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【全身性エリテマトーデス】②どう検査、治療する

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f:id:otahukutan:20190923150854p:plain 【はじめに】

今回は前回に引き続き『全身性エリテマトーデス』に関してです。検査方法と治療法を中心に解説していきます。
全身性エリテマトーデスは身体のあらゆるところで、炎症が起こってしまう非常に怖い自己免疫疾患です。
正しく診断し、治療を行うにはどうすれば良いのでしょうか?

【全身性エリテマトーデス】①その概要と症状とは

【全身性エリテマトーデス】②どう検査、治療する 


【目次】

 

【診断方法】

『ANA陽性・陰性で分けられる』

動物のSLEの診断方法は人間のそれと若干基準が違います。動物のSLEの診断はANA(抗核抗体←後述します)に陽性か陰性かで診断基準が分けられます。
というのも、本来SLEといえば、ANA抗体価の上昇が認められるべきなんですが、大学の授業でもそう習うのですが、どうやら動物では特異度がそこまで高いわけではなく、ANA陰性でもSLEと考えるべき症例がいくつかあるようです。

SLEではANAが作られる(図解)

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『SLEの診断基準』

f:id:otahukutan:20190618082602p:plain上の表は推奨されているSLEの診断基準です。

獣医療ではSLEの診断は以下のように考えます。
ANA価陽性の場合
該当する臨床症状が少なくとも2項目はある
例)ANA価陽性で、関節炎と皮膚病変を伴う→SLEと診断

ANA価陰性の場合
該当する臨床症状が3項目以上ある
例)ANA価陰性で、関節炎、貧血、腎疾患を伴う→SLEと診断

『検査するべきもの』

SLEを疑う症状が見られた場合、まず最初に感染や腫瘍を除外するための検査が必要となります。そのためにまず、色々と検査していきます。
最初に行うべき検査
・血液検査
・尿検査
・画像検査
・滑液検査
・皮膚検査(
皮膚生検を除く)
・血清ANA抗体価の測定
これらの検査を行うことで感染症(細菌性、真菌性、ウイルス性など)と腫瘍の可能性を可能な限り除外していきます。
猫ではFeLVやFIVの検査も行なっておくとよいでしょう。

免疫疾患の発生を確認する検査
・クームス試験
・血小板自己抗体の検査
・リウマチ因子の検査
・凝固試験:抗リン脂質抗体の検査
・循環血液中の免疫複合体や内分泌自己抗体の濃度
・免疫組織化学的検査、免疫蛍光抗体検査

など、たくさんあります。この中を全部をやるのではなく、最初の検査結果から必要な検査を選択して行います。

クームス試験とは(図解)
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『生検の診断価値は低い』

SLEを診断する上で皮膚や口腔内の生検はあまり役に立たないとされています。

病理検査所見は
表皮-真皮接合部に単核球浸潤が見られる皮膚炎が見られたり、表皮基底細胞層のアポトーシス、そしてそれが起こると表皮と真皮が分離してしまいます。

【特殊な検査】

『エリテマトーデス(LE)細胞検査』

エリテマトーデス細胞は核の分解産物を貪食した好中球として認識されます。
特異度はやや高いのですが感度が悪く、偽陰性が多く出るので、結果の解釈の仕方に問題があります。
最近では実施されても信憑性が低いため、抗核抗体(ANA)試験に取って代わられてきています。

『抗核抗体(ANA)』

 抗核抗体とは細胞の核の構成成分に反応する自己抗体です。抗核抗体試験はSLEを診断する常套手段とされていますが、獣医学領域では検査会社によって感度特異度にばらつきがあり、感度が低いと考えられています。

抗核抗体試験の仕組み
ラットの肝臓やヒト上皮系細胞株に検査対象動物の血清を反応させ、核に結合した自己抗体を蛍光標識した二次抗体で検出する間接蛍光抗体法が使用されています。
この染色法によって見られる染色パターンによって核内のどの構成成分に自己抗体が反応しているのかを大まか分類できます。しかし、動物では染色パターンと臨床的な特徴に明確な関連性は解明されていません。

抗核抗体試験で見るもの
・抗体価←獣医学領域ではこっち
・染色パターン←人で使用、動物はあまりしない

染色パターンについて
獣医学領域ではANAの統一プロトコールが存在しないため、核の染色パターンはあまり使用されていません。人の場合、染色パターンによって核内のどの構成成分に自己抗体が反応しているのかを大まか分類でき特定の疾患との関連が示唆されています。しかし、動物では染色パターンと特定の疾患に明確な関連性は解明されていません。

主な染色パターンとしては
・Homogenous(均質)型
・Speckled(斑紋)型
・Peripheral(辺縁)型
・Nucleolar(核小体)型
があります。
この中でも動物で多い染色パターンは"斑紋型""均質型"です。


他の疾患でも上昇が認められるの注意
抗核抗体試験で測定される抗体価の上昇はSLEの診断に使用されますが、他の疾患でも上昇することがあるので注意が必要です。1つの検査結果に振り回されることなく、総合的な判断が大切です。

【ANA価が上昇する疾患】
・慢性炎症
・感染症
・腫瘍
・不明熱
・アトピー性皮膚疾患
・薬の服用中:メチマゾール(甲状腺機能亢進症の薬)

・健常動物の10%←健康でも出ることがある!
ちなみに、ステロイド服用中だとANA価が下降する場合があります。

 

『自己抗体』

ある特定の自己抗体を検出することで、SLEを疑うことができます。

DNAに対する自己抗体
二本鎖DNAに対する抗体は人間のSLE患者では60~83%で認められており、特異度の高い診断方法となっています。ただ、犬のSLE患者では2~16%とあまり見られないようですが。 

可溶性核抗原(ENA)
可溶性核抗原は細胞核のうち可溶性の分子を抽出したもので、DNAやヒストン蛋白などの不可溶性物質は除外されています。
獣医学領域ではまだ検査として実用化されていませんが、血清中の抗体との結合を調べることで診断がつく可能性が示唆されています。
この際、重要となるENAはSm、Ro、La、リボ核蛋白です。

抗ヒストン抗体
ヒストンとはDNAをスーパーコイル状に巻きつける蛋白の1つです。抗ヒストン抗体は人では薬物誘導性SLEで多く見られるそうですが、動物での薬物誘導性SLEでは指標として利用されていません。
ある大学がおこなった調査によると、SLEを発症する犬の61~72%が抗ヒストン抗体を有するということです。 
ただ、ANA陽性血清と陰性血清で抗ヒストン抗体に濃度差はなく、SLEより他の疾患でも観察されたので、あまり特異度は高くないようです。

Antihistone Ab were frequently observed in SLE dogs (71%) and are essentially directed against trypsin-resistant epitopes of H3, H4 and H2A. 引用文献:Canine systemic lupus erythematosus. II: Antinuclear antibodies.

 

抗リン脂質抗体
リン脂質抗体は細胞膜のような細胞に関連するリン脂質と結合します。この抗体はin vitroの実験ではプロコアグランド活性を有する脂質の機能を邪魔することがわかっていて、SLE患者で抗凝固作用を起こし、APTTの延長が見られます。
人のSLEでは血小板減少症、血栓症、失血などを起こすことがわかっています。

【治療法】

SLEは日光の関与も示唆されているので、日差しが強い時はなるべく日光に浴びないようにした方が良いです。
SLEの治療法でベースになるは『免疫抑制』です。

『まずはプレドニゾロン』

初期は高用量ステロイドで症状を抑える
初期治療としてプレドニゾロン(1-2mg/kg SID)で様子を見ます。重症例でなければ、もう少し低い用量でも効果が出るかもしれません。
とはいえ、たいていの場合はこの用量(1-2mg/kg SID)で治療を開始、臨床症状と検査結果が改善するまで、続けます。

快方へ向かってきたら
症状と検査結果が緩和されてきたら、徐々にステロイド(プレドニゾロン)を減らしていきます。
目安としては4週間で半量ずつ減薬を目指していきます。その際、症状や検査結果が再燃していないかをちゃんとチェックしておく必要があります。順調に進んでいる場合は、この周期で減薬を続けていきます。
4ヶ月ほど治療は行います。

再燃が起こった場合
再燃した理由がプレドニゾロンの減薬によるものなのかをしっかりと考える必要があります。複数の可能性を検討した上で、減薬が原因だろうと考えれば、治療中で最も効果的だった用量にまで戻し、もう一度症状を緩和してあげます。

ステロイドの副作用が出てきた場合
プレドニゾロンを高用量で使用している場合、ステロイドの副作用が出てくる場合があります。その際はステロイドの他に免疫抑制剤を併用することで、ステロイドの用量を減薬し、対応します。

猫でプレドニゾロンに反応しない場合
猫ではプレドニゾロンに反応しないものをいます。そういった場合は免疫抑制剤を使用する前に、他のコルチコステロイド(メチルプレドニゾロンやデキサメタゾンなど)を代用してみるべきです。

『免疫抑制剤との併用』

「犬→プレドとミコフェノの併用療法」

犬ではプレドニゾロンとミコフェノール酸モフェチルの併用療法を用いることで、ステロイド(プレドニゾロン)単剤療法よりも副作用を減らすことができます。

用量
プレドニゾロン(1mg/kg PO q12~24h)
ミコフェノール酸モフェチル(10mg/kg PO q12h)
この用量からスタートし、2週間ごとにプレドニゾロンの用量を減量していきます。

徐々に用量を減らしていく
最終目標としてはプレドニゾロンを断ち切り、ミコフェノだけで症状の緩和を維持することです。もし、ミコフェノール酸モフェチルだけで2ヶ月維持できたなら、もう2ヶ月かけて用量を半減させて持続させます。その後は薬を完全に断ち切ります。

再発が認められた場合
薬を断ち切り、再発が認められた場合はミコフェノール酸モフェチル(10mg/kg PO q12-24)に戻して、免疫抑制をかけます。

ミコフェノール酸モフェチルの副作用
この薬は副作用が少なく、見られるのは軽度の下痢があります。白血球数が減少するなどの副作用もありますが、プレドニゾロンほどではありません。

「(猫)コルチステロイド+クロラムブシル」

猫の場合、プレドニゾロンが効かないケースもあるので、あえてコルチコステロイドという表現しておきます。
猫では免疫抑制剤を使用するときはクロラムブシルを使用します。
クロラムブシルは抗がん剤の1つなのですが、免疫抑制剤として使用されることがしばしばあります。
薬を減量していく際、コルチコステロイドよりも免疫抑制剤であるクロラムブシルを先に減量していく点で犬と異なります。

クロラムブシルの副作用
食欲不振と骨髄抑制があります。そのため定期的に白血球数が減っていないかなどのモニタリングが必要になってきます。

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『レバミゾールとプレドを使う』

犬ではプレドニゾロン(1-2mg/kg PO q24h)とレバミゾール(2~5mg/kg 最大150mg PO q24h)の併用療法があります。
2ヶ月かけてプレドニゾロンを減量していき、レバミゾールは4ヶ月間使用して断ち切ります。再発した場合は、再びレバミゾールを使用します。
この方法で約75%の犬が症状が緩和されたという報告があります。

レバミゾールの副作用
・顆粒球減少症
・時に攻撃的な性格になる
などが挙げられます。

SLEの治療フロー(図解)

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【予後について】

SLEの予後を語るには難しく、症例によって本当にまちまちです。
全ての患者に言えることですが、定期的な検査は重要です。

行う検査
・血液検査(CBCと生化学)
・尿検査
・抗核抗体の抗体価(可能なら)
これらを1~3ヶ月ごとに行うことが重要になります。

抗核抗体の抗体価は指標になる
抗核抗体の抗体価が上昇している場合は症状が悪化していることが多く、逆に低い場合は症状が落ち着いていることが多いです。そのため、抗核抗体の抗体価を測定することは治療が成功しているかの指標の1つになります。

腎疾患が見られる場合
腎疾患が見られる場合はより強い治療を行うべき
とされています。ループス腎炎は無症候性のタンパク尿から急速に進行する糸球体腎炎まで、見られる症状の程度は様々です。腎機能のモニタリングはSLE患者では重要です。

【最後に】

今回はSLEの検査と治療法について解説しました。検査ではANA(抗核抗体)の測定に加え、臨床症状からSLEを診断していきます。
そして、SLEの治療ではとにかく免疫を抑えるということです。SLEは自分の細胞に対して自分の免疫が反応してしまって起こっている病気です。免疫を抑えて、症状を緩和させてあげることが主な治療法になります。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 873-877p

 

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『過敏症について』

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『自己免疫疾患』

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