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【犬のACTH産生性下垂体腫瘍①】クッシング症候群の8~9割はコレ‼︎『犬の下垂体腫瘍』とは~概要と症状~

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【はじめに】

今回は『犬の下垂体腫瘍』についてです。下垂体って何してる器官か知っていますか?

下垂体は大脳のすぐ下に位置し、複数のホルモンを産生しています。この下垂体が産生するホルモンの1つに副腎皮質刺激ホルモン(通称:ACTH)があります。犬の内分泌疾患で多くみられる副腎皮質機能亢進症(通称:クッシング症候群)の8~9割は腫瘍化した下垂体によるACTHの過剰な分泌が原因だとされています。

前置きが長くなりましたが、早速『犬の下垂体腫瘍』についてお話ししていきたいと思います。

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍①】『犬の下垂体腫瘍』とは~概要と症状~

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍②】『犬の下垂体腫瘍』とは~診断方法~

【犬のACTH産生性下垂体腫瘍③】『犬の下垂体腫瘍』とは~治療法と猫のお話~

 

【目次】

 

 【下垂体ってどこにあるの?】

まずは下垂体がどこにあるのか簡単にお話ししたいと思います。
ざっくり言うと下垂体は脳の下にあります。下垂体は前葉と後葉に分かれており、前葉は『腺性下垂体』と呼ばれ、後葉は『神経性下垂体』と呼ばれています。
ちなみに腺性下垂体は厳密には前葉と中間葉に分けることができ、犬では『下垂体腔』と呼ばれる空間によって、前葉と中間葉は分離されています。
それぞれから分泌されるホルモンは以下のようになっています。

腺性下垂体から分泌されるホルモン
・成長ホルモン(GH)
・卵胞刺激ホルモン(FSH)
・黄体形成ホルモン(LH)
・副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
・甲状腺刺激ホルモン(TSH)

神経性下垂体から分泌されるホルモン
・オキシトシン
・バソプレシン

下垂体の解剖学(図解)

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手持ちの写真で下垂体の写真は馬しか見つけられなかったので、写真は馬の下垂体です。
気をつける点としては馬には前葉と中間葉を隔てる空間である下垂体腔がないので、犬とは若干構造が異なります。

【副腎皮質機能亢進症について】

副腎皮質機能亢進症、またの名をクッシング症候群とも呼ばれるこの病気は中年齢から高年齢の犬でよく見られる内分泌疾患です。ちなみに猫では発生が稀です。
副腎皮質機能亢進症はコルチゾールが大量に分泌されることで症状が現れます。

そしてその原因は主に2つ‼︎
・下垂体腫瘍によるもの
・副腎腫瘍によるもの
の2つがあります。

そして題名にもある通り、そのほとんどが下垂体腫瘍によるものなのです。
 

『人医療における副腎皮質機能亢進症』

人間の場合、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)に依存性か非依存性かで区別します。

ACTH依存性の場合
この場合は過度なACTHの放出が原因で起こる副腎皮質機能亢進症です。過度なACTHの分泌はほとんどの場合、下垂体前葉に発生したACTH分泌細胞由来の腫瘍が行なっています。
しかし、下垂体以外から分泌される異所性のACTH分泌や下垂体へACTHを放出するよう指令を出している視床下部が腫瘍化した場合に起こるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌するCRH細胞由来の腫瘍が原因の場合もあります。

犬でも異所性ACTH賛成細胞由来腫瘍の報告はある
犬でも下垂体とは異なる場所すなわち異所性のACTH分泌による副腎皮質機能亢進症の報告はあります。

Here, we report on an 8-year-old German shepherd dog in which ACTH-dependent hyperadrenocorticism was a result of ectopic ACTH secretion and could be related to an abdominal neuroendocrine tumor. 引用文献:Hyperadrenocorticism in a dog due to ectopic secretion of adrenocorticotropic hormone.

そのほか副腎皮質機能亢進症の詳しい解説はこちらをご参考下さい。

www.otahuku8.jp

 

【下垂体由来の副腎皮質機能亢進症】 

『PDHって何?』

PDHとは
PDHとはPituitary-dependent hypercortisolismの略称で、下垂体腫瘍由来の副腎皮質機能亢進症のことを言います。以下、PDHで話を進めていきます。
副腎皮質機能亢進症の80~85%はPDHだとされています。

 

『PDHのメカニズム』

PDHでは下垂体のACTH産生細胞が腫瘍化することで、ACTHが大量に分泌されてしまいます。ACTHは副腎に働きかけ、コルチゾールをたくさん作らせます。
通常であれば、下垂体は血中コルチゾール値の上昇を認知し、自ずとACTHの分泌をやめるのですが、腫瘍ではそうは行きません。腫瘍化したACTH産生細胞はネガティブフィードバックを無視し、ACTHをドバドバ分泌します。
それによって副腎皮質は刺激され、両側性に腫大していきます。

まとめると、
PDHでは下垂体が腫瘍化しACTHを大量に分泌

それを感知した副腎が頑張ってコルチゾールを分泌

通常、血中コルチゾール値の上昇を感知してACTHの分泌をやめるが、腫瘍なのでそんなの無視する

際限なくACTHが分泌され、血中コルチゾール値は高いままになる

副腎皮質機能亢進症のメカニズム(図解)

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『PDH腫瘍細胞は何が違う?』

PDHの原因となっているのはACTH産生細胞由来の腫瘍細胞です。人の下垂体腫瘍ではこのACTH産生細胞由来腫瘍細胞がいくつかのタンパク質を発現している事が示唆されています。

犬ではどうでしょうか?
ACTH産生に影響を与えるような受容体で変異は認められないものの、犬でも下垂体腺腫の症例で白血病阻止因子(LIF)の発現やそれに対する受容体(LIFR)の存在は明らかになっています。
白血病阻止因子(LIF):視床下部-下垂体-副腎系を活性化し、ACTH産生細胞の分化を促進させるIL-6ファミリーのサイトカインの一種。

No mutation was found on mutation analysis of the complete LIFR cDNA. Surprisingly, nuclear to perinuclear immunoreactivity for LIFR was present in nontumorous pituitary cells of the pars distalis in 10 of 12 tissue specimens from PDH dogs.  引用文献:Expression of leukemia inhibitory factor and leukemia inhibitory factor receptor in the canine pituitary gland and corticotrope adenomas.

 

『下垂体腫瘍、2つの分類』

下垂体腫瘍を分類する方法として2種類あります。
・"大きさ"で分ける方法
・"浸潤性"で分ける方法
この2つで分類します。

「大きさで分類」

この分類の仕方は人医療で使われている方法なのですが、犬の下垂体腺腫でもしばしば使用されています。

定義としては下垂体腺腫が1cm未満のものをmicrotumors(ミクロ腫瘍)、1cm以上のものをmacrotumors(マクロ腫瘍)と称し、分類しています。

「浸潤性で分類」

下垂体腫瘍を浸潤度に合わせて、
・非浸潤性下垂体腺腫
・浸潤性下垂体腺腫
・下垂体腺癌
に分類しています。下行くほど悪性度が高いことを意味しています。

下垂体腺癌は一般的に転移が見られるような悪性度の高い腫瘍をこう名付けます。犬の下垂体腺癌は稀であまり発生例はありません。

僕は一度下垂体腺癌の症例を見たことがあります。その症例はACTH産生下垂体腫瘍が脾臓へ転移し、そこでACTHを産生していました。まさかとは思ったのですが、病理組織切片で見た時はびっくりしました。

33匹の下垂体腫瘍をもつ犬を用いた研究で検死解剖の結果、
非浸潤性下垂体腺腫が20匹(61%)、浸潤性下垂体腺腫が11匹(33%)、下垂体腺癌が2匹(6%)でした。やはり、腺癌は稀なようですね。

The results of our study indicate that pituitary adenocarcinomas represent a small percentage (6%) of pituitary masses whereas adenomas make up 61% and invasive adenomas make up 33%. 引用文献:Cross‐Sectional Imaging Characteristics of Pituitary Adenomas, Invasive Adenomas and Adenocarcinomas in Dogs: 33 Cases (1988–2006)

下垂体腫瘍の分類(図解)

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【臨床所見】

『PDHの統計』

好発年齢
PDHを発症する犬のほとんどが9歳以上です。

性差
あまり顕著ではありませんが、わずかにメスの方が多いと報告されています。

好発品種
ダックスフンド、テリア犬種、ジャーマン・シェパード、プードル犬種

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『飼い主さん、その子ほんとに健康ですか?』

PDHは進行がとてもゆっくりで、飼い主さんが気づいていないケースが多いです。特に初期のPDHではよく食べるようになり、元気だと思いがちです。

そして、進行するにつれて異変に気付くようになるのです。

 

『副腎皮質機能亢進症の症状とは』

副腎皮質機能亢進症の症状で頻繁に見られるのが以下のような症状です。

クッシング症候群の特徴的な症状
・多飲多尿(80~91%)
・多食
・腹部膨満(67~73%)
・気だるさ
・パンティング(30%):息をハァハァいう呼吸
・運動不耐性:運動を嫌がりませんか?
・筋肉の虚弱化:力弱ってないですか?
・両側性脱毛(60~74%):抜け毛は目立ちませんか?
・皮膚の石灰沈着
・皮膚の菲薄化:皮膚が裂けやすくないですか?

 

『これらの症状の原因って』

これらの症状は全て、血中のグルココルチコイド濃度の上昇が原因で起こっています。
何個か例を紹介します。

①インスリン抵抗性
グルココルチコイドは筋肉を分解し、糖を作ることで血糖値を上昇させます。その上、グルココルチコイド自体にインスリン抵抗性があるので、糖尿病になりやすい体に仕上がります。実際に副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)を持つ犬の10%は糖尿病になっているという報告があります。

②異化作用
グルココルチコイドには異化作用があります。異化作用とは分子をより小さなものへ分解し、エネルギーを取り出そうという作用のことを言いますが、要はタンパクを分解する作用のことです。
タンパクを分解してしまうので、お腹がたるんできたり、傷が治りにくかったり、皮膚が薄くなったり、骨密度のまでも下がってしまいます。

③免疫抑制と抗炎症作用
よく病院へ連れて行くとプレドニゾロンを処方されませんか?実はあれ、主成分がグルココルチコイドなんです。
プレドニゾロンは用量によって炎症や免疫を抑えたりします。副腎皮質機能亢進症でも同様で免疫が抑制され感染症を引き起こしやすくなります。
そして、最も多いのが尿路感染症
ある研究では41.2%の犬でこの尿路感染症が報告されています。ちなみに原因菌で一番多かったのは大腸菌だそうです。 

There were 101 dogs with hyperadrenocorticism or diabetes mellitus or both that met inclusion criteria; 42 (41.6%) had UTI and 59 (58.4%) did not. UTI was present in 46% of dogs with hyperadrenocorticism, 37% of dogs with diabetes mellitus, and 50% of dogs with both endocrine disorders. 引用文献:Retrospective evaluation of urinary tract infection in 42 dogs with hyperadrenocorticism or diabetes mellitus or both.

クッシング症候群の原因(図解)

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『これは要注意、高血圧と蛋白尿の怖さ』

クッシング症候群で高血圧や蛋白尿が見られたら決して無視できません。
これらの症状を放っておくと、眼や脳、腎臓へ影響を与え、失明や糸球体疾患に繋がってきます。早急な処置が大事になります。

ちなみにクッシング症候群の犬の80%で高血圧があるという研究データがあります。

Among dogs examined only once, hypertension was diagnosed in 21 of 26 dogs with untreated pituitary-dependent hyperadrenocorticism (PDH), 17 of 21 with inadequately controlled PDH, 8 of 16 with well-controlled PDH, 10 of 10 with an untreated adrenocortical tumor, and 0 of 4 that had undergone adrenalectomy because of an adrenocortical tumor.  引用文献:Systemic arterial blood pressure and urine protein/creatinine ratio in dogs with hyperadrenocorticism.

 

【最後に】

今回は下垂体腫瘍の概要と症状について説明しました。クッシングを引き起こす犬の下垂体腫瘍はACTH産生細胞由来です。ACTHを際限なく出し続ける腫瘍によって血中コルチゾール値が上昇します。
その上昇によって様々な異変が体で起こるのです。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 504-508p

Spencer A. Johnston ; Karen M. Tobias : veterinary surgery small animal. 2nd ed., ELSEVIER, 2017, 561p

 

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