オタ福の語り部屋

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【犬のレプトスピラ染症】犬だけじゃない、人にもかかる怖い細菌

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【はじめに】

今回は『レプトスピラ症』についてです。レプトスピラ症は病原性レプトスピラによる感染症で、『げっ歯類-犬-人』で感染環が成り立っています。池や沼、水たまりなど、野ネズミが生息している場所ではレプトスピラの感染リスクがあります。
今回はそんなレプトスピラ症についてご紹介します。

 

【目次】

 

【レプトスピラ症について】

『レプトスピラ症とは』

レプトスピラ症とはレプトスピラ属菌の中でも病原性が強い『病原性レプトスピラ』の感染によって起こる感染症で、黄疸と出血を主徴とする甚急性~慢性の疾病です。宿主域が広く、ネズミと犬だけでなく、人や牛、豚など多くの動物で感染が成立します。

『レプトスピラってどんな細菌?』

病原体
レプトスピラは病原性レプトスピラと非病原性レプトスピラに大別されます。レプトスピラ症で問題となるのは病原性レプトスピラです。

病原性レプトスピラの種類
一般的に病原性レプトスピラというとLeptospira interrogansが挙げられます。このL.interrogansは200種類以上の血清型を持っていますが、日本で問題となりがちなのは以下の血清型です。
・Pomona
・Canicola
・Icterohaemorrhagiae
・Hardjo
・Grippotyphosa
・Autumnalis
・Australis
の7つの血清型が問題となります。

よく動物病院で予防接種をする際「7種にしますか?」「8種混合にしますか?」「10種混合というのもありますよ?」などと聞かれるのは、コアワクチンに加えて、これらレプトスピラの血清型が何種類含まれているかを示しています。

レプトスピラの生息地
本菌は水場を好むため、沼や池、水たまりなどで生息していることから、猟犬や山へよく遊びに行く犬では感染のリスクが高まります。

他にもげっ歯類が保菌していることで有名な細菌なので、野ネズミが多い下水道などでも感染する機会があります。

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『感染環について』

感染経路
本菌は保菌動物の尿から排出されます。野ネズミの尿が混ざった水たまりの水を飲むと細菌が体内へ侵入します。他にも傷口が水に触れたり、目や口腔内などの粘膜に接触しても感染が成立する場合があるので注意が必要です。

・経創傷感染(←傷口から侵入)
・性交感染
・経胎盤感染(←妊娠中は注意)
・経粘膜感染(←目や口から侵入)
・経口感染

など様々な侵入ルートを持っているのがレプトスピラの厄介なところです。

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体内での動き方
レプトスピラが体内に侵入すると血液中で増殖し、『肝臓』『腎臓』で定着します。そこで毒素を産生し、肝障害や腎障害などの病原性を発揮します。ひと暴れすると、数カ月にわたって腎臓から尿中へ排泄され、水たまりなどで再び感染する機会を待ちます。このようにしてレプトスピラは生き延びています。

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『症状について』

大型犬や若齢犬では重篤化する傾向があります。

甚急性の場合
臨床症状を示す前に急速に進行し、突然死します。

急性の場合
発熱や震え、筋肉痛、嘔吐、脱水、末梢循環障害、呼吸促迫、不整脈、吐血、下血、メレナ(黒色便)、鼻出血、点状出血、DIC(播種性血管内凝固)、黄疸などが認められます。

亜急性の場合
発熱、元気消失、食欲不振、脱水、多飲多尿、知覚過敏、結膜炎、ぶどう膜炎、乏尿、無尿、発咳、呼吸困難などが認められます。

特に肝臓と腎臓がやられる
体内に入ったレプトスピラは肝臓と腎臓を住処とします。肝臓が攻撃されると、肝不全による『黄疸』が現れます。歯肉、眼球、陰部に黄疸が見られます。

腎臓が攻撃されると腎不全による『多飲多尿』、『乏尿・無尿』が見られます。その他に感染症なので『発熱』『手足の冷感』などもあります。

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『診断方法』

血液検査
一般検査では白血球の減少あるいは上昇が認められます。他に血小板減少症や貧血が見られる場合もあります。

生化学検査では肝機能と腎機能の低下を示唆する検査所見が得られます。
例えば、肝臓では
・ALTの上昇
・ASTの上昇
・ALPの上昇
・ビリルビンの上昇
・低アルブミン血症

そして、腎臓では
・低Na血症
・低K血症
・高P血症
・低Ca血症
・BUNの上昇
・Creの上昇

腎臓ではNa, K, Caの再吸収を行い、P, BUN, Creの排泄しています。そのため、腎機能が低下すると上記のような検査所見を得られます。

尿検査
ビリルビン、赤血球、白血球、顆粒円柱が確認できることがあります。

レントゲン検査
腎臓や肝臓が腫大している様子が確認できることがあります。

細菌培養
コルトフ培地やEMJH培地に接種して30℃で5~7日培養するという方法もありますが、血液中に細菌が溢れている菌血症という状態が続いている期間は短く、検出できない場合があります。培養日数もかかり、治療開始に遅れが出るので、あまり臨床的な検査方法ではありません。

一番確実なのはPCR検査
感染が疑われる場合は感染動物の尿や血液、組織サンプルとPCR検査にかけて、レプトスピラを検出することが可能です。この検査は死んだレプトスピラも検出することができるので、抗菌薬投与後でも検出可能です。

『どうやって治療するか』

二つのアプローチで治療を行います。イメージとしては『攻撃』と『防御』です。

①抗菌薬を用いてレプトスピラを倒す(攻撃)
②腎障害を治し、全身状態を整える(防御)

これら二つを主軸にレプトスピラ症を治療していきます。

①抗菌薬
以前までよく使用されていた抗菌薬として『ストレプトマイシン』という薬があります。この薬はレプトスピラに対してよく効くものの、聴覚障害などの副作用が強く、あまり実用的ではありませんでした。

最近では、ストレプトマイシンに代替する薬として、
・ペニシリン
・アンピシリン
・アモキシシリン
などが使用されます。これらの抗菌薬によって、レプトスピラをある程度倒したら、最後に腎臓で潜伏感染しているレプトスピラを倒すために『ドキシサイクリン 』を使用します。

ドキシサイクリンは尿路排泄される抗菌薬なので、腎臓で隠れているレプトスピラに有効的です。

②輸液で腎臓を守る
レプトスピラ感染によって、荒らされた腎臓では腎障害が起こっています。腎臓への血液循環量を増やし、尿量を維持するために輸液を行います。

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『予防するには』

レプトスピラの感染を防ぐには

①本菌との接触を避ける
②ワクチンを接種する

この2つがキーポイントになります。

①本菌との接触を避ける
レプトスピラは『水場』に生息しています。ペットには水田や池、沼、水たまりなどの水を飲まさないように注意してください。さらに傷口や粘膜面からの侵入もあるので、怪我している場合は水場での遊びは控えましょう。

②ワクチンを接種する
山や森、川などへよく遊びに行く犬ではレプトスピラのワクチンを接種しておきましょう。とはいえ、上述した通り病原性レプトスピラには200種類以上の血清型があります。日本では地域差もありますが7種の血清型が有名です。接種したワクチンと血清型が変われば、感染のリスクもあるので、やはり油断は禁物です。

【最後に】

今回は『犬のレプトスピラ症』について解説しました。河川の氾濫や冠水により下水道が逆流すると、レプトスピラに接触する機会も増えるので、この度『犬のレプトスピラ症』と題してご紹介させて頂きました。当方、オタ福にはこの程度のご協力しかできませんが、少しでもご参考にして頂ければと思います。

先日、2019年10月12日、関東地方を襲った超大型台風の影響で被災された方、心よりお見舞い申し上げます。

 

【本記事の参考書籍】

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 628-629p

明石博臣, 大橋和彦, 小沼操, 菊地直哉, 後藤義孝, 髙井伸二, 宝達勉 編集 : 動物の感染症 <3>, 近代出版, 2011, 245p

見上彪 監修; 関崎勉, 髙井伸二, 堀本泰介, 望月雅美 編 : 獣医微生物学 第3版, 文英堂出版, 2011, 97-99p