オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

【大動脈狭窄症】~"すきま時間"の獣医学~

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20191024200303p:plain

【はじめに】

今回は『大動脈狭窄症』についてです。大動脈狭窄症は大型犬で発生が多く、加齢と共に発生リスクが上がってくる疾患です。心臓における血液の出口が狭くなってしまうため、様々な病変が見られるようになります。

 

【目次】

 

【大動脈狭窄症について】

『どのような病気か』

概要
大動脈狭窄症とは読んで字の如く、『大動脈弁の周辺部位が狭窄してしまうことで、様々な病変を示す病気』のことを言います。

好発犬種
・ゴールデン・レトリバー
・ロットワイラー
・ボクサー
・ジャーマン・シェパード
など、大型犬に多く発生が認められています。

『何が起きているのか』

狭窄の正体
大動脈狭窄症で最も多いのは線維輪や筋線維輪による弁下部の狭窄です。加齢と共に線維輪が形成されて行きます。

重症度=線維輪の完成度
線維輪の完成度によって重症度は変わります。軽度の場合は臨床症状が見られない場合もありますが、中等度の場合は不完全な線維輪が大動脈弁の下で作られています。完全な線維輪が形成されると重症化します。

『どのように進行していくか』

①圧負荷の上昇
大動脈弁直下で狭窄が起こると心臓の出口が詰まるわけなので、左心室では『圧負荷が上昇』してきます。

②求心性肥大
圧負荷が上昇すると、それに負けないようにと今まで以上に強い力で心臓は血液を送り出そうとします。この状態がしばらく続くと、『求心性肥大』が生じます。心筋が分厚くなってくるということです。

③虚血性のダメージ
求心性肥大によって、心筋が分厚くなると冠動脈(=心筋へ栄養を送っている血管)が圧迫され、心筋は虚血性のダメージを受けてしまいます。その結果、心筋は線維化し正常機能を失ってしまうので、不整脈(心室性期外収縮)や失神、突然死する可能性が上がります。

④多くの病変が続発
さらに進行してくると、狭窄部から勢いよく駆出された血液("ジェット"と言う)が大動脈弁に当たることで、大動脈弁の変性を惹起したり、心室腔内の狭小化によって、僧帽弁閉鎖不全症が起こったりと様々な異常が続発してきます。

『症状』 

この病気では心拍出量の低下や不整脈が起こります。
こういった現象からも推測されるように、大動脈狭窄症で見られる症状は
・低血圧
・運動したがらない
・失神
などが起こります。

さらに僧帽弁閉鎖不全症などが続発すると、肺の静水圧の亢進に伴い『肺水腫』が見られるケースもあります。

『診断方法』

聴診
聴診では左心基底部で収縮期の駆出性雑音が認められます。駆出性雑音はⅠ音とⅡ音の間に生じる雑音で狭窄部を血液が通過する時に聞こえます。

心電図
Ⅱ,aVF誘導でR波の増高が認められます。そのほかに心筋虚血があれば、 ST部分の上昇または下降が認められます。

レントゲン検査
軽度な場合は正常陰影であるのに対し、重症例では心拡大や大動脈根部の拡張、不整脈が認められます。

心エコー検査
中等度~重度の症例では左心室肥大と心室壁の肥厚が確認されます。 さらには心室腔が狭くなっていることも確認することができます。

『治療』

激しい運動は避ける
心臓に負担がかかるような激しい運動や遊びは避けましょう。激しい運動は急な悪化を招く可能性があります。

β遮断薬投与の目的
β遮断薬は陰性変力作用といって、心収縮力を低下させる薬です。この薬を使う目的としては
・心拍数を減らしたい
・心筋の酸素消費量を減らしたい
・心臓をしっかり拡張させたい
ということが挙げられます。

出口が詰まっているのに無理に心拍数や心収縮力を上げても、心臓の負担を高めるだけなので、一度心臓を休ませることが治療の目的となっています。

その他の治療法
上記の二つの治療法の他に『バルーンによる弁口拡大術』『開心術』があります。

バルーンによる弁口拡大術は開心術よりは簡単にできますが、バルーンによって狭窄を解除しても再狭窄することがほとんどで、あまり有用性はありません。

一方で犬の開心術の場合は費用面と手技的難易度によって、選択される場合はほとんどありません。

【最後に】

今回は『大動脈狭窄症』を紹介しました。大動脈狭窄症は心臓の出口である大動脈弁周囲で狭窄が起こり、血液の流れが詰まってしまう病気です。その分心臓には大きな負担がかかってしまうので、ケージレストやβ遮断薬の使用により、心臓を休ませてあげることが治療の第一選択となります。

【本記事の参考書籍】

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2, 文英堂出版, 2014, 73-74p