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動物の腸管腫瘍について④~治療法と予後~

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【はじめに】

今回は『動物の腸管腫瘍』最終回、治療法と予後についてです。
腸管腫瘍は腫瘍の治療法のセオリー通りで
・外科手術
・化学療法
・放射線治療
の3つが主な治療法になります。これらの治療法はいかほどの治療成績を示すかなどを解説しています。

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【目次】

 

【ど定番!外科手術(犬)】

『腸管腫瘍vs外科手術』

一番王道の治療法なのですが、腸管腫瘍では漿膜面(粘膜の反対)まで浸潤していたり、癒着(くっつくこと)が起きていない限りは完全切除も可能です。うまく切除ができた場合、長期間生きることもできます。

具体的な数字で言うと、
犬の固形癌(腺癌など)では術後の1年生存率は40%ほどで2年生存率は33%です。生存期間中央値は約10ヶ月という報告があります。
腺癌の猫では約50%がリンパ節転移を示し、約30%が腹膜播種、約20%が肺転移しています。

Long-term follow-up information was obtained for 39 dogs that had undergone surgical excision of nonlymphomatous, small intestinal tumors. For all dogs evaluated in this study, the median survival time was 10 months, and the one- and two-year survival rates were 40.5% and 33.1%, respectively.  引用文献:Prognosis for dogs with nonlymphomatous, small intestinal tumors treated by surgical excision.

 

『手術が効かない腫瘍もある』

犬の腸管原発の肥満細胞腫では手術の効果的なのか不明だと考えられています。というのも、ある2つの実験ではほとんどの犬が術後1ヶ月以内に亡くなっているという報告があるからです。

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Fig. 1. The survival (in days) of dogs with gastrointestinal mast cell tumors.

Survival data were available for 23 dogs. The survival rate for the first 30 days after first admission was 39.1%, and only two dogs survived over 180 days (Fig. 1). 引用文献:Mast Cell Tumors of the Gastrointestinal Tract in 39 Dogs

 

『小腸の腺癌vs外科手術』

小腸に腺癌ができた場合、治療を一切しなかった場合は中央値12日で亡くなっているのに対し、手術を行なった結果、生存期間中央値は114日あるいはもっと生存期間が伸びているというデータもあります。

『平滑筋肉腫vsGIST』

多くの文献で平滑筋肉腫とGISTはよく比較されています。腫瘍細胞の組織形態が似ているからなのか、僕には理由まではわかりませんが笑
今回もその比較例をいくつが紹介します。

術後の生存期間
・GIST:38ヶ月vs平滑筋肉腫:8ヶ月
・GISTと平滑筋肉腫の1年生存率は約80%
と有意差なし。
 

【猫の外科手術はどうか】

『小腸腫瘍vs外科手術』

猫の小腸にできた腸管腫瘍では周術期のリスクが高いです。つまり術後に亡くなってしまうケースが多いということです。ですが逆に術後2週間を乗り切った猫ちゃんたちは長期(15ヶ月ほど)で生存できるという報告があります。 

In 23 cats, resection was performed. Eleven of these died within 2 weeks after surgery (mean survival time, 2.6 days); 8 had lymph node metastasis. Twelve cats survived greater than 2 weeks after surgery. The mean survival of 11 of these cats was 15 months. 引用文献:Small intestinal adenocarcinoma in cats: 32 cases (1978-1985).

 

『大腸腫瘍vs外科手術』

猫の大腸腫瘍の生存期間中央値を腫瘍の種類別に記します。
・リンパ腫:3.5ヶ月
・腺癌:4.5ヶ月
・肥満細胞腫:6.5ヶ月

リンパ腫以外の腫瘍ではアジュバント療法(手術後に抗がん剤治療を行う治療法)を用いる生存率が伸びるという報告があります。
残念ながらリンパ腫の場合は今のところ抗がん剤はあまり有効ではないです。

Data from this study indicate that the survival time of certain cats with colonic lymphoma may not be affected by chemotherapy. Cats with an unidentified colonic mass should receive a subtotal colectomy to increase survival time. Cats with colonic adenocarcinoma should receive a subtotal colectomy with consideration of doxorubicin administration to increase survival time. 引用文献:Malignant colonic neoplasia in cats: 46 cases (1990-1996).

 

【化学療法】

腸管切除を行なった後の化学療法が有益か否かを確認する無作為研究はありません。人間ではフルオロウラシルという抗がん剤を使用しており、効果が証明されていないもののこれが標準的な治療をして採用されているそうです。

 

『獣医療では用いる抗がん剤は』

先ほど人ではフルオロウラシルを使うらしいと言いましたが、獣医療での腸管腫瘍におけるアジュバント療法はドキソルビシン(アドリアシン®️)を使用します。

 

結腸腺癌を有する猫では
結腸の腺癌を持った猫の症例を調べた結果、ドキソルビシン(アドリアシン®️)をアジュバント療法で使用していた場合、化学療法をしなかった場合と比較し、優位に生存期間が伸びたそうです。
※アジュバント療法とは:手術で肉眼レベルのがんを摘出後、顕微鏡レベルの残存腫瘍を抗がん剤や放射線で叩く治療法

具体的な生存期間中央値
・ドキソルビシン投与群:280日
・抗がん剤無投与群:56日 

Cats with colonic adenocarcinoma should receive a subtotal colectomy with consideration of doxorubicin administration to increase survival time. 引用文献:Malignant colonic neoplasia in cats: 46 cases (1990-1996).

 

『腸管型リンパ腫の化学療法』

「犬の場合」

8匹の腸管型リンパ腫の犬に治療を行なったところ、8匹とも14週間以内に亡くなってしまいました。投薬の内訳としては5匹がグルココルチコイドとアザチオプリンやビンクリスチンなどの併用療法。2匹がCOAPプロトコル、残り1匹がCLOPプロトコルでした。

「一方、猫の場合」

猫の腸管型リンパ腫の生存期間中央値は6~9ヶ月と犬に比べて良好です。しかし、これにはどうやらリンパ腫のサブタイプにからくりがあるようです。

腸管型リンパ腫のサブセット
①リンパ球性リンパ腫
②リンパ芽球性リンパ腫
の2つタイプがあります。

 

①リンパ球性リンパ腫の場合
腸管型リンパ腫の75%がリンパ球性リンパ腫の症例で96%の治療に反応率を示し、クロラムブシルとプレドニゾロンを用いた治療法では生存期間中央値は786日(約2年ちょい)となっています。

Twenty-eight cats (24 with full-thickness intestinal biopsies) were diagnosed with small-cell GI lymphoma and treated with a combination of chlorambucil and glucocorticoids. The majority of cases were strongly CD3+, and many displayed epitheliotropism. The overall clinical response rate was 96%, with a median clinical remission duration of 786 days. 引用文献:Treatment of feline gastrointestinal small-cell lymphoma with chlorambucil and glucocorticoids.

 

②リンパ芽球性リンパ腫の場合
症例の残り25%がこれに該当します。治療反応率は20%以下と低く、多剤併用療法での生存期間中央値も2.7ヶ月と不良です。

 

『直腸ポリープが消炎剤で治る⁉︎』 

ある研究では8匹の直腸ポリープを有する犬へピロキシカム(NSAIDs:消炎剤)を投薬したところ、大きさが減少したと報告されています。
治療反応と腫瘍に関連した炎症があったかどうかは関係ないということも分かっています。
ちなみにこの研究で使用された犬のうち3匹は悪性であったそうです。それにもかかわらず全頭で有効であったということはかなり有意義な結果だと考えてよいでしょう。

Seven dogs were treated with piroxicam suppositories and one with oral piroxicam. All dogs were re-examined after four to six weeks of piroxicam therapy and the extent of haematochezia, tenesmus and faecal mucus production was reduced in all cases.  引用文献:Preliminary clinical observations on the use of piroxicam in the management of rectal tubulopapillary polyps.

 

【放射線治療】

冒頭で3本柱を中心に治療を進めていくと言いましたが、実は腸管腫瘍では放射線治療はあまり使われません笑

理由は以下の通り
・腸管はいろんな臓器に囲まれていて照射しにくい
・局所コントロールは外科手術で十分まかなえる
・腸管は常に動くので、複数回に分けて照射しにくい

といった感じです。

 

【予後について】

『結腸・直腸腫瘍の切除後は』

結腸や直腸にできた腫瘍の切除後は緩和療法を行なった時と比べ、有意に良いと言われています。

肉眼的な増殖形態も予後に関わるの可能性があります。
環状に増殖し、管腔を閉塞していた症例では平均生存期間は1.6ヶ月であったのに対し、結節状の腫瘤では12ヶ月、単発性の腫瘤では32ヶ月という報告があります。

In dogs in which survival time was compared with location and gross appearance of the tumor, dogs with annular masses had the shortest mean survival time (1.6 months), and dogs with single, pedunculated, polypoid tumors had the longest mean survival time (32 months). 引用文献:Colorectal adenocarcinoma in dogs: 78 cases (1973-1984).

 

『犬の小腸腺癌について』

予後の良し悪しに関わってくる因子として
・手術時の転移の有無
・オスかメスか
この2つがあります。

手術時の転移の有無
手術時に転移が見られなかった症例の生存期間中央値が15ヶ月であるのに対し、転移が見られた症例では3ヶ月と有意に短くなっています。
そしてリンパ節転移の有無で1年生存率も変わってきます。リンパ節転移があったものが1年生存率20%であったのに対し、リンパ節転移がないものは67%でした。

性差
オスの方がメスと比べて小腸腺癌の予後が良いという報告があります。メスの方が腫瘍の発生自体は少ないのですが。
15匹の小腸腫瘍をもつ犬の切除後の生存期間を調べてみるとオスでは272日であったのに対し、メスは28日というデータがあります。

Fifteen dogs were treated by surgical resection of the intestinal mass. Their median survival time was 233 days. Only gender appeared to influence survival. Female dogs lived a median of 28 days, whereas male dogs lived a median of 272 days. 引用文献:Ultrasonographic and clinicopathologic findings in 21 dogs with intestinal adenocarcinoma.

 

『猫の腸管型リンパ腫の予後』

治療が効いているかどうか
猫の腸管型リンパ腫の予後判定で一番分かりやすいのは『治療への反応』です。どれくらい治療が効いているかで予後が分かります。抗がん剤などの治療を開始して、臨床症状が収まるほど効いていれば、予後は期待できます。

そのほかにはFeLV感染猫かどうか 
FeLVに感染している猫は感染していない猫に比べて予後が悪い傾向にあります。
ただし、これには賛否両論あり、ある研究では影響しないとも言われています。

『猫の大腸腫瘍ならどうだろう』

何回かお話しして重複しますが、リンパ腫であった場合、術後の化学療法を行おうが行なわまいが予後に大きな変化はありません。

一方で、腺癌の場合は話が違います。腺癌の場合は術後に化学療法を行なった群の方が行なわなかった群よりも有意に生存期間が伸びています。←もう3回目ぐらいですね笑

つまりは腫瘍の種類によって予後が大きく異なるということです。

【最後に】

今回は腸管腫瘍の治療法と予後について解説しました。腸管腫瘍は外科的な切除が一番有効的な治療法とされています。術後に抗がん剤治療を行い、再発をコントロールしていきます。
どの腫瘍でもそうですが、腸管腫瘍でも転移の有無が大きく予後に関わってきます。早期発見できるよう、日々様子を見てあげることが大切です。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 412-423p

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