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【犬のACTH産生性下垂体腫瘍③】クッシング症候群の8~9割はコレ‼︎『犬の下垂体腫瘍』とは~治療法と猫のお話~

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【はじめに】

今回は『下垂体腫瘍の治療法』についてです。
下垂体由来の副腎皮質機能亢進症の治療法は外科手術や放射線治療、薬物療法があります。これらの治療法をどのように選択するかは患者の状態(神経症状や高血圧、感染症、血栓塞栓症など)や飼い主さんの要望によって行われるべきとされています。
具体的にどのような治療を行うのか、見ていきましょう。


【犬のACTH産生性下垂体腫瘍①】『犬の下垂体腫瘍』とは~概要と症状~

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍②】『犬の下垂体腫瘍』とは~診断方法~

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍③】『犬の下垂体腫瘍』とは~治療法と猫のお話~

 

【目次】

 

 

【外科手術】

ACTH産生性下垂体腫瘍で手術適応とするとなることはあまりありません。ほとんどの場合は薬物療法など内科的な治療がメインとなります。

下垂体腫瘍の外科手術は人でも犬でも報告例はしばしばあります。主として行われる術式は蝶形骨(頭蓋骨の基底部と鼻咽頭の天井の間にある骨)を切除して下垂体にアプローチしていく、経蝶形骨下垂体切除術です。

経蝶形骨下垂体切除術の術式
この手術法は腹側からアプローチしていく手術になります。蝶形骨のトルコ鞍に下垂体があります。
蝶形骨にまで達すると、すぐにそれを取り除き、下垂体を露出します。

CTやMRIなどの断面画像を元に正確に切除部位(下垂体のこと)を同定し、下垂体を全部ごっそり切除します。腫瘍部位だけを切除することは視野の狭さと腫瘍のちいささからして不可能です。

下垂体を除去した空洞部分にはボーンワックスや止血剤を詰め、粘膜面を縫合します。

術後ケアとしてモニタリングと下垂体が本来出すホルモンを補給します。

この手術の成績
150匹の下垂体腫瘍を持つ犬を用いた大規模な研究では
・1年生存率:84%
・2年生存率:76%
・3年生存率:72%
・4年生存率:68%
となっています。
さらに12匹は術後に亡くなってしまい、127匹の犬は症状が緩和され、そのうち32が後に腫瘍が再発しました。

The 1-, 2-, 3-, and 4-year estimated survival rates were 84% (95% confidence interval [CI], 76-89%), 76% (67-83%), 72% (62-79%), and 68% (55-77%), respectively.  引用文献:Efficacy of transsphenoidal hypophysectomy in treatment of dogs with pituitary-dependent hyperadrenocorticism.

 

併発疾患の改善
手術を受けた犬では併発疾患(糖尿病など)も改善されました。

手術の成功率
手術を受けた127匹中、術後に亡くなった12匹と術後再発した犬32匹を除いた83匹が手術に成功しました。その成功率は約65%でした。

Survival and disease-free fractions after hypophysectomy were markedly higher in dogs with nonenlarged pituitaries than in dogs with enlarged pituitaries. Transsphenoidal hypophysectomy is an effective treatment for PDH in dogs.  引用文献:Efficacy of transsphenoidal hypophysectomy in treatment of dogs with pituitary-dependent hyperadrenocorticism.

 

この手術の弱点
この経蝶形骨下垂体切除術は熟練した執刀医しっかりとしてオペ器具が必要となるため、行われるのはほとんどが大学病院などの二次診療施設になります。

【放射線治療】

『下垂体腫瘍における放射線治療について』

放射線治療は多く二次診療施設で行われています。数多くの論文による報告から得られた結論を言いますと、放射線治療は生存率を有意に上昇させ、腫瘍による神経症状は著しくに改善させますが、ACTH分泌を制御することができず、コルチゾール過剰分泌による内分泌疾患をコントロールすることは難しいです。

放射線治療の特徴
・下垂体腫瘍での生存率を有意に上昇
・腫瘍による神経症状を著しく改善
・内分泌疾患のコントロールは難しい

神経症状の重症度と腫瘍の大きさ
神経症状の重症度と腫瘍の大きさに相関関係があることが分かっています。そして、放射線治療によって腫瘍が小さくなると神経症状の程度が改善されることも分かっています。

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『放射線治療、やる・やらないの治療成績』

放射線治療の有用性を示すには治療をしなかった場合と比較するのが一番です。
以下の引用文献に基づいた説明です。
本論文では下垂体腫瘍だと診断された犬で放射線治療を受けた19匹の犬と治療を行わなかった27匹の犬のその後を追った研究です。

生存期間中央値の差
・治療群:1405日(範囲は1053-1757日)
・無治療群:359日(範囲は48-916日)

1年ごとの生存率
以下の表の通りになります。

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パッと見た感じで差があるのは歴然ですね。放射線治療は生存率を有意に上げます。

Mean survival time in the treated group was 1,405 days (95% confidence interval [CI], 1,053-1,757 days) with 1-, 2-, and 3-year estimated survival of 93, 87, and 55%, respectively. Median survival in the nonirradiated group was 359 days (95% CI, 48-916 days), with a mean of 551 days (95% CI, 271-829 days). The 1-, 2-, and 3-year estimated survival was 45, 32, and 25%, respectively. Dogs that received RT for their pituitary tumors had significantly longer survival times than untreated dogs (P = .0039). 引用文献:Survival, neurologic response, and prognostic factors in dogs with pituitary masses treated with radiation therapy and untreated dogs.

 

【抗がん剤を使わない薬物療法】

下垂体腫瘍の薬物療法は抗がん剤治療を行いません。下垂体腫瘍の薬物療法でメジャーな薬はミトタンとトリロスタンです。
ただミトタンは副作用が強いため、最近ではほとんどの獣医がトリロスタン(アドレスタン®️)を使用します。

 

『ミトタン←ほぼ使われてないけど』

ミトタンは副腎皮質の細胞を破壊する薬で、特に束状帯と網状帯を狙います。破壊するので、再生されることはなく、失敗すれば逆に副腎皮質機能低下症に陥ってしまうというリスクがあります。
このリスクを避けるために頻繁にモニタリングし、最終的にはACTH刺激試験によって刺激後の血中コルチゾール値が4-5μg/dLになるように目指します。

なんせ成功率が悪い
ミトタンは決して悪い薬ではないのですが、副作用の発症率や再発率を考えれば、あまり有能ではないのです。
副作用の発生率は29%、再発率は39%でした。

Of the 110 dogs which received the full course of treatment, the administration had to be stopped temporarily in 32 because of side-effects, such as anorexia and vomiting. The actual dose of o,p'-DDD administered was not significantly different in the dogs with and without these side-effects. Clinical remission occurred in 111 dogs (86 per cent), of which 43 (39 per cent) had a relapse.  引用文献:Results of non-selective adrenocorticolysis by o,p'-DDD in 129 dogs with pituitary-dependent hyperadrenocorticism.

 

『トリロスタン』

トリロスタン(アドレスタン®️)ってどんな薬?
トリロスタンは3-β-水酸化ステロイド脱水素酵素を競合的に阻害する副腎皮質ホルモン合成阻害薬です。
3-β-水酸化ステロイド脱水素酵素という酵素は副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン、アンドロジェン)の生成に不可欠な酵素であり、その酵素を競合的に阻害することで、コルチゾールの分泌を抑えています。

【稀だけど、猫の場合について】

猫のPDH(下垂体依存性副腎皮質機能亢進症)は犬と比べて非常に稀です。

『好発年齢』

好発年齢は10歳前後

『主な症状』

・多飲多尿
・多食
・体重減少←インスリン抵抗性糖尿病より
・皮膚の菲薄化(薄くなる)←ボロボロと裂ける
・腹部膨満←腹筋の虚弱や肝腫大による
・倦怠感
・脱毛
・被毛の乱れ
などです。

『診断方法』

血液検査
ALPの上昇は猫では半減期が短く、すぐに下がってしまうため確認しにくいです。
一般的には
・ALTの上昇
・高コレステロール血症
・尿毒症
・尿比重の低下
などがあります。

内分泌検査
・尿コルチゾール:クレアチニン比
・ACTH刺激試験
・LDDST
が行われます。犬との検査手順が若干違うみたいです。

追加検査として、下垂体由来か副腎由来を調べるために
鑑別検査
・HDDST
・内因性ACTH値の測定
・腹部エコー
などがあります。

『治療法』

猫のPDHは発生が少ないため、あんまり情報がないみたいです。
やるとすれば、手術か放射線治療、またはトリロスタン。
トリロスタンが一番、使い勝手が良いのでオススメらしいです。ごめんなさい、ちょっと情報が乏しくてあんまり書けません笑

【最後に】

今回は犬の下垂体腫瘍の治療法を中心に、最後に猫の下垂体腫瘍の話も盛り込みました。クッシング症候群を引き起こす下垂体腫瘍の場合、外科的切除が放射線治療がトリロスタンを使った薬物療法のどれかが選択されます。
腫瘍が大きく、神経症状がひどい場合は放射線治療がオススメされます。そして、コルチゾールの過剰分泌による内分泌疾患がひどい場合はトリロスタンを用いた薬物療法がオススメされます。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 504-508p

Spencer A. Johnston ; Karen M. Tobias : veterinary surgery small animal. 2nd ed., ELSEVIER, 2017, 561p

 

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