【はじめに】
今回は『猫のリンパ腫④~診断とステージ分類~』についてです。
今回も前回と同様、検査方法についてざっと総論を述べた後に、発生部位別にどのような検査を行なっていくかを解説していきたいと思います。
【目次】
- 【リンパ腫が疑われる猫の検査】
- 【ステージ分類が要求される時】
- 【腸管型リンパ腫の診断】
- 【縦隔型リンパ腫の診断】
- 【鼻腔内リンパ腫の診断】
- 【腎臓型リンパ腫の診断】
- 【中枢神経型リンパ腫の診断】
- 【皮膚型リンパ腫の診断】
- 【最後に】
- 【本記事の参考書籍】
- 【関連記事】
【リンパ腫が疑われる猫の検査】
リンパ腫が疑われる猫ではCBCの血球百分率や、血小板数、生化学検査、尿検査、FeLV、FIVなどのレトロウイルスに関する検査をはじめに行います。
『血液検査』
血液検査で使用される生化学検査の良いところは臓器特異性が高いということ。すなわち、「この臓器が悪いですよ!」ということが分かりやすいということです。
この仕組みを利用することで、どの臓器でリンパ腫が発生しているかを見極めることができます。
例えば、
ALTやASTが上がっている→肝臓原発または肝臓浸潤
BUNやCreが上がっている→腎臓型リンパ腫?
など生化学検査を行うとざっくりですがどこが悪いのか分かるのが利点です。
例えば、腸管型リンパ腫の血液検査
腸管型リンパ腫では76%で低アルブミン血症が認められるというデータがあります。
Serum biochemical abnormalities either were nonspecific, such as hypoglycaemia in 37% (32/87) of cats, or related to specific tissue involvement, such as hypoalbuminaemia in 76% (31/41) of cats with alimentary involvement and azotaemia in 60% (15/25) of cats with renal involvement. 引用文献:Haematological and biochemical findings in cats in Australia with lymphosarcoma.
猫の場合、高Ca血症はレア
犬のリンパ腫では高Ca血症が起こりやすいというお話をしましたが、猫の場合はあまり高Ca血症を示しません。
『細胞診とバイオプシー』
細胞診
細胞診とは針で腫瘍を疑わしい場所を刺し、採れた細胞を顕微鏡で見るという検査です。細胞診は簡便かつ迅速な検査ですが、これだけではリンパ節の過形成や反応性の腫大などと鑑別することが難しく、確定診断はできません。
バイオプシー
バイオプシーとはある程度の塊を採取し、病理組織として見る検査法です。たくさん採取するわけですので、侵襲度が高く全身麻酔下で行うため、手術時や内視鏡生検として行われることがほとんどです。
バイオプシーではリンパ腫の診断に必要な情報が手に入ります。
『PARR解析』
PARR解析とはPCR解析の1つで細胞の遺伝子を調べています。腫瘍性病変の場合、1つの遺伝子が無秩序に増殖するので、リンパ球のクローン性を調べるにはとても良い検査方法です。
猫のリンパ腫ではPARRはとても有用性が高く、約80%の感度を持っていると言われています。
感度とは陽性しなかった際に、病気を否定できる確率のことを言います。
【ステージ分類が要求される時】
ステージ分類とは腫瘍がどこまで浸潤しているかを検査によって評価するものです。ステージ分類で行われる検査は骨髄穿刺であったり、リンパ節生検であったり、胸部腹部の画像診断(レントゲンや超音波検査)であったりと複数の検査を組み合わせ総合的に把握していきます。
ではステージ分類を行いたい時とは具体的にどのような時なのでしょうか?
例ですが、以下のような場合が考えられます。
①病変が一箇所なのかそうでないのか分からない時
この場合、悩むのは「局所療法(外科手術、放射線治療)を行うか、全身療法(化学療法)を行うか」ということです。
病変がどこまで波及しているか把握しておくことで、行うべき治療法も異なります。
②予後の良し悪しを知りたい時
ステージごとに生存率が出ています。つまり、ステージ分類を行うことで、予後が良好なのか不良のかを知ることができます。
③臨床治験を行なっている時
新薬の開発などで、治療成績を評価している場合などは経時的にステージ分類を評価することで、治療成績のデータの1つとして利用することができます。
ステージⅠ
1個のリンパ節または単一の腫瘍に限られる(胸腔腫瘍含む)
ステージⅡ
複数のリンパ節または腫瘍の限局性病変(横隔膜を越えない)、または切除可能な消化管腫瘍
ステージⅢ
全身のリンパ節に波及している(横隔膜を越える)、または広範囲の切除不能な消化管腫瘍
ステージⅣ
肝臓や脾臓へ浸潤しているステージⅠ~Ⅲ
ステージⅤ
中枢神経、骨髄に浸潤しているステージⅠ~Ⅳ
【腸管型リンパ腫の診断】
『大球性高グレード腸管型リンパ腫』
この悪性度高い腸管型リンパ腫は腫瘤性病変やリンパ節の腫大など目立つような病変が多く見られるため、身体検査で予測することができます。
身体検査をはじめとする以下の検査で診断を進めていきます。
高グレード腸管型リンパ腫の検査方法
・身体検査:腸管の腫瘤を触知
・腹部画像診断:超音波検査やX線検査
・細胞診:腸管や腸間膜リンパ節、肝臓などから採材
ステージ分類について
具体的なステージ分類を行うには胸部レントゲンで肺転移を見たり、骨髄穿刺を行なって骨髄内に腫瘍細胞が浸潤していないかなどを見ていきます。
しかし、この高グレード型腸管型リンパ腫の場合、触知できるほど腫大している診断時にはすでに大部分へ波及している可能性があるので、全身療法が選ばれるため、治療法を選択するためにステージ分類を行うということは稀です。
『小球性低グレード腸管リンパ腫』
低グレードリンパ腫の診断は難しいです。
その理由は
・病変が症状として現れにくいということ
・炎症性病変であるIBDと混同しやすいということ
この2点の理由より、診断が難しいです。
触知できないこともある
低グレード腸管型リンパ腫はmassエフェクトと呼ばれる腫瘍を塊として触知することが難しく、軽度〜中等度に粘膜が肥厚していることが多いです。
この粘膜の肥厚は触知できない場合も多々あります。
炎症性腸症と混同しやすい
肥厚を確認し、腸管粘膜や腸間膜リンパ節の細胞診を行うと、良性病変であるリンパ節の反応性腫大と勘違いすることが多々あります。
ある論文では9匹中8匹の猫を細胞診では反応性リンパ節過形成と診断していたのに、病理検査を行うとリンパ腫だったというデータもあります。細胞診での診断はあまり信用性がないと思っておく方が良いかもしれません。
Ultrasound-guided fine-needle aspirates of mesenteric lymph nodes (n=9) were incorrectly identified as benign lymphoid hyperplasia in eight cats, in which the histological diagnosis from biopsies was lymphoma. 引用文献:Low-grade alimentary lymphoma: clinicopathological findings and response to treatment in 17 cases.
低グレード腸管型リンパ腫を診断するには…
腹部の超音波ガイド下での生検などを行い、ある程度の塊を採取して、細胞表現形やクローナリティの検査を行うと良いです。
『low-gradeリンパ腫の超音波検査』
低グレード小球性リンパ腫における腹部超音波検査では60~90%の猫で異常を検出することができます。
小腸壁の肥厚
びまん性に広く小腸壁が肥厚する事が最もよく見られる異常所見です。腸管壁の肥厚を確認した猫の腸管型リンパ腫の50~70%がこのびまん性の小腸壁の肥厚であったそうです。さらに特徴としては粘膜というよりは粘膜固有層や粘膜下織の方が肥厚します。
逆に一箇所に腫瘤状の病変を作るというのは稀です。
腸間膜リンパ節の腫大
腸間膜リンパ節の腫大も腸管型リンパ腫の病変としてよく見られます。(約45~80%)
超音波だけでIBDとの鑑別は困難
超音波検査だけではIBDとリンパ腫の鑑別は困難とされています。というのもIBDの超音波検査において、腸管壁の肥厚(10~50%)や腸間膜リンパ節の腫大(15~20%)はよく見られる所見なので、リンパ腫と区別するのは難しいです。
IBDとリンパ腫の違い
IBDは粘膜の肥厚が起こりやすく、リンパ腫に比べて粘膜固有層や粘膜下織の肥厚が目立ちません。そして、リンパ腫であれば軽度ではあるものの肝臓や胃、脾臓などに浸潤している事があります。
『低グレードリンパ腫とIBDを鑑別するには』
リンパ腫とIBDを鑑別するには病理組織検査や免疫表現形検査、PARR解析などクローナリティ検査が必要になってきます。
IBDと低グレードを鑑別するには特異度と感度は各検査全てにおいてとても高く、有効的な検査だと思います。
検査の特異度と感度
・病理組織検査:特異度→99%、感度→72%
・免疫表現型検査:特異度→99%、感度→78%
・PARR解析:特異度→99%、感度→83%
【縦隔型リンパ腫の診断】
発見のきっかけは?
縦隔型リンパ腫を発見するきっかけは身体検査で胸元の腫れを見つけたり、レントゲン検査で胸水貯留や腫瘤性病変が写る事がきっかけで発見されます。
細胞診
胸水や腫瘤の細胞診を行う事でほとんど場合は縦隔型リンパ腫と診断できます。
CT検査
腫瘤の発見には役立ちますが、確定診断を行うことはできません。
乳び胸だった場合
胸水を採取した時、白く濁っていたならば乳び胸になっている可能性があります。胸水のコレステロールとトリグリセリドの測定を行います。
乳び胸とは胸管と呼ばれるリンパ管内の液が胸腔内に漏れ出している状態を言います。胸水の原因はリンパ腫ではないかもしれません。
縦隔型リンパ腫で一番多い勘違い
縦隔型リンパ腫の近くに発生する腫瘍で胸腺腫と呼ばれるものがあります。胸腺腫ではリンパ球だけでなく肥満細胞などのも見られる事があります。勘違いしないように注意が必要です。
【鼻腔内リンパ腫の診断】
鼻腔内腫瘍が疑われる場合、CTやMRIなどの高度画像診断がとても有用になってきます。
CTで鼻を撮影すると、生検でどの辺を採取すべきかや浸潤がどこまで進んでいるかなどを確認することができます。
腫瘍の正体を見極めるには鼻腔内腫瘍の生検が必要になります。
ステージ分類
領域リンパ節や胸部・腹部への浸潤、骨髄浸潤などステージ分類を行うことで、局所的な治療(放射線や手術)を行うか、全身的な治療(抗がん剤治療)を行うかを決定することができます。
【腎臓型リンパ腫の診断】
身体検査
身体検査において腎臓の腫大が確認されます。
レントゲン検査
レントゲン検査では腎臓が単調にあるいは不整に腫大している像が見えます。
超音波検査
多くの場合が両側性(80%)に腫大し、低エコーの領域が肥厚します。超音波検査を行うと腎臓以外にその他の臓器へも浸潤しているかが分かる場合があります。
コア生検
腎臓のコア生検を行うと診断がつきます。
【中枢神経型リンパ腫の診断】
中枢神経型リンパ腫の診断はレントゲンでは難しく、CTやMRIなどが必要なります。CT検査やMRI検査を行うと約75%の症例で、硬膜外と硬膜内の両方で診断がつきます。
好発部位
・胸腰椎
・腰仙椎
こちらを重点的に注意してみましょう。
脳脊髄液(CSF)の分析
CSFはあまり有効ではない。
リンパ芽球が見られたり、タンパク濃度が上昇したりします。
【皮膚型リンパ腫の診断】
皮膚型リンパ腫を疑う病変が認められた場合、パンチ生検(径4~8mm)を行います。
パンチ生検を行う理由としては腫瘍性病変なのか感染症などの炎症性病変なのかを見極めるためです。
他にも、免疫染色をしたり、PARR分析をしてクローナリティーを調べるのも確定診断繋がります。
ステージ分類も忘れずに
皮膚型リンパ腫は全身への浸潤がなければ、局所的な治療が適応となるため、ステージ分類を行うことは大切です。
【最後に】
今回は、リンパ腫の発生部位別に診断方法について解説してみました。一番のポイントは腸管型リンパ腫の低グレードリンパ腫です。このタイプの腫瘍はIBDとの鑑別が難しく、きちんと生検し、クローナリティー検査を行わなければならないという点で診断が難しいです。
【本記事の参考書籍】
Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwen’s SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed., ELSEVIER, 2013, 638-653p
【関連記事】
『猫のリンパ腫シリーズ』