法について簡単に紹介していきます。
 

【目次】

 

【肺動脈狭窄症について】

『肺動脈狭窄症とは』

概要
肺動脈狭窄症は小型犬に多くみられる先天性肺疾患です。猫でも稀にみられます。

分類
狭窄が起こる部位によって
・弁上狭窄
・弁狭窄
・弁下狭窄
・末梢性狭窄
の4つに分類されます。
この中で最も発生が多いのは『弁狭窄』です。

どういった状況なのか
肺動脈狭窄症とはつまり何が起こっているのかということを解説します。通常の肺動脈弁は前尖、左尖、右尖と3つあり、それぞれがきれいに分かれています。しかし、肺動脈狭窄症(特に弁狭窄)の場合はこの3つの弁がきれいに分離できず、弁周囲が狭くなっている状態になっています。

『病態生理』

病態生理を簡単にいうと肺動脈が狭くなっていると何が良くないのかということです。

心臓は責任感が強すぎる
心臓というのは十分量の血液を送れない状況に陥った時、その状況を打開するために強行策を行います。

肺動脈が狭くなっていると、肺へ血液を送りづらくなるため、心臓は今まで以上に頑張り、右心室へ負担が増大します。

持続的な圧負荷増大の果てに…
今回の場合のように、心臓の血液の出口が詰まっている状態を『圧負荷の増大』と言います。この状態が持続すると心臓は頑張り続けるため、代償性の『右心肥大』が起こります。右心肥大により心筋の栄養血管が圧迫され、虚血性のダメージを受けます。そして、心筋は筋肉としての機能を失った『線維化』という状態へ進行していきます。

心臓ついに、力尽きる
肺動脈の欠陥を個の力で補おうとする責任感の強い心臓ですが、やがて限界の時は来ます。

『圧負荷の増大→右心肥大→虚血性ダメージ→線維化』という流れを経て、心臓は収縮力を失い、『うっ血性心不全』と呼ばれる状態に陥ります。

『見られる症状』

軽度の場合
症状が初期段階で、軽度な場合は聴診で心雑音が確認されることがありますが、無症状であることが多いです。聴診の異常所見は『診断』の項で解説してます。

中等度~重度の場合
進行してくるとうっ血性心不全の状態になるので、右心不全と同様の病変を示します。右心不全になると、大静脈が鬱滞して、静水圧が亢進するため、
・腹水
・不整脈
・頸静脈拍動
などが見られるようになります。

『診断』

胸部聴診
左側心基底部で収縮期の駆出性雑音が聴取できます。肺動脈狭窄症が重度になると、ジェットの雑音が頭頂部でも聴取できることがあります。

心電図
Ⅰ,Ⅱ誘導で深いS波が見られ、右心室拡大が示唆されます。

レントゲン検査
VD像(腹-背像)では1時の方向に肺動脈が突出して見えます。

心エコー検査
心エコー検査では『右心室肥大』『肺動脈流出路での血流速の上昇』を確認します。
血流速の測定方法は簡便な方法として『簡易ベルヌーイ式』というものがあります。

【簡易ベルヌーイ式】
ΔP = 4 × V^2  (ΔP:圧較差, V:血流速)

以上の公式を用いて、概算を出すことができます。

『治療法について』

まずは内科的療法
内科的療法として
・運動制限
・β遮断薬
・利尿薬
などが挙げられます。

肺動脈狭窄症では心臓に負担がかかっている状態です。さらなる負担を避けるためにも、運動制限は必ず行いましょう。

さらにβ遮断薬も有効で、心拍数を下げ、心臓を落ち着かせます。

うっ血徴候が認められる場合は利尿薬によって、容量負荷を軽減してあげることが必要となります。

外科手術を行うべきか
外科手術を行うべきのポイントは
・年齢
・臨床症状
・肺動脈弁の圧較差
です。

肺動脈と右心室の圧較差が50mmHg以上もしくは右心内圧が70mmHg以上の場合は外科的手術が示唆されます。

手術方法
・バルーン弁形成
・弁形成
・弁切開
・パッチ移植
などがありますが、手術の難易度や侵襲度からもバルーンが選択されることが多いです。ただ、犬の場合、弁の低形成が問題となっていることが多いので、バルーンによる拡張後は再狭窄しやすいです。

【最後に】

今回は『肺動脈狭窄症』について紹介しました。簡単にまとめると、肺動脈狭窄症は若年齢の小型犬に発生しやすい病気で、軽度の場合は無症状ですが重度になると、腹水や頸静脈の拍動などが認められます。心臓に負担がかかる疾患なので、なるべく負担をかけないような治療法が選択されます。

【本記事の参考書籍】

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2, 文英堂出版, 2014, 72-73p