【はじめに】
今回は『乳び胸』についてです。乳び胸とは胸腔内にリンパ液が溜まってしまう病気で、突発的に起こることもありますが、多くの場合は原因疾患が隠れています。
【目次】
【乳び胸について】
『乳び胸とは、その原因は?』
定義
胸管から漏れたリンパ液(乳び)が胸膜腔に貯留した状態
正常乳びの経路
腸管から腸間膜リンパ管を通り、腹腔内で乳び槽と呼ばれる胸管の起始部でリンパ液が集合します。そのあと、横隔膜を横断して胸管へと入り、胸腔頭側部で静脈系へと合流します。
出口が詰まると…
胸管から静脈系へと乳び液は排出されていくのですが、その出口である前大静脈の圧が上昇すると、出口が詰まってしまいます。この状態が持続すると、胸管は拡張し、乳びが胸腔へ漏れ出します。こういった流れで、乳び胸が起こります。
代表的な原因疾患
前大静脈の圧上昇に寄与する疾患があります。その原因により、前大静脈の圧が上昇し、胸管が詰まるというわけです。
・先天性心疾患
・右心不全
・心筋症
・心タンポナーデ
・犬糸状菌症
・前大静脈血栓症
・真菌性肉芽腫
・心基部腫瘍(ケモデクトーマ)
・縦隔腫瘍
・肺葉捻転
・外傷性の胸管破裂
などなど、考えるべき疾患はたくさんあります。犬や猫の場合、外傷による胸管破裂はすぐに治癒するため乳び胸に発展することは稀です。
原因不明な場合もある
原因不明な乳び胸もたまに起こります。それは特発性乳び胸と診断されます。
『症状』
早期の症状
一番早期に現れるのは『持続的な咳』です。
主要な症状
持続性の咳に加え、呼吸困難が主な症状となります。
そのほかの症状としては元気消失、食欲不振を始め、体重減少、心雑音、不整脈、頚動脈の拍動があります。
『診断方法』
「胸水の分析」
乳び胸の診断には胸腔内に貯留した胸水を分析することが1番の近道です。
性状
胸水の性状は『総蛋白量』、『細胞数』、『細胞成分』で分類できます。乳び胸の性状は以下のようになります。
・総蛋白量:>2.5g/dL
・細胞数:<10,000/μL(6,000~7,000/μL)
・主な細胞成分(初期):正常リンパ球
・主な細胞成分(後期):非変性性好中球
これらを下の表に当てはめると、乳び胸は変性漏出液~滲出液に分類されます。
血清TG濃度との比較
乳び胸の最も精度が高い診断方法と評される、血清トリグリセリド(TG)濃度との比較です。乳び胸の場合、血清TG濃度よりもTG濃度が高いのが最大の特徴です。
ズダンⅢ染色
脂質を染色する方法の1つで、中性脂肪(TG)を橙黄色~橙赤色に染色します。
「原因疾患の検索」
先ほど挙げた通り、乳び胸は乳び胸を原因疾患というものが存在しています。レントゲンや超音波、CT、MRIなどを駆使して、原因疾患の検索に努めます。
『治療法』
乳び胸の治療アプローチは2つあります。
①内科的保存療法
②原因疾患への治療
①内科的保存療法
この治療法は簡単にいうと「胸水を除去しましょう」ということです。
そのための治療法として
・低脂肪食の給餌
・胸腔穿刺による胸水抜去
乳び胸の主成分であるトリグリセリドをなるべく減らすために低脂肪食を徹底します。そして、胸腔内に胸水が持続的に貯留していると『線維素性胸膜炎』を起こす可能性があるので、定期的な胸腔穿刺による胸水抜去を行います。
②原因疾患への治療
乳び胸は原因疾患による胸管排泄路の閉塞が原因で起こっていることが多いので、原因疾患の治療を進めれば、すぐに改善される場合があります。
特発性乳び胸の場合
突発的に解消されることがあるので、内科的保存療法を続けていきます。線維素性胸膜炎は予後不良因子なので、そうならないように注意しましょう。
【最後に】
今回は『乳び胸』について解説しました。乳び胸が見られた場合、まずは原因疾患の検索に努めます。そのあと、内科的保存療法と原因疾患への治療を同時に進めていくことで改善されるケースが多いです。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 149-150p
動物病理学総論 第3版 ,日本獣医病理学専門家協会 編, 文英堂出版, 269p
Konig・Liebich 著, カラーアトラス獣医解剖学編集委員会 監訳; カラーアトラス獣医解剖学 増補改定第2版, 緑書房, 2016, 569p