オタ福の語り部屋

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【下痢に対するアプローチ】

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【はじめに】

 今回は『下痢に対するアプローチ』について解説します。
下痢というものは急性で軽度なものから、放っておくと衰弱し致死的なものまで重症度に幅が広く、決して無視できない症状です。これらの症状とそれに適合する検査を行うことで、体の中で何が起こっているのか正確に知る必要があります。
まずは軽度なのか重度なのか、これを判別しなければなりません。今回は『下痢』という症状から考えられる疾患と行うべき検査を中心に解説しています。

 

【目次】

 

【その下痢は急性?? or 慢性??】

下痢が急性のものか慢性のものかを鑑別していきます。

『急性下痢』

急性とは下痢が普段見られないのにここ1~2週間で急に下痢が見られたものをいいます。

急性の場合、臨床的に脅威がない下痢の場合と、命の危険に及ぶほどの重篤な下痢(出血性胃腸炎:パルボウイルスなど)の場合と2パターンあります。

ほとんどの急性下痢は脅威のない下痢であることが多く、対症療法(駆虫薬、抗菌薬)や補助療法(高消化性フード)で治癒します。

重篤な急性下痢の場合は血液検査(CBCと生化学)をしっかり見ておく必要があります。

 

『慢性下痢』

2週間以上、下痢が続く場合は慢性下痢の可能性があります。
慢性下痢の場合は小腸性下痢大腸性下痢で分けて考えられます。この2つを区別するのに量や頻度は関係なく、体重減少や血便、粘液便の有無が重要な指標となってきます。

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【小腸性vs大腸性】

『小腸性下痢の特徴的な臨床症状』

小腸では栄養吸収を行なっているため、体重減少が見られます。一方で重度な出血や胆管閉塞が見られない限りは脂肪便やはっきりとしたメレナ(黒色便)はあまり見られません。

『大腸性下痢の特徴的な臨床症状』

大腸では水分の吸収と排便までの糞の貯留を行なっています。そのため、重篤な下痢ではない限り、体重減少は見られません。逆に血便や粘液便などが典型的な症状となります。

ただし、結腸で起こった軽度~中等度の疾患の場合は血便や粘液便なども見られない場合があります。
その他に直腸で起こった疾患の場合はテネスムス(排便時のいきみ)を起こすこともあります。

 

【小腸性下痢が考えるべき疾患】

消化不良(EPI:膵外分泌不全)なのか吸収不良なのかを調べます。

『消化不良の場合』

消化不良で下痢が起きている場合、膵外分泌不全(EPI)という膵臓の消化酵素がうまく出せていない病気である可能性があります。
EPIは猫ではあまりありませんが、犬では考えておかなければいけいない重要な疾患です。

EPIの検査で最も特異度感度が高い検査法としてTLI(トリプシン様免疫活性)があります。EPIがこの検査によって除外されれば、吸収不良を考えます。

『吸収不良の場合』

吸収不良は『蛋白漏出性腸症(PLE)』か『PLE以外』かをまずは考えます。
 

PLEの場合
PLEの最大の特徴は『進行性に血清アルブミン濃度が減少していく』ということです。進行性であることすなわち測定結果を正確に比較するために、必ず血清アルブミンを同一の機械で測定することが重要です。

ちなみに注意しなければいけないのは、血液検査項目にある「T.P(総タンパク)濃度」というのはアルブミン+グロブリンを測定しているので、あんまり意味がありません。グロブリンはよく下がることが多いので。
「Alb(アルブミン)」と記載されているところをチェックしてみましょう!

鑑別すべき疾患
下痢とは話が逸れますが、低アルブミン血症(<2.0g/dL)が見られた際、鑑別すべき疾患は以下のものが挙げられます。
・肝不全
・タンパク漏出性腎症
・皮膚を大きく欠損する病気:大火傷や皮膚の潰瘍
などです。

鑑別に必要な検査
これらを除外するには肝機能数値の測定や尿検査を行えばできます。全ての可能性を除外した時、PLEと除外診断することができます。

鑑別のポイント
肝不全とPLEが低コレステロール血症になりますし、タンパク漏出性腎症は高コレステロール血症になるのも鑑別ポイントの1つです。

確定診断するには
確定診断するには全身麻酔下での内視鏡生検が必要となりますが、この状態の動物に全身麻酔は大きなリスクを伴うため、多くの場合はリンパ管拡張症を意識した超低脂肪食による治療的診断が実施されます。

蛋白漏出性腸症を引き起こす疾患
PLEを引き起こす疾患はたくさんありますが、成犬で一般的なのはリンパ腫、真菌感染(地域による)、IBDの3つです。若齢犬では寄生虫がリンパ管に迷入して起こるものや、腸重積などがあります。猫では潰瘍、抗菌薬反応性疾患、腸陰窩の病気であります。

PLEではない場合
食事反応性疾患や抗菌薬反応性疾患、IBD(≒ステロイド反応性疾患)、寄生虫疾患などがありますが、IBDが一番重要です。PLE(蛋白漏出性腸症)はIBDから続発することはありますが、PLEとIBDは別の病気なのでごっちゃにならないように注意して下さい。)

猫では食物反応性、リンパ腫とIBDが最も多い原因で甲状腺機能亢進症も似た様な腸管疾患を起こすので鑑別が必要になります。

小腸性下痢のフローチャート

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【PLEやその他の吸収不全でない場合】

『症状によって鑑別する』

前項で記したように吸収不良やPLE(タンパク漏出性腸症)ではない場合、他の病気を考えなければいけません。
その他の病気は犬や猫の状態によって区別できます。症状が比較的穏やかで2~3週間ほど対症療法を行なって症状が悪化しない場合に考えるべきことは3つです。

症状が軽度の場合
・食事反応性腸症
・抗生剤反応性腸症
・寄生虫疾患
が挙げられます。これは先ほどお話しした通りですね。
しかし、食事反応性腸症と抗生剤反応性腸症は寄生虫疾患と異なり、病原体を検出することができません。

もし、症状が進行していたら…
症状が軽度の場合は2~3週間の様子見を行なっても良いのですが、明らかに動物が衰弱し、病気の進行が認められる場合は早急な対応が必要になります。
早急な対応とは追加検査のことです。
行うべき検査として
・腹部超音波検査
・内視鏡検査
などがあります。

『腹部超音波検査でやること、分かること』

腹部の超音波検査では"Focalな病変 or Diffuseな病変"、すなわち一部に集中して起きている病変(Focalな病変)であるか全体的に拡がっている病変(Diffuseな病変)であるかを調べたり、内視鏡が届く距離に病変があるかなどの情報を得ることができます。内視鏡は十二指腸と直腸しか届かないので、全身麻酔をかけて、内視鏡を入れてみたら「届きませんでした」はダメ。

超音波検査は特異度(異変があった時に病気があると言える率)は高いのですが、感度(異変がない時に病気がないと言える率)が低いです。
そのため、超音波検査で異常が見られないからといって、重篤な疾患を否定することはできません。

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『生検を行う』

超音波検査をやってみて、病気の状態を把握します。
・病変がどのようなものなのか?
・病変は粘膜だけかそれとも全層か?

・内視鏡が届く距離なのか?
など、検討する必要があります。
こうした超音波検査を行なった後に行うべきは内視鏡下あるいは開腹による生検です。

もちろん内視鏡や開腹しての生検となると全身麻酔や術後のリスクがあります。十分検討を行なった上で行われるべきです。

内視鏡と開腹手術による生検、どちらが良いのでしょうか?それぞれのメリット・デメリットについてお話ししていこうと思います。

「内視鏡のメリット・デメリット」

メリット
内視鏡のメリットは開腹による生検と比較し、相対的に侵襲度(体への負担)が少ないということです。内視鏡による生検は麻酔時間も少なく、生検後の回復も早いです。
全身麻酔をかけないとできないですが、病変部の腸を切除して採ってくる生検よりははるかに負担は軽いです。

デメリット
そんな内視鏡ですが、デメリットもあります。
まず1つ目は内視鏡を操作に長けている必要があるということです。逆を言えば、内視鏡の操作に慣れていると、正確に病変部を狙い撃ちできます。
もう1つが粘膜表層の病変しか採取できないということです。腸というものは粘膜と粘膜下組織、筋層と複数の層で構成されている器官です。病変部が粘膜より深くで起こっている場合、内視鏡で採集できるサンプルには病変が見つからない可能性があります。

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「開腹生検のメリット・デメリット」

メリット
開腹生検のメリットは主に2つあります。
1つ目は直接目で見て手で触れながら、病変部を採取できるということです。こうする事で、病変部ではないところを採取してしまうといった人為的なエラーを最小限にまで減らすことができます。
続いて2つ目は腸管の全層を採取できるということです。これは内視鏡ではできないことなので、粘膜より深い部位での病変でも確実に採取することができます。

デメリット
デリメットはなんと言っても侵襲度です。お腹を切って、病変のある腸を切ってくるわけなので、当然といば当然です。とはいえ、腫瘍の可能性が高いのであれば検査と治療が同時に行えると考えることもできます。

これらのメリットデメリットを考慮し、情報を得るために必要な検査方法を選んでいきます。

メリット・デメリットのまとめ

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【大腸性下痢】

犬で大腸性下痢が起きた場合に考えられる疾患は以下のようなものがあります。

犬の大腸性下痢で考えるべき疾患
・食事反応性腸症
・クロストリジウム腸炎
・タイロシン反応性腸症(←抗生物質)
・寄生虫疾患
などが主に考えられます。

猫では考えるべき疾患は以下のようになります。

猫の大腸性下痢で考えるべき疾患
・食事反応性腸症
・クリストリジウム腸炎
・寄生虫疾患(例:トリコモナスなど)
・IBD
などが主に考えられます。

『まずやっておくべき検査』

直腸検査
下痢が見られた動物に対しては用手による直腸検査は行なって起きた検査になります。この検査によって直腸にポリープがないかや、粘膜の肥厚がないかを調べます。

鞭虫へのアプローチ
タヌキなどの野生動物が鞭虫を持っていて、山中へ入っていく犬では鞭虫が寄生してしまうことがあります。鞭虫が流行している地域では糞便検査にて鞭虫卵を見つけることができなくても、治療的診断として駆虫薬などを用いて治療を行うのも1つの方法です。

ジアルジア
ジアルジア症は一般的には小腸性下痢に準ずる症状を示すのですが、たまに大腸性下痢のように見られる場合があります。

血清タンパク濃度
血液検査項目でアルブミンを測定しておくことは大切です。アルブミンは下痢の重篤度の指標になります。
「直腸検査も正常」、「アルブミンもしっかりある」ただ下痢のみが見られる。そんな場合は比較的良好な経過をたどる傾向があります。

『重症だと感じた時にやるべき検査』

検査によって以下のような所見が得られた場合は重篤疾患の可能性があります。

重篤疾患の可能性がある所見
・体重が減少している
・低アルブミン血症に陥っている
・ヒストプラズマ症、住血吸虫症を疑う所見
これらの所見が得られた場合、急激に状態が悪化する場合があるため、十分注意が必要になります。

行うべき検査
・腹部超音波検査:腫瘍や異物を検出
・直腸スメア:特異度高いが感度低め
・抗原検査:ヒストプラズマの尿抗原など
・結腸への内視鏡検査と生検:全身麻酔下で行う
などがあります。

 

 【最後に】

今回は『下痢に対してのアプローチ』について解説した。まずは急性なのか慢性なのか、そして急性であったなら「重篤なもの」なのか「軽度なもの」なのかを調べていくことが必要になります。慢性下痢であれば「小腸性下痢」なのか「大腸性下痢」なのかを調べていきます。これらを症状や検査によって明らかにしたあと、その病気に対応した治療を行なっていきましょう。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 164-167p

 

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