【はじめに】
今回は『犬猫の皮膚糸状菌症』についてです。皮膚糸状菌症とは真菌感染による皮膚病で、人にも感染する可能性がある病気です。今回は皮膚糸状菌症がどんな病気かと検査方法、治療法について解説していきます。
【目次】
【皮膚糸状菌症】
『皮膚糸状菌症とは』
概要
皮膚糸状菌症とは皮膚や被毛、爪などの角化した組織へ侵入し生息する真菌群によって起こる、犬、猫、げっ歯類、人での皮膚感染症のことをいいます。
原因となる真菌
・Microsporum canis(犬・猫)
・Microsporum gypseum(犬)
・Trichophyton mentagrophytes(犬、ウサギ、げっ歯類)
特にM.canisは重要で犬への感染の約70%が、猫への感染の約99%がM.canisによって起こります。
感染部位
皮膚糸状菌症の感染部位はケラチンで、犬では毛への寄生が目立ちます。
好発犬
犬の皮膚糸状菌症は1歳未満での発生が多いですが、ヨークシャーテリアでは若齢に関係なく発症しやすい傾向があります。
『感染の原因』
皮膚糸状菌症に感染する主な原因としては3つあります。
①保菌動物からの接触感染
②土壌、家屋、飼育小屋の塵埃
③免疫抑制剤の治療中
④内分泌疾患などの基礎疾患
これらの原因が考えられます。
若齢動物や免疫抑制剤使用中などの免疫力が弱っている動物がいる場合は清潔な環境作りを心がけましょう。
『症状』
病変は口周りや眼周囲、耳介、四肢端に認められることが多いです。腹部や鼠径部でも見られる場合はあります。
皮膚糸状菌症の症状
・脱毛
・落屑(フケ)
・痂皮(かさぶた)
・表皮小環
などができ、二次感染が伴うと痒みが出てきます。
ポンポンポンと多発性に発生し、毛包を中心円形の病変が内側から外側へと丘疹が拡がっていきます。皮膚糸状菌症は人獣共通感染症であり、人にも感染するので注意が必要です。
『検査方法』
皮膚糸状菌症の検査方法
①問診
②身体検査
③ウッド灯検査
④被毛の直接鏡検
⑤真菌培養検査
これらの検査を駆使して、診断していきます。
①問診
『感染の原因』の項でもお話しした通り、皮膚糸状菌症の発生リスクをあげるような飼育環境や投薬歴、基礎疾患がないかを中心にお話を聞きます。
②身体検査
皮膚糸状菌症は毛包の疾患なので、脱毛や鱗屑、痂皮、紅斑がないかを調べていきます。
③ウッド灯検査
遮光できる部屋で360nmの波長の紫外線を照射できるウッド灯を当てる検査です。M.canisに感染している被毛では蛍光を発します。しかし、この検査方法は偽陽性が出やすいので必ず蛍光部を採取し、直接鏡検を行う必要があります。
④被毛の直接鏡検
病変を認める場合は必ず行った方が良いです。皮膚糸状菌症の鏡検では被毛表面に大量の分節性分子が認められます。これは特徴的な病変であり、確定診断を行うことができます。
⑤真菌培養検査
真菌培養も原因菌を特定する上で欠かせない検査になるので、可能な限り行っておきたい検査です。
最も利便性に優れた培地は『DTM培地』と呼ばれるもので、フェノールレッドが添加されているので、皮膚糸状菌がコロニーを形成すると周囲の培地を赤変させます。
『治療法』
治療法は至ってシンプルで
・毛刈り
・シャンプー療法
・抗真菌薬の外用
です。
シャンプー療法
シャンプーは抗真菌薬であるイトラコナゾール入りのシャンプーを使用します。
ただし、
・12週齢未満
・妊娠授乳中
・シクロスポリンやグルココルチコイドの投与中
上記の場合はイトラコナゾールの副作用が強く出る可能性があるので使用は控えます。
【最後に】
今回は『犬猫の皮膚糸状菌症』について解説しました。皮膚糸状菌症は人獣共通感染症であるため、取り扱いには注意しましょう。特に若齢動物や多頭飼育環境、免疫抑制剤治療中の子では発症リスクが高いことを留意しておきましょう。
【本記事の参考書籍】
日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 537-538p