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【多発性骨髄腫】②症状と診断方法について

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【はじめに】

今回は『多発性骨髄腫の症状と診断方法』についてです。
この腫瘍は検査結果と症状がリンクしており、合点が行きやすいかと思います。
そして何より、多発性骨髄腫には分かりやすい診断基準があるため、その診断基準を目指して検査を行うと診断がしやすいです。

【多発性骨髄腫】①概要と病因について

【多発性骨髄腫】②症状と診断方法について

【多発性骨髄腫】③治療法と予後について

【目次】

 

【症状】

『多発性骨髄腫と間違えやすいMGUSとは』

多発性骨髄腫の症状を話す上で、語らなければならないのは『MGUS』です。

MGUSとは
MGUSとは monoclonal gammopathy of unknown significance の頭文字をとった略称で、日本語訳すると『意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症』と呼ばれています。
MGUSは骨病変や骨髄浸潤、ベンス・ジョーンズ蛋白尿などとは関連しない良性の病変で、症状が見られないため血液検査で初めて発見されることが多い様です。MGUSは多発性骨髄腫と同様に『免疫グロブリンのモノクローナル増殖』が確認されますが、多発性骨髄腫とは関係のない病変です。
犬や猫でも稀にこのMGUSを示す症例が報告されています。

『犬で見られる症状』

犬で見られる症状は以下のようなものがあります。

多発性骨髄腫の症状(犬)
・無気力や虚弱(62%)
・跛行(47%)
・出血傾向(37%)
・眼底検査の異常(35%)
・多飲多尿(25%)
・中枢神経障害(12%)

これらは骨髄穿刺を行い多発性骨髄腫と診断された犬60匹をもとにして取られたデータで1986年に公表された論文です。

『猫で見られる症状』

猫で見られる症状は以下のようなものがあります。

多発性骨髄腫の症状(猫)
・無気力や虚弱(40~100%)
・食欲不振(33~100%)
・蒼白さ(30~100%)
・多飲多尿(13~40%)
・嘔吐や下痢(20~30%)
・脱水(20~30%)
・腹腔内臓器の腫大(20~25%)
・跛行(10~25%)

・その他:心雑音(0~45%)、四肢麻痺(0~45%)、出血傾向(0~40%)、中枢神経症状(13~30%)、皮膚形質細胞腫の併発(0~30%)、胃底部の変位(13%)、リンパ節の腫大(0~10%)
などです。
これらは複数の論文を参考にして得られたデータがもとになっています。

多発性骨髄腫の症状

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『各症状について』

出血傾向
出血傾向はよく見られるのは鼻血歯肉からの出血です。

眼底の異常
前回の記事で過粘稠症候群について解説した際にもご紹介した眼底の異常もこれに該当します。網膜出血や眼底血管の怒張やねじれ、網膜剥離、失明などが挙げられます。

中枢神経症状
痴呆、痙攣発作、震えなどを始め、過粘稠症候群や高カルシウム血症に続発する中脳や脳幹の機能不全などが挙げられます。

多飲多尿
多発性骨髄腫で見られる多飲多尿の原因は腫瘍随伴症候群である高カルシウム血症による腎障害が主な原因となっています。

後肢麻痺
後肢麻痺の主な原因は多発性骨髄腫の腰椎への骨浸潤です。

そのほかの症状
多発性骨髄腫があるせいで続発する症状が何個かあります。
犬では低血糖に伴う痙攣があったという報告が見られたり、猫では慢性の呼吸器疾患と持続性の発熱が見られたなどの報告もあります。
脾臓や腎臓の腫大は腫瘍が浸潤することで起こっています。

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【診断とステージング】

『多発性骨髄腫の診断基準』

診断基準
犬と猫の多発性骨髄腫を診断するには4つの診断基準があります。
それは
①尿中のベンスジョーンス蛋白
②骨髄内の形質細胞の増加
③モノクローナルな高ガンマグロブリン血症
④骨融解病変(パンチアウト像)
です。

以下はこれら①~④の診断をつけるために必要な検査をご紹介しています。

『基準①の検査:血液検査と尿検査』

多発性骨髄腫を疑う症例ではまず血液検査や尿検査が行われます。

血液検査
血液検査で特に注意すべきは腎機能血清カルシウム値です。
出血傾向が見られる場合は血液凝固能試験血液粘稠度の測定をしておくと良いです。
過粘稠症候群になると眼底異常が見られることも多いので、可能であれば眼底検査は全ての症例で行なっておくべきでしょう。

そのほかに血液検査で異常値を示す項目としては
・低アルブミン血症→犬(65%),猫(36%)
・低コレステロール血症→犬(報告なし),猫(68%)
・尿毒症→犬(33%),猫(22~40%)
・肝酵素の上昇→犬(報告なし),猫(43~50%)

血清の電気泳動
血清を電気泳動にかけ、M成分のモノクローナルな上昇を確認します。電気泳動にかければどの免疫グロブリンが上昇しているかもわかります。

ベンスジョーンス蛋白尿の同定
ベンスジョーンス蛋白尿を同定するためには尿の電気泳動を行う必要があります。

『基準②の検査:骨髄の検査』

この検査は侵襲度が高い検査になりますが、全身麻酔をかけ、骨髄を針で刺して採取してくるという検査です。この検査によってわかるのは骨髄内で形質細胞が増えているかということです。
通常、骨髄中で形質細胞が占める割合は5%以下と言われています。しかし、骨髄腫になった骨髄では形質細胞が過度に増えています。

「形質細胞が多い」となる基準は形質細胞が多いとなる基準は犬で20%以上、猫で10%以上見られた場合です。

『基準③の検査:クローナリティの検査』

クローナリティの検査とは増殖している細胞が単一のものなのかそれとも様々なものが混じって増殖しているのかを調べる検査になります。
多発性骨髄腫では細胞が単一(モノクローナル)に増殖する検査結果を得ることができます。
具体的な検査法として、病変部のPARR分析があります。
この検査を通じて、免疫グロブリンの単一増殖を確認します。

『基準④の検査:画像診断』

X線検査
胸部と腹部ともに多発性骨髄腫が疑われる場合は撮影することが勧められています。骨浸潤像やたまに猫では腹腔臓器の腫大などが認められます。
骨浸潤の存在や程度を把握することで、治療経過の指標や予後の把握を行うことができるので、定期的にやっておくと良いです。

腹部の超音波検査
腹部エコーで脾臓や肝臓、腎臓、腸骨リンパ節などの腫大が認められることがあります。

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【最後に】

今回は多発性骨髄腫の症状と診断方法について解説しました。
多発性骨髄腫を発症するとよく見られる症状として、跛行や出血、虚脱などがあります。これらは全て、多発性骨髄腫が引き起こす病変に付随して起きています。
その病変を発見するのに必要なのが、検査であり、先ほど説明した4つの基準が診断の元になります。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 665-673p

 

【関連記事】

『多発性骨髄腫』

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『血液の腫瘍』

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