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【多発性骨髄腫】①概要と病因について

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【はじめに】

今回は『多発性骨髄腫の概要と病因』についてです。

多発性骨髄腫とは血液の細胞の1つが腫瘍化したもので、それだけあった全身で悪さをします。
心臓や腎臓が悪いと思っていたら、実は多発性骨髄腫だったなんてこともゼロでありません。今回はそんな多発性骨髄腫の概要とこの腫瘍がどのような病気を招くかの病因について解説していきたいと思います。

【目次】

 

【多発性骨髄腫とは】

多発性骨髄腫とは骨髄に関連した疾患の1つで、原因となる腫瘍細胞は形質細胞や免疫グロブリン産生性B細胞などが由来となっています。
多発性骨髄腫の特徴の1つに『免疫グロブリンのモノクローナル増殖』というものがありますが、必ずしも見られるものでもありません。

多発性骨髄腫とは(図解

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【発生率や統計について】

『多発性骨髄腫の発生率』

発生率
犬の多発性骨髄腫は全悪性腫瘍の1%で発生が確認されており、さらに血液由来の腫瘍としては約8%です。
猫の場合はもっと稀で、全悪性腫瘍の0.9%で発生が確認されており、さらに血液由来の腫瘍としては約1.9%です。

性差
多発性骨髄腫は雄で多く発生が認められるという報告もありますが、詳細は定かではありません。

好発年齢
犬:高齢での発生が多く、平均発症年齢は8~9歳
猫:猫はもっと高齢で12~14歳

好発品種
犬:ジャーマン・シェパード?
猫:不明

『リスク因子となり得るもの』

動物の多発性骨髄腫ではまだわかっていないことが多く、確証が得れたお話はできません。一部をご紹介します。

家族性のリスク
猫では兄弟間で発症が多く見られたことから家族性の病気の可能性も示唆されています。

分子のリスク
サイクリン D1、受容体型チロシンキナーゼの過剰発現が見られます。

慢性炎症のリスク
げっ歯類での実験ですが、シリコンゲルを移植して人工的に慢性炎症を引き起こすと多発性骨髄腫のリスクが上がったことから、慢性炎症と多発性骨髄腫の間に関連が示唆されます。

【病態と挙動】

犬の多発性骨髄腫は異型度の高い形質細胞が全身性に増殖するもので、それらは複数の骨髄で見られます。
一方で猫の場合は腹腔内臓器への波及が多く、著しい骨髄浸潤を認めないため、多発性骨髄腫と多中心型髄外性形質細胞腫との区切りが曖昧担っています。

『細胞の形態について』

悪性の形質細胞は細胞診を行うと様々な見え方をします。腫瘍細胞の分化にはムラがあり、正常な形質細胞に見えるぐらいのものから分裂像が多見される大型円形細胞の未分化なものまで幅は広いです。多核細胞もしばしば見られます。

『悪性形質細胞が大量に産生するM成分』

一般的に多発性骨髄腫の腫瘍細胞である悪性形質細胞は1種類の免疫グロブリンをたくさん産生します。これをモノクローナル(単一)な免疫グロブリンであることから、"M成分""M蛋白"と呼ばれています。
M成分は複数の意味で使用されており、免疫グロブリンであることもあれば、単に軽鎖(ベンス・ジョーンズ蛋白)や重鎖などといった分子をM成分と呼びます。


M成分の種類と動物差
M成分とはモノクローナルに増殖した免疫グロブリンのことです。どうやらM成分として増殖が見られやすい種類には動物種差があるようです。
犬の場合、M成分として確認されるのはIgGとIgAでその発生率は1:1とほぼ同率です。
一方で
猫の場合、IgG:IgA=5:1とIgGの方が高いという報告もあります。
※犬の場合:参考文献の筆者曰く、経験的には犬ではIgAの方が多いとのこと 

M成分がIgMだった場合
M成分が5量体であるIgMだった場合はマクログロブリン血症と呼びます。IgMはその分子量の高さから、過粘稠症候群を引き起こすリスクが高いとされています。

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『クリオグロブリン血症とは』

クリオグロブリン血症は37℃以下の血液では溶解せず、37℃以上になると再び溶解する免疫グロブリンです。
この免疫グロブリンの発生は稀ですが、血液の温度が下がる末梢部では血管炎などが起こります。

【多発性骨髄腫の病因】

多発性骨髄腫の病因は
・骨病変
・出血傾向
・過粘稠症候群
・腎疾患
・高Ca血症
・免疫不全
・骨髄癆(ろう)による血球減少
・心臓障害
などがあげられます。
これらについて順に説明していこうと思います。

『骨病変』

多発性骨髄腫でみられる骨病変は骨融解骨減少がメインです。
多発性骨髄腫を有する犬の1/4は骨融解があり、2/3は骨減少があります。
猫の場合はどうやら国によってムラがあるようであまり当てになりません。だいたい8~65%で骨病変が見られるそうです。

『出血傾向』

出血傾向は単体の原因から複合的な原因まで様々です。
出血が起きやすい原因の1つにM成分が関与しています。

M成分が出血傾向を起こす理由
・血小板の凝集と血小板第3因子の放出を阻害する
・凝固系タンパク質を吸着する
・異常なフィブリン重合を産生する
・producing a functional decrease in calcium←訳せないのでパス、誰か訳して笑

1/3の犬と1/4の猫は出血の臨床症状が見られています。
特に犬では半分以上がPTとPTTの延長が認められています。

『過粘稠症候群(HVS)』

過粘稠症候群は血清の粘度著しく上昇したことで起こる臨床病理学的異常の1つと表現されます。

粘度の上昇具合は、M成分の種類や大きさ、濃度によって変化します。
IgM
IgMは5量体で分子量(約925kDa)が大きいので、マクログロブリン血症として有名です。

IgA
IgAを分泌する骨髄腫ではIgAは重合して2量体(分子量:約390kDa)となり、血清中の粘度を上げます。

IgG
IgGを分泌する骨髄腫でも発生はあるといえばあるのですが、分子量(約150kDa)が小さいため、過粘稠症候群の発生は稀です。

M成分の種類と大きさ(図解)

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過粘稠症候群が引き起こす疾患
・出血傾向:前項参照
・神経症状:沈鬱、痙攣、昏睡など
・視覚障害:網膜の血管拡張・蛇行、出血、網膜剥離など
・心臓へ負荷増大:心臓障害を続発させる原因となる
過粘稠症候群は様々な病気の引き金となります。

この原因として考えられるのが、血漿粘度の上昇に伴う血流の低下が考えられています。
血流が低下すると赤血球同時が集合し、連銭(赤血球が数珠状に連なること)を形成します。こうなると毛細血管では十分な酸素の受け渡しができなくなり、組織は低酸素状態になります。さらに、血流速度の低下などで末梢の循環障害が起こります。
これらが過粘稠症候群の主な原因となります。

『腎疾患』

多発性骨髄腫の症例で起こる割合
犬では1/3~1/2の割合で腎疾患の発生が認められ、猫では1/3で高窒素血症が認められています。

なぜ多発性骨髄腫で腎疾患が起こるのか
多発性骨髄腫で腎疾患が見られる原因は複数の要素が絡み合っています。
例えば、
・ベンス・ジョーンズ蛋白尿
・腎臓への腫瘍浸潤
・高カルシウム血症
・アミロイドーシス
・過粘稠症候群に続発する循環血液量の低下
・脱水
・上行性尿路感染症
などです。

「ベンス・ジョーンズ蛋白尿について」 

免疫グロブリンには重鎖と軽鎖があります。これらの詳しい解説を行うと分量がえらいことになる割愛しますが、通常の免疫グロブリン産生では重鎖と軽鎖の合成に関してバランスがうまく取れています。
しかし、多発性骨髄腫になると、軽鎖の産生が過剰になり、バランスが崩壊します。
軽鎖は分子量が小さいため、腎臓内で糸球体を通過し、蛋白尿の発生を促進します。蛋白尿は結構厄介なもので、尿細管を障害し、腎障害を招きます。

ベンス・ジョーンズの発生頻度
多発性骨髄腫を有する犬の25~40%で認められ、猫では44.4%で認められるという報告があります。

 Laboratory abnormalities included hyperglobulinemia (14/16, 87.5%), with 11/14 (78.5%) monoclonal and 3/14 (21.4%) biclonal gammopathies; hypoalbuminemia (4/16, 25%); light chain proteinuria, (4/9, 44.4%); hypocholesterolemia (11/16, 68.7%); hypercalcemia, (3/15, 20%); nonregenerative anemia, (11/16, 68.7%); regenerative anemia, (1/16, 6.2%); neutropenia (5/15, 33.3%); thrombocytopenia (8/16, 50%); and marrow plasmacytosis (14/15, 93.3%). 引用文献:Multiple myeloma in 16 cats: a retrospective study.

 

「高カルシウム血症」

多発性骨髄腫の犬の15~20%で発生が認められています。

多発性骨髄腫は瘍細胞から破骨細胞活性化因子を産生することで骨破壊が進行し、高カルシウム血症になると考えられています。
破骨細胞活性化因子だけでなく、他のサイトカインも上昇が認められています。
・TNF
・IL-1
・IL-6
などです。

高カルシウム血症は腎臓へ大きなダメージを与えます。
高カルシウム血症が起こす腎臓への有害作用
・腎臓での抗利尿ホルモンの感受性を低下させる
・細動脈を収縮させ、腎血流量の低下を引き起こす
・腎臓でカルシウムが沈着し、腎不全を引き起こす
などです。

『汎血球減少症』

多発性骨髄腫に関連した汎血球減少症はしばしば見受けられます。
多発性骨髄腫を有する約2/3の犬と猫では正球性正色素性の非再生性貧血が認められています。
多発性骨髄腫による貧血の原因
・腫瘍の骨髄浸潤に伴う骨髄癆(ろう)
・凝固障害に伴う失血
・過粘稠に続発する赤血球破壊
・赤血球貪食

同様な理由で血小板減少症や白血球減少症なども見られます。
1/3の犬と1/2の猫→血小板減少症
1/4の犬と1/3の猫→白血球減少症

『心臓障害』

心臓障害が起こる原因としては過粘稠症候群に続発する心臓の過労働低酸素による虚血があげられます。

 

多発性骨髄腫で見られる病変の原因

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【最後に】

今回は多発骨髄腫の概要と病因について解説しました。多発骨髄腫で重要なのは由来細胞が形質細胞であることです。形質細胞は正常時は状況に応じて複数種の免疫抗体を産生していますが、腫瘍化すると1つの抗体のみを産生し始めます。
それにより、過粘稠症候群が起こります。過粘稠症候群は多発性骨髄腫による身体の負担を増大させるものです。
 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 665-673p

 

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