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【多発性骨髄腫】③治療法と予後について

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【はじめに】

今回は『多発性骨髄腫の治療法と予後』について解説していきます。
多発性骨髄腫は血液系の腫瘍であるため、治療法としてはどうしても抗がん剤を中心とする化学療法が選択されます。
今回は多発性骨髄腫で使用される抗がん剤がどのようなものなのか副作用も含めて詳しくお話しを拡げていきたいと思います。

【多発性骨髄腫】①概要と病因について

【多発性骨髄腫】②症状と診断方法について

【多発性骨髄腫】③治療法と予後について

【目次】

 

【まずはじめに行う治療】

多発性骨髄腫の治療方針としては
・腫瘍細胞をどうにかする
・腫瘍によって誘発された全身状態を改善する
この2つが主な方針となります。

ただ前提として、治療を始める前に検査をしっかり行なって多発性骨髄腫であると診断をつけておくことが大切になります。

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『化学療法』

化学療法がオススメの理由
多発性骨髄腫の治療を行う上で、化学療法は非常に効果的であるとされています。
化学療法では腫瘍の増殖を抑制し、骨の痛みを軽減させます。さらに血清免疫グロブリン値もほとんどの犬で減少し、QOLの改善が認められています。
抗がん剤によって腫瘍細胞を根絶することは稀ですが、飼い主さんと獣医師で相談して、犬のQOL改善に向けて治療を行うことは非常に大切なことのように感じます。
猫の多発性骨髄腫では半数程度でしか抗がん剤が効かないという報告があります。

『メルファラン+プレドニゾロンの併用療法』

多発性骨髄腫の治療薬として選択されるのはメルファランという抗がん剤です。メルファランはアルキル化薬の抗がん剤で、細胞周期に非特異的に効果を発揮する抗がん剤です。
そして、メルファランによる化学療法をより効果的にするために使用されるのがプレドニゾロンです。
犬の多発性骨髄腫ではメルファラン+プレドニゾロンの併用療法が定石となっています。

メルファランの副作用
抗がん剤といえば副作用の心配があります。メルファランの服用で起こりやすい副作用についてご紹介します。
メルファランで最もよくみられる副作用は『骨髄抑制』です。特に遅発性の血小板減少症には注意が必要となります。

メルファランで治療を行なっている間は隔週で血液検査を行い、血小板数や好中球が減っていないかをモニタリングしておく必要があります。

もし、骨髄抑制がみられたら
注意していても抗がん剤治療を続ける限り、副作用は出てしまうことがあります。そうした際に正しい処置を行うことが重要になってきます。
メルファランでの治療中に骨髄抑制が見られた場合、用量や投薬頻度を下げて治療を行います。

猫でもこの治療法は使われる
猫の多発性骨髄腫でもメルファラン+プレドニゾロンの併用療法が使用されています。しかし、猫では犬よりも骨髄抑制が強く出る傾向があるため、よりこまめなモニタリングが必要になってきます。
行う抗がん剤プロトコルは犬と類似しています。

『シクロフォスファミドを用いた治療』

シクロフォスファミドはアルキル化薬の代わりやメルファランと併用して使用されることがあります。
シクロフォスファミドとメルファランのどちらが治療成績が優れているかという報告はありません。しかし、参考文献の著者の経験ではシクロフォスファミドは使用できる状況に制限があると書いていました。
高カルシウム血症が重度の場合などに限られるそうです。

『そのほかの抗がん剤』

多発性骨髄腫で使われた例がある抗がん剤はメルファランやシクロフォスファミド以外にもあります。
それは
・クロラムブシル
・ロムスチン(CCNU)
これらの抗がん剤も使用される例があるようです。

【治療効果を評価するには】

『何を元に評価するのか』

多発性骨髄腫の治療がうまくいっているかを評価するには
・症状
・臨床病学的結果
・レントゲン検査
・腹部超音波検査
などによって評価していきます。

主観的な評価
骨の痛みや跛行の程度、虚脱、食欲不振などといった臨床症状が改善されているかを治療開始3~4週間以内に評価していきます。これは明確に数値化されるものではないので、主観的な評価になります。

客観的な評価
血清グロブリンや免疫グロブリン、カルシウムの減少が見られるかや、血液塗抹の血中比率が正常に戻っているかなどを3~6週間以内に評価します。これらは明確に数値化されているので、客観的な評価になります。

その他の検査で評価できる事
レントゲン検査を行い、骨破壊が改善されているかを見ます。骨破壊は急に治るようなものではなく、数ヶ月かけて徐々に改善されていくものです。
眼底病変や腫瘍随伴性神経炎の程度も評価しておきましょう。

猫ではどうであるか?
臨床症状は2~4週間程度で改善され、血清タンパク濃度や骨病変は8週間以内に大半は改善されているという報告があります。

『M蛋白の減少』

 M蛋白の抗体価が治療前より少なくとも50%以上減少する場合、治療はとてもよく効いていると考えて良いです。ベンスジョーンズ蛋白尿や血液中の免疫グロブリンの値を評価していきます。

ここで少し注意が必要なのが、血清免疫グロブリン値とベンスジョーンズ蛋白尿とで減少が認められるのに多少時差(ラグ)があるようです。

時差が生まれる原因は『半減期』です。ベンスジョーンズ蛋白尿の半減期が8~12時間であるのに対し、血清免疫グロブリンの半減期は15~20日とされています。そのため、ベンスジョーンズ蛋白尿の減少に追随するような形で、血清免疫グロブリンが減少していきます。

『骨髄穿刺や画像診断での評価』

治療の効果を評価していく上で、腫瘍細胞の浸潤がどの程度進んでいるかを調べるために複数回に分けて骨髄穿刺や画像診断を行なっていきます。
骨髄の再評価は化学療法などを行なっていると最中では血球減少が起きていることが多いので、腫瘍細胞が骨髄に浸潤したことで起きているのか、化学療法によるものなのかを丁寧に鑑別していく必要があります。

【多発性骨髄腫に随伴する症状へのアプローチ】

『どんな症状が見られるか?』

 多発性骨髄腫は形質細胞由来の腫瘍細胞であり、その性質として様々臨床症状を引き起こします。こういった腫瘍によって起こる症状のことを『腫瘍随伴症候群』と言います。

多発性骨髄腫に随伴する症状
・高カルシウム血症
・過粘稠症候群
・出血傾向
・腎疾患
・免疫抑制
・眼疾患
・骨破壊
など、どれも多発性骨髄腫の存在によって発生する症状です。
これらの腫瘍随伴症候群も腫瘍の治療と同時並行にして、それに対応した治療を行なっていく必要があります。

『高カルシウム血症への対応』

重度な高カルシウム血症が認められる場合は輸液を行い、排尿を促します。これが高カルシウム血症の治療の基盤になります。

中程度の高カルシウム血症であれば、メルファランやプレドニゾロンによる治療を開始して2~3日程度で症状の改善が認められます。

『過粘稠症候群への対応』

過粘稠症候群は血漿浄化療法によって治療するのが一番良いとされています。

血漿浄化療法とは
血漿浄化療法とは患者より血液を採取し、それを遠心分離して血漿と血球に分離します。そして、血球のみを生理食塩水や晶質液などで再懸濁して、患者の体内に戻します。
こうすることで、血液中に増えすぎた免疫グロブリンを除去することができ、過粘稠症候群の改善を図ることができます。

出血傾向の改善も期待
多発性骨髄腫による出血傾向は過粘稠症候群が原因で起こっていることが多いです。そのため、過粘稠症候群を治してしまえば出血傾向もすんなり治ってしまうというようなケースもあります。

『腎疾患への対応』

腎機能の低下が確認された場合は積極的な輸液療法を短期間ガッと行い、その後水分補給として補液などを行い、腎臓のケアに努めます。

飼い主さんができる対策
・水分補給をしっかりする
・場合によっては皮下補液のやり方を獣医より教わる

注意すべきこと
腎機能の低下に続発して起こる尿路感染症には注意が必要です。尿検査も忘れず行い、必要であれば抗菌薬を用います。

『骨破壊への対応』

骨破壊の対処法として破骨細胞の活性を抑える薬として知られるビスホスホネートが人の症例では骨破壊を軽減させたという報告があります。最近では犬や猫でも骨破壊が行う腫瘍細胞に対して使用されています。

腫瘍随伴症候群のアプローチ(図解)

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【レスキュー療法】

レスキュー療法とは
レスキュー療法とは現在使用中の薬に抵抗性を示し、効かなくなった場合や再発していった場合に使用される切り札みたいなものです。

多発性骨髄腫の場合は?
多発性骨髄腫の場合にレスキュー療法が使用されるのは主に以下の2つがあります。
①メルファランによる治療中に腫瘍の再発が認められた場合
②腫瘍がアルキル化薬に抵抗性を示した場合(←稀)

具体的なプロトコル
レスキュー療法の方法として参考図書の筆者が行なっている方法は『VAD療法』です。
VAD療法では
・V=ビンクリスチン
・A=ドキソルビシン
・D=デキサメタゾン
の3つの薬剤を併用していく治療法です。

VAD療法以外のレスキュー療法として、シクロフォスファミドのhigh-dose(←高用量のこと)投与も実際の臨床現場では行われる場合があります。

レスキュー療法の効果は?
残念ながら、レスキュー療法の効果は長くは続きません。効果がみられるのは数ヶ月程度です。

【将来有望?研究中の治療薬とは】

多発性骨髄腫は人でも死亡率が高く、研究が積極的に行われている病気の1つです。
多発性骨髄腫の研究的治療で現在注目されているのが、『トセラニブ』と呼ばれるチロシンキナーゼ受容体阻害剤です。

ある報告によると、
メルファランやプレドニゾロン、ドキソルビシンなどの化学療法で抵抗性を示した症例に対し、このトセラニブを投与すると部分寛解を示し、6ヶ月ほど維持できたとのされています。とはいえ、報告があるのは1症例だけなので、なんとも言えませんが。

 

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One dog with advanced multiple myeloma, refractory to melphalan with prednisone and doxorubicin, showed a 50% decline in her serum IgA levels, lasting for 6 months; this level of decline in her paraprotein is equivalent to that shown with prior chemotherapy. 引用文献:Phase I Dose-Escalating Study of SU11654, a Small Molecule Receptor Tyrosine Kinase Inhibitor, in Dogs with Spontaneous Malignancies ,

 

【犬の予後について】

『治療直後の視点では』

メルファランとプレドニゾロンの併用療法を開始したての頃は腫瘍を抑えることもでき、QOLを再上昇します。
60匹の多発性骨髄腫の犬を用いた研究では以下のような治療成績となりました。
・完全寛解(血清免疫グロブリン値が正常化)→43%
・部分寛解(血清免疫グロブリン値が50%未満)→49%
・治療効果なし→8%
という結果になりました。
原著となる論文にアクセスできなかったので、引用は無しです。

『長期的な視点では』

長期的な予後について、実はあまり良くありません。ほとんどの犬で、化学療法が効かなくなってしまうのです。化学療法が効かなくなっていくと腎疾患や敗血症などがおこり、亡くなってしまいます。このようにして亡くなる前に、骨浸潤による痛みから安楽死を選ばれる飼い主さんもいらっしゃいます。

『生存期間中央値と予後不良因子』

生存期間中央値
メルファランとプレドニゾロンで治療を進めていった結果の生存期間中央値は約540日とされています。これは多発性骨髄腫と診断を受けてからの話です。

予後不良因子
予後不良を示す因子として、
・高カルシウム血症
・ベンスジョーンズ蛋白尿
・重度な骨破壊
などが挙げられます。

『猫の予後について』

猫の場合、化学療法に対する反応は犬ほど良くありません。猫の多発性骨髄腫による生存期間は約4ヶ月程度と言われています。中には1年以上生存が確認された報告もありますが。

【最後に】

今回は『多発性骨髄腫の治療法と予後』について解説しました。多発性骨髄腫の治療法としてメルファラン+プレドニゾロンが有効的で、治療開始直後はかなりより成績を示します。しかし、120~130日を過ぎたあたりから徐々に再燃してき、化学療法に抵抗性を示すようになります。
いつかは抵抗性を示してしまいますが、数ヶ月間の間であってもQOLが高い状態で生活を維持できるというのはとても意義のあることだと思います。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 655-674p

 

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『多発性骨髄腫』

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『血液の腫瘍』

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