オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

【脂肪腫と脂肪肉腫】本当に良性の腫瘍なの?実は違うかも⁈

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20191004224946p:plain

【はじめに】

今回は『脂肪腫と脂肪肉腫』についてです。脂肪腫は高齢の犬猫を飼われている方なら、もしかしたら聞いたことがあるかもしれません。脂肪腫とは脂肪組織で構成された良性腫瘍で、発生場所によっては様子見で過ごされる場合も多々あります。今回はそんなスルーされがちな脂肪腫だけど、注意すべき場合もあるのだというお話をしていきたいと思います。

【目次】

 

【脂肪腫(Lipoma)】

『脂肪腫とは』

脂肪腫とは脂肪組織の腫瘍で、一般的には良性の腫瘍とされています。

f:id:otahukutan:20191102183820j:plain

『脂肪腫の種類』

脂肪腫には様々な種類があり、単なる脂肪腫(lipoma)から血管組織を含んだ血管脂肪腫(angiolipoma)血管線維脂肪腫(angiofibrolipoma)などがあります。僕が病理学研究室で見たことがあるのは脂肪腫しかありませんが。

このオタ福の語り部屋ではせっかくなので、超絶レアキャラである血管脂肪腫と血管線維脂肪腫について簡単に解説していきます。

血管脂肪腫について
血管脂肪腫とは簡単に説明すると『脂肪腫+血管』の組織像のことを言います。
病理組織所見としては成熟脂肪細胞が房状に増殖し、その間に血管壁の薄い血管が散見されている像が見えます。この組織内に見られる血管は血管内皮細胞に内張りされた血管で、そのほとんどの管腔内には赤血球が充満し、拡張しています。異形度の高い細胞や有糸分裂像は見られません。以下が論文より引用した病理組織像の写真です。

血管脂肪腫の組織像(写真と図)

f:id:otahukutan:20190806210837p:plain

下に写真の引用文献を貼っておきます。

Angiolipomas were solitary subcutaneous nodules composed of thin-walled blood vessels randomly distributed throughout lobules of well-differentiated adipose tissue (Fig.1). Endothelial cells lined the vessels. Many vessels were dilated and filled with erythrocytes, and some vessels were branched. Fibrin clots were occasionally present in vascular spaces. 引用文献:Angiolipomatous Tumors in Dogs and a Cat

 

血管線維脂肪腫について
血管線維脂肪腫は簡単に説明すると『血管脂肪腫+線維性結合組織』の組織像です。血管と脂肪細胞の間に結合組織が増生しているものを言います。この増生している結合組織はマッソン・トリクローム染色で青染されることから、コラーゲンであることがわかったそうです。

血管線維脂肪腫の組織像(写真と図)

f:id:otahukutan:20190807225441p:plain

The nodule was located in the subcutis beneath the panniculus carnosus muscle. In addition to adipose and vascular tissue, this tumor also contained bands of collagenous connective tissue (Fig.2) with low to moderate cellularity. 引用文献:Angiolipomatous Tumors in Dogs and a Cat

 

『脂肪腫の挙動』 

脂肪腫はほとんど無害
脂肪腫は高齢の犬で発生の報告が多くあり、特に皮下組織での発生が多いとされています。この脂肪腫によって何か動物のQOLを下げるような症状が見られることはほとんどないです。

脂肪腫の発生部位
基本は皮下組織ですが、他に犬で報告があるのは
・胸腔内
・腹腔内
・脊柱管
・外陰部
・膣

これらの場所にできると、物理的な圧迫や狭窄によって、二次的な障害が発生する可能性があります。臨床症状の発現とともに切除を行うか検討すべきです。この点が皮下組織に発生した場合と違うので注意が必要です。

『脂肪腫の治療法』

脂肪腫はセオリーとしては『正常組織を含めたマージン切除』が必要と考えられています。しかし、実際のところは脂肪腫は臨床症状が見られることもなく、脂肪腫を外科的に治療する必要はあまりないです。

手術を検討しなければいけない脂肪腫
しかし、手術を検討しなければいけない脂肪腫があります。
それは『傍骨性脂肪腫』『浸潤性脂肪腫』と呼ばれるものです。これらは病理組織学的には良性の腫瘍で、通常であればなんら危険視する必要ないのですが、臨床的には別です。何が問題になるかというと脂肪腫の『発生部位』です。

これら二つの発生部位
・傍骨性脂肪腫→肋骨付近
・浸潤性脂肪腫→皮下組織より深部へと浸潤

こういった場所に発生すると脂肪腫が正常組織にめり込んだり、引っ張ったりするので痛みが伴うことがあります。

脂肪肉腫には要注意
さらにもう一つ注意すべきものがあります。
それは『脂肪肉腫』という脂肪腫の悪性腫瘍です。こちらもそこまで凶悪ではないもの、病理組織学的には細胞異形度が高く、手術後の再発も確認されています。詳しくは後ほど解説します。

【筋肉内脂肪腫(Intramuscular Lipoma)】

筋肉内に発生する脂肪腫のことを『Intramuscular Lipoma』と言います。正しい日本語での病名がわかりませんが、ここでは『筋肉内脂肪腫』という単語でそれと同義にしておきます。

『筋肉内脂肪腫とはどんな脂肪腫?』

基本的には脂肪腫の一つとして定義されています。犬の大腿部に発生することが多く、特に半膜様筋と半腱様筋の間に発生します。

The masses were located predominantly between the semitendinosus and semimembranosus muscles and involved the full length of the femur. 引用文献:Intermuscular lipomas of the thigh region in dogs: 11 cases.

 

『臨床的にはどうであるか』

臨床的には成長速度は遅く、腫瘍自体は硬いです。周辺組織との固着が見られ、症状としては跛行が見られる場合があります。

『診断方法』

診断方法はシンプルで、細胞診によって診断されます。

『オススメされる治療法』

推奨される治療法は外科的切除です。

『予後について』

予後は良好です。犬11匹の筋肉内脂肪腫の症例で手術後の17ヶ月追跡したが、再発は見られなかったという報告があります。

No tumors recurred in the median follow-up period of 17 months.引用文献:Intermuscular lipomas of the thigh region in dogs: 11 cases.

 

【浸潤性脂肪腫(Infiltrative Lipoma)】

『浸潤性脂肪腫とは』

浸潤性脂肪腫は腫瘍性病変の所見を認めない高分化な成熟脂肪細胞で構成されているもので、あまり一般的なものではありません。

組織学的に脂肪腫との鑑別はできないです。病理学の教科書では皮下組織から筋層へと浸潤している脂肪腫を浸潤性脂肪腫と名付けていました。
なので、細胞診など少量のサンプルで通常の脂肪腫と鑑別することはできないと思います。

浸潤性脂肪腫の発生部位(図解)

f:id:otahukutan:20191004224422p:plain

 

『浸潤性脂肪腫、その挙動は?』

浸潤性脂肪腫は良性腫瘍であり、転移は見られないとされています。しかし、このタイプの脂肪腫は局所浸潤性が強く、筋層や筋膜、神経、心筋、関節包、骨にまで浸潤した報告があります。

『CT検査は使えるの?』

脂肪腫の浸潤の程度を把握するためにはCTが使用されます。しかし、浸潤性脂肪腫は正常脂肪組織と類似しているため、CTで正常脂肪組織とのコントラストが付かず、検査としてはあまり有用性は高くありません。

『治療方法』

浸潤性脂肪腫は局所浸潤性が強いため、場合によってはかなりアグレッシブな切除が必要になるかもしれません。それはつまり、断脚も検討しなければならないということです。

【脂肪肉腫(Liposarcoma)】

『脂肪肉腫とは』

脂肪肉腫は脂肪芽細胞由来の悪性腫瘍で、老齢犬で稀に発生します。脂肪肉腫は脂肪腫が悪性転換(がん化)したものではないとされているので、良性の脂肪腫があるからといって、必要以上に恐れることはないでしょう。

『脂肪肉腫の原因は?』

脂肪肉腫が発生する原因は今のところ分かっていません。しかし、一例だけ異物によって誘発された脂肪肉腫の報告があります。

この報告では右前肢に発生した脂肪肉腫(3 × 3 × 1.5 cm)で、手術により摘出したところ、腫瘍内にガラス片(1 × 0.8 cm)が見つかったそうです。この文献ではガラス片と脂肪肉腫の関係性があるのではないかと議論しています。

The 3 x 3 x 1.5-cm firm mass was surgically removed. Histopathologic observations confirmed the diagnosis of liposarcoma. During processing, a 1 x 0.8-cm piece of glass was found within the mass.引用文献:Liposarcoma associated with a glass foreign body in a dog.

 

『脂肪肉腫の臨床徴候・挙動』

性差・品種差
性差・品種差があるという報告はありません。

発生部位
一般的には皮下組織に発生するとされています。特に腹部や四肢端での報告が多いですが。骨や腹腔内でも発生例はあります。

腫瘍の様子
腫瘍自体は硬く、周辺組織とも固着が認められ、可動性に乏しいです。

腫瘍の挙動
腫瘍は転移率は低いですが、局所浸潤性を持っています。転移は肺や肝臓、脾臓、骨などで報告があります。

『治療方法と予後について』

きちんとして手術を行えば、予後は良好なケースが多いです。きちんとした手術とは広範切除を行うということです。
ある報告によると広範切除を行なった症例はマージン切除や切開バイオプシーのみを行なった症例と比べ、生存期間中央値が有意に伸びていたとのことです。

切除範囲別の生存期間中央値
・広範切除:1188日
・マージン切除:649日
・切開バイオプシー:183日

Median survival times were 1,188, 649, and 183 days, respectively, for dogs that underwent wide excision, marginal excision, and incisional biopsy.引用文献:Liposarcomas in dogs: 56 cases (1989-2000).

 

『おまけ:脂肪肉腫の分類と挙動』

人医療では脂肪肉腫をさらに分類します。
・高分化型
・粘液型
・円形細胞型
・多形性
・未分化型
と分類されます。

人医療の世界ではこれらの分類が予後を把握するのに重要な分類になります。獣医療ではここまで分類はされていませんが、人間同様に『多形性脂肪肉腫』が他の脂肪肉腫よりも転移率が高いということが後ろ向き研究によって報告されています。

【最後に】

今回は『脂肪腫と脂肪肉腫』について解説しました。脂肪腫の病理組織学的な像としては成熟した脂肪細胞の塊で、良性の挙動を示します。しかし、発生した場所や浸潤性の有無をによって動物のQOLを下げうる腫瘍となります。そして、脂肪肉腫は稀に発生する脂肪芽細胞由来の悪性腫瘍です。脂肪腫との関係性は現時点では確認されていません。広範切除を行うことが推奨されています。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 358-359p