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【全身性エリテマトーデス】①その概要と症状とは

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【はじめに】

今回は『全身性エリテマトーデス』について解説します。
全身性エリテマトーデスは自分の免疫が悪さをすることで起こる自己免疫疾患です。その標的はある特定の臓器ではなく、全身の臓器(細胞)を標的とし得ます。それゆえ、全身で炎症が起こり、とてもしんどい病気です。
 

【目次】

 

【全身性エリテマトーデスとは】

全身性エリテマトーデスとは『免疫反応が様々な臓器や組織に対して認められる慢性の全身性免疫介在性疾患』です。
もう少し分かりやすく言うと、『免疫反応がいろんな場所で起こり、自分の身体を自分の免疫で傷つけてしまう疾患』です。

全身性エリテマトーデスはSystemic Lupus Erythematosusを略してSLEと呼ばれます。以後、全身性エリテマトーデスはSLEと表記します。

【SLEの病態について】

SLEは自己免疫疾患で、自己免疫疾患の定義は『感染やその他の明らかな原因が認められない免疫系の活性化に伴う臨床症状』とされます。

SLEでよくみられるのはⅢ型過敏症です。
免疫系の機能不全によって免疫複合体という抗原-抗体の集合体が形成され、臓器に沈着することで組織障害を誘発します。
SLEにはⅡ型過敏症やⅣ型過敏症の発生例も認められています。

過敏症については以下の通りです。
4つの過敏症について(図解)

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『SLEで暗躍する役者たち』

自己抗体の産生
SLE患者では自分の核や細胞質、細胞膜、分子など広範囲の自己抗原に対し、自己抗体を産生します。自己抗体は標的とする抗原のオプソニン化(←狙う細胞に目印をつけること)や免疫複合体の形成を通じて、ターゲットを攻撃します。

免疫複合体について
免疫複合体とは抗原に抗体がくっついたもので、抗体が抗原に接触すると形成させるものです。通常はマクロファージなどの単核貪食細胞によって食べられ、除去されます。しかし、この免疫複合体の量が増えてしまうと、処分に追いつかず、除去機構が破綻してしまいます。
こうして徐々に増加した免疫複合体はやがて糸球体や滑膜、脈絡叢などに沈着してゆき、そこに炎症細胞がたくさん集中してしまい、炎症が起こります。

T細胞の存在
T細胞はSLE患者では直接組織を攻撃します。皮膚病や腎障害などを引き起こしている細胞は細胞傷害性T細胞が関与していることがわかっています。

役者一覧(図解)

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『SLEに発展しやすい遺伝子とは』

人のSLEでは多くの遺伝子がSLEに関与していることがわかっています。特に免疫系のタンパクをコードしている遺伝子がそのほとんどです。一方でその反対にSLEへの発展を防ぐような保護遺伝子の存在も認められています。

犬の場合
犬でもSLEの実験モデルが確立されており、原因遺伝子と保護遺伝子について、解明されています。

猫の場合
猫でも純血猫では発症が確認されており、やはりここでも遺伝的な影響が示唆されています。

『SLEと環境因子』

SLEの発症と紫外線が関与しているということが言われています。
人ではSLE患者の90%が女性であることから、性差があるとされていますが、犬猫では関係ないと考えられています。 

『ある薬の服用によってSLE様の病気が起こる』

これまた人のお話になるのですが、人では薬の副作用によってSLEに類似した症状が見られることがあります。これは類似であって真のSLEではないのですが。

犬や猫でも同様な事例は報告されていて
犬ではヒドララジンという血管を拡張させるお薬が抗核抗体の産生に関与していると言われており、猫ではプロピルチオウラシルやチアマゾールという甲状腺機能亢進症のお薬が関与しています。

Immunologic abnormalities associated with methimazole treatment included the development of antinuclear antibodies in 52 of 238 (21.8%) cats tested and red cell autoantibodies (as evidenced by positive direct antiglobulin tests) in three of 160 (1.9%) cats tested. 引用文献:Methimazole treatment of 262 cats with hyperthyroidism.

 

『SLEと病原体』

基本的にSLEでは無菌的な炎症が起こっており、感染症を疑うような所見は認められません。
しかし、病原体の感染が、SLEの遺伝子的素因を持つ患者の臨床症状の発展に加担している可能性はあります。

加担していると考えられる理由
自己抗原の免疫原性(←抗体や細胞性免疫を誘導する性質)は炎症によって上昇することがわかっています。
細菌などの病原体に感染すると体は免疫系が活性化され炎症反応を引き起こします。そういった理由で免疫原性が上昇し、自己免疫疾患が発症してしまうことがあります。

ワクチンなどでも同様
ワクチンの接種を行っても、一時的に免疫が活性化されます。例えばFeLV・FIVの感染やワクチン接種後にSLE様病変の発症リスクが高まるかもしれないと言われています。

【SLEの症状とは】

『SLEの発症年齢と具体的な種類』

SLEの発症年齢
SLEの症状がで始めるのは報告があるのは
・犬:6ヶ月~13歳で多いのは3~7歳
・猫:1~11歳
です。

具体的な症状
・多発性関節炎(78%)
・発熱(68%)
・腎疾患(55%)
・皮膚病変(46%)
・リンパ節の腫れ/脾腫(38%)
・白血球減少症(18%)
・溶血性貧血(15%)
・血小板減少症(13%)
・筋炎(6%)
・中枢神経系疾患(5%)
・神経炎(2%)
といった具合になっています。カッコ内はSLEと診断された犬で現れた症状の割合を示しています。

SLEの犬猫で見られる症状(まとめ表)

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『跛行:足を引きずる』

足を引きずる理由は痛みからであり、その痛みの原因は非びらん性多発性関節炎によるものです。非びらん性多発性関節炎とは骨を溶かさない関節炎で、末梢関節に多発性に発生する関節炎です。
SLEの関節炎は小さな関節での発生が多く、
・手根関節(手首の関節)
・足根関節(足首の関節)
・肘関節
・膝関節
など、これらの関節で頻繁に見られます。

関節液検査
関節液とは関節胞にある液体のことで、滑膜から産生され、骨と骨の潤滑液や軟骨への栄養供給などそういった役割をしています。
SLEの多発性関節炎の滑液では無菌的でかつ好中球が多く存在しています。

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『発熱』

発熱は犬猫と両方で比較的よく見られるSLEの症状です。持続性また間欠性(発熱-平熱を繰り返す)の発熱が見られます。

『腎疾患』

人のSLEでは腎疾患が頻繁に発生するため、全患者で必ず腎臓の生検を行います。

犬のSLEにおける腎疾患でよく見られるのは、蛋白尿と糸球体疾患です。
糸球体疾患では糸球体間質や血管内皮の肥厚や増殖のほか、膜性糸球体腎炎、硬化性変化などが見られます。

猫では蛋白尿や糸球体腎炎が頻繁に見られます。

『皮膚病変』

犬の場合
SLEの犬の病変で多いのは
・紅斑:赤くなる
・鱗屑:フケが増える
・痂皮:カサブタ
・色素脱失
・脱毛
などです。
病変が見られるのは被毛が薄い部分や粘膜皮膚結合部(口唇や肛門、陰部)で多いです。SLEによる皮膚病変は紫外線の影響も示唆されているので、被毛が薄い部分では病変が出やすいのでしょう。

猫の場合
顔や耳、肉球などで犬と同様の病変が認められます。

『血液成分の変動』

貧血
犬のSLEでは慢性貧血に伴う貧血が多く、溶血性貧血は一般的ではありません。

血小板減少症
軽度なものから重度なものまで様々です。

汎白血球減少症
しばしば散見されます。

『ループス抗凝固因子』

ループス抗凝固因子とはSLEなどの自己免疫疾患に続発することが多い病気で、抗リン脂質抗体が産生され、in vitroではAPTTの延長が認められます。すなわち内因性凝固因子の障害を受けています。
APTTが延長する一方で、臨床的(in vivo)には血小板が活性化し、凝固亢進がと血栓症を引き起こします。
この病気は難病扱いとされていて、詳細な原因はまだわかっていません。

The aPTT was still prolonged, with a 1:1 mixture of patient's plasma and normal dog plasma in vitro, suggesting the presence of a circulating inhibitor. Results of assays to characterize the inhibitor were compatible with those described for the lupus anticoagulant in human patients with systemic lupus erythematosus. Paradoxically, patients having the lupus anticoagulant are at increased risk for thrombosis. 引用文献:Lupus-type "anticoagulant" in a dog with hemolysis and thrombosis.

『中枢神経障害』

人のSLE患者では記憶障害や頭痛、発作、性格の変化などが報告されてます。
猫では
・活動性の亢進
・耳や尻尾をばたつかせる
・執拗に指を舐める
・首がうなだれる
・痙攣

【最後に】

今回は全身性エリテマトーデス(SLE)の概要と症状について解説しました。SLEは全身の臓器を標的にした自己抗体が産生されることで、いろんな場所で炎症が起こります。特に注意したいのが多発性関節炎と不明熱です。原因が不明な発熱は考えられることがたくさんありますが、SLEの可能性を忘れないようにしましょう。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 873-877p

 

【関連記事】

『過敏症について』

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『自己免疫疾患』

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