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猫のリンパ腫①~統計とリスク因子~

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【はじめに】

今回は『猫のリンパ腫~統計とリスク因子~』についてです。犬のリンパ腫同様、猫のリンパ腫の発生は多いです。
そのほとんどはリンパ芽球と呼ばれるリンパ球の前駆細胞由来細胞が腫瘍細胞の主体となります。

猫のリンパ腫①~統計とリスク因子~

猫のリンパ腫②~病因と挙動~

猫のリンパ腫③~症状~

猫のリンパ腫④~診断とステージ分類~

猫のリンパ腫⑤~治療法と予後~

【目次】

 

 

【リンパ腫の統計】

『発生率について』

1980年代のリンパ腫
猫のリンパ腫の発生状況は年代によって大きく異なります。その原因はFeLV(猫白血病ウイルス)です。FeLVワクチンが開発され普及されるまではFeLV感染に続発するリンパ腫が主体となっていました。しかし、FeLVワクチンが普及するにつれて、FeLV感染続発性リンパ腫は減少していきました。

しかし、リンパ腫の数は減らなかった
FeLVワクチンが普及した1990年代になってもリンパ腫の数は減りませんでした。FeLV続発性リンパ腫が減少していくにつれ、腸管型リンパ腫が増加してきたためです。

年代と共に移り行くリンパ腫の種類(図解)

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腸管型リンパ腫の統計
ある研究で1985年前後20年、計40年分の腸管型リンパ腫の発生状況を調べて研究があります。その結果、腸管型リンパ腫619匹の猫のうち1985年以前20年の猫は85匹(14%)であったのに対し、1985年以降20年の猫は534匹(86%)でした。

現在の状況は?
現在の正確な情報はわかっていませんが、イギリスで行われたある研究では年間の腫瘍のうち31%は造血器系の腫瘍であり、そのうちの70%がリンパ腫であるというデータがあります(FeLVによるものは除く)。

腫瘍の発生率(図解)

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『好発の傾向』

北米の機関が行なった2つの大規模な調査では
・好発品種:シャム猫
・性差:一方の論文では「1.5倍オスが多い」とし、もう一方は「性差はない」とした
・縦隔型リンパ腫は若齢猫で発生が多い←FeLVとは無関係の症例

The high incidence of mediastinal lymphoma in younger Siamese and Siamese-related breeds (eg, Oriental Shorthair) suggests a genetic predisposition. 引用文献:Feline lymphoma in the post-feline leukemia virus era.

 

【リスク因子について】

『ウイルスのリスク』

FeLVのリスク
1960-1980年のFeLV時代と呼ばれていた頃とは異なり、現在ではFeLV陰性のリンパ腫が増えてきています。
FeLVに関してはこちらをご参考下さい。

www.otahuku8.jp

 

FIV(猫エイズ)のリスク
FIV(猫免疫不全ウイルス:猫エイズ)もFeLV同様、リンパ腫のリスクを上げるウイルスとして知られています。
FIVはFeLVのように直接的に腫瘍発生を起こすウイルスではなく、免疫抑制の作用に続発して間接的に腫瘍発生を起こしているとされています。

FIV感染猫は非感染猫と比較し、約5倍もリンパ腫の発生リスクが上がるとされていて、さらにFeLVとの併発感染によってさらにそのリスクが上昇するということがわかっています。

FeLVと異なる点は腫瘍発生の機序以外に他にもあります。
『主なリンパ腫の発生部位』
・FeLV→縦隔
・FIV→腎臓、腸管、肝臓、リンパ節

『リンパ球の型』
・FeLV→主にT細胞性
・FIV→主にB細胞性(これは慢性的な免疫システムの制御不全、腫瘍発生経路の活性化が原因との噂)

 

『遺伝子・分子のリスク』

近年、遺伝子解析の技術は著しく向上しており、猫のリンパ腫においても発生に関わる様々な要因が見つかりました。

腫瘍化する遺伝子では何が起こっているかというと以下のような事が起きています。
・変異した腫瘍抑制遺伝子の出現
・エピジェネティックな変化←DNAが設計図の"使う/使わない"を仕分けている機構
・シグナル伝達や細胞死経路の変換←細胞の"増える/減る"の調節がバグっている
など

さらに、
テロメラーゼの活性もリンパ腫の発生に関わっているとされています。
※テロメラーゼ:テロメアを伸長させる酵素で、幹細胞、生殖細胞、がん細胞などで活性が認められている

他には
・サイクリン依存性キナーゼ:細胞周期のレギュレーターとして活躍する蛋白
・Bcl-2ファミリー:アポトーシス(細胞死)を誘導する遺伝子
の乱れがリンパ腫の発生に関与すると示唆されています。

Feline Bcl-2 expression was high in lymphoma cell lines (FL-74-UDC-1 and FT-1) and low in the cell line from peripheral blood mononuclear cells from a healthy cat (FeTJ-1) but not low in freshly isolated peripheral blood mononuclear cells from a healthy cat.引用文献:Expression of Bcl-2 in feline lymphoma cell lines.

 

『環境のリスク』

人間ではタバコの副流煙の曝露がリンパ腫のリスクを上げるとされており、猫でもリスクが上がるのかを調べた実験があります。

その実験では5年以上副流煙に曝露された場合、非喫煙者の飼育猫より約3.2倍発生率が高くなったとの報告があります。

ヨーロッパの大規模な研究では犬ではリスクが上がる事が分かったが猫では確認できなかったと報告されており、賛否両論あるようです。

とはいえ、タバコの副流煙が動物に影響がないことはないと思いますので、副流煙を避けてあげる努力は必要なのかもしれません。

Cats with 5 or more years of ETS exposure had a relative risk of 3.2 (95 percent confidence interval: 1.5, 6.9; p for trend = 0.003) compared with those in nonsmoking households. These findings suggest that passive smoking may increase the risk of malignant lymphoma in cats and that further study of this relation in humans is warranted. 引用文献:Environmental tobacco smoke and risk of malignant lymphoma in pet cats.

禁煙vs喫煙によるリンパ腫の発生率(図解)

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『免疫抑制時のリスク』

FIVによる免疫抑制状態だけでなく、臓器移植後の免疫抑制療法を実施している猫でもリンパ腫のリスクが上がる事が分かっています。
具体的には腎臓の臓器移植を行なった猫の9.5%が悪性腫瘍を発生し、そのほとんどがリンパ腫であったという報告があります。

Nine of 95 cats (9.5%) developed apparently de novo malignant neoplasia after receiving renal allografts. The predominant type of neoplasm was lymphoma.  引用文献:The prevalence of malignant neoplasia in feline renal-transplant recipients.

 

『慢性炎症時のリスク』

あくまで噂レベルですが、鼻炎や腸炎が起きている時に、その部位でリンパ腫が発生しやすいのではないかと言われています。
特にIBDと腸管型リンパ腫に関係性があるのではないかと、複数の論文で示唆されています。
そのほかには猫のヘリコバクターピロリ菌感染症と胃のMALTリンパ腫の関連性も言われています。

【最後に】

今回は猫のリンパ腫の発生率とリスク因子について解説しました。猫のリンパ腫は年代によって発症率が異なっていますが、現在は高齢猫の腸管型リンパ腫が増えています。
リンパ腫の発生リスクをあげるのではないかと考えられるウイルス、遺伝子、環境、疾患を理解した上で、猫の調子が崩れていないか注意深く観察しておきましょう。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 638-653p

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『猫のリンパ腫シリーズ』

 

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『リンパ腫が起こりやすい疾患』

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