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猫のリンパ腫⑤~治療法と予後~

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【はじめに】

今回は『猫のリンパ腫の治療法と予後』についてです。
多中心型リンパ腫が多い犬と比べ、猫で組織型や発生部位もバラツキがあるので、ゴールドスタンダードなリンパ腫の治療法が今ひとつ確立していません。
かつてFeLVが猛威を振るっていた時代に確立された化学療法も、FeLVが落ち着いた今日で果たして有効なのか、適応可能なのかを注意して治療を進めていかなければなりません。
今回はそんな猫のリンパ腫の治療法についてお話しできればと思います。

猫のリンパ腫①~統計とリスク因子~

猫のリンパ腫②~病因と挙動~

猫のリンパ腫③~症状~

猫のリンパ腫④~診断とステージ分類~

猫のリンパ腫⑤~治療法と予後~

【目次】

 

【化学療法について】

猫のリンパ腫は化学療法が有効的である事がわかっており、実施した際の飼い主さんの満足度も高いと言われています。

猫の中〜高グレードのリンパ腫に使われる薬剤は犬や人間のリンパ腫で使用されているものと類似しています。
主に使用させるも薬剤
・ドキソルビシン
・ビンクリスチン
・シクロフォスファミド
・メトトレキサート
・L-アスパラギナーゼ
・CCNU(ロムスチン)
・プレドニゾロン
などです。
中でもリンパ腫の治療で最近よく使用されるのは2L-CHOPプロトコルと呼ばれる方法です。2015年にColletteらが報告した変更型UWMプロトコルとして知られています。

『L-CHOPプロトコルとは?』

L-CHOPとは
L-CHOPは以下の薬剤の頭文字からきています。

L-CHOPの略称
・L:L-asparaginase=L-アスパラギナーゼ
・C:Cycrtophosphamide=シクロフォスファミド
・H:docorubicin(hydroxydaunorubicin)=ドキソルビシン
・O:Vincristine(Oncovin)=ビンクリスチン
・P:predonisone=プレドニゾロン

抗がん剤の特徴(図解)

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「L-CHOPが有効となるのは」

L-CHOPが適応されるのは中~高グレードのリンパ腫で、あらゆる発生部位で有効です。
しかし、小球性低グレードリンパ腫では最初の治療として行われることはあまりありません。

 

「L-CHOPで使われるドキソルビシン、その副作用は?」

ドキソルビシンという薬は犬では蓄積性心毒性が問題となりますが、猫ではあまり問題になりません。心毒性よりも心配なのが、腎毒性です。
治療を始める前や行なっている間は腎臓のモニタリング(BUN、Cre、尿比重)を行っておくべきです。

『COPという方法もある』

先ほどご紹介したL-CHOPプロトコルからドキソルビシンを抜いたCOP療法というものがあります。L-CHOPと比較して短期間、低負荷の抗がん剤治療となります。その分治療成績は劣ってしまいます。

鼻腔内や多中心型リンパ腫ではCOPでリンパ腫が長期間コントロールされることが知られています。

【腸管型リンパ腫の治療法】

『良性のリンパ腫の場合』

良性の腸管型リンパ腫には小球性T細胞性リンパ腫のMucosal型があります。
このリンパ腫の場合は比較的予後は良好とされています。使われる抗がん剤は経口摂取できるクロラムブシルプレドニゾロンが使用されます。

この2つを使った治療法では90%以上の症例で臨床症状の改善が認められ、生存期間中央値は約2年という報告があります。

The overall clinical response rate was 96%, with a median clinical remission duration of 786 days. 引用文献:Treatment of feline gastrointestinal small-cell lymphoma with chlorambucil and glucocorticoids.

レスキュー療法は
このプロトコルを終了後、腫瘍が再燃してきた場合はアルキル化薬で対処します。このタイプの腫瘍でよく使われるアルキル化薬はシクロフォスファミドロムスチンです。

Seven of the nine cats with relapsed disease were treated with oral cyclophosphamide at a calculated dosage of 200 to 250 mg/m2 given on days 1 and 3 out of every 2 weeks (25 mg given Monday and Wednesday every other week) and prednisolone (5 mg every other day). All seven of the cats rescued with cyclophosphamide responded based on resolution of clinical signs and normal abdominal palpation. 引用文献:Treatment of feline gastrointestinal small-cell lymphoma with chlorambucil and glucocorticoids.

 

『悪性のリンパ腫の場合』

悪性のリンパ腫に含まれるのはB細胞性大型T細胞性(LGLを含む)小球性T細胞性リンパ腫のTransmural型などです。
Transmural型については『猫のリンパ腫②~病因と挙動~』を参考にしてください。

これらのタイプの腫瘍では先ほどのようなクロラムブシル+プレドニゾロンという治療法よりもCHOPプロトコルを基盤とした治療法の方が効果があります。
とはいえ、生存期間中央値は45~100日と決して良好とは言えない結果です。

LGLリンパ腫では
LGLリンパ腫では特に予後が優れず、生存期間中央値は約2ヶ月(57日)となっています。

Median survival time for cats that were treated was 57 days. Based on these results, feline LGL lymphoma appears to be minimally responsive to chemotherapy and is associated with a grave prognosis. 引用文献:Description of clinical and pathological findings, treatment and outcome of feline large granular lymphocyte lymphoma (1996-2004).

 

『栄養療法』

腸管型リンパ腫では抗がん剤治療も相まって、食欲不振に陥る猫が多いです。そんな時は早めに栄養療法として栄養チューブの設置を検討する必要があります。
栄養チューブに関してはこちらの記事をご参考ください。

栄養療法に関する記事↓
【栄養療法】過度な偏食、拒食に対応するために ~最終手段は医療で対応~

 

【縦隔型リンパ腫の治療法】

『FeLV陽性猫の場合』

FeLV陽性猫で縦隔型リンパ腫を発症した場合、予後はあまりよくありません。CHOPプロトコルやCOPプロトコルが選択されますが、約2~3ヶ月ぐらいしかもたないという報告があります。

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『FeLV陰性猫の場合』

一方でFeLV陰性猫では予後は良好で、同様のプロトコルで90%以上が治療効果を実感しています。

【節性リンパ腫の治療法】

節性リンパ腫の場合は悪性腫瘍(中~高グレードリンパ腫)と良性腫瘍(低グレードリンパ腫)で治療法が分けられます。

中〜高グレードリンパ腫では
CHOPやCOPが積極的に行われるものの、治療成績自体は芳しくありません。

低グレードリンパ腫では
クロラムブシル+プレドニゾロンによって良好な結果を得られます。

【鼻腔内リンパ腫の治療法】

『放射線治療を用いる』

鼻腔内リンパ腫は腫瘍の進行ステージによって治療法が異なります。
腫瘍が鼻腔内に限局している場合は放射線治療が優先的に選択されます。というのも、鼻腔内リンパ腫は放射線治療がよく効く腫瘍で有名であり、治療成績が良いため、可能であれば積極的に行われています。

治療成績
・完全寛解:75~95%
・完全寛解した症例の生存期間中央値:1.5~3年
・完全寛解しなかった症例:4.5ヶ月

Fifty‐one cats achieved a CR and 18 cats achieved a partial response for an overall response rate of 70%. The chemotherapy and RT group had a response rate of 82%, the RT only group had a response rate of 93% and the chemotherapy only group had a response rate of 67%. Response to therapy was significantly associated with survival time (P < .001). Cats that achieved a CR (MST: 536 days; range, 17–3,749 days; 95% CI, 300–906 days) survived significantly longer compared with cats that achieved PR (MST: 120 days; range, 73–386 days; 95% CI, 97–157 days) (P < .001). 引用文献:Survival Analysis of 97 Cats with Nasal Lymphoma: A Multi‐Institutional Retrospective Study (1986–2006)

『化学療法を用いる』

放射線治療を選ばない飼い主さんや遠隔転移が認められた症例では抗がん剤治療が行われます。行われる抗がん剤治療はCHOPやCOPプロトコルです。
化学療法による治療も成績はまずまずで、完全寛解は75%で、完全寛解を得られた症例の生存期間中央値は約2年です。

化学療法を選ぶ基準
・鼻腔を越して遠隔転移が見られる場合
・放射線治療後に再発した場合
・放射線治療が利用できないあるいは拒否した場合

【その他のリンパ腫の治療法】

中枢神経リンパ腫の場合
中枢神経リンパ腫の場合、報告例は少ないのですが、一般的に化学療法が選択されます。

皮膚型リンパ腫の場合
孤立した1つの病変であるならば、外科的手術や放射線治療など局所的な治療が施されますが、多発していたり、遠隔転移が確認される場合はロムスチンなどを用いた化学療法が選択されたりします。


【最後に】

猫のリンパ腫の治療法について解説しました。リンパ腫の治療法で最もよく使用されるのがCHOPプロトコルの化学療法で、世界的にスタンダードな治療法とされています。大まかに分けると切除ができる場合は切除、全身転移してしまっている場合はCHOPといった感じです。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 638-653p

 

【関連記事】

『抗がん剤に関する記事』

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『猫のリンパ腫シリーズ』

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『リンパ腫が起こりやすい疾患』

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