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猫のリンパ腫②~病因と挙動~

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【はじめに】

今回は『猫のリンパ腫~病因と挙動~』についてです。
病因と挙動なんて堅苦しい言葉を使わず、要は発生した場所ごとの腫瘍の"特徴"を解説しているんだと考えて頂ければ、大丈夫です。

猫のリンパ腫①~統計とリスク因子~

猫のリンパ腫②~病因と挙動~

猫のリンパ腫③~症状~

 

【目次】

 

 

【リンパ腫の分類について】

リンパ腫は主に以下の3つによって分類されます。

リンパ腫の主な分類基準
・発生した解剖学的な位置(腸管、縦隔、腎臓など)
・細胞学的な基準(核の大小、形態など)
・免疫表現形による基準(T細胞性、B細胞性など)

リンパ腫の分類で最もよく使用されているのが、細胞学的な基準と免疫表現形による基準を組み合わせた分類法です。

解剖学的な位置に関して
どの部位で発生が認められやすいかは先ほどの分類によってどのタイプのリンパ腫が発生しているかによっても異なりますし、FeLVに感染しているか否かによっても変わります。
猫のリンパ腫では
・縦隔型リンパ腫
・腸管型リンパ腫
・多中心型リンパ腫
・節性リンパ腫
・リンパ球性白血病
・節外性リンパ腫:鼻腔内、腎型など
などがあります。

そのほかに肝臓や脾臓、腸管、腸間膜などで、腹腔内臓器で複数にわたって起こるリンパ腫を腹腔内型と呼びます。

【解剖学的位置別の挙動】

『腸管型リンパ腫』

「好発のあれこれ」

腸管型リンパ腫は腸管のみに孤立性の増殖する場合もありますが、場合によっては腸間膜リンパ節や肝臓へ腫瘍が波及している場合もあります。

猫の腸管腫瘍は半数はリンパ腫
ある大規模な研究で1129匹の腸管腫瘍をもつ猫を用いた研究があります。その研究では猫の腸管腫瘍の47%は腸管型リンパ腫であったと報告されています。

Lymphoma represents 47% of all intestinal tumors in the VMDB, consistent with the literature range of 44%–63%. 引用文献:Recent trends in feline intestinal neoplasia: an epidemiologic study of 1,129 cases in the veterinary medical database from 1964 to 2004.

 

好発品種
腸管型リンパ腫の好発品種はシャム猫です。

好発年齢
・T細胞性リンパ腫:13歳
・B細胞性リンパ腫:12歳

好発部位
小腸の方が大腸に比べ、4倍ほど発生率が高いという報告があります。
大腸の腫瘍では腺癌が最も多く、リンパ腫がその後を続く形になってます。

腸管型リンパ腫について(図解)

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「腸管型リンパ腫の分類」

以下は120匹の腸管型リンパ腫の猫を用いた研究結果を元に解説しています。

Mucosal型?、Transmural型?
ちゃんとした日本語訳が見つけられなかったので、英語のまま行きます。

T細胞性リンパ腫のほとんど(94%)は小腸で発生しており。T細胞の大半(81%)はMucosal型でした。
一方で、
B細胞性リンパ腫は胃や小腸、盲腸付近で同時に発生しており、B細胞性の大半(95%)はTransmural型でした。

2つの定義

・Mucosal型:わずかに粘膜下組織への浸潤を許すも、腫瘍が粘膜や粘膜筋板に限局しているもの。WHO分類でいうとこの「EATCL Type Ⅱ」に該当する。

・Transmural型:腫瘍が粘膜下組織や腸管筋層にまで浸潤しているもの。WHO分類でいうとこの「EATCL Type Ⅱ」に該当する。

細胞の大小について
Mucosal型T細胞性リンパ腫ではほとんど(95%)小球性リンパ腫に分類されます。
そしてTransmural型T細胞性リンパ腫やB細胞性リンパ腫は小球性と大球性の半々ぐらいです。

Cats with mucosal T-cell lymphoma (n = 84) predominated and had a median survival of 29 months. Mucosal T-cell lymphoma matched WHO enteropathy-associated T-cell lymphoma (EATCL) type II. Epitheliotropic T-cell infiltrates were present in 62% of cats and occurred as clusters or diffuse infiltrates of small to intermediate-sized T cells in villous and/or crypt epithelium. Similar lymphocytes infiltrated the lamina propria in distinctive patterns. Cats with transmural T-cell lymphoma (n = 19) had a median survival of 1.5 months. Transmural T-cell lymphoma matched WHO EATCL type I.  引用文献:Feline gastrointestinal lymphoma: mucosal architecture, immunophenotype, and molecular clonality.

「LGLリンパ腫とは」

腸管型リンパ腫での発生は少ないのですが、大顆粒性リンパ腫(通称:LGLリンパ腫)というものがあります。高齢猫(9~10歳)での発症が多いと言われています。

LGL細胞の特徴
LGLは円形核、分葉核、脳回状核などの様々な核を有する直径12~20μmのリンパ芽球とされています。
細胞質内には好塩基性の顆粒がくっきりと見えます。

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LGL細胞の性質
腫瘍細胞のほとんどはT細胞を示すCD3とCD8陽性で、B細胞を示すCD20が陰性であることが多いです。これらの結果よりLGLの大半はT細胞性(特に細胞傷害性T細胞)であることがわかっています。
しかし、全てではなく約10%ほどのLGL細胞がT細胞性でもB細胞性出ないNK細胞です。

NK細胞由来の腸管型リンパ腫の特徴
特徴を箇条書きにして紹介します。
・小腸特に空腸での発症が多い
・Transmural型、たまに上皮親和性を示す
・2/3は多臓器への浸潤・転移がみられる
・転移が報告されているのは腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓、腎臓、腹膜、骨髄など
・10%の症例で末梢血液中に腫瘍細胞が浸潤する

『縦隔型リンパ腫』

 縦隔型リンパ腫は胸腺や縦隔、胸骨リンパ腫などで発生が認められます。
胸水はよく見られる症状の1つです。
ある大規模な研究では、
「胸腺疾患の63%、胸水貯留を認めた疾患の17%がリンパ腫であった」というデータがあります。

縦隔型リンパ腫の特徴
・発生中央値:2~4歳
・FeLV陽性なことが多い←FeLV陰性もある
・T細胞性リンパ腫が多い
・犬と異なり、高Ca血症にはなりにくい
・FeLV陰性猫での発症は、攻撃性が低く、化学療法が割と効く

The diagnoses included thymic lymphoma (19 cats, 12 dogs), thymoma (five cats, 18 dogs), thymic branchial cyst formation or cystic change (one cat, four dogs), thymic hyperplasia (two cats), congenital hypoplasia (one cat, one dog), thymic haemorrhage (one cat, one dog) and thymic amyloidosis (one cat).  引用文献:Review of thymic pathology in 30 cats and 36 dogs.

 

82匹の胸水貯留した猫を集めたデータ。14匹の猫が縦隔型リンパ腫だった。

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Table3より抜粋引用文献:Pleural effusion in cats: 82 cases (1987 to 1995).

 

『節性リンパ腫』

1歳以下の猫で見られる
節性リンパ腫は限られた領域の末梢リンパ節が腫瘍化するリンパ腫で、猫のリンパ腫としては非常に稀なタイプです。1歳以下の猫では比較的多く見られます。
このリンパ腫は浸潤性が強く、骨髄浸潤や肝臓へも浸潤します。

ホジキン様リンパ腫である
節性リンパ腫は人のホジキンリンパ腫に細胞学的形態が類似しており、"ホジキン様リンパ腫"と呼ばれています。

好発部位
下顎リンパ節浅頚リンパ節での発生が多いです。

『節外性リンパ腫』

節外性リンパ腫とはリンパ節以外で発生したリンパ腫のことを言います。
猫の節外性リンパ腫で多いのは
・鼻腔内リンパ腫
・腎臓型リンパ腫
・中枢神経型リンパ腫
・喉頭・気管型リンパ腫
・眼内リンパ腫
・皮膚型リンパ腫
です。

これらについて別々に解説していきます。

「鼻腔内リンパ腫」

猫の鼻腔内リンパ腫は節外性リンパ腫の中で最も発生率が高い(69%)リンパ腫です。猫の鼻腔疾患でウイルス性を否定された疾患のほとんどは腫瘍性疾患であり、その腫瘍性疾患の1/3~1/2はリンパ腫であると言われています。

One hundred and forty-nine cases met inclusion criteria. Sixty-nine cats had nasal lymphoma, 35 renal, 15 central nervous system, 11 laryngeal and 19 miscellaneous locations. 引用文献:Feline extranodal lymphoma: response to chemotherapy and survival in 110 cats.


鼻腔内腫瘍の特徴
・好発年齢:9~10歳(平均)
・3/4以上はB細胞性
・10~15%はT細胞・B細胞混合型も見られる
・シャム猫で多いかも
・2:1の割合でオスが多い
・中〜高グレードがほとんど
・上皮親和性のリンパ腫

Of the nasal lymphomas available for staining, 25 of 41 (61%) were B-cell, 6 of 41 (14.6%) were T-cell, and 5 of 41 (12.2%) contain a mixed population of B-cells and T-cell. 引用文献:Nasal and Nasopharyngeal Lymphoma in Cats: 50 Cases (1989–2005)

猫の鼻腔内リンパ腫についてはこちら↓↓

www.otahuku8.jp

 

「腎臓型リンパ腫」

腎臓型リンパ腫は鼻腔内リンパ腫に引き続き、節外性リンパ腫で2番目(35%)に多いリンパ腫です。

腎臓型リンパ腫の特徴
・腸管型リンパ腫との併発が多々ある
・FeLV/FiVに関係なく発生する
・好発年齢:7.5歳(中央値)
・ほとんどはB細胞性
・中〜高グレードがほとんど
・中枢神経への転移が頻繁(40~50%)

「中枢神経リンパ腫」

中枢神経リンパ腫は脳と脊髄に発生するリンパ腫のことを指します。 節外性リンパ腫の中では割りかしよく発生するタイプで節外性リンパ腫の約14%がこれに該当します。

中枢神経リンパ腫の特徴
・若年齢で多い:4~10.5歳
・17~50%はFeLVの抗原血症
・頭蓋内発生リンパ腫の多くは大脳と脳幹に発生
・中枢神経系へは腎臓型リンパ腫や骨髄を介して起こることが多い

「喉頭リンパ腫」

喉頭リンパ腫は節外性リンパ腫の10%を占めています。そして、咽頭疾患の11%がこのリンパ腫になります。多いと言うには少ないし、少ないと言うには多いビミョーな数字ですね。

喉頭リンパ腫の特徴
・好発年齢:9歳(中央値)
・FeLVは関連しない
・単発性病変

「皮膚型リンパ腫」

皮膚型リンパ腫の大まかな特徴としては以下のようになります。
・発生は稀
・好発年齢:10~13.5歳
・FeLVやFIVとは関係なく発生する
・顔面、頭部での発生が多い
・慢性病変のごとく、ゆっくりと進行する

皮膚型リンパ腫には2つタイプがあります。1つは「表皮向性リンパ腫」、もう1つは「非表皮向性リンパ腫」です。そしてもう1つ厄介なのがありまして、高分化型悪性リンパ腫に区分されている「皮膚リンパ球増加症」というものです。これらを解説していきます。

猫の表皮向性リンパ腫
猫の皮膚型リンパ腫のほとんどは表皮向性リンパ腫です。表皮向性リンパ腫は犬や人と同じくT細胞性リンパ腫で大半を占めています。
表皮向性リンパ腫の病理組織学的特徴としましては皮膚付属器(毛器官、汗腺、脂腺など)まで腫瘍細胞が浸潤してこないということです。

猫の非表皮向性リンパ腫
猫の非表皮向性リンパ腫は少ないです。非表皮向性リンパ腫のほとんど(83%)はT細胞性リンパ腫でした。

Non-epitheliotrophic cutaneous lymphoma was shown to be predominantly of T-cell phenotype (CD3+) in the dog (eight of 10 cases) and cat (five of six cases), the remaining cases in both species being of B-cell origin, expressing the gamma heavy chain of immunoglobulin (with or without lambda light chain). 引用文献:Immunophenotypic characterization of cutaneous lymphoid neoplasia in the dog and cat.

皮膚リンパ球増加症について
皮膚リンパ球増加症は高分化型悪性リンパ腫という超絶曖昧なカテゴリーに分離されています。進行は遅く、ゆっくりと浸潤していくのですが、皮膚にとどまらず内部臓器まで進行していくという点で厄介です。

 

「眼内リンパ腫」

眼内リンパ腫の発生率は節外性リンパ腫の4.5%と発生率は少ないです。逆に眼球内疾患75症例を調査した研究では15症例(20%)がリンパ腫でした。眼内リンパ腫は両側性に発生するのではないかという噂もあります。

節外性リンパ腫のまとめ(図解)

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【最後に】

今回は解剖学的位置で分類し、それぞれのリンパ腫の特徴について解説しました。猫のリンパ腫は一番発生が多いのが腸管型リンパ腫です。もちろんですが、腸管型リンパ腫だけが全てではなく、腎臓型や中枢神経型など、様々な部位での発生があることを知っておく必要があります。次回では解剖学的位置別に症状などを解説していこうと思います。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 638-653p

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『猫のリンパ腫シリーズ』

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『リンパ腫が起こりやすい疾患』

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