オタ福の語り部屋

獣医学を追求する。その先に見えるものは…

『多飲多尿』で考えるべき、10個の疾患

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【はじめに】

今回は『多飲多尿から考える病気』について解説します。

いつものように病気の解説ではなく症状から考えられる病気の概要を上げていこうかと思います。ちょっと今までと雰囲気を変えてみます!

今回は何かと多い『多飲多尿』についてです。
多飲多尿とは文字通り、オシッコをたくさんして、水をいっぱい飲むという症状ですが、こういった症状が見られる際はどのような病気が考えられるのでしょうか?
今回はそんなお話をしていきたいと思います。

【目次】

 

【そもそも『多飲多尿』とは】

そもそも『多飲多尿』とはどのくらい水を飲んで、どのくらいオシッコを出すことを言うと思いますか?
正常尿量
・大型犬:0.5~2.0 L/日
・小型犬:24~41 ml/kg/日
・猫:22~30 ml/kg/日
とされています。運動量や湿度、飲水量によって多少ズレはあるもののこの程度の尿量を1日に排泄します。
例えば、小型犬(5kg)であれば、1日にする正常尿量は上記の数字に5kgをかけて、140~205 mlが正常尿量になります。

一方で、異常尿量、異常飲水量とされるのは以下の通りです。
異常尿量
・犬:45~50 ml/kg/日 以上
・猫:40 ml/kg/日 以上

異常飲水量
・犬:90~100ml/kg/日 以上
・猫:45 ml/kg/日 以上
異常値はこの程度です。
小型犬だと500mlのペットボトル分1日で飲み干す場合は多飲多尿の可能性が考えられます。

では、次はこの多飲多尿の裏にどのような病気が隠れているのか、具体的にお話を進めていきたいと思います。

【その①:副腎皮質機能亢進症】

副腎皮質機能亢進症、クッシング症候群とも呼ばれている病気です。
この病気は副腎皮質でのホルモン産生能が亢進し、血液中のコルチゾール値が慢性的に高くなってしまう病気です。

『副腎皮質機能亢進症の原因』

原因は大きく分けて3つあります。
①下垂体腫瘍(PDH)
②副腎腫瘍(ADH)
③ステロイドの長期服用
です。

中年齢ごろからの発症が多く、特に下垂体性副腎皮質機能亢進症がこの疾患の原因として7~8割を占めており、よく見られます。下垂体性と副腎性の違いは低用量デキサメタゾン抑制試験によって鑑別されます。

詳しくはこちらをご参考ください↓
犬で多い、『クッシング症候群』とは?

 

『副腎皮質機能亢進症の症状』

副腎皮質機能亢進症の症状は副腎皮質より過剰に産生されるコルチゾールによって起こります。クッシング症候群でよくある症状を紹介します。

多飲多尿(80~91%)
今回のテーマである多飲多尿です。コルチゾールには血圧維持のために尿中の水分の再吸収するよう働きかけるホルモン(抗利尿ホルモン)を邪魔する作用があります。

脱毛(60~74%)
コルチゾールは被毛の発育を止めてしまう作用があり、これにより毛が抜けていきます。特徴としては左右対称(両側性)に毛が抜けていくということです。

お腹がたるんで見える(67~73%)
コルチゾールは筋肉を分解したり、肝臓を腫れさせる作用があります。これにより腹筋が弱り、肝臓も膨らみ、お腹全体がたるんで見えてきます。多飲多尿によりオシッコが溜まって膨らんだ膀胱もお腹を膨らませる1つの原因となります。

【その②:副腎皮質機能低下症】

副腎皮質機能低下症とは先ほどの亢進症と逆で、副腎皮質で産生されるホルモンが産生・分泌されなくなる病気です。この病気には原発性と続発性があり、多飲多尿が問題となる多くは原発性です。
副腎皮質機能低下症の詳細はこちら

『副腎皮質機能低下症と多飲多尿』

原発性副腎皮質機能低下症の原因
原因についてはっきりとは分かっていません。しかし、副腎皮質が何らかの原因で障害されていることは分かっています。自己抗体が示唆されていますが。
副腎皮質が攻撃を受け破壊されることで副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンが産生されなくなります。

アルドステロンがなぜ必要か
血液中の水分量が減ってくると低血圧を呈します。低血圧になると身体が「このままじゃあかん!」と慌て、交感神経が刺激されます。
交感神経が刺激されると、レニン-アンジオテンシン系と呼ばれるシステムが動き出し、副腎皮質にアルドステロンの分泌するように命令します。
分泌されたアルドステロンは腎臓に働きかけて、Naとともに水分を体内へ引っ張り戻す再吸収を促します。
こうすることで血液中の水分を再吸収し、血圧を維持しています。

アルドステロンが分泌されないと…
原発性副腎皮質機能低下症により、アルドステロンが産生・分泌されなくなると腎臓で作られた尿からは水分の再吸収ができなくなり、結果としてたくさんのおしっこを出すことになります。すると血圧を維持したい身体は水分を摂らせるために「喉が渇いたよ〜」という信号を出し、動物は水をがぶ飲みします。
これが多飲多尿の原因です。

『副腎皮質機能低下症のそのほかの症状』

よく見られる症状
特異度は低いですが、食欲不振虚脱などがあります。全体的に元気が無くなります。
コルチゾールは血糖値を上げる作用もあるので、本症例のようにコルチゾール値が低くなると、低血糖を示すこともあるので注意ですね。

緊急性を要する場合もある
アルドステロンは尿中へ行き過ぎたNa(ナトリウム)を腎臓内で再吸収させるように働きかけるホルモンです。ここで行われる再吸収は物々交換のようなもので、Naを回収する代わりにK(カリウム)を尿中に排出しています。アルドステロンが無くなるとKを排出することができず、高K血症になってしまいます。そうなると、『徐脈(心拍数の減少)』が出ます。こうなると命に関わります。急激にぐったりとするので、その際は早急に病院へ連れて行って下さい。

【その③:甲状腺機能亢進症】

甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンの産生・分泌量が増える病気で、高齢の猫で発生が多いです。

『心房性Naペプチドと多飲多尿』

甲状腺機能亢進症が起こると、心房性Na利尿ペプチドと呼ばれる利尿作用のある物質が放出され、尿量が増加します。尿量の増加に合わせて、飲水量も増加します。
よって、多飲多尿が見られるようになります。

『甲状腺機能亢進症の症状』

甲状腺ホルモンは代謝を上げるので、一番特徴的なのは『多食、体重減少』です。
高齢猫で食欲旺盛めっちゃ食べているのに、体重が減っていく。そんな場合、本疾患を発症している可能性があります。
そのほかには落ち着きがなかったり、凶暴性が増したり、毛艶が無くなったりなどが上げられます。

【その④:糖尿病】

犬と猫の糖尿病は発生機序が異なります。犬の糖尿病は自己免疫疾患によってインスリンを分泌するβ細胞が破壊されて起こる糖尿病が多い一方、猫の糖尿病は肥満や生活習慣によって発生するインスリン抵抗性の糖尿病です。
詳しくはこちらまで
犬の糖尿病
猫の糖尿病

 

『糖尿病と多飲多尿』

糖尿病になると尿中に糖分がたくさん含まれます。
水分中に糖分がたくさん溶ければ溶けるほど、浸透圧は上昇していきます。浸透圧とは水を引っ張る力のことです。
腎臓の尿細管内に入っている尿は糖分を多く含み、浸透圧が高いままです。浸透圧が高いと血液中の水分をたくさん引っ張ってきます。
結果的におしっこの量が増大し、それに合わせて飲水量も上昇します。

『糖尿病のその他の症状』

糖尿病に特徴的な症状はたくさんあります。
・多食
・白内障(犬)
・末梢神経障害(猫)
・体重減少(末期)
などが有名です。
犬の糖尿病では白内障はほぼ100%の確率で見られます。
猫の末梢神経障害ではカカトがベターっとついてしまう症状がよく見られます。

二度目になりますが詳しくはこちらを参考にして下さい↓↓

www.otahuku8.jp

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【その⑤:慢性腎臓病】

慢性腎臓病とは慢性的に腎機能が低下してしまう病気です。高齢の動物特に猫では発症が多いです。基本的に完治できる治療ではないため、緩和治療を中心に行われています。

詳しくはこちら↓

高齢で好発の慢性腎臓病(CKD) - オタ福の語り部屋

『慢性腎臓病と多飲多尿』

糸球体通過直後の濾過したての尿を原尿と言います。腎臓ではその原尿を再吸収という過程でさらに濃縮した尿を作って膀胱へ送り出します。
原尿の段階では水分やミネラル、糖分など、体に必要な成分が多く含まれているので、再吸収という要るもの・要らないものの取捨選択する過程は非常に重要になってきます。

慢性腎臓病になり、腎機能が低下すると再吸収する力も低下していきます。こうして尿量が増加し、体に必要な水分がなくなるため、飲水量が増えてしまうのです。

『慢性腎臓病のその他の症状』

慢性腎臓病は初期の段階では臨床症状がありません。血液検査でBUN,Creが軽度に上昇する程度です。
やがて、多飲多尿などの症状が出てきます。
慢性腎臓病で多飲多尿以外の症状といえば、腎性貧血や尿毒症による神経症状などがあります。
根本的な治療法がないため、輸液などで水和してあげることが治療の中心となってきます。

【その⑥:尿崩症】

尿崩症とはバソプレシンという下垂体後葉より分泌されるホルモンの分泌や作用が不足することで尿濃縮能を失ってしまう病気です。
尿崩症は原因によって『中枢性尿崩症』『腎性尿崩症』に大別されます。
中枢性尿崩症は視床下部や下垂体の異常によりバソプレシンの産生分泌ができなくなって起こる尿崩症です。
一方で
腎性尿崩症はバソプレシンの産生分泌は行われているものの、腎臓の異常によりバソプレシンを感知できず起こる尿崩症です。

『尿崩症と多飲多尿』

尿崩症でキーとなるのはバソプレシンの作用です。

バソプレシンの作用
バソプレシンは視床下部で血漿浸透圧の上昇(←脱水などで上がる)を感知すると、下垂体より分泌され、腎臓の遠位尿細管や集合管のバソプレシン受容体に作用し、水の再吸収を促進します。
このようにして汗をかいたり、塩分の高いもの食べた時にはバソプレシンが水分を原尿から再吸収しているのです。

尿崩症ではこのバソプレシンの助けを借りることができなくなり、水分を大量に排出してしまいます。よって、多飲多尿が起こります。

『尿崩症の症状』

この病気は多飲多尿が最も特徴的な病変で、他にあまり目立った症状を示しません(←逆を言うと多飲多尿しか無いというのが特徴)
あるとすれば、
大量飲水による食事量の減少で痩せてくることもあります。
中枢性の場合は視床下部や下垂体に障害があって起こるので、神経症状や視力低下などそのほかの症状があるかもしれません。
腎性の場合は腎臓の異常なので、腎炎などに関連した症状(血尿や蛋白尿)があるかもしれません。

【その⑦:心因性多飲】

心因性多飲とは緊張や不安を感じた時に喉が渇きついつい水を飲み過ぎてしまう病気?みたいなものです。水分をたくさん摂るのでその分おしっこもたくさん出るというものです。

『心因性多飲と多飲多尿』

心因性多飲が他の病気と違うのは『尿濃縮能』があるということです。そして、他の病気は『多尿→喉が乾く→多飲』という流れですが、この病気は『喉が渇く→多飲→多尿』という流れになっており、こういった点からも他の病気と一線が引かれて区分されていることが垣間見えます。

『心因性多飲を疑ったら』

心因性多飲は多飲多尿以外に具体的な症状がありません。この特徴はそう、尿崩症と同じですね。
心因性多飲を疑うような症状が見られた場合、尿崩症との鑑別が大切です。
この記事を読んで、

「緊張して水飲みすぎるから、おしっこ出すのか!水取り上げるよ!」

とは決してやらないで下さい!
尿崩症との鑑別をしっかり行いましょう。

『超重要!!尿崩症と心因性多飲の違い』

心因性多飲は尿濃縮能があるので、水を飲める環境がなければ、ちゃんと原尿を再吸収して、濃縮したおしっこを作ることができます。
一方、
尿崩症の場合、尿濃縮能がありません。
水を飲める環境が無ければ、身体の水分はどんどん尿として排出され、重度の脱水症状に陥ります。これは神経障害や昏睡状態にまで発展する可能性がある怖い病気です。

症状が多飲多尿のみだからと言って、心因性多飲だと決めつけず、必ず尿崩症との鑑別を行なって下さい!

【その⑧:高カルシウム血症】

高カルシウム血症とは血清カルシウム濃度が上昇することを言います。検査機器によって誤差はありますが、一般的にはCa>15mg/dLで高Ca血症であると考えます。

高カルシウム血症になる原因
・H:原発生上皮小体機能亢進症
・A:アジソン病(副腎皮質機能低下症)
・R:腎不全
・D:ビタミンD中毒、脱水
・I:特発性(猫)
・O:骨疾患
・N:腫瘍性疾患
犬→リンパ腫、肛門アポクリン腺癌、多発性骨髄腫
猫→リンパ腫、扁平上皮癌
・S:エラー

『高カルシウム血症と多飲多尿』

高カルシウム血症で多飲多尿になる原因は大きく分けて3つあります。

①抗利尿ホルモンを邪魔する
高カルシウム血症になると、腎臓での抗利尿ホルモンの反応性を低下させます。これは先ほど説明した腎性尿崩症の原因となります。抗利尿ホルモンが作用できないため、尿濃縮ができずに、多飲多尿となります。

②血管を収縮させ、血液量が減る
カルシウムは細動脈を収縮させる作用があります。細動脈が収縮してしまうと、腎臓への血液量や糸球体ろ過量が減少してしまいます。腎臓は普段、血液を豊富に含んだ臓器なので、腎臓への血液量が減少してしまうとすぐにダメージを受けてしまいます。よって、急性腎障害や不可逆的な腎障害を引き起こします。

③腎実質へのカルシウム沈着
慢性的にカルシウム濃度が上昇すると、腎臓でカルシウムが沈着していきます。そうすると腎臓は石灰化し、慢性腎臓病や腎性高窒素血症を引き起こします。

『高カルシウム血症、その他の症状』

消化器症状
消化管の運動性を低下させ機能性イレウスを引き起こします。その結果、嘔吐や便秘、食欲不振などの消化器症状が認められます。

神経・筋肉の症状
高カルシウム血症になると神経や筋肉の正常な働きを障害します。そのため、振戦や痙攣、沈うつ、運動性の低下などが見られます。

【その⑨:子宮蓄膿症】

子宮蓄膿症とは子宮内に膿が貯留し、子宮腺が嚢胞状に増殖する病気です。
この診断には最終発情の時期を知っておくことが重要で、発情後2ヶ月近くの黄体後期に発症します。
発症と産歴の相関が強く、未経産犬での発症が多いです。
膿の中には大腸菌などの細菌が確認され、感染が示唆されているが、発症にはホルモンなどの内分泌的因子が第一因子であり、感染は続発的なものであると考えられています。

『子宮蓄膿症と多飲多尿』

子宮蓄膿症と多飲多尿の関係性ですが、どうやら細菌が産生する毒素が関わっているようです。細菌が産生する内毒素(エンドトキシン)はあらゆる臓器を障害します。多飲多尿に関わる臓器の障害として腎障害が挙げられます。
細菌のエンドトキシン(特に大腸菌のLPS毒素)は腎臓に与える影響は以下のようなものです。
・ヘンレループのナトリウム再吸収能を低下させる
・尿細管での抗利尿ホルモンの感受性を低下させる
などして、多尿の原因を作り出します。
以上の結果、子宮内蓄膿症で多飲多尿が起こると考えられています。

『子宮蓄膿症、その他の症状』

多飲多尿の他に特徴的な病変としては外陰部からの血が混じったような膿が出てくることです。排泄された膿瘍物は悪臭を伴います。
細菌の内毒素が全身に回っていると、発熱や、嘔吐、食欲不振など全身状態の悪化が見られます。

【その⑩:肝不全】

肝不全とは肝機能が低下し、不可逆的(回復の見込みがない)ない状態のことを言います。肝不全の原因は様々で、薬物や毒物による中毒であったり、慢性的な肝疾患の影響であったりすることがほとんどです。

『肝不全と多飲多尿』

調べているのですが、どの本も多飲多尿が起こるという記載はあるもののその理由を記したものが見つかってません。
大学の先生にも聞いてみましたが「うーん、なんでだろうね」って言われちゃいました笑
多飲多尿の鑑別疾患に挙げるものの、理由を説明できる人は少ないようです。また分かり次第、ここに記載します。

『肝不全、その他の症状』

肝不全の場合、食欲が低下したり、出血しやすくなったり、黄疸が見られたり、アンモニア臭の口臭がしたり、など様々な病変が認められます。

肝臓は食事から摂取した栄養素をタンパク質などに変換している臓器なので、病変は多岐に渡ります。

 

【おまけ:薬の作用】

薬の作用によって多飲多尿になるケースがあります。もし、多飲多尿が見られた際は以下のような薬を飲んでいないか確認しておきましょう。

利尿剤
利尿剤で排尿を促している場合はそのぶん喉が乾くので、多飲多尿になることがあります。

ステロイド
ステロイドに関しては副腎皮質機能亢進症と同様に抗利尿ホルモンを阻害するという副作用があります。

甲状腺ホルモン製剤
甲状腺機能低下症の犬などに処方される甲状腺ホルモン製剤です。この薬を服用していると甲状腺ホルモン濃度が上がりすぎ、心房性Na利尿ペプチドが産生されることで利尿作用が生まれます。よって、多飲多尿が見られるようになります。

【最後に】

今回は多飲多尿が見られた際に考えられる疾患について網羅してみました。症状から原因を考えることは普段獣医がやっていることですが、『その引き出しの数=獣医の力量』と言っても良いほど、この考え方重要になります。

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 181-184p

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 2版, 文英堂出版, 2014, 303-307p,336-340p, 343-344p, 347-353p, 355-358p, 581p