オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

腫瘍のせいで起こる『低血糖』とは~腫瘍随伴症候群を考える~

スポンサーリンク

f:id:otahukutan:20190715111951p:plain

【はじめに】

今回は『低血糖』についてです。
以前、血液検査を考えるシリーズで低血糖についてお話しました。低血糖が起こる原因として主に3つ。
① 糖が作れなくなった
② 血液中から糖が過剰に出て行った
③ ①,②以外の原因
と示しています。
腫瘍が原因となる低血糖は②に該当します。
今回は腫瘍に付随して起こる低血糖をテーマにお話を進めていきたいと思います。

『低血糖』~血液検査を考える~ - オタ福の語り部屋

【目次】

 

【低血糖とは】

そもそも低血糖が何であるかをまずはお話しておきます。
低血糖とは血糖値が低い状態のことを言い、一般的には血液検査の結果で血糖値が<60mg/dLを示した時を言います。

 

血液検査で低血糖が見られた場合はこちらへ↓↓
『低血糖』~血液検査を考える~ - オタ福の語り部屋

 

【腫瘍が原因で起こる低血糖】

『原因は二分される』

低血糖を引き起こす腫瘍は大きく分けて2つのタイプあります。
それはインスリノーマそれ以外の膵外腫瘍かです。

「インスリノーマによる低血糖」

インスリノーマは膵臓の膵島にあるβ細胞が腫瘍化したものです。β細胞ではインスリンの産生分泌を行なっています。インスリノーマのようにβ細胞が腫瘍化してしまうと、インスリンが大量に分泌されてしまい、血糖値が大きく下がってしまいます。

インスリノーマはインスリンを分泌する(図解)

f:id:otahukutan:20190715103953p:plain

「膵外腫瘍による低血糖」

人の話になりますが、膵外腫瘍では腫瘍細胞から産生されるIGF-2(インスリン様成長因子)が原因で起こります。

While increased levels of insulin have never been unequivocally established in the plasma of these patients, a number of insulin-like peptides have been reported. One such peptide may be related to insulin-like growth factor II, but reports from different laboratories are conflicting. 引用文献:Hypoglycemia in patients with non-islet cell tumors.

低血糖を引き起こす膵外腫瘍
・肝細胞癌、肝細胞腫
・平滑筋肉腫、平滑筋腫
・血管肉腫
・腺癌
・リンパ芽球性白血病
・形質細胞腫
・転移性悪性黒色腫
・膵神経内分泌腫瘍
・猫のリンパ腫?←猫はIGF-2を測定できないので、詳細は不明

インスリノーマ以外に低血糖を引き起こす腫瘍は上記の通りです。
特に肝細胞癌平滑筋肉腫では腫瘍随伴症候群として低血糖を示すことが有名です。

 『どんな症状を示すのか?』

低血糖で見られる症状は基本的には元気がなくなり、意識が朦朧とするなどがあります。具体的には虚脱や発作、振戦、運動失調、行動異常、多食などがあります。
低血糖の程度には日内変動があるので、症状が出るのが数時間ごとなど飛び飛びであったりします。

【インスリノーマによる低血糖の治療法】

『低血糖時の緊急対応』

インスリノーマの子をもつ飼い主さんはその子が低血糖により急激に状態が悪化した際、どのように対処すべきか知っておく必要があります。

「低血糖発作を起こした時の対処法」

対処法
インスリノーマのように大量にインスリンを分泌することで低血糖を引き起こす疾患では急激な血糖値の低下による低血糖発作が起こる可能性があります。その時、正しく対処することは大切です。
低血糖発作が見られた場合、頬の内側にブドウ糖入りのガムシロップを刷り込んであげる必要があります。ブドウ糖入りガムシロップはあらかじめ、処方してもらっておくと良いでしょう。

意識が戻ったら
意識が回復すれば少量のご飯を複数回に分けて与えてあげれば良いです。

「やってはいけない注意事項」

注意点①

対処法として注意が必要なことがあります。それは発作を起こし意識レベルが低下しているときはガムシロップを喉に流し込まないということです。意識が朦朧としている中で液体を流し込んでしまうと誤嚥してしまう恐れがあるためです。

注意点②
発作が起こる前に予防的にガムシロップを投与することはやめたほうがいいでしょう。というのも体というのは恒常性を保とうと常に働いています。ガムシロップによって血糖値を上げると、それに反応してインスリンが大量に分泌され、過度な低血糖を助長する恐れがあるためです。

『低血糖の内科療法』

インスリノーマのように急激なインスリン分泌を避けたい時の低血糖に対する治療法は主に3つあります。

インスリノーマの内科療法3つ
・食事療法
・運動制限
・グルココルチコイド 
です。
では順番に解説していきます。

「急なインスリン分泌を避ける食事療法」

急なインスリン分泌は低血糖発作を引き起こす可能性があるため、避ける必要があります。
その1stステップとして『食事療法』あります。
具体的にどのようなことを行うかを説明します。

ドライフードを主食に少量頻回投与する
なぜドライフードかというと、パウチに入っているウェットタイプのフードには糖類が比較的多く含まれており、インスリン分泌を刺激する可能性があるためです。

脂肪、食物繊維を多く含むフードにする
脂肪や食物繊維、複合炭水化物などは食後の糖吸収を穏やかにするため、急激なインスリン分泌を避けることができるのです。

おやつは避ける
おやつには糖分が多く含まれており、インスリン分泌を助長します。インスリノーマ時に避けたい食べ物の代表格です。

まとめると
「食物繊維の多く含んだドライフードを少量頻回であげる。おやつは避ける」ということです。

「運動はインスリン分泌を促してしまう」

よく人の糖尿病患者は運動するように勧められますが、あれは運動によってインスリンの分泌を促そうとしているのです。運動を行うとインスリンが分泌されてしまいます。なので、インスリノーマの患者ではできる限り『運動を控える』ようにしましょう。
激しい運動は禁忌です。
筋肉を維持するために歩行程度の運度は必要ですが。

「グルココルチコイド」

グルココルチコイドはインスリンの作用を阻害して、血糖値を上昇させる作用があります。
クッシング症候群などで、続発性インスリン抵抗性糖尿病を発症するのと同様の機序です。これを投薬によって人為的に起こそうとする治療法です。
この治療法ではステロイド薬でお馴染みの『プレドニゾロン』を使用します。
もちろんプレドニゾロンの長期投与は副作用の心配もありますので、そこは必ず全身状態のモニタリングを行いながら治療を進めていきます。

「プレドニゾロンが使えない場合」

プレドニゾロンが効かないあるいは副作用の関係からこれ以上使用できないと判断した場合、追加で行われる治療法として
・ジアゾキシド
・ソマトスタチン
・ストレプトゾトシン
などがあります。
これらは有効性はあり、特にジアゾキシドは副作用が少ないため使いやすい薬になっています。
ただこれらの薬は良いことばかりではありません。
副作用としてストレプトゾトシンには強い腎毒性がありますし、ジアゾキシドとソマトスタチンは薬の値段がとにかく高いです。

f:id:otahukutan:20190715111009p:plain

【膵外腫瘍による低血糖の治療法】

膵外腫瘍の場合、その腫瘍が産生していることIGF-2が低血糖の原因となっているので、腫瘍をどうにかすることが重要になります。そのため、原因疾患の治療が基盤にあります。

具体的な治療法
インスリノーマの低血糖治療で行われたように、膵外腫瘍においても食事療法や運動制限、グルココルチコイドの投与などは有効とされています。
特にプレドニゾロンなどのグルココルチコイドの投与はIGF-2の作用を抑制することができるので、膵外腫瘍でもかなり有効な治療法になると考えられています。

注意点
膵外腫瘍にはインスリノーマで行われたようなジアゾキシドやソマトスタチン、ストレプトゾトシンなどの薬は効きません。副作用を起こすだけなので、使用しないようにしましょう。

原因疾患の治療とは
原因疾患の治療法とは腫瘍の外科的な切除や抗がん剤治療などをがん自体を直接的に抑制していくような治療を行うということです。

【最後に】

今回は腫瘍に随伴する『腫瘍随伴症候群としての低血糖』をご紹介しました。腫瘍随伴症候群としての低血糖はインスリン産生細胞が腫瘍化したインスリノーマと、IGF-2を産生分泌する膵外腫瘍に大別され、それぞれ異なるアプローチで治療を行う必要があります。
低血糖による発作を起こさないようにするのはもちろんのこと、原因疾患として腫瘍へのアプローチをしていくことも決して忘れてはいけません。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 246-250p

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 519-521p

松木直章. ”低血糖”. VETERINARY ONCOLOGY. 2019年, NO.19, 36-40p