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【犬のACTH産生性下垂体腫瘍②】クッシング症候群の8~9割はコレ‼︎『犬の下垂体腫瘍』とは~診断方法~

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【はじめに】

今回は『犬の下垂体腫瘍~診断方法~』について解説します。
クッシング症候群を疑う症状を示している犬でその子がクッシング症候群なのか、そして下垂体由来なのか副腎由来なのかを調べる際、必要なことは実はCT検査やMRI検査ではないのです。ではどのような検査が主軸になってくるのか?
今回はそんなお話をしていこうと思います。

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍①】『犬の下垂体腫瘍』とは~概要と症状~

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍②】『犬の下垂体腫瘍』とは~診断方法~

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍③】『犬の下垂体腫瘍』とは~治療法と猫のお話~

 

【目次】

 

 

【手始めに行われる検査】

『クッシングに一致する症状』

まずは副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)に一致するような症状が出ているかをみてみます。特にプレドニゾロン(ステロイド)を服用していない中年齢〜高齢の犬でクッシングを疑うような症状が出ている場合はとても怪しいです。

症状については前回の記事を参考にしてみてください。

 

『血液検査』

クッシング症候群でみられる血液検査所見
・好中球減少症
・単球増加症
・リンパ球減少症
・好酸球減少症
・血小板増加症
・血清ALPの上昇
・血清ALTの軽度上昇
・コレステロール値の上昇
などがあります。
これらは糖質コルチコイドの影響によって起きています。

 

『そのほかの検査』

尿検査
尿比重は等張尿〜低張尿になります。

 

【クッシングを疑った際に行う検査】

前の項で行われたスクリーニング検査によって、クッシング症候群が疑われる場合は尿コルチゾール/クレアチニン比、ACTH刺激試験、低用量デキサメタゾン抑制試験 (LDDST)などが行われます。

 『尿コルチゾール/クレアチニン比』

この検査は副腎皮質機能亢進症では尿中に混じる遊離コルチゾル排泄が増加することを利用した検査方法で、感度はとても高いのですが、特異度が低いです。
つまり、
・正常値→副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を除外できる
・増加→診断不可能
ということになります。
さらに併発疾患がある場合は使用できません。

『ACTH刺激試験とLDDST』

この2つは相補的な立場であり、お互いの欠点を補っています。

ACTH刺激試験は低用量デキサメタゾン抑制試験(LDDST)と比較し、感度が低いですが特異度は高いです。
一方で、低用量デキサメタゾン抑制試験は感度は高いですが、特異度が低く、偽陰性が出やすい試験です。

ACTH刺激試験とは
合成ACTHを注射し、1時間後にコルチゾール値を測定する検査法で、フィードバックを受けるかどうかを調べています。つまり、通常ならACTHを外部から注入されると体の反応としてはこれ以上増えないように減らそうとします。それがクッシング症候群の場合は歯止めが利かず、ACTHが出続けてしまうのです。

ACTH刺激試験1時間後のコルチゾール値
・<20 μg/dl→正常(感度は6~9割)
・20~25 μg/dl→グレーゾーン
・>25 μg/dl→確定(特異度は9割)

LDDST(低用量デキサメタゾン抑制試験)とは
低用量のデキサメタゾン(0.01mg/kg IV)を投与し、血清コルチゾール値が下がるかをみています。正常の場合はちゃんと下がってくれます。症状が副腎皮質機能亢進症の特徴を捉えているのにも関わらずACTH刺激試験で陰性が出た場合はこのLDDSTを行います。感度が高いので、ここでも陰性が出た場合は副腎皮質機能亢進症を除外することができます。

ACTH刺激試験 vs LDDST(図解)

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次のステップ
クッシング症候群を疑う症状とACTH刺激試験or低用量デキサメタゾン抑制試験の陽性結果が出た場合、クッシング症候群である可能性が非常に高くなります。次に進むべき検査は『下垂体由来なのか、副腎由来なのかの鑑別』です。

『下垂体由来?副腎由来?鑑別方法は?』

下垂体由来なのか、副腎由来なのかを鑑別する最も一般的な検査法は『高用量デキサメタゾン抑制試験(HDDST)』『内因性ACTH濃度の測定』です。

「高用量デキサメタゾン抑制試験」

高用量のデキサメタゾンを注射し、4時間後、8時間後の血清コルチゾール値を測定します。下垂体由来の場合、血清コルチゾール値が抑制されるのに対し、副腎由来の場合は抑制がされず、高値を示したままになります。

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「内因性ACTH濃度の測定」

内因性ACTH濃度の測定は下垂体由来と副腎由来を鑑別する最も正確な検査方法として知られています。

副腎由来の場合
副腎由来の場合、副腎からコルチゾールがどんどん分泌されているので、下垂体からACTHの分泌は抑えられており、内因性ACTH濃度は下がっています。

下垂体由来の場合
副腎由来の反対で、ACTHをどんどん分泌しているので、内因性ACTH濃度は上昇しています。

No overlap in ACTH concentrations was observed between dogs with ADHAC and dogs with AIHAC. The use of a new technique with high analytical sensitivity made it possible to use a low threshold (5 pg/mL), avoiding the misclassification of some ADHAC cases with low, but quantifiable concentrations of ACTH. The assessment of ACTH concentrations by ILMA is an accurate tool for differentiating between ADHAC and AIHAC. 引用文献:Accuracy of an adrenocorticotropic hormone (ACTH) immunoluminometric assay for differentiating ACTH-dependent from ACTH-independent hyperadrenocorticism in dogs.

 

【画像診断】

クッシング症候群の診断で用いられる画像診断は超音波検査やCT、MRIなどがあります。

『腹部超音波検査』

クッシング症候群を疑う症例では腹部超音波検査が頻繁に行われます。この検査は確かに役立ちますが、副腎由来と下垂体由来を診断するには正確性が欠けています。

下垂体性副腎皮質機能亢進症の場合
超音波検査によって、副腎を描出すると両側性に肥大しています。形状は正常を保ちつつ大きくなっており、エコー源性も均一です。

具体的な数値
・小型犬→副腎短径:>6mm➡︎PDH(下垂体由来)
・中・大型犬→副腎短径:>7~8mm➡︎PDH(下垂体由来)
・片側が>2cm➡︎AT(副腎腫瘍)

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副腎エコーは不確定要素が多すぎて判断できない
しかし、不確定な要素が多すぎるのです。その要素とは
①肥厚の程度は正常副腎でもあり得る大きさのことがある
②副腎の結節性過形成によって、非対称性に見えることがある
③わずかながら、副腎腫瘍と併発することがある
④褐色細胞腫(副腎髄質由来の腫瘍)でも両側性肥大が確認されている
以上のことから、腹部エコーで副腎が両側性に肥厚しているからといって、下垂体由来の副腎皮質機能亢進症だとは到底言えません。

 ③の根拠となる論文です↓
古い論文だし、17症例しかありませんが笑

Pituitary and adrenal tumors can coexist in dogs with hyperadrenocorticism, resulting in a confusing mixture of test results that may complicate diagnosis and treatment of hyperadrenocorticism. 引用文献:Concurrent pituitary and adrenal tumors in dogs with hyperadrenocorticism: 17 cases (1978-1995).

ではどうすれば?
超音波検査だけに診断を頼ることなく、臨床症状やACTH刺激試験、HDDSTなどの結果とともに総合的な診断を行うべきです。

『CT検査やMRI検査』

下垂体腫瘍による副腎皮質機能亢進症が80~85%を占めているのにも関わらず、下垂体腫瘍が圧迫などで神経症状が話題となることは少ないです。大半はACTH過剰分泌によるコルチゾールの過多が原因の症状がメインになります。

CT検査の信ぴょう性は超音波検査同様、あまり当てにならないため、臨床症状と内分泌試験によって総合的に診断します。

下垂体腫瘍で神経症状は出るのか?
先ほど、下垂体腫瘍による副腎皮質機能亢進症で神経症状が話題になることが少ないと書きましたが、神経症状が出ないというわけではありません。下垂体腫瘍が大きくなるにつれて、自ずと神経症状は認められます。

157匹の下垂体腫瘍の犬を用いた研究では以下のことがわかっています。
旋回運動、発作、運動失調などといった中枢神経特異的な症状と下垂体巨大腫瘍(10mm以上)には特異度・感度ともに低かったが
一方で、
虚脱や倦怠感、食欲の低下と下垂体巨大腫瘍には感度は低いものの特異度は高いことがわかった。
とのことです。

Vague signs of CNS dysfunction (ie, lethargy, inappetence, and mental dullness) were more specific for detection of pituitary macrotumors than were CNS-specific signs (ie, seizure or blindness). 引用文献:Diagnostic imaging findings and endocrine test results in dogs with pituitary-dependent hyperadrenocorticism that did or did not have neurologic abnormalities: 157 cases (1989-2005).

 

『画像で見つける腫瘍と神経症状』

下垂体由来の副腎皮質機能亢進症をもつ犬の40~50%はCTやMRIでは検出できないとされています。そして、そういった犬では神経症状を示す可能性は低いとされています。

一方で15~25%の犬では腫瘍が大きくなるにつれて、神経症状が現れます。これらの症状は診断後6~18ヶ月の間で起こりやすいとされています。

 

【最後に】

今回は下垂体腫瘍による副腎皮質機能亢進症の診断方法について解説しました。下垂体腫瘍はCTやMRIなどで腫瘍の存在を明らかにするというよりも、臨床症状やACTH刺激試験やLDDST、HDDSTなどのコルチゾール値検査が検査の主軸となってきます。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 504-508p

Spencer A. Johnston ; Karen M. Tobias : veterinary surgery small animal. 2nd ed., ELSEVIER, 2017, 561p

 

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