オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

【熱中症】動物にもある、『ペットの熱中症』にご用心!!②症状と検査

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20190810161450p:plain

【はじめに】

今回は『熱中症の症状と検査』についてです。
熱中症の原因である高体温症では熱、低酸素、血流量の低下、血栓症など、様々な方法で臓器を攻撃していきます。症状はその攻撃に伴って現れます。そして、検査項目も同様に攻撃を受けたことが数値化されて反映されます。
どのような臓器がどのような攻撃をどのような症状、検査結果を示すのか、お話を進めていきたいと思います。

【関連記事はこちら】

【熱中症】動物にもある、ペットの熱中症にご用心!!①概要

【熱中症】動物にもある、『ペットの熱中症』にご用心!!②症状と検査

【熱中症】動物にもある、『ペットの熱中症』にご用心!!③治療法と予後

 

【目次】

 

 

【熱傷害の攻撃を受ける臓器たち】

『酸素足りません!腎臓への攻撃』

腎臓では尿細管や腎臓間質が熱によって傷害されます。さらに、腎血液量の低下や低血圧によって腎臓は虚血性の傷害を受け、相当なダメージを受けます。

高体温症の動物の尿検査では
・尿円柱の出現
・尿糖の出現
・ミオグロブリン尿(←横紋筋融解があれば)
などが見られます。

f:id:otahukutan:20190810140244p:plain

 

『敗血症の危機、腸管への攻撃』

腸管は高体温症に関連した多臓器不全が起こるきっかけとなる臓器です。高体温症によって腸管が受ける傷害は多臓器不全へと繋がるのです。

多臓器不全へ導く流れ
原因としては腸間膜への血液量の低下と腸粘膜細胞の熱傷害が主な原因となっています。この2つがきっかけで腸粘膜バリアが崩壊し、バクテリアトランスロケーション(腸内細菌が体内へ移動する状態)が起こり、全身血液中に細菌が侵入します(この状態を菌血症という)。
菌血症になった体では細菌が出す内毒素(エンドトキシン)の影響を受け、敗血症SIRS(全身性炎症反応)多臓器不全を引き起こします。

f:id:otahukutan:20190810161450p:plain

腸粘膜傷害による症状
腸粘膜が破壊されることで見られる症状は吐血血便です。腸粘膜が壊れ、出血しているために起こります。

『低血糖?肝機能を下げる攻撃』

肝臓では肝細胞が熱傷害を受けることで肝機能の低下が起こります。肝細胞が破壊されると血液検査項目で言う所のASTやALT、T.bilなどが上昇します。

肝細胞傷害による症状
持続性低血糖が起こります。これは肝機能の低下と肝臓や筋肉内のグリコーゲン貯蓄の枯渇によるものとされています。
また、肝臓マクロファージ(肝臓の免疫細胞)の減少や門脈低血圧症は菌血症へと発展させます。

 

『DICに繋がる、血管内皮への攻撃』

高体温症では血管内皮細胞も攻撃を受けてしまうのです。血管内皮細胞の攻撃は後述するウィルヒョウの3徴の1つに当てはまり、DICへと発展していきます。

DICとは
DICとは血液凝固能の亢進に伴い、全身のあらゆるところで血栓が作られた状態のことをいい、DICが起こると凝固因子が枯渇してしまうので、凝固不全に陥ってしまいます。
噛み砕いて説明すると、血を固める能力が過剰になり、全身で血栓がいっぱいできます。血栓を作るには血液を固める凝固因子を使います。やがて血栓を作りすぎると凝固因子がなくなり、正常な凝固能(血を固める力)を失ってしまうのです。

ウィルヒョウの3徴とは
・血液組成:凝固能亢進
・血管壁の状態:内皮細胞障害
・血流の状態:うっ血、乱流
のことをいい、これら1つでも該当した場合に血栓症は起こると言われています。

高体温症によって血栓症が起こりやすい理由
高体温症で血栓症が起こりやすくなる理由は2つあります。
・低血圧による血流速度の低下
・肝機能低下による血液凝固因子の産生不足
この2つの環境が血栓を作りやすくし、やがてDIC(播種性血管内凝固)へと繋がるのです。

DICになるとどうなるのか
DICになるとあらゆる血管で血栓ができるため、血流量が減少し多臓器不全へと発展します。これはやがて命を奪う危険な状態となります。

熱中症とDICの関係
ある研究では熱中症になった犬の52%がDICを発症しているという報告があります。
また、気温や湿度が高いとDICを発症しやすいとの報告もあります。

The DI, but not the temperature and humidity in the particular days of the heat stroke events, was positively and significantly associated with occurrence of DIC (AUC 5 0.677, P 5 .03). 引用文献:Heat Stroke in Dogs: A Retrospective Study of 54 Cases (1999–2004) and Analysis of Risk Factors for Death

 

『これは致命的、神経系への攻撃』

高体温症によって直接的に神経系はダメージを受けます。そして神経壊死や脳浮腫などを引き起こします。これらだけでなく、DICを発症するとと同時に血栓症や脳出血も起こります。

さらに高体温症が進行すると
・中枢神経系の破綻(意識レベルの低下)
・発作
・昏睡
・死亡
などかなり重篤かつ緊急性のある症状へと発展していきます。

 

【症状】 

高体温症でよく見られる症状
・過剰なパンティング
・倒れこむ
・嘔吐
・運動失調
・唾液分泌過多
・発作
・下痢
などがあります。

稀に見られる症状として
・気力低下
・筋振戦:手足が震える
・意識レベルの低下
・血尿
・チアノーゼ:舌が青紫色になる(低酸素血症を示唆)
・鼻血
・舌の腫れ
・頭部振戦:頭が震える
・啼鳴(ていめい)、喘鳴(ぜんめい):うめき鳴くこと
・散瞳:瞳孔が開く
があります。

 

【検査】

『どんな検査があるのか』

高体温症を呈している動物ではスクリーニング検査として以下のような検査が行われます。

スクリーニング検査
・血液検査(CBCと生化学)
・血液凝固能試験
・血液ガス検査
・静脈乳酸値測定
・尿検査

一般的に行われる検査として、血液検査の解説を中心にしていこうと思います。

『血液検査(CBC)』

PCVの上昇
血液量の低下や脱水によって血液が濃くなるため、PCVの上昇が見られます。

血小板減少症
DICを発症すれば、PTやAPTTの延長といった凝固能異常が認められます。そのほかにも凝固因子の枯渇なども起こります。
血小板数の減少は熱中症では最もよく見られる検査所見であるものの、その数字の高低が生存率と送還するわけでは無いようです。それよりもどちらかというと、凝固因子が枯渇したかどうかの方が大切な予後因子となります。

有核赤血球の出現
熱中症を引き起こした犬の68%で有核赤血球が出現したという研究結果があります。有核赤血球の数はその数と急性腎障害やDIC、死亡との間に相関関係があることが分かっています。

Both were significantly higher in nonsurvivors (22) versus survivors (18) and in dogs with secondary renal failure and DIC versus those without these complications. Receiver operator curve analysis of relative NRBC at presentation as a predictor of death had an area under curve of 0.92. A cut-off point of 18 NRBC/100 leukocytes corresponded to a sensitivity and specificity of 91 and 88% for death.引用文献:Peripheral nucleated red blood cells as a prognostic indicator in heatstroke in dogs.

 

『血液検査(生化学)』

BUNとCreの上昇
多くの症例でBUNとCreの上昇が確認されています。これは低血圧脱水尿細管壊死に伴う尿素窒素血症などが原因です。
血清Cre濃度が1.5mg/dLを超えると、致命的です。

肝数値の上昇
前々項の肝臓への攻撃の項でもご紹介しましたが、高体温症や血栓症によって肝臓も傷害を受けます。
AST、ALT、ALP、T.bilなどの上昇が認められます。

筋肉マーカーの上昇
横紋筋融解症に続発してCK(クレアチンキナーゼ)やASTの上昇が認められます。横紋筋融解とは骨格筋が破壊され、筋肉成分が血液中に流出した状態を言います。

これらの異常値は危険です
低コレステロール血症、低アルブミン血症、T.bilやCreの高値は予後不良の因子になります。これらの異常値がないか注意しましょう。
さらに、積極的に栄養療法を行なっているのにも関わらず、低血糖(<47mg/dL)が持続するようであれば予後は悪いです。

f:id:otahukutan:20190810181444p:plain

 

【最後に】

今回は熱中症の症状と検査結果についてお話ししました。熱や酸素濃度の低下、血栓症によって臓器は傷害を受けます。そして、DICの発症や、有核赤血球の有無、Cre・T.bilの上昇など、死亡率を上げてしまう所見が出ているかを検査でチェックし、迅速な対応が要求されます。
次回は熱中症に対してどのように対処するのかのお話です。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 562-566p

 

【関連記事】

www.otahuku8.jp

www.otahuku8.jp

www.otahuku8.jp