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動物の腸管腫瘍について③~症状と診断方法~

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【はじめに】

今回は『動物の腸管腫瘍~症状と診断方法~』についてお話していこうと思います。腸管腫瘍が発生するとどのような症状を示すのでしょうか?実は腫瘍のできる場所によって症状が変わってくるのです。
そして、腸管腫瘍の症状を元に来院された際、具体的な検査は何を行うのか
今回はそのようなお話を中心にしていきたいと思います。

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【目次】

 

【症状について】 

『具体的な臨床症状』

よくある症状
・体重減少
・下痢
・嘔吐
・食欲不振

しばしば見られる症状
・メレナ(黒色便)
・貧血
・低血糖(特に平滑筋肉腫)

腫瘍が進行してくると現れる症状
・穿孔性、敗血症性の腹膜炎

『腫瘍発生部位別の症状』

消化管は口腔、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸ととても長く、各々がもつ役割も異なります。どの部位に腫瘍が発生したかによって、示す症状も異なります。

上部消化管での発生
上部消化管では食塊の運搬を主に行なっているため、そこで腫瘍が発生すると嘔吐が見られます。

小腸での発生
小腸では食べ物の栄養吸収を行なっているため、腫瘍が発生すると体重減少が見られます。

大腸での発生
大腸では水分吸収を行い、位置的に肛門に近いため、排便のしぶり血便が見られます。

腫瘍発生別の症状(図解)

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『腫瘍別の症状』

カルチノイド
カルチノイドは内分泌細胞が腫瘍化したものですが、必ずしも過分泌を起こして、病変を起こすということはないようです。

 

平滑筋肉腫
平滑筋肉腫は小腸腸管の筋層から発生する腫瘍なので、粘膜面はあまり傷つくことがなく、腸管出血を示すことが稀です。しかし、貧血やメレナなどはしばしば見られます。

 

【腫瘍随伴症候群】

腫瘍随伴症候群とは腫瘍があるせいで起こる症状のことを言います。 

『好中球増加症』

直腸腫瘍をもつ犬で発生の報告があります。直腸ポリープの治療に続発して起こるようです。

A dog with a rectal adenomatous polyp had extreme neutrophilic leukocytosis, monocytosis, and eosinophilia consistent with a paraneoplastic syndrome.  引用文献:Paraneoplastic leukocytosis associated with a rectal adenomatous polyp in a dog.

 

『好酸球増加症』

T細胞性の腸管型リンパ腫をもつ犬猫で認められています。これはリンパ腫が産生するIL-5というインターロイキンが原因ではないかと言われています。

This case demonstrates that hypereosinophilic paraneoplastic syndrome may occur in cats with lymphosarcoma. Eosinophil chemotaxis may be a response to the production of interleukin-5 by neoplastic lymphocytes. 引用文献:Hypereosinophilic paraneoplastic syndrome in a cat with intestinal T cell lymphosarcoma.

 

『赤血球増加症』

平滑筋肉腫の犬で報告がありました。
この犬の腫瘍細胞からエリスロポエチン(骨髄に赤血球を作るように指示する指令書)のmRNAが分離されました。

Immunohistochemical staining of sections of the tumor revealed intracellular vacuoles containing EPO, and EPO mRNA was detected in the tumor by use of a reverse transcriptase-polymerase chain reaction assay These results suggested that ectopic production of EPO by a cecal leiomyosarcoma was the cause of erythrocytosis in this dog. 引用文献:Secondary erythrocytosis associated with high plasma erythropoietin concentrations in a dog with cecal leiomyosarcoma.

 

【診断方法】

『犬の身体検査』

腹部の触診
腹部の触診は一番最初に行われる検査の1つで、リンパ腫では20~40%の犬で腫瘤を触知できます。
リンパ腫以外の固形腫瘍では20~50%の犬で触知できます。

直腸検査
直腸検査では直腸ポリープが63%で触知できると報告されています。

『猫の身体検査』

腹部の触診
猫の腸管腫瘍はリンパ腫と腺癌の両方で比較的容易に触知できます。リンパ腫では86%以上、リンパ腫以外では約50%以上が触知できます。

『血液検査:CBC』

腸管腫瘍をもつ犬猫では貧血がよく見られます。そのほかにもメレナやBUNの上昇が認めらます。
40%近くの犬や、15%近くの猫で貧血を示しています。

 

『血液検査:生化学』

犬と猫で血液検査の生化学検査で示される異常は似通っています。

低タンパク血症
これは消化管での吸収不全の結果起こるもので、患者の1/4~1/3の割合で発生が認められています。

ALPの上昇
リンパ腫では腸管腫瘍をもつ犬では15~33%の患者で、猫では85%以上の患者で認められます。

高コレステロール
ある研究ではリンパ腫ではない腸管腫瘍をもつ猫の41%で認められたと報告があります。

BUNの上昇
腺癌をもつ13%の犬で、30%の猫で認められています。
これは脱水による腎臓の機能障害や腸管の出血、脱水などが原因で起こると考えられています。

低血糖
平滑筋肉腫が産生するインスリン様成長因子(IGF-II)によって、低血糖が認められます。犬の平滑筋腫では膵外腫瘍による腫瘍随伴症候群として低血糖が認められており、その原因は腫瘍が産生するIGF-2の関与が示唆されています。

Anemia, hypoglycemia, polyuria, and polydipsia were identified as common clinical signs in these dogs. 引用文献:Gastrointestinal leiomyosarcoma in 14 dogs.

平滑筋肉腫よりIGF-2が産生される(図解)

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リンパ腫では
腸管型リンパ腫(T細胞性)の患者は高カルシウム血症を引き起こすとして知られています。
 

『細胞診・病理検査』

腸管腫瘍は細胞診によってある程度、識別することができます。

採取したサンプルにリンパ球の集積が認められた場合、PARR検査(単一増殖をしているか調べるもの)を行い、リンパ腫かどうかを調べることもできます。
詳しい細胞形態の病理学的なお話はここでは割愛させてもらいます。

 

『画像診断』

「腹部レントゲン」

リンパ腫では
腸管型リンパ腫を有する犬や猫では腸管だけでなく、肝臓や脾臓、腸間膜リンパ節などの腫脹も認められます。

Plain abdominal radiography revealed abnormalities in nine of the 20 dogs (45%), including hepatomegaly (n = 3), splenomegaly (n = 3), midabdominal mass (n = 3),free abdominal gas and peritonitis (n = l), and decreased liver size attributed to unrelated chronic liver disease (n = 1). Enlarged adrenal glands and gastric wall thickening were each noted once. 引用文献:Gastrointestinal lymphoma in 20 dogs. A retrospective study

 

腫瘍の検出度は?
プレーンでの撮影ではだいたい40%ほどの症例で検出できます。
一般的にリンパ腫では他の臓器へも波及しやすいのでそれが邪魔になって検出力が下がる様です。

そのほかの異常所見は?
・腸管の狭窄像
・漿膜の不明瞭化
・胃壁の肥厚

 

「造影腹部レントゲン」 

造影剤を用いると腫瘍の位置や狭窄部位、ガス貯留により超音波検査では見えないエリアまで綺麗に撮影できます。

所見としては異常なコントラストが見られたり、腫瘍によって腸管が狭窄されている像が見られます。

 

「胸部レントゲン」

胸部レントゲンと聞いて「ん?腸管腫瘍なのになんで?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか?胸部レントゲンを取ることで全身を評価することができます。 

犬では
リンパ腫以外の腸管腫瘍の場合、肺転移が見られることは稀であると言われていますが、賛否両論というかエビデンスがしっかり取られていないので、噂程度の説得力しかありません。

猫では
僕が調べる限りではリンパ腫以外の腸管腫瘍で肺転移はほぼ無いと考えられます。一個だけ報告論文を見つけましたが。

リンパ腫では
犬猫関係なしに腸管型リンパ腫は肺門リンパ節への転移や胸水の貯留、肺間質の変化などが見られます。

 

「腹部超音波検査」

腹部超音波検査のここが良い!
腹部超音波検査は侵襲度(体への負担)が低く、腫瘍の位置や転移を見つけることができます。レントゲンよりも検出力は強く、その上造影レントゲン撮影よりも検査時間が短いので、とても便利な検査法です。おまけに超音波ガイド下での生検を行うこともできるので、今後の治療戦略も立てやすくなります。

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特徴的な検査所見は?
腸管腫瘍全般的に言えることですが、腫瘍性病変が見られると腸管壁の肥厚腸管の5層構造の消失、対称性の崩壊が認められます。

 

リンパ腫の検査所見
犬では腫瘍部位で長い環節が見られたり、腫瘤やびまん性の肥厚が確認されます。
猫では固有筋層の肥厚が認められます。

Cats with thickening of the muscularis propria detected by ultrasonographic examination were more likely to have lymphoma compared with normal SI cats (odds ratio [OR] = 4.0, 95% confidence interval [95% CI] 1.2-13.1, P = .021) and those with IBD (OR = 18.8, 95% CI 2.2-162.7, P = .008). 引用文献:Ultrasonographic evaluation of the muscularis propria in cats with diffuse small intestinal lymphoma or inflammatory bowel disease.

引用文献(和訳)『猫のびまん性腸管型リンパ腫とIBDにおける固有筋層を超音波によって評価した』

 

腺癌の検査所見
犬では腫瘍の低エコー源性(黒く映ること)腸管の運動性の低下が認められます。
猫では腫瘍の混合エコー源性(白黒混じって映ること)腸管壁の不均整が認められます。

肥満細胞腫の検査所見
5層構造の消失が見られます。

平滑筋腫瘍の検査所見
無〜低エコーで大きな腫瘤(平均4.8cm)が見られます。

 

「超音波検査で見分けるもの」

腫瘍と腸炎を見分ける!
超音波検査で大体、腫瘍と腫瘍じゃないかを見分けることができます。例えば、腸管の5層構造の消失です。

あるデータでは腸管腫瘍の99%は5層構造の消失が見られるのに対し、腸炎では88%が5層構造を維持していたという報告があります。
そのほかにも、5層構造の消失が見られた場合、腫瘍である可能性が腸炎と比較し、50倍ほど高いと言われています。

そして次に考えられるのが腸壁の肥厚です。
腸壁の肥厚は腫瘍の方が4倍多く確認されているという報告があります。

超音波検査の診断ポイント(図解)

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だけど注意するべき鑑別疾患もある
5層構造の消失や腸壁の肥厚は腫瘍であるの可能性を有意に高くする所見ではあるものの似たような検査所見を示す疾患もあるのです。
それは真菌感染(ピシウム症、ヒストプラズマ症)です。これらは腫瘍と類似した所見を示すので鑑別する必要があります。

リンパ節の腫脹
別にリンパ腫でなくても固形腫瘍でも腫脹は認められてます。また、非腫瘍性の腸炎などでも報告されています。

『内視鏡と腹腔鏡』

内視鏡で腫瘍部位を見てみると、結節や紅斑が見られます。腸壁の膨張性や進展性が低下していることも重要な所見です。

The mucosal surface had many protrusions and fissures; it looked like cobblestone appearance in human cases. The color of the mucosa varied from white to pink. Poor distensibility and elasticity of the duodenal wall was found whenever air was insufflated. 引用文献:endoscopic findings on alimentary lymphoma

 

『開腹して生検』

検査だと考えれば侵襲度は高いのですが、緊急を有する場合や腫瘤切除という治療も兼ねて行うのだと考えれば、メリット・デメリットはトントンのような気もします。

開腹生検のメリットとすれば、一回の麻酔だけで済むという点の他に、視野を広くとって生検するので、急な出血などにも対応できます。

 

【最後に】

今回は腸管腫瘍の症状と診断方法について解説しました。

腸の上の方だと嘔吐であり、小腸だと体重の減少、大腸だと便のしぶりや血便といった症状が見られます。

こういった症状を元に来院された際、レントゲンや超音波で腫瘍らしきものを見つけ、生検を行い、腫瘍だと確定診断します。

 

【本記事の参考書籍】

Stephen J. Withrow ; David M. Vail ; Rodney L. Page : Withrow&MacEwens SMALL ANIMAL Clinical Oncology. 5th ed.,  ELSEVIER, 2013, 412-423p

 

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