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【膵外分泌不全(EPI)】~"すきま時間"の獣医学~

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【はじめに】

今回は『膵外分泌不全(EPI)』についてです。

「うちの子最近、下痢が続いている」、「なんだか体重が減ってきた気がする」

そう感じる場合もしかするとこの病気かもしれません。膵外分泌不全は消化酵素が出なくなる病気で、体重減少や下痢が主症状として認められます。

 

【目次】

 

【膵外分泌不全について】

『膵外分泌不全とは』

膵外分泌不全とは膵臓にある腺房細胞(酵素を出す細胞)から分泌される消化酵素が何らかの原因によって不足することで、消化吸収不良を引き起こす疾患です。

『原因は?』

酵素が産生されない場合
一般的に膵腺房細胞の萎縮や破壊により、消化酵素を分泌する能力を90%以上失うと症状が見られると言われています。

腺房細胞が破壊される状況
・遺伝性の腺房細胞の萎縮
・特発性の腺房細胞の萎縮
・慢性膵炎による腺房細胞の破壊
などが挙げられます。
ジャーマン・シェパードでは遺伝性の膵外分泌不全の発生が多いです。

消化酵素が小腸へ出ない場合
消化酵素自体は産生されているものの膵臓と小腸の連絡路である膵管が腫瘍などによって閉塞してしまうことで、膵外分泌不全が起こります。

『見られる症状は?』

主要な症状としては
・体重減少
・慢性の下痢
この2つが起こります。

これらの症状は消化酵素が出ず、消化不良と吸収不良になってしまうために起こります。 

消化不良・吸収不良に付随する症状
消化不良・吸収不良の状態が持続すると、ご飯を食べているのに栄養を得ることができないため、"慢性的な空腹状態"が続きます。そして、消化不良の状態で排出された糞便は"ご飯に近い糞便"、つまりフードの匂いがあります。

『慢性的な空腹状態+ご飯に近い糞便』の掛け合わせて見られる症状として、
・食欲亢進
・糞食
・異食
・被毛の粗剛
・白黄色酸性臭便

などが認められます。


猫の膵外分泌不全
猫の消化器疾患では『猫の三重炎(Triaditis)』という病気が有名で、その続発性疾患として膵外分泌不全が起こることがあります。

猫の三重炎とは
・胆管炎
・膵炎
・炎症性腸疾患(IBD)
の3つが併発して起こる疾患を言います。猫の三重炎によって膵炎が持続すると、膵外分泌不全になる可能性があります。とはいえ、犬よりも猫の発生は少ないと言われています。

『診断方法』

糞便検査
見た目が白黄色で酸性臭がする糞便では膵外分泌不全を疑います。
脂肪を染めるためにズダンⅢ染色ルゴール染色を行し、脂肪弁かどうかを検査します。ズダンⅢ染色ではリパーゼ活性を評価しています。

血液検査
特徴的な結果が出るというわけではありませんが、
・低アルブミン血症
・低グロブリン血症
・低コレステロール血症
・低トリグリセリド血症
が認められます。これらは吸収不良によるものと考えられます。

TLI検査
膵外分泌不全を疑う場合、血清検査でトリプシン様免疫活性(TLI)を検査します。TLIが低値(2ng/mL程度)でEPIだと診断つけることができます。
この検査は膵外分泌不全における感度と特異度が高いため、とても信用できる検査と言えます。

その他の臨床検査
・ペンチロイド(BT-PABA)試験:キモトリプシン活性を評価
・糞便中蛋白分解酵素活性試験
・糞便中膵エステラーゼ測定
・D-キシロース吸収試験:除外診断に使う。小腸での吸収障害を評価

画像診断
とりわけ膵外分泌不全の診断に役立つというわけではありませんが、下痢、体重減少といった症状を示す際に、他の疾患を除外するという意味では有効な検査方法となります。

『治療法』

主軸は"膵酵素の補充"
膵外分泌不全における治療の主軸は不足している膵酵素を補充してあげることです。その治療法としてあるのが、『消化酵素剤の添加』です。パンクレアチンなどの消化酵素剤をご飯に混ぜて与えることで、不足している消化酵素を補充してあげます。

食事は低脂肪食に徹する
消化の負担となる脂肪分を減量させた『低脂肪食』が推奨されます。

その他の治療
膵外分泌不全ではコバラミンというビタミンが減少することがあります。そういった不足していくものを輸液で補充してあげることも治療の一つです。

消化酵素剤の反応が悪い場合
消化酵素剤があんまり効かないという場合は『IBD』や『抗菌薬反応性腸症』などの別の病気が考えられます。試験的に抗菌薬(メトロニダゾールやタイロシン)の投与を行ってみます。

【最後に】

今回は『膵外分泌不全(EPI)』について解説しました。膵外分泌不全では失われた膵腺房細胞が復活することはないため、消化酵素剤の添加を一生続けていく必要がある可能性があります。しかし逆を言うと、この病気は消化酵素剤で安定できた場合、重症化することなく寿命を全うできる病気です。

【本記事の参考書籍】

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 286p

 

【関連記事】

『便と健康状態の関係性について』

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『急性膵炎について』

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『IBDについて』

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『低アルブミン血症について』

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『膵外分泌腫瘍について』

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